魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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モニカという少女②

 

 魔族の力は人間よりもずっと強い。魔力で身体能力を強化しなければモニカのような少女にも人は敵わない。そして人間よりも魔族は先天的に魔力をその身に多く宿すことが多い。

 

 ――だからこそ人は魔族を恐れる。

 

 ――だからこそ魔族は人を侮る。

 

 そんなのはずっと昔からあることだ。あたしの魔王だった時代からそうだった。魔族として人が自分たちを恐れる理由も頭ではわかっていたことだ。それでも「人」として生まれ変わって本当に人間の気持ちが分かったかもしれない。

 

 モニカの体から魔力があふれ出る。自分とほとんど背丈の変わらない彼女が、たぶんあたしでは持てもしない巨大な武器を手に構えている。

 

 魔力の波動を感じる。クリスと戦ったときもロイと戦った気も感じたことだけど、いつも一人ではなかった。右手が少し震えているのが分かる。でもここで引くわけにはいかない。クールブロンを強く握って震えを止める。

 

 モニカが真剣な顔で体を沈めるように構える。

 

「行きます……マオ様」

「来なよ! モニカ!」

 

 爆発するようにモニカが地面を蹴る。振りかぶったハルバードを横に薙ぐのが「わかる」。あたしは逆に前に出てモニカの足元に転がる。

 

 暴風が一瞬遅れて頭の上をかすめる。モニカはよけられたことが信じられないという顔を本当に一瞬だけした。キッとあたし見る。あたしはクールブロンに銃弾を込めてレバーを引く。銃弾を一度掌で覆って『刃引きの加護』をする。

 

 剣そのものから殺傷力を奪うように魔力で覆うのは無理だ。銃弾1つなら可能だ。

 

 ああ、やっぱり魔銃はあたしの持つことのできるほとんど唯一の武器だ。どんな武器でも持つことすらままならないし、振ったり刺したりとかも絶対できない。クールブロンにはめ込まれた魔石に魔力を集めれば引き金を引くだけで攻撃ができる。

 

 倒れたままモニカに銃口を向けて引き金を引く。

 

「……っ!」

 

 一瞬早くモニカが下がり、銃撃は天井に向けて外れた。

 

 数秒の交差。あたしは慌てて立ち上がってまた銃弾を籠める。はあはあ。へへ、この動作に魔力を使う。たったこれだけなのにけっこういっぱいいっぱいなのがあたしだ。

 

 でも、クールブロンには前の魔銃にはない力がある! その装飾に魔力を浸透させる。

 

「モニカさん! その魔銃は相手の魔力を吸収します! 離れなさい!」

 

 フェリシアの声がする。

 

 あたしがクールブロンを構えて白い魔方陣が展開される――モニカが全力で下がった。……むなしく展開された魔法陣。モニカの体から溢れる魔力を一度でも吸収出来れば魔法を使ったりできるのに。

 

 無駄に消費された魔力にあたしは笑う。フェリシアを見た。

 

「あとちょっとだったのに」

「ふん。あなたには不愉快な目にあわせられましたからね。さあ、モニカさんこの小生意気な人間をさっさと始末してください」

 

 魔法陣が収束する。息が切れる。Fランクの依頼の最後にぶっ倒れたように魔力が枯渇すると体が動かなくなる。もう少し大丈夫と思うけど、そんなに長い時間戦えるわけではない。魔力さえあれば『力の勇者の水人形』もだせるのに。

 

「マオ!」

 

 ちらりと呼ばれた方。ニーナを見る。何を言おうか考えているようだったけど、彼女は言った。

 

「頑張れ」

 

 あたしは親指をたててにやりと笑ってやせ我慢を精いっぱいする! それでもどうする? クールブロンに込めた銃弾は一発。外せばまた装填が必要だ。そしてモニカは賢い子だ。さっきの最初の一撃をよけたことで多分、ほんのちょっとでも残っていた油断もなくなった。

 

 クールブロンの魔法陣も射程圏内に来られないと無駄に魔力を消費するだけ。

 

 ふふふ、フェリシアみたいに魔法を使ってきた方がまだ戦いようがある。笑うしかないね。

 

 モニカはじりと間合いを詰めてくる。一切の油断なくわずかずつ。

 

 その真剣な表情。彼女と向き合うだけで空気がぴりぴりとするように感じる。

 

 …………。

 

 それでもそこには敵意とか殺気とか、そんなのはない。

 

 あたしはウルバン先生が言うように多くの戦いを超えてきた。別に褒められることではない。でも、だからこそ相手からの憎悪をはじめとした感情を真正面から受けた経験はあるからこそそれが分かった。

 

 モニカは優しい。ただただ、あたしのために離れていこうとしている。……なら負けるわけにはいかない。

 

そもそもさ魔族だからっていろいろ言われても、それをかばったなんて見られたあたしが何か言われても、そんなことをどうでもいいじゃん。そんなことがモニカと一緒に居られなくなるんて釣り合うわけないよ。

 

 ああ、なんだかむかむかしてきた。あたしはふうと息を吐く。戦いの中ではただ意味のない行為だ。

 

「ねえ、モニカ」

「……マオ様。今は」

「あたしさ、おなか減ったんだよね」

「……は?」

 

 モニカが少しだけ武器を下げる。困ったような顔をしている。

 

「今日一日走り回ったり、ウルバン先生から武器を習ったりして純粋に疲れた。早く帰ってお風呂入ったり、ご飯を食べたりしたいんだ」

「マオ様何を言っておられるのですか?」

「……これ、終わったら一緒に帰ろう。負けた罰で夕ご飯を作るのを手伝ってもらうってどうかな。あたしはその時ベッドに寝たいんだ。ごはんができたらさ、ラナとモニカと。あ、ニーナも一緒に」

「……!」

 

 モニカは一度目を閉じる。

 

「だめですよ、マオ様。この勝負は私が勝ちます。その約束はできません」

「じゃあ、あたしが勝ったらでいいよ。約束してほしい」

「………………」

 

 モニカが首を振る。

 

「マオ様……私は、手を抜いたりしません」

 

 モニカの言葉からは誠意が伝わってくる。短い言葉なのに、なんだからいろんなことを言われている気がする。

 

 それなのにあたしは卑怯だ。今、最低な方法を思いついた。

 

「モニカ、最後に一つだけいい?」

「……マオ様!」

 

 モニカが叫んだ。

 

「もういいでしょう!? もういいんですよ! 話しかけないでください!」

「それでも言っておかないといけないんだ。これはあたしが決めたことだから、なにがあってもモニカのせいじゃない」

 

 あたしは振り返らずにいう。

 

「ウルバン先生!」

「ん、なんだい」

 

 反応してくれたウルバン先生の姿を見ずにいう。

 

「どんなことがあってもモニカのせいじゃないよ!」

 

 あたしはクールブロンを構える。モニカは意味が分からないという顔をしているが、すぐに厳しい表情になり武器を握りしめた。体から強力な魔力があふれる。たぶん、最高速であたしに突っ込んでくる。その攻撃をよけることはできないって予感がある。もしよけられたとしても追撃をかわすことはできないだろう。

 

 もう一度モニカに向かい合う。

 

 息を吸う。

 

 魔族の迫害はあたしのせいだ。

 

 人間に負けたから悪い。

 

 でも、勝ったらどうなっていたんだろう。モニカの代わりにミラやニーナがその立場になっていたのかな。いや、そもそも彼女たちも存在してなかったのかもしれない。

 

 あの時代いろんなことがあった。あたしとともに戦ってくれた魔族のみんな。仮に今の時代の魔族が迫害されているとしても、過去の彼らを否定するなんてことはできない。でも、昔のことはモニカたちのせいじゃない。

 

 ――ああ、あたしってほんとバカなんだろうな。

 

 ――それでいて卑怯だ。絶対勝たないといけないとしても最低の方法だと思う。

 

 モニカが地面を蹴った。その瞬間にあたしはにっこり笑う。彼女に向けて。

 

 そしてクールブロンの魔法陣を発動する。周囲に魔力を魔石に吸収する白い文様が浮かぶ。そうさ。魔力を吸収するなら『刃引きの加護』だって無効にできる。

 

 モニカのハルバードはその殺傷力を復活させる。彼女は横に薙ぐようにハルバードを振るう――

 

「ああ、うあああ」

 

 気がついたモニカが叫ぶ。あたしの体を真っ二つにするはずの刃は――その手前で止まる。

 

 あたしはゆっくりとクールブロンを構えてモニカに向ける。そして。

 

「ばーん」

 

 って口で言った。

 

 訓練場を静寂が包んだ。

 

 

 

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