魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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魔王はどんなもの?

 あたしは逃げようと思った。なのに、ミラがあたしの服の裾を掴んでいる。いや、離してって、あたしがミラを振り向くとなんでかあの「力の勇者の一族」の方を向いている。

 

 魔王を倒した勇者は3人いる。いや、いた。ていうか、あたし全員知っている。

 

 そのうちの一人である「力の勇者」は神造兵器の手甲を使用していた気がする。ああ、何度殴られたか、思い出すだけでむかつくぅ!!

 

 その力の勇者の末裔という女の子はあたしを冷ややかに一瞥してからは目を合わせない。ミラのことしか眼中にないみたい、まあいいけど。そのミラはぺこりと挨拶をする。

 

「ご丁寧にあいさつをいただきありがとうございます。私は剣の勇者の末裔であるミラスティア・フォン・アイスバーグと申します」

 

 その言葉にニナレイアとかいう金髪はかしこまった態度で頭を下げた。

 

「お噂はかねがねお聞きしておりました。ミラスティア殿は私と年齢の変わらないというのに聖剣を継承され、学園でも他と隔絶された成績で入学されたとお聞きしております。今後はどうぞよろしくお願いいたします」

「あ、あ、はい」

 

 かたーい。

 

 かたーい。

 

 あたしのことをミラが困惑した顔で見てくるんだけど、あのさ、あたしにそんな助けを求められてもどうしようもないから。まあ……わるいやつじゃなさそうだし適当に挨拶をしておけばいいんじゃない?

 

「あ、あのよろしく。ニナレイア……さん?」

 

 そういえばこいつら同じ勇者の末裔らしいけど全然面識がないのかしら、というかこのニナレイアとかいうやつ……、

 

「聖甲は?」

 

 ミラは聖剣を持っている、だから力の勇者の末裔も神造兵器を持っていないのかと思ったのだ。そのあたしがふとした疑問を口にしたとたん、ニナレイアがあたしを鋭い目で睨みつけてきた。うわ、こわい。なに、なに? なんなの?

 

「あいにく私のような未熟者には未だ継承されていない」

 

 吐き捨てるようにそういう。そうなんだ。あ、はい。ニナレイアはあたしからすぐ視線をそらしてミラに言う。なんだかわかってきたのだが、ミラはあまり話をすることが得意じゃない。すぐに黙り込むところがある。

 

 まあ、あたしにはニナレイアは興味なさそうだし、窓際で小さくなっておこうかな、冗談だけど。廊下の窓から見える外の景色、夜の町は篝火が並んで意外と明るい。

 

「……そのように私はミラスティア殿のように才気はありませんが、ギルド長の厚意を得てこちらのギルドで学園へ行くまで寝泊まりをさせていただいています。しかし、かの悪逆非道な魔王を打倒した聖剣の担い手と会えて本心から感激しております」

 

 んん? 悪逆非道?

 

「数百年前に我らの先祖が打倒した魔王のような存在が今の時代にも現れたとしても立ち向かえるように修行をするつもりです。伝説の武器を継承された先達としてご指導いただければと思います」

 

 そういえば前から気になっていたことがあった。

 

「ところで、あんたたちにとって魔王ってどんな奴だったと思うの?」

 

 あたしは外の景色を見ながら聞いてみた。ミラとニナレイアはあたしを見て、少し考えている。

 

「え? どんな奴だったか、って?」

「そのまんまの意味よ、ミラ。どういうやつだったと思っているの?」

「うーん。伝承の通りであれば人々を苦しめた邪悪な存在としか……」

 

 へー。ほー。

 

「悪だ」

 

 ニナレイアがあたしに断言した。片方の耳に付けたピアスがかちんと音を鳴らしている。

 

「言うまでもなく悪。人々を苦しめ、多くの町を焼き、ただ快楽のままに暴れまわった暴虐非道の存在だ」

 

 ふーん。

 

 快楽のままに、暴れまわったかぁ。「魔王」って存在に夢を見すぎな気がするんだけど。あたしの前世、どんなんだったかはあたしは覚えている。遠い記憶なんだろうけど。あたしは別にあの頃から変わっているつもりはない。力はそりゃあ、小さくなったし、あのころから比べればちんちくりんだしね。胸もちいさく……いやいや。

 

「最初から存在しなければよかったのだ」

 

 ニナレイアの言葉をあたしは外の景色を見ながら聞く。揺らめく火が街にあふれている。篝火の近くにはきっと誰かがいて、その明かりのもとで何かをしているのだろう。

 

「明かりが必要だったんだよ」

 

 あたしはそんなふうに言ってみた。

 

 ミラの言っていることもニナレイアの言っていることも別に間違っているなんて言うつもりはない。反論するつもりもあたしにはない。ただ、あたしの言葉にニナレイアは意味がわかないといった。

 

「まあ、そうだろうね。あたしも何言っているのかわからないんだから」

「なんだそれは」

 

 今度は呆れたような顔でニナレイアはあたしを見る。

 そう、あたしのやってきたことなんて呆れるようなことしかやっていない。今の時代に誰にも話しようがないし、思い出しても仕方のないことだから思い出さないようにもしている。

 

 ☆

 

 あたしとミラは酒場を出たのはもう少したってからだった。ガオ達はべろんべろんに酔っぱらっていたからギルドに置いてきた。結構よくあることらしい。

 

 宿屋をとってある。いやガオがとってくれた。あたし自身にはお金はない。ミラと道中なんとなく話を合わせつつもなんとなく昔のことを思い出していた。

 

 あたしが魔王って呼ばれるようになったのはいつのことだったかな。気が付いたらいつの間にか呼ばれるようになっていた気がする。

 

 そういえば黒狼と戦ったときになんで魔力をあれだけうまく使えるのか聞かれたけど、へへって笑ってごまかしておいた。ご、ごまかせてはないかも。

 

 ……当時は人間と魔族の間に永い争いがあった。村とか街をとって取り返してってずっと繰り返して、魔法や武器も発達してどんどん戦いは大きくなっていった。あたしはそんな中、魔族として生まれた。人間と魔族の違いは魔族が体力も魔力も高くて、耳が長いくらい。

 

 生まれた時から魔力が尋常じゃないくらいに強かったらしい。一族からも周りからも期待されていたのは覚えている。

 

 ――この子なら、人間共を皆殺しにできる。

 

 幼いころのあたしに言われたその言葉をなんとなく覚えている。誰が言ったんだっけ、それは覚えていない。いや、記憶の中にいるそれを言った人の「顔」だけが黒塗りで思い出すことができない。もしかしたら「これ」はあたしの関係の深い人なのかもしれないけど、思い出したくないや。

 

 子供のころから戦闘とか魔法の訓練をして、大人たちが戦争にいって帰ってこないことに何度か泣いたことを覚えている。

 

 あたしが物心つく頃には戦況は魔族がかなり不利になっていた。何度も住む場所を変えて、魔族の領土の奥へ奥へ逃げた。それからどんどんあたしへの期待が高まっていくことをあたしは感じた。だからあたしはできるだけ、相手の喜びそうなことを言った気がする。

 

 大人になったあたしの魔力は魔族の中でも隔絶していた。子供の頃から強力だった力がもうどうしようもないまでに高まっていた。だから、あたしは周りから救世主として崇められるなんて馬鹿なことにもなった。

 

 戦争はもう魔族の負けの一歩手前。有名な魔族はどんどん人間に倒されて、はく製にでもされていたんじゃないかな。実力者の殆どいなくなったあと、あたしは最後の望みとして魔族を統べる魔王になった。

 

「あはは」

 

 そこまで思い出したところで乾いた笑いが出た。ミラがあたしの顔を覗き込んでくる。

 

「マオ?」

「べつに、なんでもないのよ」

「…………」

 

 ミラが黙り込んでいる。あたしは小首をかしげる。そんなあたしにミラがなんだか、心配そうな顔で、いやそんなんじゃないな、泣きそうな顔で聞いてきた。

 

「なんで泣いているの?」

 

 は?

 

 あたしは指を目元にあてる。湿っていた。ミラが不思議に思うのも当然だ。はあ、なんで勝手に泣いてんだろあたし。あれ、なんかぼろぼろ落ちてくる。袖でごしごしとしてもなんだか止まらないや。馬鹿みたい。

 

「マオ、ど、どうしたの? 大丈夫?」

 

 ミラの心配そうな声にあたしはできるだけ取り繕うに接した。

 

「大丈夫。大丈夫。たぶん目にゴミが入ったんだと思う」

「…………う、うん」

 

 ミラは納得いかなそうな顔なのに、そう頷いた。あたしは強く袖で目元を拭いて、前を歩きだす。今日は早く寝よう。明日は村に帰って、お父さんとお母さんに今日のギルドの話をしなきゃいけない。あ、ロダにクッキーもあげないといけない。

 

「ねえ、マオ」

 

 あたしは少し時間をかけて振り向く。涙が乾かないかな、と思ったんだけど無理だよね。

 

「私は、そのあまり同年代の友達とかいなくて、その何て言っていいのか全然わからないんだけど……マオは私のことを友達っておも……」

 

 なんか口ごもっている。あたしは何か答えないといけないと思った。友達ね、そうだね、って言ってあげるのがきっとミラにとっていいことだなと思った。

 

 でもミラは逆にあたしをじっと凝視して口を結んで、むうと何か思い詰めているような顔をしている。なんだろ? たまに変なことをする時がある。ミラは一度大きく息を吸って意を決したように

 

「マオは私の友達!!」

 

 って恥ずかしくなるようなことを言った。

 

 …………せ、選択肢がない。あたしは口をあけて驚く。ミラも言った後顔を真っ赤にするしあたしもなんか赤くなる。でもミラはもう少し続けた。

 

「人には話したくないこともいっぱいあると思うけど……もし、マオが私に話してもいいって時には話してほしい……な」

 

 あ、

 

 そうか、そういうことか。

 

  あたしの言っていることが単なる「嘘」だってことわかって、そう言ってくれたのね……。ああーもう、なんで魔王であるあたしが勇者の末裔なんかに慰められなきゃいけないの!

 

 ぐぐぐぐ、ぐぐぐぐぐぐ。は、はずい。ぐぐぐぐ。

 

「あんたは……あたしの、と、ともだち……なんだから、当たり前よ」

 

 あたしは今日一番の勇気を出したと思う。それを聞いたミラの表情は想像ができて、恥ずかしいのでそっぽをあたしは向いた。

 

 

 あたしはベッドに横になった。ああー。ふかふかってわけじゃないけど、ベッド何て久しぶり。いっつもは床に敷布をひいて家族みんなで寝ているだけだから、結構固い。別に不満があるわけじゃないけど。たまにベッドに眠れるなら、こうごろごろしたい。

 

 ごろごろ、ごろごろ。枕が結構柔らかいなぁ。 

 

 宿屋の窓から外を見ると星が出ている。綺麗だなぁ、あたしは星をこうやってみるのは好きだ。…………はっ、今あたし寝てた。ふぁーあ。それにしても今日もいろんなことがあった。あのイオスのこととか、力の勇者の子孫のこととか、なんかよくわからないけど王都にある学園に行けとか言われるのも、一日じゃ処理しきれないよ。

 

 あたしは冒険者のカードを取り出してみてみる、そこには「FF」の文字。たぶんこれ、あきらめろって遠回しに言っているんだと思う。学費とか言ってたし、普通であればあたしみたいな庶民な女の子は入れないんじゃないかな。まあ残念、あたしは魔王だから関係ないけど。

 

 ベッドにもぐりこんでゆっくりと考えようと思っていたんだけど、一度そうしたら眠い。

 

 王都かぁ……話にしか聞いたことがないけど、結構賑やかなところらしいなぁ。そもそも冒険者になりたいのは単にあたしのため…………そう、魔王たるあたしのため。

 ああ、ねむい。

 あ、きもちいい……。

 

 

 雨が降っていた。

 少女の記憶の中にある古い記憶。灰色の空から落ちてくる冷たい雨粒が顔を打つ。

 

――なんだこれは。

 

 彼女は口を開けて、声に出さずに叫ぶ。それは幼い少女だった。体は小さく、天に伸ばした両手は細い。

 

 彼女は「魔王の記憶」を持っていた。どれだけ昔のことかは彼女にもわからないが、遠い昔に彼女は魔王であった記憶があった。強大な力をもって人間を憎み、戦ったその記憶。だが、今の彼女はわずかな力もない。

 

 魔王として死にゆくときに「神」の声を聴いた。それを彼女は覚えている。

 

『お前は生の中で多くの者を傷つけた……。だから勇者たちに力を授けてお前を倒すことにしたのだ。巨大な力を持つお前は、来世で弱いもののことを知るがいい、それがお前への罰だ』

 

 何が罰だ。

 

 少女は怒りを込めて天に叫ぶがそれを聞くものはいない。ただ雨粒がばちばちと地面をたたく音だけが響く。彼女はその場にへたり込んで、空を睨みつける。力がなくても、魔王としての記憶も経験もある、必ず復讐してやると彼女は誓った。

 

 少女は後ろから抱き留められた。

 

 彼女が振り向くと心配そうな女性の顔がそこにあった。それは「母」として今の軟弱な体に生んだ人間だった。

 

「風邪をひいたらどうするの……?」

 

 びしょ濡れの姿でそういう「母」は彼女を抱きしめながら言う。少女はただ憎しみをもってその女性を見ている。いずれ、殺す。今はまだ忌々しい人間の庇護を受けなければ死んでしまう、それは冷静な計算の上にあった。だが媚びるつもりも偽るつもりもなかった。なれなれしく触ってくる女性に少女は嫌悪を抱いていた。

 

 年を経るごとに少女は問題を起すようになる。同じ村の子供に殴り掛かり、時には卑怯な手を使ってでも相手を倒した。そのたびに「父」と「母」は奔走した。

 

 少女自身は誰ともなれ合わず。両親にすらも心を開かない。村の者たちも彼女を持て余していた。ただ魔王の記憶を持つ少女もそんな人間を心底軽蔑するようにして、心底嫌うようにしていた。

 

 むなしさだけがあった。

 

 ただただ貧しいだけの村。才能も魔力も持たない自らの体。魔王として生きてきた記憶との齟齬に苦しむだけの日々。人や物に当たる野良犬のような彼女。いつも体のどこかに傷があった。

 

 寒い冬があった。

 

 その冬の前には不作の年で食料も十分にない、そんな季節。村はまるで死んだように静まり返っていた。しんしんと降りつもる白い雪に人はなすすべもない。

 

 少女も自らの家で小さくなっていた。手をこすり合わせて、家の中なのに息をすれば白くなる。体を抱くように座り。部屋の隅で両親からも距離をとっている。

 

 そんな彼女に「母」が近づいてきた。少女は抵抗した、細い腕で力いっぱいに殴りつけ、ひっかく。それでも「母」は彼女を抱きしめた。少女は「離せ」と喚いたが、その言葉が聞こえても離すことはなかった。

 

 抱きしめられている間だけは暖かかった。

 

 少女は自らの抱き留めている女性を睨みつける。その時にその顔をしっかりと見た気がした。ただ、自分を見つめる瞳がそこにあった。それだけで体から力が抜けた。疲れが心から湧き出て、ひどく眠たくなった。少女はその眠気にすら抗ったが、だんだんと落ちていく。

 

 少女はその胸の中で眠ってしまった。

 

 春が来た

 少女は鍬を握ってみた。なぜかは自分でもわからない。持ち上げようとしたが意外と重い。魔力による身体の強化があれば大した重さではないだろうが、そんなことは今の少女にはできない。

 

 そもそもなぜそんなことをしているのか自分でもわからなかった。力いっぱいに振り上げてみれば、逆に体がよろけた。こけそうになった時その鍬を捕まえた。見れば「父」がいる。

 

 鍬を下ろして、父は少女にできること教えてくれた。草むしりだった。彼女と一緒に父は草をむしって、少女が一日でむしった「草」を見てほめてくれた。なんてことはない、誰にもできることだ。少女はそう思ったが、不覚にも喜んでしまった。

 

 その後に父は自ら鍬を持って土を耕し始めた。少女はそれを見ていた。

 

 時は過ぎていく。

 

 少女はだんだんとおとなしくなっていく自分に歯噛みした。人間などに感化されていくことに屈辱も感じていた。そういうことにしておかなければいけなかった。

 

 夏には川で魚を取ることをした。

 

 普段あまり食べられないそれを父が串に刺して焼いた。少女が食べた時にはひっくり返りそうになるほどおいしいかった。そんな自分の可笑しさに彼女は自嘲した。ただ、彼女はその魚の刺さった串を持って家に帰った。

 

 なぜそんなことをしているかはわからなかったが、家にいる「母」に食べさせようとしたのだ。家の立て付けの悪い戸を開けると、母が手に編み物をもらったままこくりこくりと船をこいでいた。

 

 穏やかな寝顔の前に立つ少女。

 

 殺す?

 

 不意にそう思った。いや、それが最後の過去の自分からの問いかけだったのかもしれない。少女は何も答えずにしゃがみ込んで、眠っている彼女の前で言った。

 

「……………おかーさん」

 

 女性は目を覚ました。

 

「……マオ? 何か言った?」

「……呼んだだけ」

 

 それから二人で魚を食べた。

 

 数年経ち、弟が生まれた

 その日のことを少女は覚えている。生まれるまで外にいるように言われていた、だから生まれたと聞いて飛ぶように走って帰った。走る間に村の人間から転ばないように声を掛けられ。

 

「わかってる!」

 

 と後ろ走りで手を振る。それでこけそうになった。

 しかしよろけながらもふんばり、家まで一直線に帰った。家の戸をすらりと開ける。もう立て付けの悪い戸を開けるコツは掴んでいた。

 

「はあ、はあ」

 

 そこには村の女性たちと「父」と「母」とその母の抱く子供がいた。

 少女は両手を伸ばして、困惑して、うれしいような、わけわからないような気持で近寄った。その弟を母から手渡されて、抱きしめた。

 少女はその時の自分の表情だけはわからない。

 

 

「んんっ」

 

 ん? あー、もう朝か。なんか夢を見てた気がするけど、なんか夢って目が覚めた時には忘れるのって不思議だと思う。ああー、良く寝た。首を動かすとぽきぽき言っている。これって骨が折れているのかな? でも折れてたら動けないしなぁ、なんで音がするんだろ。

 

 あたしはベッドから体を起こすと敷布団を綺麗に折りたたむ。ぽんぽん、としわをのばしてって、その枕を最初の位置にして。よし。

 

 それから窓を開けると朝日が強く差し込んできた。

 

「ちょっと寝すぎたかな」

 

 さーてと、昨日の夜はすぐに寝ちゃって考えられなかったからどうしようかな? とりあえず村にもどっておとうさんとおかあさんに言わないといけないけど、あ、あとロダにもね。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 あたしとミラは街を出る。単に村に帰るだけだけど、冒険者になるにしてもお父さんとお母さんにちゃんと話をしておかないといけないしね。正直言えばどういえばいいのか悩んでいるんだけど、えーい、当たって砕けろ!

 

「それにしてもなんでミラまで付いてくるの?」

「え? 迷惑だった?」

 

 銀の鎧に聖剣を携えた女の子。あたしは特に武器とかないし、村まで来てくれるだけでも結構心強いんだけどさ、あ。ミラはあたしを心配しているんじゃないかな。魔王として勇者に守られても…………今更かな、ここは大きな心で行こう。

 

「いや別にいいけどさ。村に帰って冒険者になるって言ってくるだけよ」

「うん」

 

 わかってるって感じでミラは短く答えた。頭の回転が早いんだけど、言葉が少なすぎてわかりにくいところがある。まあ、いいや。あたしは街の入り口に向かった。

 

 今日もよく晴れているなぁ。それにしても昨日食べた「ピザ」は美味しかった。ああ、また食べたいなぁ。ああ、思い出すだけで……うわあ、あたしは袖で口元をふく。はしたない、はしたない。

 

 朝に出て、村につくのはお昼くらいかな。あれ? 入り口に赤い髪の男が立っている。ガオだ。何しているんだろ。

 

「よっ、クソガキども」

 

 ガオがあたしに手を挙げた。ミラは「おはようございます」と頭を下げているけど、あたしは「クソガキ」と言われてそんなことをしたくない。

 

「おはよ。く、くそ……冒険者」

 

 やばい、なんか言い返してやろうとして全然うまく返せなかった、使い慣れてない言葉が恥ずかしがってしまった。ガオは苦笑してるし。

 

「やっぱクソガキだわお前」

「うっさいなぁ。あたしはマオって名前があるんだから、ちゃんと呼べ」

 

 あたしは両手を腰にあてて抗議する。ガオは「わかったわかった」って手でまあまあってしてる。その時あたしがガオの腰に吊ってある剣に目が言った。あの黒狼との闘いで折れてしまったお父さんの形見だったはずだ。

 

 柄の先は鞘に納められているけど、もう武器としては使えないはずだ。

 

「……その剣。ざ、残念だったね」

「あ? ああ、そうだな。まあ、武器なんてもんはいつか壊れるもんだ」

 

 意外とガオは気にしてないように言う。いや、気にしてないはずないや。だってそれならあの時ミラに突っかかってくるはずないんだから。

 

「まあ、親父の剣はおれちまったからこれからは俺の剣を探すことにするさ。そん時はミラスティア」

「は、はい」

「もう一度立ち会え。今度は最初から全力でな」

「……わ、わかりました。全力でお相手します」

「おーこわ。大の男を吹っ飛ばす筋肉女だからな」

 

 ミラスティアは顔を赤くしてむっとしている。

 

「ち、違います! 魔力で体を強化すれば誰だってできるもん!!」

「もん?」

 

 あたしは思わず気になった語尾を真似した。何となくだよ。

 

「え、ちが、いまのもんっていうのは、あの。言い間違えです」

 

 それだけ言ってミラはそっぽを向いた。

 

「二人は意地悪です!!」

 

 魔王ですから。

 

「冒険者はそれくらいじゃねぇとやっていけねぇの」

 

 あたしとガオは目を合わせて、ニヤリとしてしまった。

 

「まあいいや、クソガキとミラスティア。ほらよ」

 

 袋を二つ渡してきた。重い、何これ。

 

「報酬だよ。中には金貨が入っているからな」

 

 き、金貨!! あたし久々に見る。何百年ぶりだろうか。要するにこれはモンスター退治の山分け分だろう。ミラにはあたしから手渡す。ミラはあんまりうれしそうじゃない。

 

「もともと用事はそれだけだ、昨日ギルドマスターからだって俺の宿に報酬が届けられたんだ。クソガキも村に帰るだろうから、入り口で待ってただけだ。あーねみ。俺は帰って寝るぜ、じゃあな」

 

 ガオはあっさりそう言って立ち去ろうとする。ただ、一度立ち止まった。

 

「おい、マオ。冒険者になるっての、頑張れや」

「……うん」

「またな」

 

 それで本当に行ってしまった。またどこかで会えるかな。

 

 

 村に戻るとおもったよりも簡単にあたしの冒険者になることは許してもらえた。

 

 お父さんとお母さんが反対すると思っていただけに意外だったんだけど……どうやらミラの「剣の勇者」というのが強く働いたのかもしれない。いや、別にミラがあたしを売り込んだとかというよりもお父さんやお母さんが勝手に期待した、みたい。

 

 村長のところにも挨拶に行って、みんなにも挨拶をした。

 

「任せときなさい。きっと村を豊かにして見せるからさ」

 

 なんて、胸を叩いたりして回ってたら、頭撫でてくるやついるし、パンをくれるし、んん。子供扱いするなぁ。

 

 その日はあたしの家にミラも泊まった。お父さんとお母さんとロダとミラとあたしで他愛のない話をして、普通に過ごしていった。街から持って帰ってきたクッキーはみんなで食べた。

 

 旅たちの準備も何もないよ。あたし何にももってないし。

 

 朝にはいつも通りに起きて日課の鶏の世話をする。

 

 あたしは鶏の囲いの中で箒を動かしながら、コケコケ言っているこいつらもなんかかわいいな、と思ってしまった。気の迷いってやつね

 

 鶏を一羽抱きしめて、ぎゅっとする。

 

 村を出る時にはなんか村人総出で出てこられてあたしは恥ずかしかった。ミラはなんかニコニコしているし、お父さんとお母さんには「行ってきます」は言えたからよかったんだけどさ……お金は殆どお父さんに渡した。学費がって言っていたからちょっとあたしがもらったけど。

 

 

「ああー疲れたー」

 

 あたしは山道ではあーと大きなため息をついた。こういうのが村社会っていうのね。肩が凝ってないか心配であたしは自分の左肩を揉んでみるとぷにぷにしてる。

 

「…………」

 

 ミラは何を思っているのか無言であたしのことを見ている。歩きながら今まで思っていたことを口にして聞いてみた。

 

「ミラって無口だよね」

「そ、そうかな。でもお父様からあまり無駄話をするのははしたないと教えていただいたからかな……」

「ふーん。ミラって好きなものとかあるの?」

「好きなもの? うーん、あんまり聞かれたことがないけど。読書とか剣の修行は好きだよ」

 

 そっかー。優等生って言葉がほんと似合うなぁ。ミラは風に揺れる銀髪を手で押さえている。それからぽつりぽつりと言う。

 

「みんな、いい人だね」

「そりゃあね」

 

 異存はないよ。そうだね。あたしが次の言葉を待っているとミラは黙々とついてきている。言葉みじかっ! 突っ込んでやろうかと思ったら、がさごそと近くの茂みが動いた。

 

 弟のロダが出てきた。目をキラキラさせながらあたしに近寄ってくる。

 

「姉ちゃん。冒険者になるってやっぱすげぇよ! しかも勇者様のお供の!!」

「いや、お供じゃないし」

「俺もいつか冒険者になろうかな!」

 

 キラキラの瞳で話聞いてない弟の頭にチョップして。それからなでなでする。

 

「じゃ、お姉ちゃん行くからね。お父さんとお母さんをよろしくね。たのむよ」

「うん! いってらっしゃい!!」

 

 あたしはそれだけでつかつか道を急ぐ。

 

「ね、ねえマオ」

 

 後ろからミラの呼び止める声がする。

 

「弟君が……」

 

 知ってるよ、どうせ後ろで泣いてんでしょ。

 

 あたしは振り返らないよ。

 

 帰らないわけじゃないんだから。くそ、村のみんなもお父さんもお母さんもロダも全員嘘つきだ。

 

 別にこの村に帰ってこないわけじゃないんだから。寂しそうな顔しているのバレバレで笑うのやめてほしい。

 

 あたしは…………さびしくなんかないよ。みんなもあたしを見習えばいいのに。

 

 ☆

 

「おや、帰ってきていたんですね」

 

 緑の狸に会いにギルドに行くとイオスがニコニコして向かい入れてくれた。タイミングが良すぎるのがすごい怪しい。

 

「いやいや、偶然ですよ」

 

 あたしは何も言ってないのに勝手に心の中を見透かしたように言うこの狸。美少年で穏やかな顔つきをしているけど、腹の中真っ黒とあたしにはわかる。

 

 ミラがイオスに丁寧にあいさつをする。こんな奴にそこまですることないのに。

 

「こら、マオ」

「な、なによ」

「ギルドマスターへの礼儀だよ」

 

 礼儀? 何それ、こいつは……ってミラじとーって見てくるのやめてよ。ぐぐぐ、ぐぎぎぎ。

 

「こんにちは、ギルドマスター」

 

 あたしは頭を下げた。ぐぎぎぎぎ。イオスは穏やかな声で言う。

 

「うん、よく挨拶できたね。えらいよ」

 

 ぐうぅあうあぁああ!!?? 余りの怒りにあたしは我を忘れそうになった。こいつ絶対あたしが怒るポイントをわざと踏んできてる! その証拠に満足そうな笑顔をしているし。

 

「それはそうとミラスティアさんとマオさん、学園に行くんだね。馬車を出す日までもう少し待っててほしい。ミラスティアさんは知っていると思うけど、馬車で港町まで行って船に乗るからね。先に港町まで行っても仕方ない」

 

 イオスはそれよりもと続けて。

 

「マオさんには渡したいものが2つあるから上のギルドマスターの部屋まで来てほしい」

 

 イオスがそういうのであたしは黙って後ろをついていく。いつかぎったんぎたんにしてやるこいつ。

 

 ギルドマスターの部屋に来るのは2回目。一昨日座ったソファの間にあるテーブルには長い木の箱があった。造りはしっかりしてる。

 

「さあ、かけてくれ」

 

 ソファに座って向かい側に座るようにイオスが手で示す。あたしは黙って座る。

 

「どうやら嫌われているようだね」

 

 楽しげに言うことかな? それ。

 

「まあいいだろう、渡したいもののひとつはこれだよ。開けよう」

 

 イオスは木の箱を開ける。

 

 そこには長い筒のようなものが入っていた、何これ? 魔石がはめ込まれている黒い金属の長い棒ということは魔術に使うロッドかな。でもなんか先っぽに穴が開いているみたい。

 

 イオスが手に持つ、持ち手が少し湾曲しているしなんか引っかける場所がある。

 

「なにそれ」

「これはね。魔銃という新しい武器ですよ」

 

 何それ? あたしは首を傾げた。

 

 

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