魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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紅い瞳

 どうしても気になることがある。

 

 教会から出たあたしはラナに別の依頼をお願いしてそこを離れた。

 

 街中を走る。たまに出会う顔見知りに手を振ったりしながら、あたしはあそこに向かった。途中何度か立ち止まってしまったけど、ほっぺを自分でぱんぱん叩いて歩き出した。

 

 ある意味王都の中で一番思い出深い……そういってしまうと語弊があると思うんだけど……。印象深い場所。

 

 ロイとの闘いで崩れた街。

 

 今は復興作業しているって話だ。大工の親方があの近くでFランクの依頼を出して人手を募集していた。たぶん偶然じゃなくて、あたしに呼びかけていたんだと思う。今の時期にFランクの依頼なんて受けるのはあたしとか、もの好きだけだから。

 

 でも、それをモニカが受けた。

 

 受けさせてほしいって逆にお願いされたから……。たぶんモニカにも思うところがいろいろとあったと思うんだ。でも、モニカ自身が悪いことなんて何もない。それでも……あそこの人たちの魔族への感情は最悪だ。

 

 どっちが悪いわけじゃない。

 

 悪いとすればロイと、それを止められなかったあたしだ。

 

 それでもモニカにまっすぐ見られたら止めることができなかった。ああーー、なんでそうしたんだろうって思うよ。

 

 大丈夫かな。

 

 大丈夫かなぁ。

 

 心配だよ。

 

 今日はずっと何をしているときも気になってた。本当はモニカと一緒にいないといけないと思ったけど……そのモニカに「大丈夫です」って、

 

『マオ様はこれから多くの依頼をしなければならないはずです……私だけにかまっていることはできない。そうですよね?』

 

 まっすぐに、正しいことを言われてぐうって言ってしまった。

 

 槌の音がする。それに何か男の人が叫ぶ声が聞こえる。前に親方の作業場に行ったときにもこんな感じだった。あの街はもう近い。

 

 

 物陰に隠れて広場をうかがってみる。あたしは上着を頭にかぶってわからないように……いやわかるねこれ。あやしさ満点だもん。

 

 意外と大勢の人がいた。依頼を受けたときは朝だったからまだ職人さんが数人しかいなかった。

 

 今はもちろん職人さんも大勢いて、資材がいたるところに積んである。あ、役人もいる。鎧着ている人はなんだろ……兵隊かな。久しぶりに見た。あとは、貴族っぽいひともいるね。偉そうだからすぐわかる。

 

 街の人もいるね。

 

 そっか、あれだけの大穴が空いたんだから。大事件だよね。

 

 人込みに紛れていけば……そう思ったけど、この周辺の人にあたしは顔がばれているからだめだ。あれ? なんでダメなんだろ、別に見つかっても何もないのだけど。

 

 とりあえず見つからないようにモニカを探す。

 

 意外と早く見つかった。……だって目立つもん。

 

 ワインレッドの髪は綺麗で制服を着た女の子。人ごみに混ざっていたってわかりやすい。

 

 でもそれ以上目立つ理由はモニカが大きな木材を軽々担いでいたから。

 小柄な彼女が大の大人でも苦戦しそうな資材を運んでいる。

 

 魔族はもともと人間よりも単純に力が強い。その体からはうっすらと魔力が出ている。あれは身体の強化をしているのだと思う。

 

 それでもモニカを見る周りの目は冷たい。それが遠くから見ても感じる。

 

 魔族は耳ですぐにわかる。それにここは魔族に破壊された場所だ。モニカをそういう風に見る人が多いのはあたしも……あの子もわかっていた。なのにあえてこの依頼を自分で受けるって言ってくれたんだ。

 

 あたしはその場で唇をかんで、出ていこうか悩む。でも……ここで出ていくのは違う気がする。だからと言ってすぐにこの場を離れる気にもなれない。

 

 前にも後ろにも行くことができない。物陰に膝を抱えて座り込んでしまった。

 

 ふと思った。

 

 もしかして数百年前にあたしが負けたあと……生き残った魔族たちはこんな風に人間に見られながら耐えてきたんじゃないかって。

 

 いつの間にか胸元をぎゅっと握りしめていた。

 

 今ここであたしができることはない。……昔にあたしができたことはない。

 

 今の時代はその結果。あたしの今までの人生はほとんど魔族とのかかわりがなかった。旅を一人でできるほど力がないのもあった。

 

「いつか……『今』を見に行かないといけないよね」

 

 魔族の自治領がある。そこに今の魔族たちがいるはず。あたしはそこに行かないといけない。……でももう少しだけ待ってほしい。わがままかもしれないけど。まだ。怖い。

 

 

 あたしの誰かが立っている。ハッとして顔を上げるとそこには黒いコートを着た少女が冷たい目であたしを見下ろしている。赤い縁の眼鏡に黒の帽子。

 

 出会った時とは違う恰好だけど、忘れるはずがない。2度も殺されかかったんだから。

 

「クリス……」

「は?……何きやすく呼んでんの? 殺すわよ」

 

 『暁の夜明け』の一人であるクリスが目の前に立っていた。鋭い眼光であたしをにらみつける。その紅い瞳に強い魔力を感じる。

 

「あんたがこんなところにいるとは思わなかった」

 

 それはこっちのセリフだよ。

 

 

 

 

 クリス。

 

 最初はあたしの故郷の村の近くで、次は港に行く途中の街道で魔物を使役して襲撃をしてきた魔族の少女。……いや、「マオ」としてのあたしより年上かもしれない。

 

「クリスなんで……ここにいるの?」

 

 あたしは立ち上がってクリスに対峙する。彼女は武器を持っているようには見えない。それは自分も同じことだ。たぶん取っ組み合いとかしたら普通に負ける。

 

 クリスはジトっとした目であたしを見た。

 

「あんたに用事なんてない。ああ、恨みならあるけれど、ここで殺し合いをする気はない」

「……ロイとの闘いの跡を見に来たの?」

「は? あんな馬鹿のことなんてどうでもいいわ」

 

 「暁の夜明け」としてロイとクリスはつながりがあるらしい。それは今の反応で分かった。……少し仲が悪そうなことも。

 

 クリスは両手を組んで言った。

 

「そうね。そういえばあのバカはあんたのことをなんか言ってたわ。……あんた古代の魔族語が分かるんだって? どこで聞きかじったか知らないけど不愉快だわ」

「…………」

「ああ、不愉快。不愉快。何度思い出してもムカついてくる。お前のことをあのバカは魔王………魔族の生まれ変わりなんじゃないかってバカげた妄想を私にのたまったのよ」

 

 息をのんだ。背中に冷たいものを感じる。

 

 妄想……もしかしたらロイはそれをただの冗談として言っただけなのかもしれない。

 

「は、はは、そ、そんなわけないじゃん」

 

 否定しにくい。声が少し上ずる。クリスはそんなあたしを無視して広場を見た。大勢の人間がいるここで流石にこの子も暴れないだろう。たぶん。

 

 クリスの視線の先には復興に携わる大勢の人たちがいる。それぞれが役割をもって仕事をしている。もちろんモニカもその中にいた。

 

「お前ら人間はいいな」

「え?」

「私たち魔族はお前らに寒い、寒い北の地に押し込められた。両親はそこで死んだ」

「……」

「だから殺そうってあのバカの計画に乗っていろいろと準備をしていたのに。ああ、本当なら今日は人間どもの死体が山盛りでそこらに積み重ねているはずだったのに、ああ、残念。残念だわ」

 

 クリスは頭を両手でかきむしりながら言う。

 

「そうだそうだ。本当なら3勇者なんて屑どもの子孫の首を並べて、ヴァイゼン様が王都を焼き尽くして、逃げた連中はスライムの餌になっていたはずなんだ。それをそれを」

 

 クリスの右手があたしの喉を掴んだ。

 

「ぐぁ」

「お前が……お前らが邪魔をしたから」

 

 ぐぐぐぐとすさまじい力で締め付けられる。クリスの血走った目。あふれ出る殺気にあたしは……彼女の意思を感じた。

 

「……ぁ」

 

 首を絞めるつもりじゃない。これは折る気だ。あたしは必死に暴れる。

 

 クリスにおもいっきり蹴りを入れる。くぐもった悲鳴をあげてクリスが下がった。

 

「げほげほげほげほ」

 

 殺されるところだった。クリスは怒りに引きつった顔でゆらりと立つ。こめかみに手をあててなにかをぶつぶつとつぶやいている。

 

「違う、ここで殺すわけにはいかない。あの子がいる。落ち着け。私」

「はあはあ……あの子?」

「黙れ」

 

 クリスの蹴りがあたしのみぞおちに入る。転がって、息ができない。痛い。それでも、立たないとまずい。

 

 なんとか膝をついて体を起こす。あたしはその姿勢で見上げた。

 

 クリスは両手で頭を掻きむしりながら、狂気に染まった眼でぶつぶつと言っている。この場所は暗い。だから爛爛(らんらん)と光る眼だけが不気味だった。

 

「ああ、全部殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したいだめだ、ここじゃだめだ、落ち着け。わかっている。ここじゃだめだ。あの子がいる。ダメだ」

 

 あたしの脳裏にふわりと「あの子」の顔が浮かんだ。

 

 それがあっているのかはわからない。

 

「……あの子ってもしかして……モニカのことじゃないの?」

 

 あたしが言ったその言葉にクリスは歯をむき出しにして、憎悪がこもった眼であたしを見下ろしてくる。

 

 紅い瞳なのに黒い憎しみが映っている……そう錯覚するほどその表情はゆがんでた。

 

 あたしは立ち上がる。たぶん、この子の憎しみを生み出したのは「あの時負けたあたし」から始まっている。だからこの子の前に立たないといけない。

 

「…………あたしがさっきクリスに聞いたこと。ここで何をしているのかってことはさ、モニカのことを見に来たんじゃないの?」

「……黙れ。あの子と私は関係ない……あの子は私とは関係がない……私みたいなのじゃない……」

 

 クリスは一瞬だけ、悲しそうな、苦しそうな、そんな表情をした。

 

「そっか……」

 

 その時あたしはわかった。結局何も知らないんだってことを。

 

 クリスがなんでこうなったのかも、今の時代に至った間のことも何も知らない。だからきっと今のあたしには彼女に向けるべき言葉が何もない。

 

 ……悔しいなぁ。

 

「……モニカはさ。あたしの友達だよ」

「あ、?」

 

 クリスが後じさりした。

 

「出会ったのは数日前だけどそれでも友達だとおもっている。あたしなんかよりずっと優しい子だって思う」

「おまえ……おまえ!!」

 

 クリスがあたしを指さす。

 

「友達だと……? お前に……お前なんかにあの子の何がわかる!! 人間風情が!! あの子の人間に対する気持ちがわかるものか!!! ふざけるな!!」

「……何も知らないよ。それでもこれから知っていくことはできる……」

「……」

 

 クリスは睨みつけてきたまま黙り込んだ。それからあたしに近づいて肩をわざとぶつけてくる、

 

「お前はいずれ殺す」

 

 ぼそりと耳元でつぶやいて、どこかに歩き去っていった。

 

 流石に追いかける気がないよ。

 

 はあ、なんかすごく疲れた。あたしはため息をついた。

 

「マオ様?」

「ん」

 

 優しげな声がする。声のしたほうを見るとモニカが不思議そうな顔をして立っていた。そしてすぐにむっとした顔になる。

 

「なんでここにいるのですか? マオ様は今日一日でもっと依頼をこなさないといけないはずです」

「ご、ごめん」

「ここは私に任せておいてください」

 

 モニカは両手を腰に当てて怒ったような口調で言う。でもなんか温かみを感じる。

 

「わかったよ。ごめん。あたしはもういくね」

「はい…………マオ様」

「何さ」

「さっきここで誰かと話をしていましたか?」

「……いや誰とも」

 

 クリスのこと、言っていいのかまだわからなかった。だからごめん、嘘をついた。

 

「そうですか……わかりました」

 

 モニカはすぐに引き下がってくれた。あれ? なんか近くで様子をうかがっている子がいる。小さな女の子だ。あの子は……モニカが街の人に責められた時にもいた……。いや。はっきりいえばモニカを責めていた子だ。

 

「あの子ですか? ……私が作業をしていると手伝ってくれるというので……一緒にいます。……おかしいですか?」

「いや……いいと思うよ」

 

 よかったって思う。

 

 

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