魔王やってましたけど勇者に負けて転生しました ~FFランク冒険者候補からの成り上がってやる~   作:ほりぃー

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紅い閃光

 

 紅い閃光が奔るたびに火花が散る。

 

 ハルバードを構えた魔族の少女モニカの体を重厚な紅の魔力が包んでいた。身体能力を極限まで高め、戦斧を振るう。

 

 ミラスティアはそれを白い細剣ではじく。彼女の体を白い光が覆う。

 

 剣と斧がぶつかり合う。2人の少女は目まぐるしく攻守を入れ替えながら対峙する。モニカが気合とともに天から打ち下ろすように斧を振るう。ミラスティアがそれを飛んでかわす――次の一瞬には強烈な一撃に地面が砕かれた。

 

 その瞬間にモニカを目掛けて魔力の矢が奔る。だが彼女はそれを掴んだ。手で折り、捨てる。強化された感覚は半端な攻撃を寄せ付けない。

 

 モニカはさらに体から魔力を放出する。

 

「ううう、うううヴ」

 

 力があふれてきて止まらない。マオに隠し通すために彼女は『魔骸』の力を今初めて使った。使えるという感覚のままに開放した力に飲まれそうになるのを抑え込んでいる。その反面体が悲鳴を上げていることも分かった。

 

 その両手はハルバードを握りこんでいる。ぎりぎりと勝手に手がその柄を握りしめている。

 

 それだけの力を使ってもミラスティアは崩しきれない。聖剣を持っている時とは別のスタイルの戦い方。細剣を手に軽やかに動く剣の勇者の末裔。通常であればハルバードを受け止めることは不可能だろう。つまりは細剣をもってその力を流しているのだ。

 

 純粋な力は今のモニカの方が上だった。しかし、その技量までは『魔骸』を持っても上がるわけではない。ミラスティアは仮面の男と正面切って戦える力がある。

 

 そのミラスティアの黄金の瞳がモニカを見据えている。普段とは違う冷徹な表情にモニカは心底苛ついた。その心のざわめきはミラスティアへの感情だけではない。そして速度をつけて突進する。

 

 ハルバードを横に薙ぐ。赤い暴風のような斬撃だった。

 

 ミラスティアは前に出た。姿勢を低くして紙一重でかわす。彼女の銀髪のすぐ上を刃が通過した。

 

 細剣を切り上げる。モニカは首を振ってかわす。わずかに服にかすり防御魔法が光る。だがここで引くわけにはいかなかった。モニカはそのまま体を回転させて戦斧を振るう。流石にミラスティアは後ろへ飛んだ。

 

 モニカが右足に魔力を込める。ハルバードは槍と斧を組み合わせた武器である。その先端を構えて後方に下がろうとするミラスティアを突いた。閃光のような一刺。ミラスティアは腰に履いたもう一本の細剣を抜刀し、横から剣を当てる。力の流れを変えられて彼女には当たらない。

 

 視線が交差する。紅と黄金の瞳がお互いを映し出す。

 

 ミラスティアは両手に剣を構えた。

 

 最速の一撃に対して最小の攻撃で無効化する彼女。モニカは一度だけ彼女と共闘したことがある。その時のミラスティアよりもその技量が高まっていることを感じる。

 

 経験とはそれを過ごしただけでは意味がない。自らの何かを洗練させることはすでに才能と言っていい。その点においてこの銀髪の少女の『才』は他と隔絶していた。強敵との連戦で彼女の力は純粋に高まっている。

 

「その力」

 

 ミラスティアが初めて口を開いた。

 

「前に水路の奥にいた魔族が使っていたものだね。……でも、あの時ほどの圧迫感を感じないよ。……それに無理は続かない」

 

 『暁の夜明け』のロイの使用したこの魔族の最高峰の技をすでに彼女は見ていた。だからこそ練度の違いを見抜くことができる。モニカは『魔骸』を初めて使用した。あふれ出す魔力に体が悲鳴を上げているが、だがすべてを力に変えることができるわけではない。

 

 ずきずきと頭に生えた魔力の結晶化した角が痛む。モニカは間合いを取る。

 

「あいにく今日初めて使いましたからね。ミラさんこそ、2刀流とは知りませんでしたが?」

「前に見たから」

 

 前に見たから使えると短く彼女は言った。モニカは体の奥底から湧き上がる魔力に抗いながら返した。

 

「聖剣を持っている姿しか見たことがありませんでしたからね。いろいろとできるようですね」

 

 ミラスティアは彼女を静かにみる。体を覆う白い魔力に乱れはない。

 

 

「私は何でもできるよ」

「……?」

 

 静かに言った。

 

「剣も魔法も、ほかの武器でもなんでも。それにモニカのもっているそのハルバードでも使える。私は聖剣の所有者だから剣が他のことよりも慣れているだけ。……みんなができることはたいていできる」

「随分な言い方ですね」

「……昔からそうだから。見たらわかる」

 

 抑揚のない声音で淡々とミラスティアは言う。事実を並べているだけだが、聞く人間によっては傲慢さとすら取られるだろう。だが、モニカは笑った。

 

「……あははははは! いいじゃないですか」

 

 その笑いの意味が分からずミラスティアは眉をしかめた。ただ魔族の少女は頭の痛みに片目をつむりながら笑う。

 

「私はずっとマオ様と一緒にいたあなたのことを見ててわかったことがあるんですよ。Fランクの依頼をみんなでした時にも」

「……なに?」

 

 マオという言葉に彼女は反応した。モニカはハルバードを構えたままだった。

 

「あなたはずっと人の顔色を窺っているんです。相手のことを見ながら相手が喜ぶようなこととか、傷つけないようにしようとか、ずっとそんなことばかり考えているんじゃないですか?」

「……そんなの当たり前のことだよ」

「そうですかね? 私はこんな生まれですから、人間の社会の中で人間様の顔色をずっと見ながら過ごしてきましたから貴方と同じようにしてきましたよ……。失言をしないように、波風を立てないように。……決して本心なんかしゃべってあげないんですよ」

「……!」

 

 モニカの瞳がミラスティアを見る。

 

「いい子を演じて、演じた幻想を相手している他人を見ている自分がずっとどこかにいる……他人と他人が話をしているだけのような感覚……。期待されている自分を演じることに縋って相手と向き合わないことがいいことだってずっと、ずっと言い訳をし続けるだけの自分が嫌いで嫌いで仕方ないんですよ!」

 

 ミラスティアの剣を掴む手がわずかに震える。掴んだ柄を握りしめていた。

 

「どうですか? 私は今の貴方のことを見ていると自分を見ているみたいでイライラします。……何でもできる? 結構じゃないですか、その程度正直に言ったくらいならにこにこしながら他人に合わせているよりずっとましです」

 

 魔力がモニカのハルバードに収束していく。巨大な紅の奔流がその刃を覆った。あたりの空気を振動させる音が響く。彼女の紅い瞳がさらに輝きを増した。

 

「……マオ様はそれでも自分が嫌いな私を見てくれたんですよ。でも、ミラさんの屋敷でマオ様が話をした時、貴方はあの人の顔色すら窺っていましたよね」

「…………」

「何ですかその顔。……それにどうせこう考えているんでしょう。マオ様と自分が付き合ってたら傷つけることになるかもしれないから離れようって……ああ、口に出すだけで気に食わない!!」

 

 モニカは魔力を足に込めて飛んだ。

 

 斧を構える。巨大な魔力の塊は渦のように彼女の斧から発されている。

 

「――だから、貴方の考えなんてめちゃくちゃにしてあげますよ。ボコボコにしてマオ様の前に引きずっていってあげます!」

 

 メイル・シュトローム。

 

 両手で構えた斧を魔力とともにモニカは地面に叩きつける。

 

 巨大な紅い魔力の渦はその流れがすさまじい衝撃を放ち、大地をえぐり木々を薙ぎ倒す。轟音があたりに響き、紅い閃光が空に飛ぶ。

 

 地面に着地した時モニカははあはあと息を切らしてた。それでもまだ魔力は体の奥底から湧き出てくる。

 

「吐き気がする……」

 

 汗が体中から吹き出る。胸が苦しい。

 

「はあ、はあ、はあ」

 

 膝をつきそうになる。ハルバードを地面に立てて体を支える。その時遠くで「きしし」と声が聞こえた。そしてばちりと音がする。モニカははっとして横に飛ぶ。雷撃がそのあとを襲った。

 

「まったく……もう少しかかりそうですね」

 

 雷が奔る。光の中で剣を構える少女。聖剣を手にしてミラスティアは立っていた。

 

「今の技、私に直接打ち込んでいたらわからなかった」

「はあはあ。別に殺すことが目的じゃないですからね」

「……マオが本当の力を出さない限り抜く気はなかったよ」

「本当の力? なんですかそれは」

 

 ミラスティアはそれには答えない。彼女は双剣を腰の鞘に納めている、

 

 そして稲妻を纏った聖剣を手にモニカに向きあう。

 

「私は簡単には倒せないよ。モニカ」

 

 

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