魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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クールブロン

 戦いの音がする。

 

 ミラが戦っているんだ。あたしは両手で新しい魔銃――クールブロンを構える。

 

 視線の先にはフェリシアがいる。その手には前にあたしが持っていたような魔銃。そこにはめ込まれた魔石が煌々と光り輝いている。

 

 魔族は先天的に大きな魔力を生み出す力がある。だからこそ人間との戦争では少数でも有利に戦うことができた。……まあ、簡単に言えば『魔銃』という武器の性質上豊富な魔力を持った使い手のほうが有利だ。

 

「あのー。マオさん。戦う前にひとつ質問をしてよろしいでしょうか?」

 

 フェリシアの声はゆったりしているけど、どこか冷たい。

 

「むしろこっちのほうが聞きたいことが多いんだけどさ」

「まあ、まあ、そういわず」

 

 フェリシアとあたしはゆっくりと円を描くように対峙して歩く。さり気なく弾丸を手に持っていつでも装填できるようにしておく。だってさ、話がしたいなんて言ってもフェリシアは手元に魔力を籠めている。

 

「わかりにくいけど魔力を銃に込めながら言うセリフじゃないと思うよ」

「流石に目ざといですね。まあ、質問と言っても簡単なことですよ。あなたはとある村で生まれたしがない農民と聞いていますが、なぜ私の動きを言い当てたように魔力の扱いに長けているのですか? 師匠がおられたりします?」

「さあね。生まれつきだよ」

「あら、天才ですね」

「まーね」

 

 軽口に対して、フェリシアは笑った。

 

「じゃあ仕方ありません、天才さん。本日は死んでください」

 

 やだよ!

 

 フェリシアは銃口をあたしに向ける。その一瞬青い光が魔銃を中心に展開される。

 

 

「これが本来のこの武器の使い方でしょう。アイスランス!」

 

 あたしは地面を蹴った。そのまま地面を転がる。次の瞬間には氷の槍が一直線に後ろの工房に打ち込まれた。

 

 轟音が耳に響く。慌てて振り向くとワークスさんの工房の入り口が吹き飛ばされている。

 

 その瞬間、脳裏にロイとの戦いで崩れた街が浮かんだ。モニカの顔もその街の人も。このまま戦ったら被害が広がる。

 

「なんだ!? 何があった!?」

 

 その声にハッとする。ワークスさんが外に出てきたんだ。

 

「ワークスさん! 危ないよ!」

「なんだ? マオ……ていうかそっちのやつは誰だ? なんで魔銃を持ってやがる!?」

「説明は無理! あたしにも分らないから……! それよりも工房に隠れててよ!」

 

 その一瞬に気がとられた。

 

「そっちを気にしていいんですかぁ?」

 

 フェリシアの手元が青く光る。装填された銃弾に魔術を付与して打ち出す。呪文で魔法を構築するよりも早く撃ち出すことができる。彼女の銃口に蒼い魔法の光が収束して、氷の槍があたしに撃ちだされる。

 

「くっそぉ!」

 

 よけるしかない。後ろの建物の壊れる音がする。その間のフェリシアは銃弾を籠めてレバーを引く。即座に魔力を籠める。あたしもポーチから取り出した銃弾を籠めて、レバーを引く。

 

 

「おもしろいですねー。じゃあこれはどうですかー?」

 

 フェリシアの手元が赤く輝く。

 

「フェリシア! それはだめだよ!」

 

 あの魔族の少女はあたしににやりと笑った。あれは『炎を魔石の中で構成している』。もし避ければ後ろの工房が焼ける。

 

 あたしはクールブロンを構える。魔石に込めたのはただ銃弾を発射するだけの魔力。銀の細工が光る。銃口を向けて引き金を引く。

 

 フェリシアは右手をかざす。口元で呪文を詠唱する。

 

「エア!」

 

 フェリシアの周りを風が覆う。あたしの撃ち出した銃弾は軌道をそらされてしまう。その風の中でフェリシアは微笑みながらあたしを見ている。風が髪を揺らしている。

 

 魔力の量。それが全く違う。もし自分にあれだけの魔力があれば負けないと思う。でも、どうしようもない。フェリシアは笑顔のまま銃口を向ける。赤い魔法陣を展開する。

 

 よけるわけにはいかない。でも、どうすればいいのかわからない。

 

「おい! マオ!」

 

 どうすれば……。

 

「マオ。聞いてんのかこのガキ!」

 

 

 がちーん、痛った??? いきなり頭たたかれた?? ワークスさん! まだ居たの?

 

「いたいじゃん! なにするのさ!」

「おめぇこそなんであんなポンコツ魔銃に負けそうになってんだ? 言っただろうがそいつは俺の最高傑作だってな!!」

「で、でもあたしには魔法を使う魔力なんてないし!」

「関係ねぇ。そういう武器だ、……銃の表面にある銀細工にお前の魔力をありったけ流し込め。少なくたっていい」

 

 

 ワークスさんの目は本気だ。どうせ時間なんてない。

 

「よくわからないけど、やってあげるよ。でも失敗したらワークスさんの工房まる焼けだと思うけど!」

「そんなの許すか! 何とかしろや!」

 

 そんなやり取りを見てフェリシアがあきれたように言葉を投げつけた。銃口はあたし、いやあたしたちに向けたままだ。

 

「茶番ですねぇ」

 

 どういわれようともうやるしかない。胸の前に両手で立てるように銃を構える。

 

 クールブロンに魔力を流し込む。まともに魔法を構成することもできないような量だけど、それでも――もしワークスさんの教えてくれたように特別な武器なら、使い手の心に応えてくれるなら。あたしは願うように力を流す。

 

 クールブロンの銀細工が光る。

 

 あたしを中心に「白い魔法陣」が放射線状に広がっていく。

 

「なんですかこれは!?」

 

 地面からまばゆい光があふれる。フェリシアの展開していた赤い魔法陣が溶けるように消えていく。そして赤い光がクールブロンの魔石の中に無数の線の形になって入っていく。魔石に赤い光が灯してあたりは元に戻った。

 

 

「これは、近くの魔力を収束させる力?」

 

 

 

 あたしが答えを求めてワークスさんを振りむくとなんだか満足げな顔をしている。なんだろ、少しさっきのお返しに蹴りたいかな。

 

 でも助かったよ。あたしはフェリシアに向かい合う。彼女もあたしを詰まらなさそうな顔で見ている。

 

「なかなか面白いことができるみたいですね。その銃に刻まれた文様がもともと魔力を流すだけで魔法陣を展開できるキーになっている……といったところですか」

「……たぶんそうだとおもうけどさ。どうかな。正直最初からあたしは戦いたいわけじゃないから、退いてくれるとありがたいんだけど」

 

 それに今の発動をするだけでくらくらする。魔力を流し込むという行為だけでもすごい疲れるんだ。それを悟られないように息を吸ってゆっくり話す。

 

 

 

「まさか。この程度で退きませんよマオさん」

 

 

 

 フェリシアはたっと後ろに飛んだ。軽快な動きは魔族の身体能力の高さを表している。彼女の足元が青く光り、そのまま後ろの建物の屋根まで飛んだ。

 

 

 

 月を背にしてフェリシアが笑う。

 

 

 

「離れて狙撃するというのも一つの手ですしね。さ、もう少し遊びましょう」

 

 あたしはクールブロンを肩に乗せる。正直疲れたし、早くミラたちのところに行かないといけないけど。

 

 

「……仕方ないよね。新しい魔銃の扱いも少しわかったし、マオ様が遊んであげるよ」

 

 

 

 魔石に赤い灯が揺らめている。

 

 

 

 街中で戦うのはごめんだ。

 

「ワークスさん!」

「お。おお」

 

 さっきので呆けていたワークスさんにあたしは言う。なんか驚ているのはさっきのクールブロンの……『領域』といえばいいのかな、あれがちゃんとあたしの力で発動するか心配だったんじゃないの?

 

 そんなことどうでもいいや。急ぐ。

 

「この辺で思いっきり暴れまわっても怒られないところないの!?」

「は? …………暴れ? ……ああ、あるぜ。この通りを進んでいった先に古くて広くて汚い工房がある。大きい建物で錆びた入り口に鎖が巻いてあるからすぐわかる」

「わかった!」

 

 あたしはそれだけ聞くと走り出した。情報としては十分。

 

「フェリシアもついてきてよ!!」

 

 走りながら叫ぶ。すぐに空から銃撃がやってきた。うわっ。あぶな!

 

 足元のタイルに銃弾がめり込む。態勢を崩しながらもそれでも足を止めない。きっと止まったらいい的だ。

 

 振り返ると屋根の上であの魔族の少女はあたしに銃口を向けていた。ああ、以前もこんなことがあった気がするよ。あの時は弓だったけど。魔銃もフェリシアの魔力を籠めればあの時以上の威力が出せるはずだ。

 

 ――だからさっきあたしの足元を打ち抜いた銃撃はまだ手加減している。

 

 おちょっくっているのか、なめているのかはわからないけど、あたしだって負けていられない。フェリシアを見ながらべーってしてやる。これが精いっぱい、だってクールブロンで撃ったってあそこなら当たらないよ。

 

 フェリシアの周囲に蒼い光が輝く。

 

 次の瞬間弾丸があたしめがけて打ち出され、それが氷の槍になって襲い掛かってくる。うわっ。あたしが思いっきりジャンプすると正確に足元にそれが刺さった。石畳を削り取るそれの威力は人をしとめるには十分すぎる。

 

 とにかく行こう。足に力を込めてあたしは走る。ああもう、ほんと今日は疲れた。早く家に帰って寝たいよ!

 

「まおさーん。どこにいくんですかー?」

 

 フェリシアの声が空からする。屋根の上を伝って追ってくる。身体能力はあっちのほうが上。

 

「この先に暴れていい場所があるってさっ!! そこまでついてきてよ!!」

 

 走りながら叫ぶのは辛い! 息が苦しくなる。

 

 あたしは視線をフェリシアに送る。彼女は屋根から飛んで、走るあたしの少し前にさかさまに落ちてくる。異様な光景にあたしは時間が止まったように感じる。だって笑顔のままなんだ。その手にある光る魔銃の銃口はあたしを向いている。

 

 ハッとする。あたしは横に転がって避ける。一瞬遅れて氷の槍が通過していく。すぐ立ちあがってみれば、通りをふさぐようにフェリシアが両手を広げていた。

 

「どこにもいきませんよ。マオさん。ここであそびましょう」

「いやだよ! 遊ぶのはちゃんとしたところで遊んであげるよ」

「そーですかー」

 

 瞬間爆発的な速度でフェリシアがあたしに飛んでくる。銃口を向けて青い光を放つ。

 

 全身がやばいって叫んでる。息をするのも遅く感じる。あれ? なんだろう、音が聞こえない。これ、昔の、前世で味わったことがある気がする。やばい時こうなるんだ。

 

 たぶんピンチなのにあたしは落ち着いてる。

 

 手が勝手にクールブロンのレバーを引いて、フェリシアへ銃口を向ける。ほとんど無意識に引き金を引いた。フェリシアがわずかに驚いた顔で横によける。それでも彼女の銃撃は魔法陣を展開して氷の槍になりあたしをかすめていく。

 

 音が戻ってくる。

 

「かはっぁ」

 

 息を吐く。どくどくと心臓が鳴っているのがわかる。おえ、はきそう。でも動きを止めたフェリシアに向かって不敵な感じで笑ってみる。彼女はすこしむっとした顔をしている。

 

「……今の動きなかなかですね、マオさん」

「そりゃあ、魔銃を扱うのにはあたしのほうが馴れているからね」

「そうですかー」

 

 フェリシアはゆっくりと歩いている。あたしも円を描くようにその反対をゆっくりと動く。お互いに銃に装填をしている。……でも確かに今の動きはなんかおかしい、自分で言っちゃなんだけどあたしはミラやニーナに比べたら身体能力はずっと下だ。

 

 そう疑問に思ったとき、あたしの手元でクールブロンがほのかに光っている。この魔銃にはフェリシアの魔法陣から吸収した魔力が魔石に込められている。もしかして、この銃のおかげだったり、うわっ。

 

 フェリシアが銃撃を放つ。あたしは無様によける。もうやけだ! 別になんだっていい。とにかく走ろう! 通りの工房から人がすこし窓から覗き込んでいる気がして、巻き込むことはしたくない。

 

 走る。走る。走る。じぐざぐに、狙いをつけられないように。追いつかれそうになるたびに道にあった樽とかよくわかんない箱とか投げて時間を稼ぐ。ごめん持ち主さんたち!

 

「ちょこまかと!」

 

 フェリシアのいら立つ声がするけど、知らないよ。まともにやるのは後! 通りを走り抜けると大きな建物が見えてくる。明かりの全くない月明かりに黒のシルエットだけ浮かんでるそれ。こわ! なにあれ! 確かにわかりやすいけど入りたくない。

 

 そんなこと思っているとすぐそばに氷の槍が刺さった。フェリシアの舌打ちが聞こえてくる。ええい、もう文句なんて言ってられない。大きな入り口は鉄格子がはめられて鎖がしてある。

 

 入れないじゃん! 

 

「はあ、はあ、はあ、はあ」

 

 レンガ造りの塀に囲まれた工房とあたしを阻む大きな門。苦しい、息を整えるというか、もう息自体をしたいってくらい肺が痛い。

 

「どうやらここまでのようですね」

「はあ、はあ、はあ」

 

 言葉を話すのも億劫だ。鉄格子に背中を預けて少しずつ近寄ってくるフェリシアを見る。涼しげな顔をしているなぁ。体力の違いを感じる。汗が邪魔だ。腕で拭う。うえ、シャツが体に張りついてる。

 

「まあ、たかが人間にしては結構頑張ったと思いますが。苦しそうですし、そろそろ終わりにしませんかマオさん」

「べっ」

 

 話すのがめんどくさいから舌を出した。終わりにするかって言われてそう簡単に諦められるわけがない。こうなったら一か八かやってみるしかない。

 

 あたしはクールブロンに銃弾を籠めてレバーを引く。

 

「そうですか。無駄な抵抗をするんですね。さっきあなたの銃撃はちゃんと無駄だって教えたばかりですが」

「そうかな」

「……?」

 

 フェリシアが笑顔のまま小首を傾け、それでいて銃口をあたしに向ける。ようやく息が整ってきた。

 

「さっきフェリシアから魔力をもらったことを忘れているよ」

 

 クールブロンの魔石が光る。あたしの顔を照らす。あたしは手で魔石を撫でて小さく呪文を詠唱する。

 

「……これなら十分に威力を出せる」

「へー不愉快ですねー」

 

 フェリシアと目線が交差する。青光を放つ彼女の銃。赤い光を放つクールブロン。フェリシアは笑う。

 

「そんなに自信があるならちゃんと殺し合いをしましょう」

 

 あの子が魔銃を使って展開する魔法陣はほとんどひとつだ。アイスランス。撃ち出された銃弾を中心に構築された氷の魔法があたしを襲う。でも、誰が、

 

「誰が殺し合いするって言ったのさ!」

 

 全力で魔力を込めた銃弾をあたしは地面に向けて撃つ。

 

そして服にもフェリシアの魔力を浸透させて防御力を上げた。フェリックスの制服じゃなきゃきっとバラバラになるね! 嫌な話!

 

 どーんと大きな音がして衝撃で体が浮く。あたしの体が思ったより簡単に飛ばされて門を超えて工房の庭の木に激突する。

 

「いてて」

 

 枝に引っ掛かった。よかった。いたた。背中を打った……。でもまあ、これで中に入れたかな、よっと、ってジャンプして降りたら足をくじきそうだから枝につかまってゆっくり降りる。

 

 見れば工房が目の前にある。古びたドアに手をかけて中に入ろうすると声がかかった。

 

「マオさん」

 

 門の向こうにフェリシアがいる。あたしは振り返る。2人の間に大きな門がある。そこには鎖が巻き付いてて手では開かない。

 

「さっきから逃げてばかりですが、やる気があるんですか?」

「いきなり戦いを挑んできているんだからもともとあたしにはそんな気はないよ」

「はあ、なるほど。マオさん。あなたの手に持っている魔銃というものがなんで生まれたのか知っていますか?」

「知らないよそんなの。だってこれ、……じゃないや。これの前の魔銃はイオスが勝手に押し付けてきたんだからさ」

「…………そうですね。私もそこには疑問を持っていますが、でもねマオさん。それ武器なんですよ」

「は?」

「それは遊びの道具ではないということです。銃弾を籠めて魔力を練りこめば人くらい簡単に殺すことのできる武器なんです。なのにそんなに逃げ回ってばかり。そんなことならどうですか? その銃を私に渡して降参して、王都から去るなら見逃してあげますよ」

 

 フェリシアは心底あたしを見下したような顔で言う。あたしはまっすぐ彼女を見る。

 

「違うよ」

「違う? 何がですか?」

「殺すとかなんだかとか、それを決めるのは武器じゃない。自分だよ。ワークスさんも言ってた。クールブロンはどんな色にも染まるって。それを決めるのは持ち主だってね」

 

 あたしはこの白い銃を立てるように両手で持つ。その先端が月にかかったて見える。

 

「だからこの子をどういう風に使うかはあたしが決めるし。あと王都からも逃げ出したりしない」

「…………はあ。まるで子供のいいわけですね。もういいです」

 フェリシアが飛んだ。門の上に立つ。

 

「じゃあ。続きをしましょうか」

 

 あたしは後ろに奔る。ドアを蹴ってあける。真っ暗な工房の中が見える。

 

「ここなら思いっきりやってあげるよ!」

 

 

 

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