魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~ 作:ほりぃー
クロードさんの説明の後にニーナと一緒に授業を申し込みに行った。
せっかくラナが優しい先生を教えてくれたからその日のうちに終わらせてしまおうと思ったんだ。あたしのポケットの中にはラナの話をメモした紙が入っている。
「しかし、いいのか……」
ニーナはどことなく元気がない
「まあ、最初はかるく慣れる感じでいいんじゃないかな?」
むしろあたしが説得しているみたいになってしまった。さっきの話だったらきっとこれからも長いから最初から難しいことをするよりいいってラナの言っているのは間違いじゃないよ。うん。
それでもニーナは憂鬱そうだった。うーん。
「……入学試験の時はいろんことを突っ走っちゃってみんなに助けてもらったからさ。反省しているんだ。無理をしてもいいことは……はいっぱいあったけど、それは大変だよ」
「……お前が言うと説得力があるな」
くすりとニーナがした。笑うと耳のピアスが少し揺れる。
「ニーナって笑った方がいいよね。かわいいし」
「……! いきなり意味の分からないことを」
早足になるニーナ。あ、これは恥ずかしがってますね。あたしは後ろからついて言って「かわいいってば」って追いかけるとこの力の勇者の子孫は走り出した。
「ま、待って。ご、ごめん」
廊下を走る。
☆
職員室っていうのかな。大人の人が出入りする場所だ。先生たちはそれぞれ部屋があってここにはいないらしい。先生の部屋は工房とか研究室とか言うらしいんだ。
息を切らせたニーナとあたしはそのドアの前に立つ。開こうとする前にどこからか呼ばれる声がした。
「おーい」
振り返ると大柄の男性が廊下の向こうから手を振っている。筋骨隆々って感じで褐色の肌をしている。盛り上がった筋肉が遠目でもわかる。でも髪は白くて蓄えたひげも真っ白だ。学園の校章の入った服を着ているけどぱつぱつで小さく見える……
濃いい。でも、なんで呼ばれてんだろう?
「そこの二人こっちにおいで! ちょうどよかった! お菓子もあるぞ」
声が大きい。響く。うーん。
「今から授業の届け出をするからごめんなさい!!」
あたしも負けずに大声で答えてしまう。男性は少し止まって、ニヤッと笑う。
「そんなのはあとだあと!! ほらこっちにこい!! 甘い菓子があるぞ!! 後ではやらんぞ!!」
おかし……。はっ! いけないいけない。なんて魅惑的な言葉なんだろう。チャームにかかるところだった。
「……食べ物で釣るのは卑怯だとおもう!!」
「戦いに卑怯も何もない!! 有効な手を常に打ち続けることが重要なのだ!! 早く来い!!」
「う、うううう。い、いや!! あたしはそんなんじゃ釣られないよ!
「バカめ。甘いわ! クッキーだぞ!!」
クッキー!! クッキー!! あ、足が勝手に。いやだめだ。こんなことで……負けてたまるか。そんなあたしの肩をがしっとニーナがつかんだ。
「ちょ、ちょっとまて、廊下……大声で恥ずかしい会話をするな……と、というかあの人は」
周りを見ればなんだなんだと職員さんも通りすがりの生徒も見てきている。ニーナと同じくなんとなかく恥ずかしくなってきた。うん……仕方ないよね。あんまり騒ぎを起こしたら悪いし……これは仕方ないことだ!!
あたしはそうやって仕方なく大柄の男性ととある部屋に入っていく。ついてきたニーナはどことなく緊張しているけど、あたしはすきっぷしたくなりそうになるのを抑えている。
立派なドアを開けると狭い部屋だった。ただ印象的なのは大きな窓があって青空が見える。
入った最初の印象は狭い感じだったけど、よく見たらそこら中に書類が束になっていて積み重ねられている。それで狭く感じるんだ。
「がはは。お菓子は嘘だ」
「……!!!!!!!」
うそつき!!! うそつき!!! 帰るよ!!
男性はあたしの様子をにやにやしながら見て。手元に赤い箱を取り寄せて開ける。中には色とりどりのクッキーが入っている。
「ふっ。さらに罠にかかったなバカめ」
「……ふ、ふふ」
男の箱の中からクッキーを取り出すと彼とあたしで向き合って笑う。対峙するといってもいい。この男は危険だ……! もぐもぐ。おいしい。
「がはははは! 入学式と同様面白い奴だなマオ」
「な、なんであたしのことを知っているの?」
「なんでとは? ……ん? おまえもしや」
「ま、マオこの人は」
「待て、ニナレイア・フォン・ガルガンティア。面白いから少しそのまま話をさせてくれ。まあ、二人とも椅子にかけなさい」
椅子? あ、書類の山積みになったソファーがある。座るところなんてないよ。そう思っていると男は書類を持ち上げててきとうに場所を作ってくれた。ソファーは対面になっていて、あたしたちと男で向かい合って座る。
「いろいろと噂は聞いているぞマオ……ん-、姓はないんだったな」
「うん」
「がははは! 物怖じをしない性格は好きだ。ところでお前はワシを誰だと思っている?」
誰って……お菓子おじさん……いや、そんなわけないから。なんか期待したような顔で男はあたしを見てくる。うーん。
「なんか偉い人……ですか?」
「おお、えらいえらい」
「……先生?」
「そういえばそうだ。うん。間違いはない」
あたしがニーナをちらっと見ると汗をかいて下を向いている。男を見ると両手を組んでにやにや答えを期待している顔をしている。
「わかった! 学校の偉い人だ!」
「そうじゃ。ワシこそがこの学校の学園長であるグランゼフだ。覚えておけ!!」
学園長! そうなんだ。
「へー。すごいんだ!」
グランゼフはあたしの言葉に一瞬目を丸くしてそれから豪快に笑った。
「がははは。学園長と知ってもその反応とはな。聞きしに違わぬクソガキじゃわい!」
「く、くそがき」
「おうよ。お前さんのことはいろんなものから聞いて一度話したいと思っていたんじゃ。なかなか面白い奴だ。本当なら入学式にも顔を出していたから知らないとおかしいんだがな」
「あ、そうなんだ……。自分のことでいっぱいだったから……。ごめんなさい」
「……妙なところ素直じゃな、ま、いいわ。ほら、クッキーじゃ、箱ごとやるわ。他のお菓子もこの机を漁れば出てくるが……」
クッキー箱ごと! ぽわーってなった。幸せってこういうんだろうかなぁ。ありがとうクッキー学園長……ち、ちがった。グランゼフ学園長!
「……面白いくらいにころころと表情が変わるやつじゃなのう。……ニナレイア」
「え? あ、はい」
「お前も硬くならんでいいから楽にしなさい、なーに。お前たちを呼んだのは大したことじゃないんじゃ。いや、本当に用事があったのはマオだけだ」
あたしに用事? なんだろ。
「大した用件じゃないんじゃが、マオ……お前に退学勧告が来ているんじゃ」
……………は?
あたしとニーナは固まった。
☆
驚きすぎてなんにも言葉にならなかった。それでも絞り出すようにあたしはなんとか声に出した。ニーナがびくっと体を震わせた。
「た、退学?」
「うむ」
グランゼフ学園長は目を閉じて両手を組んだまま頷いた。え、ええ? あ、あれだけ苦労したのに?
「そ、そんなのってないよ! どうしてそうなるの!?」
気が付いたら叫んでた。だってあたしだけの力で入ったわけじゃない。いきなり退学なんて言われても受けるわけにはいかない。グランゼフ学長は片目を開いてちらっと見る。
「なんか勘違いしているな。退学しろなんて言っておらぬ。外からマオを退学させろと言われているんだ」
ますます意味が分からない……。グランゼフ学園長は書類の束から一つ取り出して読んだ。それは一通の書状だった。
「えーなになに。貴校における入学式に出席した折、登壇をした女生徒は甚だ品位に欠ける演説を行い……ええいめんどくさい。最後の方にはな『娘を預ける身としては学園長に善処されることを求めたい』という脅し文句が書いているんじゃ」
グランゼフ学園長は読み終わった後に片手でその書状をぷらぷらと揺らす。
「ワシも学園長としてはいるがこの学校はギルドや貴族の出資によって成り立っている。いわばやとわれよ。その中でワシよりも金を出しているお偉いさんの言葉を尊重しなければならないことがあるということだ。大切にせねばならぬ」
そういうと彼は書状をぽいと捨てた。床の絨毯に落ちる。
「と、いうことでなマオ」
グランゼフ学園長の目があたしを見る。力強いとしか言いようがない。ぎらぎらと光る眼光。でもあたしはまっすぐに見返す。
「どうする?」
「……さっき用事があるって呼んだってことはさ。あたしに何か言いたいことがあったんだよね。ただ退学をしろっていうことじゃなくて」
「無論むろん」
にやあと面白そうに顔をゆがめるグランゼフ学園長。負け時とあたしも何となく笑ってみる。
「ふっふふ。気にくわんじゃろう? 外野からとやかく圧力をかけてくるような輩はのう。何を隠そうワシもじゃ」
「うん!」
「いー返事じゃ。がーはっはっはっ」
「あはははは!」
二人で笑う。
「な、なにを笑っているんだ?」
困惑した顔でニーナが言うからなんとなくおかしくなってさらに学園長とあたしで笑ってしまう。ニーナは身を引いてる。い、いやひかなくていいじゃん!
「マオよ。さっきのカス……いやお偉いさんからの書状によるとなお前の能力に強い疑義を感じているということじゃ。建前ではな、じゃから力を示せ」
「力……?」
「そうじゃ。ほれ、これをやろう」
学園長が一枚に紙を渡してくる。そこには「ポーラ」先生もいる。これからの授業を受ける先生が一覧だった。
「こいつらは選りすぐりの変人どもじゃからこいつらに認められるように授業をうけろ。それにな……少なくともBランク程度の依頼をどこかで達成するんじゃ。授業は半年区切り……その間に明確に実績を作れ。その間はワシが守ってやる、そしてこの条件を達成した後は必ず守ってやる」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ニーナが言った。
「学園長はご存じないと思いますが、このポーラ先生とはマオは少なからず因縁があります。あの人に認められないと退学なんて……そんなのは理不尽です」
「ニーナ……」
「お前もお前だ。するすると話を受けるな! そもそも誰が文句を言っているかすらわからないじゃないか。せめて誰がこいつのことを言っているんですか!? だってこの学校はいろんなところから人を集めるから最初から力を持っている人間ばかりになるとは限らないはずです!」
いつの間にかニーナが立ち上がっていた。グランゼフ学園長は「ほう」と言って。それから、
「秘密じゃ」
「そんな……! そんな理不尽」
「まあまあ聞けニーナ」
「ニーナ!???」
「ワシはな。この学園のことはできるだけ知ろうとしている。それでいうのじゃが、この書状を送ってきたものの名前を明かすのはまだ時期尚早というもの。……マオ、知りたければ先の条件を飲め。……ポーラとの因縁も表面上は知っておる。知ったうえで、腹の中に入ってこいと言ってる」
グランゼフ学園長は歯を見せて笑った。あたしも立つ。両手を組んで言ってやる。
「わかった! ……どこの誰だか知らないけどマオ様にいちゃもんをつけたことを後悔させてやる!」
「よーしその意気じゃ!! がーはっはっはっ!!!……お、それとまだお菓子があるが食べるか?」
「食べる!」
☆
「と、ということがあってね」
すごい怖い顔でラナが見下ろしている。一通り話おわったときラナは逆ににこにこし始めた。
「マオさんですね」
マオさんっていうの怖い、
「私が思っていたことよりも数倍ややこしいことになっているのどういうことなんですか?」
敬語やめて! ラナが笑顔なのに全然目が笑ってない。ラナはその場でぐるぐる歩き回り始める。「あー」とか「うー」とか唸っている。
「なんなの……トラブルを生み出す根源なの? ……そもそも入学式の挨拶で有力者に目を付けられるって何?? 荒事だってやる冒険者を育てる学園なんだから……そんくらい大目に見なさいよ」
一人でラナがつぶやきながら歩く。あたしとニーナはそぉっと足を崩そうとするとラナが磁路って見てきた。
「だーれが足を崩していいっていったの? あ、ニーナはわかったからいいわ」
「……」
ニーナははーと息を吐いて足を崩すとその場に崩れた。足がしびれているらしい。正座というこの様式はどこかの国の座り方らしいけど、こんなんで座ってたら膝とか痛めるよ!
「それとマオ」
「は、はい」
「クッキー没収」
「ひえ!?」
まって!! まってラナ!
「教会に持って行って孤児とかにあげるから」
「そ、そんなー」
「ていうか食い意地張りすぎ……いやそんなことどうでもいいわ。授業が始まったらまーたいろんなことに巻き込まれることに……」
そこでラナがふっと真顔になった。片手で目元を覆って何か考え込んでいる。
「ラナ?」
「あ、いや、何でもないわよ。あーつかれた。話を聞いてもどうしようもないから疲れるだけだったわ。とにかく今日は外に軽く食べに行って……寝よう。もういいわよ。マオ立っても」
「やった。わ、いったぁ」
足が、あしがぁ。何この座り方、絶対おかしいよ。
「ほら、おいていくわよ。ニーナも食べに行くでしょ……あんたも同じ授業を受けるなんてさぁ。いい奴っていうか。あー、むかつく」
ラナは倒れこんでいるあたしたちを放置して部屋から出ていった。
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