魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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交差する悪意

 

 乱雑に本が積まれた部屋だった。

 

 奥の窓の前に机がひとつ置かれていた。その上には大量の書類と本が置かれている。

 

 窓の外は雪が降っている。

 

 部屋のドアからその机まで一本の道などと言えばいいのだろうか、乱雑に積まれた本が床を覆いそこしか歩くところがない。この部屋の主は机の前の椅子に座り足を延ばしてだらしなく座っていた。

 

 顔に読みかけの本を被せてだらりと手を下げている。黒の頭頂と先に行くほど金色の特徴的な髪形をしていた。その身には青い軍服を纏っているが、胸元をはだけて中の黒いシャツが見えている。

 

「ロイ師団長」

 

 部屋に入ってきた魔族も同様に軍服を着ているが、だらしなく座るロイとは違い背筋を伸ばして歩く。

 

「あぁ?」

 

 ロイは寝起きを邪魔されたことに多少の不快感を覚えたが、部下の顔を見ると柔和に笑った。この男の笑みは特に意味はない。そういう表情を作る癖のようなものだった。

 

「どうしたんだい」

「人間どもが我々に対して攻撃を企図していると情報があります」

「ふーん。まあそうだろうね」

「しかしその方法が」

 

 部下が報告書を手渡すとロイはそれをちらりと見る。それだけで「読んだ」。

 

「へえ屑どもも考えるね。人間に飼われた魔族の自治政府に『暁の夜明け』を討伐をさせるってことか……」

 

 ロイははははと今度は愉快そうに笑った。

 

「共食いをさせようというわけだ」

 

その言葉を聞いて報告を行った魔族は顔を歪めた。人間の企むこともそれを笑い飛ばすロイについても不快感を持ったのだろう。ロイはそれをちらりと見て、特に何も言わなかった。代わりに事務的な質問を行った。

 

「それで、今何人くらいの兵士が動かせるんだい?」

「300人は動かすことができるかと思います。人間の王都を攻撃するために準備してたので……まだ戻ってない者も多いですが」

「ふーん」

 

 ロイはその場で考え込んだ。彼はけだるげに立ち上がる。

 

「この報告書には自治政府には奇妙な武器が支給されているとあるね。『魔銃』か。そういえばクリスが戦ったときマオも使っていたといってたな」

「マオ……?」

「ああ、こっちの話だ。今は関係ないよ」

 

 彼の頭脳はこの会話の間もめまぐるしく動いていた。彼とヴァイゼンの立案した王都への奇襲は頓挫している。3勇者の子孫を抹殺するというヴァイゼンにとっては大したことのない仕事を完遂することができなかった。そのせいで今は『暁の夜明け』の活動も鈍っている。

 

 本来であればすでに十万以上の人間を抹殺しているはずだった。ヴァイゼンは船での出来事に口を閉ざしている。

 

「…………船か」

 

 そこにマオがいたら?

 

 ふとそう思った。ロイはその空想を笑う。いたところでどうしようもないはずだ。だが、もしいたら何かをするのではないか? 調べてみようかと彼の思考は現実から段々と離れていく。

 

「師団長?」

「……ん? ああ」

 

 ロイはその言葉で現実に戻った。

 

「そうか、奇妙な武器が自治政府にあるのか……それらを鹵獲できれば使えるかな」

 

 彼の思考のピースはだんだんとはまっていく。次なる計画のために戦力の補充は重要だった。人間に比べて魔族は数が少ない。それは純粋に痩せた北方の土地に閉じ込められた彼らには仕方がないことだった。

 

「人間どもは共食いがお望みなんだろうね。だったら喰い殺してやろう。魔族の誇りを捨てて人間に媚びる屑どもをね」

 

 ロイは片手を上げた。兵士を招集する合図だった。

 

 それで報告来た魔族の男は部屋を急いで出ていく。ロイは一人笑う。

 

「魔族自治領ジフィルナ……。消えてもらおうか……」

 

 残忍な表情をするロイは心の底で望んでいた。それがなぜかわからない。だが、予感があった。

 

 彼は水路の奥で出会ったあの少女がやってくることを願っていた。

 

☆☆

 

 へっくし!

 

「大丈夫ですかマオ様」

 

 大丈夫、なんか寒気がしただけ。心配してくれるモニカに片手で大丈夫って示す。

 

 それにしてもおなかいっぱいだ。ヴォルグにいっぱい食べさせられた。ああ、きつい。思ったんだけどあたしは食べることは好きなんだけどあんまり量は食べられないかもしれない。……うーん。まあ目の前でばくばく食べているヴォルグと比べる方がだめかも。

 

 今は帰り道。

 

「モニカは今日も泊まっていく?」

「……そうですね。毎日なんだか迷惑じゃないですか?」

「あたしが言うのもなんだけど、ラナも楽しんでいると思うけどな」

 

 そういうとモニカははにかんだ。でも今日はラナがニーナを追っていったからどうなんだろう。先に家に帰っているのかな。夜ごはん用意されてたらど、どうしよう。さ、流石に食べられない。

 

「あ、あのマオ様」

「なに?」

「ああああ、あのですね」

 

 わかりやすく動揺している……なんだろう?

 

「落ち着いてよ。どうしたの?」

「そ、そのですね、あのですね」

「?」

 

 モニカは恥ずかしそうにしている。もじもじと手をにぎにぎしたりなぜか目を泳がせている。ただ決心したようにあたしに言う。

 

「よ、よかったら今度王都の私の家に遊びに来てもらえませんか?」

「え? いいよ」

「……やっぱりだめですよね」

「ええ? いいよって、あれだよ、行くよって意味!」

 

 それを聞くとモニカはぱあって花が咲いたように笑顔になった。

 

「わ、私はですね、友達を家に呼んだことがなくてですね、その、あのですね」

 

 うわぁ、すごい嬉しそう、見てたらこっちも嬉しくなってくるようだ。友達を呼んだことがないというのは触らないでおこう。人間の社会にいる魔族として苦労したんだと思う。

 

「じゃあラナとニーナも呼ぼうよ、もちろんミラも」

「……! ど、どうやってもてなせばいいんでしょうか?」

「もてなすなんて考えなくていいよ」

「お菓子とか……」

「お菓子!」

「マオ様にももちろんいっぱい」

 

 いっぱい! 

 

 …………。

 

 ごほん。途中から我を忘れた気がするよ。

 

「そういえば前に言ったけどさモニカ。これは全然返事をする必要はないんだけどさ」

「はい?」

「魔族の自治領にいつか行ってみようと思うんだよね」

「……」

 

 やっぱり反対みたいだ。モニカは目を逸らしてうつむいている。でもあたしは思うんだ。

 

「今の魔族を見てあたしも考えないといけないことがあるんだ」

「考えないといけないこと……ですか?」

「うん。見て、知っても何ができるってわけでもないかもしれないけど……。それは大事なことなんだと思う」

「……」

 

 最初に言った通り返事は気にしてない。いつか行くってことだけ決めている。その時はひとりかもしれな――。

 

「私が一緒に行きます」

「へ?」

「マオ様は止まりませんから……。どうせ一人で行くとか言い出します! そんな危ないことをさせるくらいなら一緒に行きますよ」

 

 ……あたしってすごーく単純なのかもしれない。この前はラナに心を読まれたし、今はモニカにも心を読まれた。でも、それをそのまま正直に言うのは恥ずかしいじゃん。だから一緒に行ってくれるって言うモニカに向けて短くいった。

 

「ありがと」

 

モニカははあと息を吐いて、それからうっすらとわらった。

 

「なんだかマオ様と一緒に居ると悩んでいたはずのことも勝手に前に進んでいってしまいます……」

「よくわかんないけどさ」

「そうですよね。そーでしょうね」

 

 モニカはくすくすと笑う。そして彼女は紅い目であたしを見た。

 

「魔族自治領ジフィルナは……とても寒い場所ですけど……それでも私が家族と……お父さんとお母さんと……お姉ちゃんみんなで過ごした場所なんです。……つらいこともいっぱいあるけど、魔族が頑張って生きている場所なんです……。マオ様が私の故郷を見てどう思うかわかりませんけど……」

 

 モニカの顔を見ながらあたしは思う。

 

 もし、魔王の生まれかわりってこの子が知ったら。

 

 あたしを責めるだろうか? それとも……いや、やめよう。今考えても仕方がないことなんだからさ。

 

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