魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~ 作:ほりぃー
朝だ! いい天気で青空が広がっている。
あたしはリボンの紐をキュッと締めなおす! 初めての授業に意気込んで家のドアをバーンと開ける!! こういうのは気持ちが大事だからさ。
「行ってくるよ!」
家の中にまだいるラナにそう言って飛び出した。手には魔導書の本。ラナが持っているのを借りた。今日の授業は確か「セレスタス魔法陣」とかいう話だ。あたしが魔王だった時にはそんなものは聞いたことがないからきっと新しい魔法の話なんだろう。
フェリックス学園に着くと入り口にはニーナが待ってくれてた。金髪が朝日に輝いてきれいに見えた、片耳につけた耳飾りが揺れた。
「おはよう! ニーナ」
「……ああ、おはよう……朝から元気だな」
ニーナは肩をすくめてあたしの横に来てくれた。二人で歩いて中に入る。教室の場所も一緒だし、授業も一緒のものだ。
「それにしても今日からかぁ。どんな先生なのかな」
「……ラナの話では変人ぞろいらしいからな……いや」
ニーナがあたしをじっと見る。
「こっちも負けてないか」
「……そ、それはどういう意味?」
「説明が必要なのか?」
あたしが反論をしようと彼女を見るとニーナは柔らかく笑った。
抗議しようかと思ったけど、くすりとするニーナを見るとなんとなくうれしかった。でも言い返す機会を逃してしまった。いや……そうだ。
「ニーナって笑顔がかわいいよね」
「なっ……貴様」
へへ。あたしはにやっと笑ってみる。本心だけど、反撃成功かな。
ニーナがわかりやすく動揺しているうちに教室に着いた。
校舎にはいくつもの教室がある。そこでそれぞれの授業を行ったりしているらしい。
だから授業ごとに移動することになるけど学生とすれ違う時にたまにひそひそと声が聞こえてくる。たぶんいろいろあったからあたしのことを言われていると思う。うーん、少しだけ有名人だなってちょっと考えてしまう。
そんな感じのだから教室に入ると先に中に入っていた学生たちが一斉に見てきた。
別に何を言うわけでもないけど、すごい珍しいものを見るような眼をしているのは分かる。まあ、いいや。教室はやっぱり半円状になってて生徒が座る席は後ろに行くほど段差がつけられている。
前には大きな黒板がある。そこにはラナが持っていた「チョーク」が置かれてた。
適当な場所にニーナと座る。席は自由だ。
「予想はしていたがお前は注目されているな」
「まあね」
そのあともまばらに学生が入ってきた。各々好きな場所に座るけど……び、微妙にあたし達が遠巻きにされている感じがする。まあいいけどさ!
鐘が鳴った。授業の開始の合図らしい。その鐘の音が鳴っている間にゆっくりと教室の扉が開いた、
入ってきたのは男だった。
くすんだ青い髪に眼鏡をつけた目つきの鋭いあの人がきっと先生なんだろう。時間通りに入ってくるなんて真面目な人なのかもって、鐘の音を聞きながらあたしは頬杖をついて見てた。そこではっと自分で気が付いて姿勢を正した。
いけないいけない教えてもらう立場だもんね。しっかりしないといけない。
正直な話だけど、魔法とかそれ以外のことでも別の人に教えてもらうのはすごく久しぶりだ。実感はないけど数百年ぶりなはず。
確か先生の名前は「ゲオルグ・フォン・ヴォ―ド」先生だ。フォンってことはニーナやミラと同じように貴族なんだろう。
そのゲオルグ先生が壇上に立った、黒いローブに身を包んで少しけだるげに顔を上げる。
「授業を始める」
いうや否や手をチョークを手に黒板に文字を書いていく。かっかっかっと書かれていくのは魔法陣とその理論だろう。
え? これもう始まってるの?? じ、自己紹介とかないの??
「に、ニーナ……?」
とニーナに話しかけようとしたらゲオルグ先生は後ろを見た。
「私語をするな」
は、はい。
それで黒板に向き直ってまた論理を書いていく。あたしは口を手で覆ってあたりを見回す。他の生徒たちも困惑した顔をしている。どうすればいいのかわからないようだ。とりあえずあたしは黒板の文字を読んでいく……。
――魔法とは自然にある力を増幅または集約することによって起こすものである。
――自然にはそれぞれ精霊が宿る。火にも水にも風にもそれぞれの精霊の名を冠する呪文を詠唱するかもしくは魔法陣を描きその力を借りることができる。
――魔法陣とは流し込んだ魔力を集約し自動的に構成させるためものである。その中でもっとも優れているのが「セレスタス魔法陣」である。
――セレスタス魔法陣とは100年前の知の勇者の子孫の………が………して………残した……そうして……。
…………どれだけ時間がたっただろうか。
「セレスタス魔法陣」というものが何なのかどんどん描かれていく黒板が文字に埋まっていく。その間にはゲオルグ先生は全然しゃべらないし、生徒もしゃべってはいけないから静かだ。チョークの音だけが響いている。
魔法陣というのは「線」によって構成される魔力の通り道だ。突き詰めていくと一点に魔力を集中する必要性があるから大抵は円形に文様が描かれてる。それは今も昔も変わらない。
魔法は別に魔法陣がなくても呪文がなくても発動することはできる。でもそれにはさらに多くの魔力が必要になるし、しかも精度が落ちる。よーするにせっかくの力を無駄にしてしまう。無詠唱はラナやソフィアがやっていたけど、今のあたしには結構難しいと思う。
「そういうことだ」
ゲオルグ先生が振り向いた。後ろには文字がびっしりと書かれた黒板。書き終わったのかもしれない。
けだるそうに教室を見回す。
「わかったか?」
少ない言葉で聞いてくる。いやよく見たらじっと生徒の一人を見ている。前の方に座っていた女の子がびくっと肩を震わせて自分を指さしながら「わ、わたし?」と言っている。
「私語は慎め」
「は、はひ」
「とりあえず今日教えたことについての考察を述べろ」
「こ……こうさつ?」
女の子は傍目からもすごく動揺している。そ、そりゃあ、あんな質問されてもわけわからないよね……。
「もういい。お前は落第だ、教室から出ていけ」
「……へ?」
!?
教室が冷えていくような感覚があった。言われた女の子は今にも泣きだしそうな顔をしていた。
「先生!」
それをみたらいつの間にかあたしが手を上げていた。ゲオルグ先生があたしをじろりと見る。横でニーナの「おまえ、なにを」って聞こえてくる。そうだね。あたしもなんで手を上げてんのかわからないんだ。
それにしても先生は目つき悪いなぁ。それに教室のみんなもあたしを見ている。さっき泣きそうな女の子もあたしをみてたから、とりあえずこっそりウインクしてみた。
要するに魔法陣と魔法の考察について述べたらいいってことだよね。
でも正直聞きたいことが結構あるんだよね。今の時代の魔法について実は知っておきたいのもある。元魔王としてもやっぱり自分の持っている知識は古いはずだしね。
あたしは一度息を吸う。落ち着こう、いっつも突っ走ってみんなに迷惑をかけたのも反省しないといけない。ここは謙虚に、謙虚に振舞おう。
「あの、素人の質問なんですけど」
ふふ、元魔王としては結構謙虚に言えたはず!
☆☆
魔法というのは自然に存在する魔力を水や火に変換することが一般的だ。あとは体に魔力を纏わせて身体能力を強化したり、もしくは相手を魅了(チャーム) したり眠らせたりなんかもできる。
何もないところからお菓子を生み出すとかそんなお話も聞いたことがあるけど、それはあくまでおとぎ話みたいなもの。……うーん。そんなことができるならきっとあたしは頑張って練習してお菓子でお城を作っていたと思う。
そんな感じで意外とやれることには制限がある。あたしが魔王だった時はまあ、戦闘にばかり使っていた。そういう時代だったといえばそうなんだろうけど……。
――あたしを睨みつけるゲオルグ先生が言った。
「お前は確か……入学式の時に妙なことを口走った落ちこぼれだったか」
うわぁ。ひど。
「Fランクの何も役に立たない雑務を積み上げて表面上のポイントを稼いだというが……」
その言葉に周りからくすくすと聞こえてくる。……それはいいんだけど、役に立たない雑務とか言われるのは少し怒ってしまいそうだ。だめだだめだ。落ち着こう。ある意味入学式もそんな感じで言っちゃったからこんなこと言われると思うんだよね。
何も言わずにゲオルグ先生を見ていると彼ははあとため息をついた。
「それで、いきなり質問とはなんだ? 私の言葉を遮るほどの価値があるんだろうな?」
「えっと、魔法と魔法陣に対するお話だったけどさ。今の時代……あ、いや……」
変なことを口走ってしまいそうになる。イライラした顔でゲオルグ先生は見てくる。
「と、とにかくさセレスタス魔方陣はたぶん魔力の変換の効率を良くして魔法の構築を最大化することと高速化することを目指していると思うんだけど、この魔法陣って具体的にどんなことに使われているんですか?」
「……どんなこととはなんだ? 質問を具体化しろ」
「え? 具体化、うーん。そうだな」
実はあたしには好きなことがある。それが分かったのはつい最近のことだ。
「そうだね……例えば王都に来て火の魔法を使ってお風呂を沸かしてもらったりさ、ご飯を作るときに火をぽんと出すのはすごく助かったんだよね。薪に火打石でカンカンするのって結構大変だしさ」
ラナと生活してて思ったんだ。魔法を「そういう風」に使えていること、あたしは好きだ。たぶん昔もできていたんだろうけど……流石に魔王だった時に食事を作ったりお風呂を沸かすことはなかった。でもさ、魔法で敵を攻撃するよりずっといい。
人の焦げる匂い……ああ、いやだ。いやなことを思い出した。今の授業には関係ないことは思い出さないようにしよう。
そうだ。この王都に来るまでも魔鉱石の船で遠い海を越えてきた。
水路でもきれいな水を生み出していた。
……ほんと、「そういう風」なことがいいなって思う。あ、そういえば水人形で掃除もしたね。
「だからさこのセレスタス魔法陣というのも人の役に立つことをしているのかなって。それが知りたくて」
「……」
ゲオルグ先生はあたしを見ている。少し口を開けて無言だった。すぐにその目に侮蔑の色が現れた。
「貴様……バカか? そのような卑俗的なくだらないことに魔法を使うなど……いいか? 貴様は冒険者の見習いという立場でもある。そんなことを言うならば魔物を倒す方法などを尋ねる方がまだずっとましだ」
そのまま嘲笑うように声を上げる。なんだ、ただの攻撃魔法用のものか。
笑う声が少しずつ広がっていく。生徒たちも先生に合わせて笑ってる。確かに少し突飛な質問だったかもしれない。ま、いいか。あたしは腕を組んで目を閉じる。なんとなく座るタイミングを失った気がするけど。
ニーナがあたしの裾をくいくいと引っ張ってくる。みると心配そうな顔をしている。ごめん。
「お前は変人とは聞いていたが……まさかここまでとはな。いいか? 魔法とは深淵なる知識の結晶だ……お前は知らないだろうが数百年前に魔王を打倒した『知の勇者」のはその後に数十冊にわたる魔導書を遺された。これにより魔法の研究は大いなる飛躍を遂げた」
ふーん。あの人そんなことしてたんだ。
「最近平和を乱す魔族がまた跳梁を始めたと聞くが、前の戦争でも奴らは人間をいたぶり虐殺を行った。……そのような輩が現れても全てを打ち払う方法として魔法はある。少なくとも飯炊きのためにあるわけではない」
……。
「そういえばお前は魔族の学生とも仲がいいらしいな。……奴らはその姿かたちは人間と同様だが、その力は遥かに強く、魔力の内包する量も多い。いつ人間に牙をむいたとしてもおかしくはない。忠告をしてやる、即座にそのような関係性は清算するべきだろう」
モニカのこと?
「でもさ、ゲオルグ先生は魔族と話し合ったことあるの?」
あたしはできる限り自分を抑えていった。短く言葉を区切らないと叫んでしまいそうだったから。でも、ゲオルグ先生は心底あきれたという顔をした。
「獣と話し合うなどできるとでも思っているのか? ……これも教えてやろう。戦争後に知の勇者は一つだけ間違いを犯した。魔族と言われる存在を抹消せずに一部の領域で生きることを許されたが……後顧の憂いを断つためにすべてを焼き払うべきだったな」
ぴきん。頭の奥で何かが鳴った。
いろんなことを思い出した。いいことも悪いことも。
頭が痛い、そんな風に錯覚してしまう。足から力が抜けそうになって、片手を机について体を支える。
「お、おい」
ニーナの声が遠くに聞こえる。
私は
それがあまりに耳に入らない。代わりに口から言葉が出る。
「間違っているのはお前だ」
懐かしいとは言うには違う。自分の心の奥にいた「私」が言葉を発した。