魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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3人の旅人

 

「マオ様……やっぱりフェリシアはだめなのでは?」

 

 うう、モニカがずっとこれを言っている。結局全然仲良くしてくれないから、ウルバン先生に任せて訓練場を離れた。

 

「モニカって前からフェリシアの知り合いなんだよね?」

「……彼女は自治領の治安維持のための『ザイラル』の一員です。小規模の武装組織ですから……魔物の討伐や公館の警備をしてくれるのですが……あの子はすごく毒舌家で……」

「ザイラル……って魔王軍の幹部の?」

「え? あ、よ、よく知ってますねマオ様。魔王様と一緒に戦争を戦った魔族の名前を冠した部隊ですが……魔王様が勇者に倒された後は魔族を率いて今の自治領を作ったひとです」

「…………そっか」

 

 昔のことだけど今でも覚えている。「ザイラル」はあたしのことを最後まで支えてくれた人だ。もしもあたしが負けたらみんなをお願いって約束した。……そっか。約束を守ってくれたんだ。少し涙が出そうになったけどモニカの前だからごしごしと袖でこすって止める。

 

 立ち止まった。

 

 あたしの生きた時代のカケラがこの世界にはある。前からそれを感じていた。

 

「マオ様?」

「ううん、ごめん。なんでもないよ」

 

 ――「マオみたいに……『昔のこと』を全部忘れて楽しく生きれるならいいよね」

 

 不意に胸が痛くなる。モニカに気づかれないように早足で歩く。ミラに言われた言葉がずっと気になっている。……正直喧嘩の中での言葉なんてきっと本心で言ったんじゃないと思う。でも、思い出すとすごく心が苦しくなる。

 

「昔のことか……」

 

 魔王だったころ……。いや、その前のことを何となく思い出す。

 

 ☆

 

 子供のころはほとんど屋敷から出たことがなかった。

 

 代り映えのない日々の中で、屋敷の中で魔法の勉強をして過ごしていた。外の世界を窓から眺めていた。一応地図を見せてもらって魔族領土や人間の領土についての知識はあったけど、行ったこともない場所だからどうでもよかった。

 

 そのころまだ人間と魔族は戦争をしていなかったと思う。いや、その直前だった気がする。

 

 屋敷にいる魔族の人々が人間のことを罵っているのは聞いたことは何度もある。私は人間とはなんと悪い奴らだと思った。

 

 そんな時に人間の旅人がやってきた。なんでも魔物を倒して魔族を救ったらしい。私は悪い人間がなんでそんなことをするのか? 不思議でしょうがなかった。

 

 旅人は3人らしい。若い男女と聞いた。

 

 見栄もあったと思うけど私の父親はその旅人を自らもてなした。人間に借りを作るなんて絶対に嫌だったからだろうと今ならわかる。だから屋敷の離れに泊めたんだ。

 

 人間ってどんなのだろう?

 

 そう思ってこっそりと夜に部屋を抜け出した。

 

 庭を誰にも見つからないように走って人間のいる離れにいくと笑い声が聞こえた。中を見ると銀髪の男を中心にしてもう一人男と女の人が談笑している。3人とも若い。私から見るとお兄さんお姉さんかな。

 

 窓から隠れて見ていたけど。耳が短いと思った。それが第一印象。

 

 何の話をしているのかとそのあとに考えた、もしかしたら悪だくみをしているかも……そう思ったらお屋敷の食事がおいしかったとかそんな話ばかりだった。拍子抜けした。

 

 

 話を聞いているとだんだんと旅の話になっていく。どこかの街の話。いろんな森や山の話。遺跡の話。そこで出会ったことや人の話。私はその遠くのどこかの話を聞くのがだんだんと楽しくなっていった。

 

「そろそろ寝ようか」

 

 銀髪の男の子がそういったとき、思わず言ってしまった。

 

「え? もう?」

 

 あわてて私は口を押えた。ただ言ってしまった。窓から離れてしゃがみこんだけど、そこから顔をだした男の子がニコッと笑った。

 

「こんばんは」

 

 私は恥ずかしいような何なのかわからない気持ちで頷いた。

 

 3人はそれから私を部屋に入れてくれた。もともと私の家といえばそうかもしれないけれどさ。

 

 私は聞きたいことを全部きいた。

 

『海ってさ! 塩辛い湖ってほんと?』

『人間の街って広いの?』

『魔物と戦ったって……どんな魔物がいたの?』

『さっき話に出てきた料理っておいしいの?』

 

 とりとめのない質問を3人は笑って聞いて、そして答えてくれる。

 

 紫の髪の女性が地図を広げてくれた。そのひとつひとつを指さして、物語を語ってくれる。そこで何を見て、なにがあったのか。どんな人や魔族が住んでいたのか。

 

 私は真剣に聞いて、いつの間にか笑ったり、本当にひどい話の時は怒ったりしながら世界の話を聞いた。いつの間にか時間は過ぎて外から私を探す声がした。それにあわてて私は部屋に帰ることしにた。

 

「まだみんなはいるの?」

 

 部屋を出るときそう聞くと銀髪の彼が行った。

 

「あと数日いるよ」

 

 私はそれが嬉しくて、ぱっと思わず笑顔になったのを覚えている。

 

 本当に短い時間だったと思う。

 

 次の日には庭で堂々とオークごっこして遊んだ。意外と銀髪の彼はそれが苦手で私はオーク役なら捕まえたし。逆の立場ならつかまらなかった。今考えるとあれは遊んでくれていたからかもしれない。

 

 紫の髪をした女性は優しくて私が魔法を使うとほめてくれた。あれから魔法を使うのが楽しくなった気がする。あと、こっそりとお菓子をくれたりした。

 

 でも事件が起こる。事件って言っても大したことじゃない。

 

 金髪の男が私を高い高いしてやるって言ってきたから、ワクワクしてたら、空高くに投げ飛ばされた。すごい勢いで投げられたから下では金髪を除いたみんながわあわあと驚いて焦っているのが聞こえた。

 

 空が見えた。屋敷より高く飛ばされて

 

 まるで世界の中心にいるような気がした。

 

 一瞬だけ遠くの行ったことのない景色が見えて。

 

 すぐに落下していく。流石に怖かった。

 

 銀髪が必死に私を掴んでくれたけど、その時ぎゅっと抱きしめられたことが頭に残っていて気恥ずかしい。あいつのことを思い出すとその光景が頭に浮かぶ。

 

「うぇええんん」

 

 それで泣いてしまって、3人がなんとか私を泣き止まそうといろんなことをしてくれた。いつの間にか笑ってた気がした。

 

 ……たぶんそんな様子を父親は苦々しく思っていたと思う。

 

 3人が屋敷を出るとき会いに行かないようにと言われた。人間は信用してはいけないと言われたような気がする。でも、その時だけはその言いつけを破った。

 

 門を出ていくときに3人に手を振った。

 

「また会える?」

 

 そう叫んだら銀髪の彼が言った。

 

「また来るよ」

 

 うれしくなった。

 

 ………

 

 再会自体はした。望んだ形では全くなかった。そのことはあまり思いだしたくない。

 

 ボタンの掛け違いなんて誰にでもある。

 

 一度崩れてしまった何かはそう簡単には戻すことはできない。……いや、戻すこと自体できないかもしれない。

 

 だから『あたし』は思う。

 

 どんなにひどいことがあっても取り返しのつかない場所まで言ったらいけないって。

 

 

「そのはずなんだけどなぁ」

 

 そうつぶやいた。それでもミラとの口論の時なんで自分は止まることができなかったんだろうか? このままミラと離れ離れになるかもと考えるとすごく苦しい。でも、それでも謝るみたいなことをしたいわけじゃない。

 

 ラナの言うとおりにすればもしかしたら関係は戻すことはできるかもしれない。

 

「なにぶつぶつ言ってんのよあんた」

 

 そのラナがあたしの背中を押した。

 

 フェリシアを誘った夜にチカサナからの案内が家にぶち込まれた。窓を突き破って手紙が届いたとき驚いたというか、ラナがキレた。

 

「ガラス代弁償させてやる!」

 

 って。まあ、そりゃそうだよ! すると外から金貨が投げ込まれたあと「きしし」って声がした。最初からいたずらのつもりだったかもしれない。

 

 手紙には明後日授業をすることと場所だけが載っていた。これ生徒全員に届けているのかな? む、無理じゃない?

 

 それでもそんなこんなで今日もフェリックスにやってきた。途中でモニカとニーナも合流した。ニーナは……なんか制服が焦げている。な、なにがあったのって聞くとあたしをじっと見て「教えない」とだけ言われた。

 

 き、気になる。ラナとなんか隠しているよね。

 

「フェリシアは先に教室に入っているそうです」

 

 モニカがそう言った。だから4人で歩いていると、ソフィアと戦った中庭に出た。

 

 真ん中に噴水があって、その前に彼女がいた。綺麗な銀髪。腰に帯びた一振りの剣。

 

 凛々しい顔立ちのミラスティア・フォン・アイスバーグがあたしをまっすぐに見てきた。

 

「マオ」

「ミラ」

 

 あたしたちは対峙する。そしてすぐにわかった。

 

 噴水の前にいたのはミラだけじゃない。

 

 腰かけて冷たい視線を送ってくるのは知の勇者の子孫であるソフィアがいた。それにもう一人立っている。片方の耳にピアスをし褐色の男……ニーナに勝ったキースだ。なるほどね。あと2人いないみたいだけど、そんなのいらないくらいだね。

 

 ミラを見る、まっすぐにあたしを見ている。本気だとわかったよ。

 

「負けないよ。ミラ」

 

 あたしも両腕を組んでそういった。

 

 

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