魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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最後の日

 

 Fランクの依頼は命の危険がない依頼だって話。地下水路でロイとかと戦ったのなんて、あれは偶然。だってもともと水路の中を調査するだけの依頼だったんだからさ。

 

 だから本当はお買い物をするとか、犬の散歩とか、手紙とかを届けたりするなんて簡単なものばっかり。ここ最近であたしほどFランクの依頼をやった冒険者見習いはいないだろうからよく知っているんだ。

 

 でもさ、それを「全部まとめてやったらどうなるか」ってことをあたしは身をもって思いしってる。

 

 お店で借りた肩掛けのバッグに荷物を満載して、両手にも袋をもって、犬のリードを2匹分手首にしたまま王都を走る。本当ならたぶんのろのろと動くはず。でも体が軽かった。

 

 翔けるように走る。

 

 王都の石畳を走る。神父さんにしてもらった強化魔法で王都の依頼主に買い物してきたものを渡して、懐に入れていた手紙を渡して「じゃ!」って去っていくあたし。

 

 多い! 犬の散歩がいつの間にか一匹増えていた。すごく楽しそうにあたしにまとわりついてこようとするけど今忙しいんだって。あたしは曲がり角を曲がって、そこに立っていたおばさんに野菜の入った袋を渡す。立ち止まると「はっはっはっ」て犬がまとわりついてくる。やめ。やめてってば! なめなくていいから! あはは。

 

「マオ!」

 

 前から走ってきたのは同じような恰好をしたニーナだ。こんな依頼だけで20件以上ある。

 

「に、ニーナ。あと、ど、どれくらい」

「半分程度終わった……はあはあ」

 

 二人とも息を切らしている強化魔法をしてても、ずっと走り回ったら疲れる。ううん。だめだ。まだまだ、やってやる。そう思ったときにあたしの前に蝶が舞う。魔力でできたそれがはじける。モニカが教えてくれた遠くでも何かを伝えられる魔法だ。

 

 それを見たニーナが片手を出してきた。

 

「お前の荷物をよこせ。あと依頼書もだ。この仕事は引き継いでやる」

「え? でもさ」

「うるさい! 時間がないだろう。さっさと行け」

 

 ニーナがあたしから荷物と犬をひったくる。その犬がニーナの足にまとわりついて「やめろ」なんて叫んでる。でも、時間がないのは本当だ。朝から走り回ってすでに昼前だ。今日中に全部終わらせる必要がある。

 

「ごめんニーナ。あと、任せるよ。あ、犬の名前はそれぞれゴン、ランチ、ニーナだから」

「……! どれがどれかわからない。それに最後の奴の名前を呼ぶことはないからな!」

 

 そうかもね。ちょっと笑いそうになる。でも我慢して走る。

 

 たったった。

 

 荷物がなくなって軽くなった体で走る。走っていくと、王都の水路の横を走る。きれいな水が眼下を流れていく。ここの整備でもひどい目にあった気がするけど、こうしてみると綺麗だ。いや、そんなこと言っている場合じゃない。

 

 次の依頼は民家だった。そこにはラナが両手を組んでいらいらした顔で待っている。依頼主も一緒だった。若い男性だった。挨拶する前にあたし手が引っ張られた。

 

 その犯人のラナが口を開いた。

 

「遅い! 草むしりするだけなんだからさっさとするわよ。ほら!」

 

 民家の庭には草が生い茂っている。つかまれた手に魔力を感じる。ラナが開いた手を草むらに向ける。わかる。あたしもラナの手を握ったままもう一方の手をそこに向ける。

 

 呪文を紡ぐ。火の魔法を構築する。ラナはその構築にはほとんどあたしにゆだねてくれたからやりやすかった。そういえば前もこんなことをした。

 

「「フレア!」」

 

 ラナとあたしが叫ぶと同時に二人の魔力が熱になって放たれる。草むらに熱波が奔り、魔力にあおられた草が赤く光り、黒ずんでぱらぱらと灰になる。はあはあ、これ結構精神を使う。ラナが手を放して依頼主に言う。

 

 さっきまでの草むらが一気に灰だらけの庭に。うーん。見た目は悪いなぁ。

 

「さ、草むしり終わり。はい依頼書にサイン」

「あ、ああ」

「早く!」

 

 お、脅すようにサインをもらってる。時間がないの分かる。ラナは振り返ってあたしを見る。

 

「次に行くわよ!」

「う、うん」

 

 ラナと街を駆けずり回る。ラナとやるのは魔法でやれることをやるんだ。

 

 火でお風呂を沸かしたり。

 

 水で道の掃除をしたり。

 

 風で街路樹の枝を切ってみたり。

 

 あたしには魔力がほとんどないから、ラナの力を借りて。さすがに途中でラナの強化魔法が途切れて、膝に手をついたて肩で息をしている。

 

「はあはあ、つ、次は」

「ラナ、流石に休まないと」

「バカ? 今日しかないのにそんな暇あるわけないでしょ。さっさと次の依頼書を出して」

 

 その時桃色の蝶があたしの肩にとまった。モニカが呼んでいる。

 

「モニカが呼んでるから。ラナは少し休んでいて」

「……あんた、はあはあ。そんな暇ないって言ってるでしょ」

「1時間!」

「はあ?」

「休んでくれないと多分もたないよ。また、ラナの力が必要だからさ。あとで」

「…………じゃあ、さっさと戻ってきなさいよ」

 

 ラナは分かってくれたのか、手でしっしってしてくる。う、うーん! ま、いいや!

 

 だからモニカのところに走る。モニカのいるのはあの場所だ。ロイとの戦いで壊れてしまった。街の再建工事で働いている。大丈夫かなってまた思ったけど、行ってみないとわからない。

 

 近づくとトンテンカンテンって槌の音がする。いっぱいの資材と大勢の職人さんがいろんな作業をしている。その中にモニカが手を振っている。

 

「マオ様! こっちです」

 

 依頼主は大工の親方さんだね。筋骨隆々の腕を組んであたしを見ている。この人とはこの場所で工事を依頼する前から知っていた。あの時はラナとあたしだけで資材運びをした。いや、よく考えたらあれもラナがいなかったら多分強化魔法とかできなかったからできなかったね。

 

「おお、来たか。依頼書はあるか」

「うん。あるよ」

 

 紙の束から一枚抜いて渡す。これエリアごとに付箋張ってわかりやすいようにしてくれている。ギルドのノエルさんがやってくれたんだと思う。

 

 内容はこれも資材運びだ。よーしって思ったら、モニカの体から魔力があふれ出てくる。

 

「マオ様。ここは私に向いています」

「も、モニカ」

 

 真剣な顔で体中から魔力を迸らせながら近くに置いてあった木材を片手でつかんで担ぎ上げる。すごい。あっけにとられる。モニカはどんどんそれをそれぞれの工事場所に持っていく。

 

「あいつ、おれんとこに来ねぇかな」

 

 親方がぼそっとつぶやいた。そうだね。……いやいやいや、感心している場合じゃない。流石に何もしないのはおかしい。

 

「親方! あたしにも仕事」

「お、おお。じゃあそこにある……それを」

 

 いろいろと指示をもらって手伝う。重い……でもモニカはなんかすさまじいスピードで働いている。魔族の体は人間よりも強いってわかっているけど、すごいやる気を感じる。

 

「あ、あの」

 

 振り返ると小さな女の子がいた。この子は……この近くに住んでいた子のはずだ。ロイとの戦いで家が壊れて……モニカともいろいろあったはずだ。なんであたしにはなしかけてきたのかわからないけど、おずおずと近づいてきた。

 

「あの魔族とお姉ちゃん友達なんだよね?」

「魔族……モニカのこと? あそこにいる」

 

 こっくりと女の子は頷いた。

 

「モニカ……そう、前にお姉ちゃんがみんなの前でそんな名前だって言ってた」

 

 みんな? ……あ、この街の住民の前に出て話をしたことがあった。よく見たら遠巻きにモニカのことを見ている人が結構いる。

 

「あの」

 

 はっ!? 何?

 

「その、あの、魔族に……」

「待った」

「え?」

「モニカ、あの子の名前はねモニカっていうんだ」

「……」

 

 女の子があたしを見る。ためらいながら言う。

 

「その、モニカ……お姉ちゃんに、ありがとうって……伝えてほしいの」

「…………聞いて言い?」

「うん」

「なんでありがとうって言ってくれるのさ?」

「…………だって……みんなひどいこと言ったのに、いつも私たちの街のために働いてくれてるのを見てたら」

 

 女の子が泣き始める。大粒の涙を流しながらあたしに叫ぶんだ。

 

「みんなでひどいことを言っちゃったって思ったら……それ以外なんて言っていいかわかんないの!」

 

 それだけ言って女の子が走り去っていく。あたしが手を伸ばそうとしても止まらずに行ってしまった。

 

 魔族の手で壊れた街。

 

 魔族の女の子が復興のために働く街。

 

 その当事者としてあたしはここにいて、いろんなことを見た。

 

「マオ様! 次の依頼を!」

 

 その時後ろに来たモニカにあたしは抱き着いた。正直無意識だったと思う。

 

「マオ様。なんでしょうか、ど、どうしたんですか?」

「よかった、よかったよね」

 

 嬉しくて、あたしはうまく言葉にできなかった。ただ、モニカにあの女の子の言葉を伝えると、モニカは驚いたように目を見開いた。

 

「そ、そげなこつ」

 

 素の言葉を出しながらぽろぽろと涙を流しながらこの魔族の女の子は喜んでくれたのだ。

 

 ☆

 

 

 

 時間がどんどん過ぎていく。太陽は待ってくれない。

 

 依頼を終わらせるたびに空を見上げてしまう気がした。いい天気だけど、もう太陽は空の真ん中を通り過ぎてだんだんと西に向かっていく。うう、焦るけど、それでも頑張るしかない。

 

 そんな時にあたしのもとに蝶が舞い降りた、ラナが呼んでいる――よーし、やるぞー。

 

 走って向かうとラナとニーナとモニカが来ていた。そこは海の見える料理屋さん。ラナがあたしに手招きしている。綺麗に切られてバスケットに入ったパンとかサラダとかスープとかが並んでいる。

 

「マオ。早く来て、ほら、少し遅いけどお昼ご飯食べないと」

 

 お、お昼!? そんな暇はないよ! あたしは次に行かないと……そう思ったとき、ぐぎゅうってあたしのばかなおなかが鳴った。恥ずかしくなる。そんなあたしの首根っこを猫みたいにラナがつかんだ。

 

「夜まで仕事することになるから、一生懸命食べないと体がもつわけないでしょ。さっさと食べて」

「一生懸命に食べるって何……?」

 

 わけわからないけど、もういいよ。あたしはテーブルに座ってパンを齧る。……柔らか! おいしい。……あ、モニカがあたしの顔を見て笑った。し、仕方ないじゃん。ニーナはあきれた顔でパンを齧っている。

 

 急いで食べる。げほっげほ。

 

「よく噛みなさいよ。ほら水」

 

 ラナが背中をさすってくれる。そこに大きなお皿を持った店員がやってくる。そこにはなんだろう、見たことがない食べ物がエビとか貝とかいっぱい載せている。でもいいにおいがする。

 

 店員さんはにこにこしている。頭に白いキャップを被ってシャツの上からエプロン。綺麗な銀髪をサイドテールにしている。彼女……ていうかミラがどーんとあたしたちのテーブルにお皿を置いた!

 

「お待たせしました! 遠くの国の『コメ』を香料と炊いた……パエージャ!」

 

 なんか楽しそうに言ってるミラ。コメってなんだろう……でもいいや、おいしそうだ。

 

 この料理屋さんも依頼をくれたところ。依頼は芋の皮むきとか接客とか巻き割りとかいろいろ考えるだけ多くの仕事を作ってくれたんだ。それをミラは自分がやってくれている。……剣の勇者にあんたの子孫を芋向きを手伝ってもらっているよって言ったらあいつどんな顔をするんだろ。

 

 ラナがパエージャをよそってくれる。これ……スプーンですくって食べたらいいの?  恐る恐るコメを食べてみる。

 

 ……んー。おいしい! 

 

「あんたってホントに顔に出るわよね」

 

 ラナがあたしを見ながらはっと鼻で笑ってくる。い、いいじゃん。これ言うの二回目! ミラもなんだかうれしそうだし。えーいとにかく食べて力をつけよう。おかわり!

 

 

 陽が落ちていく。

 

 王都には篝火がたかれて夜でも明るい。そんな中でも仕事は続く。前にやったウエイトレスの仕事。お夕飯を代わりに作る仕事……これはラナがやってくれたけど。それに掃除もあるし、また手紙の配達もある。

 

 月が昇っても王都をみんなで走り回った。

 

 どれくらい依頼を受けたのかわからなくなりそうなほどだった。 依頼書があるだけ一日中仕事をして回った。教会の鐘をきれいにするなんて仕事もあった。神父さんの教会の屋上に吊られたものだ。

 

「ほらほら、さっさと手を動かす」

 

 ラナが掌の上で炎を燃やしてくれて明かりを作る。その中であたしもミラもニーナもモニカも手に持った雑巾で大きな鐘を掃除する。ていうか大きいなあこの鐘。外側はともかく中を掃除するのは大変だ。鐘の中に入って見上げると

 

「マオ様」

 

 モニカがあたしを肩車してもまだ届かない。

 

「ニーナ来て」

「はあ? 何がだ」

「あたしの上に乗って」

「三人で肩車なんて危ないだろう!」

「でもほら、ミラも手伝って」

「うん。ニーナ!」

「い、いやいい。危ないから。いい!」

 

 ニーナが往生際が悪い。ミラが抱き着いて持ち上げようとするのに抵抗する。そんな中でニーナとミラに後ろからラナがチョップする。

 

「あんたたち何やってんの。こんなのほらマオがモップ持ったらいいでしょ。擦れるでしょ」

「「あ」」

 

 力の勇者と剣の勇者の子孫が間抜けな声を出す。ま、まあ。魔王のあたしも気が付かなかったんだけど……な、情けない。

 

「はい」

 

 ラナがモップを投げた。あたしは手を伸ばす。おっとと、

 

「マオ様! あ、危ないです」

 

 う、うわ。モニカが体勢を崩した――ラナが「た、倒れてくるんじゃないわよ」って驚いてる! そ、そんなこと言ったって。どしーんって倒れる……かと思った。倒れてきたあたしをみんなで支えてくれた。モニカが足、ミラとニーナが手、ラナが肩……これこそ情けない恰好だ……。

 

「あ、ありがと」

 

 それくらいしか言えなかった。みんながはーって安心したような溜息を吐いて。

 

「あんたはいつでもしょうがいないやつね」

 

 ラナがそういうとみんな笑った。うう、恥ずかしい…………ま、いっか。あたしもなんだかおかしくなって笑ってしまった。

 

 教会の中に笑い声が響いている。

 

☆☆

 

 深夜だった。

 

 ギルドの中で受付嬢のノエルは手に燭台を持ち、見回りをしていた。

 

 ギルド。

 

 それは過去に剣の勇者がその形を作ったといわれれる。当時は冒険者と言われた者たちは貴族や王族に使われてそして使い捨てられる存在だった。

 

 魔王を倒した剣の勇者はそんな冒険者を守り、教育する機関を創設した。

 

 適切な報酬を払い、そして個人個人の依頼を実力以上に負担させて命を落とすことのないように庇護する存在だった。そういう意味では今回の仕事はよかったとも無理をさせすぎたとも彼女は思っていた。

 

 ギルドに居れば多くの冒険者が来ては去っていく。去っていく中には二度と戻ることがなかった者たちもいる。ノエルはその現実の中で自分のできることの小ささを自覚しつつも、誇りとしていた。

 

「……」

 

 ギルドの扉はすでにしまっている。もう今日ここに冒険者が来ることはないだろう。昼には大勢の人でごった返す。受付のフロアも今はほとんど誰もいない。

 

 端っこにある円卓を除いて。

 

 そこにはかわいらしい寝顔をした5人の少女が眠っている。その中には栗色の髪をした小柄な少女――マオも眠っていた。ノエルはその寝顔を見て少しほっぺたをつねってやろうかと思ったがやめた。代わりに円卓に座ったまま眠っている彼女たちに言う。

 

「お疲れ様」

 

 彼女たちの中心にはやり遂げた依頼書の束が置かれている。

 

 

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