魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~ 作:ほりぃー
今日は疲れた。
いつも疲れている気がするけど、特に疲れた!
家に帰ると上着を脱ぎ棄てて、ベッドに横になりたかったけどラナがあたしの首根っこを捕まえた。
「あんたね。家事の手伝いもしないでいきなり寝ようとするんじゃないわよ」
「うう」
悲しい居候の身だもんね……。
あたしは上着だけを脱いで、シャツの腕まくりをする。とりあえずお風呂の掃除をして、薪を持ってきて……よし、とりあえず頑張ろう。
「あ、あのラナ様。今日のマオ様は疲れておられると思いますから、私がします……」
一緒に帰ってきたモニカがあたしをかばってくれるけど、ラナは首を振った。
「疲れているかなんだか知らないけど、ていうかあんた今日泊まるの?」
「マオ様からその……誘われましたから」
「ふーん」
ラナはあたしをじろりと見る。
「別にいいけど、私に一言もなくねぇ……お泊り決めて……」
「ご、ごめんって、家事もちゃんとやるから」
「……冗談よ。別にいいわよ。最近いつものことだけど。でもいつものことだから寝床はないわよ」
「ラナあとさ、ニーナも後で来るんだけど」
「……あんたが床で寝なさいよ」
……う、うーん。疲れている時に床で寝るのは辛いなぁ。ニーナは一度よるところがあるってことだった。
「あ、あのラナ様」
モニカがおずおずと聞く。ラナが両手を腰において振り返った。
「何よ」
「め、迷惑なら帰ります……」
「はあ?」
ラナがモニカに迫る。顔を近づけて圧をかける。
「なーに今さら遠慮してんのよ。あんた。迷惑とか思っていたら叩き出しているわよ。私はその辺結構ドライだから、知ってんでしょ」
「あの、その」
「うたうだいうくらいならマオと一緒にお風呂でも掃除してきなさいよ。ほら、お客様扱いはしないわよ」
ラナはモニカとあたしの背を押してお風呂場に放り込む。その強引さにあたしたちは顔を見合わせて笑ってしまう。
それからいろいろと家事をやったり、途中でラナとお茶をしたり。
そんなこんなで夜になった。
あとからやってきたニーナも含めてラナの作ったおいしいご飯をみんなで食べて、順番にお風呂に入って。ってしてたらあっという間だった気がする。あたしとニーナとモニカはベッドの上でおしゃべりをしていた。
モニカはラナの寝巻を借りている。少し丈が余っている。ワインレッドの髪が少し湿っててなんだかいつもにましてかわいく見える。
あたしはなんとなく彼女の髪を触ってみる。つやつやしている。触っているだけで気持ちいい。
「あのマオ様」
「モニカの髪ってすごいきれいだね」
「そ、そんなことはありません」
いやいやなんかいいにおいするし……そう考えたらあたしはどうなんだろう。自分の頭を触ってみてもよくわからない。
「ニーナはどう思う」
「どう思うなんて訳の分からないこと言われてもな。髪なんてどうでもいいだろう」
「えー」
ニーナもラフな格好をしている。短いズボンに半そでのシャツ。ニーナもお風呂に入ってなんだかホカホカしている気がする。
「でもさ、ニーナもかわいいんだから。髪とか伸ばしたら美人なんじゃない」
「……! そんなわけないだろう」
少し顔を赤くしてニーナがそっぽを向く。
「金髪美人とか……」
「変なことを言うな」
恥ずかしがっているといいたくなるよね。でも、その前にモニカが手を挙げた。
「あの、マオ様そういうことなら。昔から魔族の中で髪に塗ると艶が増す膏薬があってですね。それでよければお渡しできますけど」
「ほんと! なにそれ!」
「なんでも魔王様も塗っておられたとか……」
うん! デマだね! そんなの知らないもん!
「……待て」
「何、ニーナ」
「魔王が髪を気にしていたのか?」
「そういうこともあるんじゃないの」
「…………いや、それ以前に魔王は男だろう?」
モニカが少し考えていった。
「伝承では……どちらともよくわからないのですが、女性とする説もあります。本当に一部の説では女性というよりは女の子だったとも、まあ流石にそれはないと思いますが」
説っていうか、それ真実だけど。でも聞いたニーナは複雑な顔をする。
「魔王が……女性? ……考えたこともなかった。そもそも、魔王と私の先祖の最後の戦いでは魔王の体はすさまじいほど巨大な化け物だったと聞くが……」
「ああ、それは」
モニカが言った。
「強力な力を持った魔族は体に魔力の結晶を作り出すことができますから。それは『魔骸』と言ってそれを発動させることで飛躍的に能力を伸ばすことができます……短期的にですが。おそらく魔王様はそれを使ったのではないでしょうか? 巨大になるというのは信じられないほどの魔力量だったのでしょう」
「そう、なのか」
『魔骸』はロイが使用したのを見たのが久しぶりだった。多分だけどあたしが出会ってきたこの時代の魔族も使える人は多いと思う。それでもってあたしは思う。
「でもさ……そんな強い力は反動が大きいからモニカは使ったらだめだよ」
「……えっ?」
モニカはあたしを見てそれからくすりとした。
「ありがとうございますマオ様。大丈夫です。私は使い方を知りませんから」
「そっか」
その名の通り『骸』になるとされる力だ。魔族の体の奥底に眠る魔力を全力で放出する。使い続ければ死ぬ。だからモニカが使えないことを聞いてほっとした。
そんなあたしの様子を見ながらモニカが黙った。なんだろ。彼女は顔を伏せた。しばらく黙っている。でも絞り出すように彼女は言った。
「マオ様、ニーナ様……今日はすみませんでした。お二人にはひどい言葉を使ってしまいました……」
……あたしはニーナを見た。ニーナは頭に手を置いてどうこたえるべきかって顔をしている。でもこういってくれたんだ。
「まあ、お前もマオのことや……も、もしかしたら私のことを思っていってくれた面もあるだろうからな。むしろ過去のことを……その、どういえば良いのかわからないが。……こちらこそすまない。私は口下手であまりうまいことが言えない」
「……ニーナ様。いえ、そんなことはありません。]
……しんとしてしまった。あたしたちはいろいろと今日は思うところもあった。あたしはだから言っておこうと思う。
「でもモニカも許せないところがあるよね」
「マオ様……」
「例えあたしたちのためだったとしてもさ、黙って離れていこうなんて許せないよ」
「……ごめんなさい」
「モニカ」
「はい」
「目をつぶって」
「……え?」
「いいからさ」
モニカは困惑したように目を閉じる。あたしはにやああって笑って。彼女の後ろにそっと回って脇の下に手を入れてくすぐる。
「ひゃっ、ま、マオ様!?」
こちょこちょこちょって、あたしは弟ともこんな感じでじゃれた記憶がある。
「マオ様、やめ、やめてください、あはは」
「ニーナも! 許せないよねモニカのこと!」
「……そ、そうだな」
「足が空いてるよ! モニカの」
モニカはハッとした。
「や、やめてください」
って言ってるのでさらにくすぐる。モニカは身をよじって逃げようとする。でもニーナがくすぐり始めるともう逃げられない。
「あははあ、やめ、やめてください。あはは。こ、こんなの」
涙を浮かべて抵抗するモニカ。そこにお風呂から上がったラナがやってきた。
「なーにやってんの? あんたたち」
「らな様……た、たすけ」
「私も混ぜなさい」
モニカの絶望したような笑い顔。あたしは逃げられないように抱き着いたままくすぐってやる!
「あはははは、ご、ごめんなさい。み、みなさん。こ、こんなのおかしい、や、やめんね。ああははあ。はあはひい、ひぃ」
どーだ! 思い知ったか!