魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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【挿絵表示】


まるやきどらごんさんからイラストをもらいました。素晴らしいマオ!


マオ キレる

 

「間違っているのはお前だ」

 

 冷たい声が講堂に響き渡る。

 

 一人の少女が壇上のゲオルグを見る。その瞳にはどことなく鈍い光を宿している。

 

 普段とは違う雰囲気を持つ少女マオにその隣に座っていたニナレイアも唖然としていた。しかしゲオルグはぼさぼさの頭を掻いてけだるげに言う。

 

「誰に向かって言っているつもりだ」

 

 静かな怒りを滲ませながら彼ははあとため息をつく。彼はじろりとマオを見る。急に態度を変えたこの生徒に対する懲罰を彼は心中で考えていた。いや、罰というのものはある意味で更生を期待しているものだ。彼はむしろ生意気なこの少女を落第にして追い払うつもりだった。

 

 マオは意に返さない。制服の片方の肩についたマント――ペリースを払い、両腕を組む。ゲオルグの威圧するような眼をほんの少しだけ微笑を交えて対峙する。

 

 その姿から他の者にはわからない。しかし彼女は完全に怒っていた。端的に言えば「キレている」と言っていいだろう。彼女は王都に来てから自己への敵意や悪意を幾度となく受けていたが、そこまで見境を失ったことはなかった。

 

 だが、彼女の前に立つ教師であるゲオルグ・フォン・ヴォ―ドは彼女と仲間の努力とそして彼女の隠す過去へ知らず知らずのうちに侮辱を行っていた。

 

 マオは段々になっている教室の階段に立ち、ゆっくりと降りる。かつんかつんと彼女の足音が響く。

 

「お前は『私の仲間』を侮辱したな」

 

 一段一段と降りながら彼女は言葉を紡ぐ。仲間とは今とそして過去が重なって彼女の脳裏に広がっている。

 

「魔族と向き合ったこともない分際で」

 

 やはり普段の彼女とは口調が変わっていた。

 

 正確に言えば『戻っている』と言った方がいいかもしれない。彼女はゲオルグの前に立ち、顎を少し上げて、両手を組んで対峙する。いつもの愛らしさよりも冷たさがそこにあった。ただゲオルグも彼女に言う。

 

「お前のFランクの依頼を手伝った魔族のオトモダチが大事か……それで? くだらない話はまだ続くのか。そのまま出ていくがいいさ。邪魔だからな」

 

 ゲオルグには所詮小娘にしか見えない。まさか目の前にいるのが数百年間語り継がれている魔王の生まれ変わりだとは認識できるはずもなかった。だからまともに取り合わずに侮辱するような態度を崩さない。

 

 それは無理もないことだった。彼の目の前に立つマオはほとんど魔力を感じさせることもないただの少女だった。だからこそ彼女の言う「魔族」という言葉はモニカのことだとしかゲオルグには考えられなかった。

 

 マオは視線を黒板に写す。そこには魔方陣の概略と「セレスタス魔方陣」なるものが描かれている。

 

「こんなものは戦いでは役に立たない」

 

 冷たく言い放った。それはゲオルグの怒りを呼び覚ますには十分だった。

 

 ゲオルグの体から赤い魔力が迸る。固唾をのんで見守っていた生徒たちが悲鳴を上げるほどの魔力の奔流が彼を中心に炎のように立ち上った。その総量はミラスティアも及ばないだろう。

 

 赤い魔力の嵐の中でマオは涼し気な顔を崩さない。悲鳴の上がる中で両腕を組んで何事もないように向かい合っている。

 

「貴様……まだ入学したばかりの屑が、この私に暴言を吐いてただですむと思うなよ」

 

 赤の魔力の中でゲオルグは彼女を睨みつける。彼は両腕を広げた。魔力が拡散し、幾重もの線になっていく。それは複雑な文様を刻み彼の足元を中心に広がっていく。

 

 魔力が光を伴って魔法陣を描いていくその光景はどこか芸術的ですらあった。魔力の線が螺旋を描き幾何学模様を描いていく。

 

 現出した「セレスタス魔法陣」は複雑さと美しさを兼ねそろえていた。魔力の粒子が光り輝き宙を舞う。

 

「お前ごときにもわかるように説明してやろう。知の勇者の子孫の作り上げたこの魔法陣は魔力を魔法にの力に最大限効率よく変換し、そしてあらゆる魔法を大規模に展開することができる」

 

 ゲオルグは魔法陣の中で手を広げる。

 

「そしてこの美しさはどうだ。何一つ無駄のない、完全なる構築。私はこの若いころにとある一冊の魔導書に心を惹かれて研究に没頭したのだ。この世界にこれ以上のものは存在しない……。魔族だと? 人間にまた牙をむくようならすべて焼き尽くして跡形もこの世には残さずに消してやろう」

 

 気分が高揚したであろう彼は笑った。

 

 そしてマオも笑った。冷笑と言ってよかった。

 

 彼女は腕組を解いて右手を上げる。その右手を中心にゲオルグのまき散らした魔力が収束していく。魔法陣として成立した魔力は無理だが、ただ単にまき散らした魔力ならば彼女には容易に操れた。

 

 そしてマオは胸元でちいさく両手を前にだす。その手の中で赤い魔力が線を描いていく。彼女が何をしているのか、マオの背を見ている生徒たちには全く見えない。いや、そもそもゲオルグの展開した魔法陣に圧倒されている彼らからすればマオなど眼中にない。

 

 ゆえに「それをみた」のはゲオルグ一人だけだった。

 

 マオの胸元に小さく、そして精巧な「セレスタス魔法陣」が現出する。ゲオルグ展開したそれよりもはるかに小さいそれはマオのもつ圧倒的な魔力の操作技術を端的に表していた。複雑な魔法陣を小さく描くことの難しさをゲオルグが誰よりも認知していた。

 

「な」

 

 だからこそ彼は驚愕した。マオは冷めた目で言う。

 

「こんなものか?」

 

 つまらなげに言うマオ。そして「得体のしれないもの」が目の前にいることにやっとゲオルグは気が付いた。生徒たちは何をゲオルグが驚いているのか訳が分からない。マオは胸元の魔法陣魔力に戻す。光となって消えた。

 

 その時魔力の輝きに照らされている彼女の顔をゲオルグは見た。だからマオが彼だけに聞こえる程度で言う言葉を聞き取れたのかもしれない。

 

「まず、お前のいう魔法陣は展開が遅い。戦場でそんなもの構築している暇はない。そんなことをしていたら殴られるか、斬られる」

 

 マオは両腕を組む。

 

「そして大規模すぎる。魔力を効率よく変換することができたとしても、展開そのものに無駄な魔力が多すぎる。見た目の美しさがあっても隙が大きすぎる」

 

 彼女は右手の人差し指をたててゲオルグを指さす。

 

「つまりさ……こんなものはお前の言う『飯炊き』にすら使えないということだ」

 

☆☆

 

 …………

 

 はっ。

 

 気が付いたらあたしの目の前でゲオルグ先生があたしをすごい顔でにらみつけてる。歯をむき出しにして憎しみの目で見てる。というか周りは魔法陣の中だし、これやばくない?

 

 や、やりすぎた。

 

 やりすぎたかもしれない。

 

 なんか魔族のことをなんか言われたときから止まらくなってしまった。ど、どうしよ。これ。あたしはゲオルグ先生を指さしたままで固まってしまった。む、昔のことを持ち出してすごいいいように言ってしまった。

 

 と、とりあえず。どうしよう。愛想笑いくらいしかできないけど。へへ。

 

 あ。ダメだ多分今のでゲオルグ先生の顔がさらにきつくなった。

 

「……くそがき」

 

 え?

 

「クソガキ……マオ」

 

 その瞬間に魔方陣が輝きを増していく。魔力が迸り、あたりに火花を散らす。放出された魔力が純粋な塊になって教室に飛ぶ。どがぁんと音を立てて机とか壁が吹っ飛ぶ。

 

 生徒が悲鳴を上げて逃げていく。あ、あたしも逃げたいんだけど。

 

「あ、あのゲオルグ先生……

「火の精霊イフリートよ。汝に命ずる」

 

 だめだ! 呪文を詠唱し始めた。それに合わせてさらに急速に魔力が収束していく。展開が遅いといってもこんなところでぶっ放したら大変なことになる。

 

「バカ! マオ」

 

 ふわっとあたしの体が浮いた。その腰に手を回されて抱っこされる。すぐ近くにニーナの顔がある。

 

「ああ、もう! いつもお前は」

「ニーナ!」

 

 ニーナが足に魔力を集中して強化する。そのまま、窓を突き破って外に出る。体を守るためにフェリックス学園制服のペリースに魔力を浸透させているみたいだった。

 

 どおおおおん! 次の瞬間に爆音が響き、教室が爆発する。

 

 幸い1階だったから窓から飛び出ると中庭。そこでニーナとあたしは身をかがめた。

 

 もうもうと煙が立つ。振り向くと無残な姿になった教室があった。窓はすべて吹き飛んでいる。

 

「…………なんでこんなことになるんだ」

 

 ニーナがぽつりと言ったけど、あたしは乾いた笑いしか出ない。でも、そんな笑いはすぐに吹き飛んだ。

 

「マオぉ。殺してやる」

 

 すごい形相で窓枠に手をかけた男がいた。ゲオルグ先生だ。あたしをまっすぐに見ている。反射的あたしはくるりと後ろを向いて走り出した。

 

「あ、おいてくな! 馬鹿マオ!」

 

 ニーナが叫ぶ。ゲオルグ先生の声もする。

 

「まてぇ! ぶっ殺してやる!」

 

 ぜ、絶対待たない!

 

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