魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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仮面の男

 いつまでたっても痛みが来ない。銃弾が自分を貫くと思った。

 

 だから、あたしは思わずつむってしまった。でもこのままじゃいけない……目を恐る恐る開けた。

 

 あたしの瞳に映ったのは銀色の髪を靡かせて立つミラの背中。

 

 雷撃を纏った聖剣を構えたミラがあたしとあの「魔族の子」の間に立っている。黒い刀身に蒼い雷光がばちりとはしる。

 

「ありがとミラ」

 

 とりあえずお礼を言うと、ミラはこちらを見ずに頷いた。

 

「おやおや、それは卑怯ではありませんか? 伝説の3勇者の末裔が割って入るとはフェアではないと思います」

 

 卑怯なのはいきなり撃つことじゃん!

 

 魔族の女の子の手には魔銃がある。前にあたしが持っていたものと似ている。なんで撃たれるかは全然意味が分からない。あたしがそれを聞こうとする前に、震える声でモニカが叫んだ。

 

「マオ様に何をするんですか!? フェリシア!!」

「モニカさん。これには深いわけがあるんですよ」

 

 フェリシア……あの子の名前。それにモニカはやっぱり知り合いだったみたいだ。

 

 あたしはミラの前に行く。

 

「深いわけって何さ? あたしはあんたに恨まれるようなことをしたことはないよ!」

「……うーん。恨む理由は一応あるんですが……それはまあ、今回のことには関係ありませんね」

 

 恨む理由がある? 今日初めて会ったのに。……いや、とぼけるのはやめよう。だって似てるじゃん。

 

「お兄ちゃんのこととか?」

 

 あたしがカマをかける。フェリシアは無言で魔銃に弾丸を装填してレバーを引く。どうやら応えてくれるわけじゃないみたいだ。

 

「やめてください。少なくともここで3対1では勝ち目はありませんよ」

 

 ミラが冷静に言う。

 

 確かに今のあたしの手には魔銃もある。ミラも聖剣を持ってる。その上モニカもいる。下手な戦闘はむしろフェリシアにとって不利だ。

 

「ふふふ」

 

 それなのにフェリシアは笑う。

 

「私にとって用事があるのはマオさん、あなただけなので一騎打ちといきませんか?」

「……悪いけどやだよ。あと闘い自体したくないから逃げてくれるとありがたいんだけど」

「そうですか、ひどいですね。じゃあ――」

 

 フェリシアは右手をゆっくりと上げて、ぱちんと指を鳴らした。

 

「邪魔ものにはとっておきの遊び相手をご用意しましょう」

 

 

 ぞくりとした。ミラもモニカも同じみたいだ。屋根の上から何かが飛び降りてくる。

 

 それは黒い装束を纏った男。顔につけた白い仮面。そこには紅い文様が刻まれている。

 

 そいつはフェリシアの隣にゆっくりと『下りてきた』。

 

 着地する音すらならない。だけどわかる。男の周りからは蒼い光がゆっくりとほとばしっている。腰には一振りの剣があった。

 

「この人は私のボディガードです。ミラスティア・フォン・アイスバーグさん。それとモニカさんはこの人と遊んでくださいね」

「…………」

 

 にこにこと笑うフェリシア。男は逆に無言だった。

 

 息苦しい。あいつから放たれるのは殺気……ちがう、もっと純粋な気迫のようなものがあたしの体にたたきつけられるみたいに感じる。心臓がなる。

 

「ミラ……あいつ」

「わかってる。マオ……ごめん。あの魔族の子は任せる」

「いいよ」

 

 短い言葉でわかってくれる。あたしはモニカを振り向く。

 

「あいつはやばいよ。武器もないモニカじゃ危ない。隠れてて」

「マオ様……! いえ。私も」

 

 その瞬間だった。男はまっすぐこちらに飛び込んできた。鉄の剣を横薙ぎに振る。

 

 ミラの聖剣とぶつかり合う。火花と雷撃が混じって光る。男とミラの剣があたしのひと呼吸の間に数合ぶつかり合う。ミラが後ろに飛んだ。いや、押し出された……!

 

 男は追撃をする。加速するために地面を蹴る。道のタイルが割れてとびちった。

 

 ミラ……ごめん。任せるよ。……いや、さっきのぶつかり合いでわかった。あの男はたぶん今まで出会った誰よりも接近戦に長けている。

 

「こっちです!」

 

 ミラが地面を蹴って飛ぶ。工房の屋根にあがって駆け出した。あたしはモニカに言う。

 

「モニカ! さっきはあんなこといったけど、ミラを助けてあげて! 武器は……工房の中にあったから!」

 

 モニカは少し戸惑った顔をしたけど、すぐに頷いてくれた。ワークスさんの工房に入ってくれた。

 

「あ、いいですね。これであの邪魔な剣の勇者の末裔さんもモニカさんも私たちの邪魔はできませんね」

 

 フェリシアがあたしに銃口を向ける。

 

「こっちはこちらで楽しみましょう? マオさん」

 

☆★

 

 

 夜を駆ける。

 

 屋根の上をミラスティアと仮面の男は魔力で体を強化し疾走する。ミラスティアの手には聖剣があり雷撃を纏って蒼く光る。

 

 男が仕掛ける。速度を上げ一瞬でミラスティアに追いつく。下段からの突き。胸元を狙った一撃を彼女は聖剣で受ける。火花が散る。

 

 一閃。少女の横薙ぎを男は躱す。銀髪を揺らし、さらにミラスティアは追撃する。だが男はことごとくを躱し、鉄剣でミラスティアの剣撃の軌道をそらす。

 

 聖剣が光る。ばちりと空気が鳴り。青い雷撃が男を襲う。

 

 この世界で『雷』の速さを上回るものはない。聖剣の力が強力であるのはそれを自在に操ることができることにある。

 

 だが、それを男は避けた。身をかがめて雷撃の間を走り抜け、間合いをとる。

 

 ミラスティアは荒い息を整える。汗が噴き出てくる。

 

 星空のもとで2人は対峙する。男はゆらりと鉄剣を片手に持つ。ミラスティアは聖剣をぎゅっと両手で握りしめた。

 

「すごい使い手ですね。襲ってこられたからには私の名前はご存じとは思いますが、よければお名前をいただけませんか?」

 

 ミラスティアはゆっくりと足元の状況を整えながら話す。大きく息を吸い、呼吸を整える。

 

「…………」

 

 男からの返答はない。代わりに彼の体から魔力がほとばしった。

 

 言葉の代わりに彼の放ったそれは攻撃の合図だろう。ミラスティアは聖剣を両手で持ったまま、体の前に引き寄せて目を閉じる。彼女の体からも魔力がほとばしる。身体を極限まで強化する。

 

 2つの光が輝く。

 

 男が飛び込んだ。体をひねっての上段からの打ち下ろし。ミラスティアの目にはその剣先がゆがんで見えるほどの圧力を感じた。

 

 ミラスティア身をひねって避ける。男の打ち下ろされた剣はすさまじい衝撃波を生み、ミラスティアの立っていた場所を破壊した。破壊された屋根のかけらが飛び、ミラスティアと仮面の男はその中で剣を合わせる。

 

 聖剣と鉄剣がぶつかる。ぎりぎりぎりとつばぜり、ミラスティアが雷撃を放つ一瞬に仮面の男は後方に下がる。ミラスティアは両足に魔力を込めて、突進する。その勢いのまま剣を薙ぐ。

 

 男は片手を出す。厚い筋肉を纏ったその褐色の腕には淡い魔力を纏う。その手はミラスティアの横薙ぎを「掴んだ」。素手で剣を捕らえた。そしてもう一方の手には鉄剣を握る。

 

「!!」

 

 ミラスティアは驚愕する。仮面の男は容赦なく斬撃を放つ。

 

 服が切り裂かれる。ミラスティアは聖剣を放して後方に逃れた。魔力で硬度を上げたフェリックスの制服がたやすく切られた。あと一瞬遅れていたら胴体が2つになっていたかもしれない。

 

「あっ……!」

 

 はずみで彼女は屋根から落ちてしまう。地面に落ちるときなんとか魔力を服に通して衝撃を殺したが、その目は空から落ちてくる仮面の男を捕らえた。

 

 月を背に男は両手に鉄剣と『聖剣』を構えて落ちてくる。とどめを刺しにきたのだ。

 

 道の中央でミラスティアは体を起こそうとしてずきりと右肩が痛む。斬られた場所だった。そのわずかな遅れが致命的になった。仮面の男は自らの鉄剣に魔力を纏わせて、打ち下ろす。

 

 斬撃を避けても衝撃波でやられる。ミラスティアは唇をかんだ。

 

「やああぁああ!!」

 

 声がする。道路を駆ける音。揺れるポニーテール。

 

 ワインレッドの髪の魔族の少女。モニカの声だった。

 

 ミラスティアは振り向く。ただすぐに「え?」と彼女は驚いた。

 

 モニカは地面を蹴る。彼女の手には巨大な白いハルバード。かわいらしい彼女には不釣り合いなそれを軽々とモニカが扱い。回転を加えて男の斬撃とぶつける。

 

 がきぃっと音が響いた。衝撃波があたりを包む。轟と風が起こる。

 

 モニカが弾き飛ばされたが着地する。

 

「ミラ様! 大丈夫ですか!」

「……う、うん。モニカ、それ」

「借りました!!」

「……すごい武器だね。でも今は心強いよ」

 

 ミラスティアとモニカは肩を並べる。彼女たちの前になにかが落ちてくる。それは地面に突き刺さる。黒い刀身。聖剣ライトニングスであった。

 

 ミラスティアが道の先を見れば男が鉄剣を片手に構えている。わざわざ聖剣を返すという余裕のある態度にミラスティアは悔しさを覚えつつ、その柄を握る。彼女は切り裂かれた上着をばっと脱ぐ。

 

 白いシャツと少し緩んだ赤いリボン。

 

「モニカ。あの人は強いよ。でも、もう少ししたらきっとマオが来てくれる。みんなで戦えば勝てる」

「……はい!」

 

 2人の少女は仮面の男と対峙する。

 

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