魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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人間と魔族

 

 決着はついた。

 

 ここでモニカに勝つにはこの方法しかなかった。目の前の彼女はハルバードを床に落とす。重い金属音が響いた、

 

 そしてモニカも座り込んだ。

 

「……マオ様……そんなのないですよ……できるわけないじゃないですか……」

 

 うん。……そう思ったから、クールブロンの魔法陣を発動させた。もしあたしの思っていたことが外れていたなら、きっと今頃は……。そう、今頃になって震えてきた。きっと……死んでたね。

 

 そう思ったらあたしも床にへたり込んでしまった。心臓の音が大きく聞こえる気がする。

 

「ごめん」

「ごめんじゃないです……! わたしは、わたしは」

 

 モニカはあたしの胸を手でぽかぽかと殴ってくる。全然痛くないけど、なんだか申し訳なくて、それが痛い。心って言えばいいのかな。とにかく胸の奥が痛い。もしかしたらあたしはすごく間違えたのかもしれない。でも、それでも勝たないといけないって思ったんだ。

 

モニカの体を抱きしめるようにあたしは彼女の肩に手を回した。情けない話だけどさ、今更死ぬのが怖くなってしまったから、誰かに抱きつきたいって甘えもあるんだって。でも、あたしはモニカにだけ聞こえるように言った。

 

「ごめん。ごめんね。……文句をいっぱい言ってくれてもいいからさ。全部聞くからさ。離れていくなんてやめてほしいんだ。あたしをかばってモニカが一人になるなんておかしいよ」

「…………でも」

「あたしは勝ったんだ。だから、一緒に帰ろう?」

 

 モニカの心の底にある悲しみもなんにも消えてないと思う。

 

 ……母親のこと、消えるなんて多分ない。あたしと離れるために強い言葉であたしとニーナを非難したこと、あれはきっと演技だけじゃない。心の奥にたまっていた泥のような感情があふれ出たんだと思う。

 

 魔族を率いて戦った『私』は、人間に同胞を殺されて、人間を殺してその報復を受ける、そんな無限の螺旋の中で負けて死んだ。でも、『私』が死んでもその恨みは消えなかった。今にも続いて、そしてこの優しい魔族の少女を苦しめている。

 

 あたしは思うんだ。理不尽にモニカの母親の命を奪ったっていうどこかの人間に復讐を行うことがもしかしたらやらないといけないことなのかもしれない。でも――

 

 復讐をするってことはさ

 

 それは誰かを大切に思っているからだ。

 

 でも、復讐は復讐を呼んで誰も逃さない。その中で魔王は死んだ。

 

 なら恨みを忘れるのが正しいのだろうか?

 

 大切な者が殺された時に現れた恨みを忘れるなんて簡単にできるわけじゃない。

 

 ……答えが出ないなんてものじゃない。わからない。きっとこの世の多くのことは正しいとか間違っているなんてことじゃ割り切れない。

 

 あたしは訓練場の空を見る。ガラスの天井越しに青い空が見える。

 

 

 やっとモニカの肩を借りながら立ち上がった。足がまだがくがくしてる。へへ。情けないや。

 

「……」

 

 ニーナがあたしを睨んでいる。あたしは言った。

 

「なんとか勝ったよ」

「……お前は」 

 

 この力の勇者の子孫の女の子は一度目を閉じて言葉を探すように沈黙した。

 

「バカだ」

 

 見つけてきたのはそんなのだった。今日は何回言われたかわからない。ニーナは両手を組んで下を向く。耳のピアスが音を鳴らす。

 

 ああ、それにしてもおなか減ったし疲れた。もう早く帰りたいよ。

 

「ウルバン先生。もうあたしとモニカとニーナは帰るけどいいよね」

 

 肩を貸してくれるモニカの手が震えていた。何も言わないけど……いや、もう「何も言わないでくれている」んだ。

 

 ウルバン先生は優しく笑いかけてくれた。横に立つアルフレートは何も言わずにあたしを見つめている。

 

「もちろんそうだね。でもマオ君、少しだけ話ができるかな」

「……少しならいいよ。すごく今日は眠い」

「ありがとう」

 

 そう言ってウルバン先生は一度みんなを見回した。

 

「ここには人間も魔族もみんなが一堂にいる。いがみ合った子もいれば、分かり合おうといい子もいる」

 

 あたしに向き直る。

 

「人間と魔族はこれからわかりあえると思うかい?」

「…………」

 

 ウルバン先生の目をじっと見つめた。あたしは口を開く。

 

「先生…………人間と魔族って違うのかな?」

 

 全員の視線が集まるのが分かった。

 

「あたしさ、人間も魔族も両方を見てきたんだ」

 

 前の魔王として。魔族を見てきた。

 

 今のマオとして。人間を見てきた。

 

 優しい人も、ずるい人も、強い人も、弱い人もいる。それは人間も魔族も変わらない。

 

「この世界の人も魔族にもいろんな顔があって。誰でもいっぱい思いを持っている。……なんで争いが起こったんだろう。なんで今いがみ合っているんだろうって――」

「くだらない!」

 

 遮ったのはフェリシアだった。彼女はすべてを拒絶するように腕を横にふるった。

 

「そんな偽善的な言葉! お前は人間の立場しか知らないから甘えたことが言えるですよ!? そのモニカとかいうオトモダチを篭絡できたからといってほかの魔族も同じようにできるなどと思い上がりを持たないでください」

 

 彼女はあたしを心底軽蔑した目で見てくる。誰が見ても今のあたしは「マオ」でしかない。

 

「お前に何が分かる。……いや、お前のくだらない考えをほかの人間どもにも聞かせてあげればどうでしょう。みんな笑ってくれますよ。面白い話だと。そうでしょう? アルフレートさん。それに力の勇者の子孫さん!」

「……フェリシア」

「気安く呼ぶなと何度言えばわかるんですか!」

 

 あたしはモニカから離れてフェリシアに向かい合う。まだ体がふらつく。

 

「マオ様……」

「大丈夫だよモニカ」

 

 フェリシアは敵意のこもった目でにらみつけてくる。それを真正面から見つめる。フェリシアは紅い目に魔力を灯しながら叫んだ。

 

「その不愉快な目をやめろ! なんの魔力も力も持たない分際で……お前は……気味が悪い!」

「……」

「人間と魔族が同じだと……? ふざけるな! 貴様らのような薄汚い人間どもと我々が同じであってたまるものか!」

 

 フェリシアの体から魔力が迸る。しかし、次の瞬間にはウルバン先生がその首をとんと手で叩いた。「う」とフェリシアは呻いて倒れそうになるのを、先生が片手で倒れないように抱える。今の動きはほとんど見えなかった。

 

「うん。マオ君の考えは斬新だ。さて、アルフレート君はどう思う」

「ぼ、ぼくですか」

「そうだよ。君はどう思う」

 

 アルフレートはあたしとモニカを交互に見る。赤い髪の少年は困惑したように弱々しい目をしていた。

 

「ま、魔族は各地で事件を起こしている……歴史がそれを証明していますし。そ、それに、そのフェリシアとかいう女は……げ、現に人間を憎んでいる。き、きけんだとおもい」

「アルフレート君」

 

 ウルバン先生が言う。

 

「僕は君に聞いているんだけどね

「ぼくは、ぼくが言っていることは」

「君の言葉は誰かに借りた言葉だろう? 事件だとか歴史じゃなくてね。今の目の前の光景をどう思う?」

「い、いや、そんなのは。しかし、魔族は……」

「アルフレート君」

「は、はい」

「今の君はとても重要なところに居る。自分の言葉で話をするということができないという現実に直面するのは……それはいいことだ」

 

 ウルバン先生は優しく言った。

 

「よくよく考えて、本当はどう思うのか心と向き合うといい。さて、ニーナ君はどうかな」

「……」

 

 ニーナは両手を組んだまま黙っている。でも、しばらくして口を開いた。いや、うっすらとほほ笑んだ。

 

「私は……バカがうつりました」

「うん。そうか」

 

 ニーナ……。彼女をあたしが見た。すると「みるなバカ」ってひどいこと言ってきた。う、うーん。そしてウルバン先生はもう一度あたしに振り向く。

 

「マオ君。僕はね。君を危ういと思っていたんだ。入学式の時に全校に宣戦布告みたいなことをしていた時もそうだけど、時折魔族をかばっているって話も聞いた。僕はね、剣聖なんて言われているのだけど、いろいろとしがらみもあってね。社会の中で暮らしていくには意見を合わせないといけないこともある」

 

 彼はフェリシアをやさしく床に下ろす。

 

「特に魔族については『人間』としては敵視することが一つの良識だ。それで円滑に人間関係を構築することができる。そうだろう? アルフレート君」

「えっ、……あ」

「授業の最初に君もフェリシア君やモニカ君のことをみて否定から入った。そしてほかの生徒もそれに同調した。ついさっきのことだ。……それはそれがよいことと思ったから、違うかい?」

「は……い」

「マオ君。偏見や差別はある意味、仲間内の意識にもなる。逆にそれを逸脱しようとすると攻撃を受ける……。もしかすると僕たちは間違っているかもしれない。しかし、それをやろうとするのは勇気がいるものだ。それを君はやってしまう」

 

 ウルバン先生はあたしに近づいてくる。

 

「僕はね。君の覚悟を測りたかった。どの程度本気で言っているのかを知りたかった。まあ、フェリシア君が来たのは偶然だけどね。でもこれは一つの勝負にも似ててね。そういう意味では」

 

 あたしの頭に手を置いてわしゃわしゃとなでてくる。

 

「僕の負けかな」

「……なんだかよくわからないけどさ。あたしはそんなことで勝負する気なんてないよ」

「あはは、その言われようも負けているかもね」

 

 彼は言った。

 

「僕は負けたからね。これからマオ君の味方になろうと思う」

「え?」

「君を見ていると面白そうだからね。それにモニカ君」

「あ、は、はい」

「君は僕の弟子になりたまえ。生徒としてではなくね」

「ええ?」

「剣聖の弟子として魔族を迎える。んーいいねー。いろいろ批判されるのが目に見えている」

 

 楽しみって顔をしているウルバン先生はつづけた。

 

「僕の弟子になれば魔族としての差別も多少和らぐだろう。それにそこのフェリシア君も僕の弟子ってことにする。彼女は性根を叩きなおさないといけないことが多くありそうだ。楽しみだなぁ」

 

 んん、んー? 

 

「で、でもさ! フェリシアはそんなの受けないと思うよ」

「僕のコネクションをすべて使って魔族の自治政府に認めてもらうから大丈夫だよ。絶対逃がさない」

 

 ウルバン先生は愉快そうに笑う。気絶しているフェリシアが悪夢を見るようにうなっているのは気のせいかな?

 

 ひとしきり笑った後に、彼はあたしに言った。

 

「君は君の思う通りに感じるままにこれからもやっていきなさい。僕はそれを応援するよ。見てて楽しいからねマオ君は」

 

 そういった彼の瞳はあたしを温かく見てくれていた。あたしは何か言わないといけないと思って言葉を探す。

 

「……先生。ありがとう……えっと、ございます」

「君ちゃんとそんな風に言えるんだね、あははは」

 

 また愉快そうにウルバン先生は笑った。あたしは何となくそれにつられて笑ってしまった。その時不意に思い出したことがある。ラナの話だ。

 

「そういえばウルバン先生は海の向こうに行ったことがあるって本当?」

「あ、あーそうだね。ほんとうだよ。……広い海の向こうにはね――」

 

 

 

 

 




(勝手に小説の話)
ウルバンという人間はモニカとマオの最終的な決着の時に「止まれなかった」ら間に入ろうとしていました。彼はずっと生徒を子供たちとしてみていたという面で言えばゲオルグやリリスとは全く違う性質の人間です。彼は初老の男ですが、口調が若々しいですね。引き締まった体を持つスタイルのいいおじいさんであります。これからマオたちにどんな風にかかわっていくのかまたの機会に。よかったら感想などもらえると嬉しいです。
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