その中でも特に大きなカジノ、シェルムテイルの用心棒のロウリーには、ファンクラブが存在した。
その会員になった青年の超短編です。
要はロウリーが書きたかった。
眠らない街、タウゼンレジャー。そこは、カジノを筆頭に様々な誘惑があり、夜も賑わう。
しかし、その誘惑は時に牙を向くこともある。そのため、子供の行動を制限する親も多い。
しかし、禁止されるほどやりたくなるのが人間だ。その心に従い、家から独立した青年が居た……。
「はぁ……。初日からハードだったな……。この調子じゃ持たないかもな。」
親から独立するため、海軍に入隊した俺は、初日の訓練を終え、俺はある場所へ向かっていた。
そう、この街の名物、シェルムテイルだ。うちの親は心配性で、俺がカジノに行ったら破産するんじゃないか、とか言ってカジノへの出入りを禁止にしていた。もう成人してるのに、だ。
実家暮らしなのだから、ある程度はしょうがない。
だが、禁止されればされる程、憧れは強くなっていくのだ。そして、最近親との交渉の末、海軍に入ることを条件に、出入りを許可されたのだ!
「ふふふ。ははは!夢が広がる!大人の仲間入りだ!」
大の大人が人で溢れてる大通りで高笑いしてるのは、目立ってしょうがない。
だが、それが気にならないくらいに気分が良いのだ。俺は、鼻唄を歌いながらスキップでシェルムテイルへ向かった。
しばらく歩き、シェルムテイルに着いた。夜の暗闇の中に、煌々と輝くその建物は、眠らないこの街を象徴してるようだ。小さい頃から恋い焦がれていた場所に、ついに来たのだ。
「緊張してきたな……。」
こんな場所に来るのは初めてだ。どんな立ち振舞いをすればいいのか分からない。笑われないだろうか……。
まぁ、いいか。考えても変わらない。勇気を振り絞り目の前の扉を開くと……。
「うわぁ……。すげぇ……。」
その先に広がっていたのは、正に夢のような景色だ。
きらびやかな室内では露出の多いバニーガールがカクテルを運んだり、勝負を見守ったりしてる。そこらじゅうで歓声や絶望の叫び声も。さらには……!
「あのー。感極まってるところ悪いんですけど……。その、入り口で止まられると他のお客様の邪魔になりますよ?」
バニーガールの子にどけられる。……顔があっついけど、気にしない。恥ずかしくなんてないもん!
今度こそ人の邪魔にならないところでしばらく感慨に浸ったあと、ギャンブルへと向かった。
あんまり調子に乗ると危ないから、そこそこで撤退するつもりだった。
だが、一旦始めると、なかなか抜けられない。負けたりしても、バニーガールの子達に「次は勝てますよ!」なんて笑顔で言われたらついついやっちゃうな。
気が付いたら予定のゴルドを使いきってた。もっと色々やりたい欲を必死に押さえる。ここで負けたら破産直行だ。
しばらく悩んだが、帰るのがなんだかもったいなくて、一番安いカクテルを飲みながら他の人の賭けを眺める。
ここに来たのが7時だが、もう8時だ。楽しすぎてあっという間に過ぎてった。
名残惜しくて、チマチマ飲んでたカクテルも尽きた。次を注文するために、キョロキョロしてると、近くを店の子が通る。
白い狼の耳の獣人の子で、白髪のロングでツンとした顔立ちだ。かなり可愛いな。白いコートに黄色のミニスカートだ。バニー衣装じゃないが、着たら絶対似合うだろう。
「すみません。」
女の子に呼び掛けると、
「……し、死ねっ!……なんだ?」
キッと睨まれた。あれ?今俺おかしいこと言ったか?
「いや、これと同じやつが貰えないかなと。」
思わず小さくなる。流石にビックリしたな。
「……。私は用心棒だ。注文は別の人に頼め。それをわかったら死ね。」
言いたいことを言って去っていってしまった。俺が間違えたのはそうだが、客にとる態度じゃないだろう。
だが、不思議と悪い気分じゃない。むしろ、少しドキドキしてる。なんだこれは……。
「同胞よ、君も目覚めてしまったか。」
唐突に後ろから声をかけられる。それも複数人で、全員男だ。
「いや、誰ですか?それに同胞ってなんですか?」
「ふふふ。君はロウリーちゃんの冷たい言葉に高揚してるんじゃないかね?」
言葉で聞くと単なる変態。ドMも良いとこだ。だけど、実際そうなのか……。
「まぁ、そうですけど。それがなんですか?」
「ははは。分からないか!それこそが“ロウリーちゃん推し”の精神だ!」
何言ってるんだ?この人達。
「……まず誰ですか?あなた達。」
「紹介が遅れたな。我々は“ロウリーちゃんを見守る紳士の会”だ。」
「えっと……。なんですか?それ。」
聞いたこともない集団だな。少なくとも世のためにはならなそう。
「我々の目的は1つ。それは、このシェルムテイルの隠れた女神、ロウリーちゃんを遠くから眺めることだ!」
……見るだけなのか。
「そうなんですか。えっと、もう帰って良いですか?」
さっきまで帰りたくなかったのに、突然家が恋しくなってきた。
「まぁ、そう言うな。実はな、君に頼みたいことがある。」
「……なんですか?」
正直こんな集団の頼み事って不安しかない。法に触れないといいんだけど……。
「実はだな……。夏にロウリーちゃんの笑顔を引き出すことに成功したのだがな、その時の協力者が今は不在なのだ。」
「それで、何をすれば良いんですか?」
「それがだな、色々と計画をしても我々はシャイでな……。ロウリーちゃんになかなか話しかけられないのだ。」
「だから、何をすれば良いかハッキリ言ってください。」
「そこで君に接触役を任せたい。」
「接触役?」
「そうだ。さっきの君とロウリーちゃんとのやり取りをみて、前回の協力者と同じ雰囲気を感じた。君ならきっとできる!」
まぁ、ロウリーちゃんは可愛いかったし話す口実ができるのはいいことだ。この人達が正気じゃないのもまぁ、良いか。
「わかりましたよ。協力しますよ。」
「本当か!?ようこそ!紳士の会へ!」
「あ、ありがとうございます?」
帰り道。
「なんだったんだ。あの人達。」
兵舎に向かいながらしばらく考え込んでいた。ロウリーちゃんは確かに可愛いかったな。かなりキツイ当たりかただったけど、だからこそ笑顔が見たい。
それはそうなんだけど、紳士の会ってなんだよ。普段何してるんだろ。あんな人が身近にいたら大変だろうな。当分馴染めそうにない。
翌日。朝から訓練だった。練習内容は主に走り込みだ。軍人は体力第一らしい。他の新入りと一緒に走ってるのだが、
「遅い!もっとやる気を出せ!」
先頭を走る教官が急かしてくる。もう限界だぞ……。昔からそんなに体に自信がある訳じゃないんだよな……。
そのままフラフラ走ってると、
「おい!最後尾のお前!もっとやる気を出せ!」
教官が近付いてくる。
「は、はい!スミマセン!」
平謝りしながらチラッと教官の顔を見る。そして、思わず声をかけてしまう。
「あ!昨日の紳士の会の人じゃないすか!?」
頭の上にハテナを浮かべたような顔の教官が俺の顔をジッと見つめてくる。それも真顔でだ。しばらくの沈黙の後、ハッとした顔になり、
「……シッ!今は黙ってろ!話は後だ!」
焦った様子でバッと背中を叩いてそそくさと先頭に戻る。嘘だろ?こんな身近にあんな変人がいたのか。
昼休みに、教官に呼び出された。周りはあいつ何かやらかしたのか?とかざわついてたけど、用件は多分紳士の会についてだな。
「失礼します!」
ノックをして入ると、
ソファに座った教官が手招きをしてくる。
「まぁ、ここに座りたまえ。」
「は、はい……。」
教官のプレッシャーに怯えながら座ると、
「君は、昨日勧誘した子だよね?」
静かに聞いてくる。
「は、はい。そうです。」
「紳士の会は主にこの軍の人間が所属しているのだ。」
「え?そうなんですか?」
「あぁ、そうだ。多分長くここに勤めれば勤める程紳士の会の人間と会うだろう。」
「は、はぁ……。」
ここの軍の人も大概だな。オンとオフの差がすごい。
「別に秘密にしてるつもりは無いが、新入り達に舐められたら終わりだ。あまりベラベラ喋るなよ。」
「はぁ。わかりました。」
「うむ。わかればよいのだ。さぁ、もう出ていっていいぞ。」
「では、失礼します。」
この街は海軍が結構強い。子供の憧れの対象だ。なのに、紳士の会なんてやってるのか。頼むから子供達は汚れないでくれよ……。
その日の訓練の後、カジノに直行する。早く遊びたい。疲れを吹き飛ばすにはそれしかない。
小走りで向かい、シェルムテイルに入る。すると、後ろから声をかけられる。
「やっと来たか。唐突だが、君に任務を授ける。」
声の主は教官だ。ラフな格好に着替えている。
「いきなりですね……。」
「うむ。まずはロウリーちゃんとの関係を築くのだ。」
「関係……?」
「そうだ。ロウリーちゃんは人見知りだからな。まずは普通に話しかけても怪しまれないようになるのだ。」
「……フワッとし過ぎじゃないですか?」
仲良くなるって、具体的に指示はないのかね。
「何を言うか。シャイな我々には到底仲良くなる方法などわからん。そこも含めて頼んだぞ。たが、過度な接触や独り占めはいかんぞ。」
なんだそれ……。この人達軍人なんだよな?こんな人達にこの街は守られてるのか。しかも、独占はするなと。
だったら自分で行けや……。
「わ、わかりましたよ……。て言うか仲良くなって最終的に何をしろと?」
「あのときは結局我々の想いは伝えられなかったのだ。君にはそれを届けてもらいたい。紳士の会の一員としてな。」
「わかりましたよ……。」
「ロウリーちゃんはいつもは裏方にいてな。8時頃に見回りに出てくる。その時がチャンスだ。」
「了解です。では、行ってきます。」
8時までしばらく時間があるはずだったが、ロウリーちゃんと話すとなると、ハードルが高すぎる。
どうしようかと悩んでるうちに、ロウリーちゃんは見回りに来てしまった。
「あ、あの、ロウリーちゃん?」
「……死ね!」
「あ、えっと、すみません?。……ところで、実は昨日のことを謝りたくてさ。」
ヤバイ。何を話せばいいのかさっぱりわからん。
「気にするな。用はそれだけか?」
ロウリーちゃんはさっさとこの会話から離脱したいらしい。とっさに後ろの紳士達に助けを求め、バッと振り返ると……。
あっ!顔をそらしやがった!
「……もう用は無いな。私も暇じゃない。もう行くぞ。」
「あ、待って……。……行っちゃったな。」
今回は完全に失敗だ。
とぼとぼ紳士の会の方へ行くと、
「ふぅ。やはりそうなったか。」
「全くだ。」
皆やれやれって感じだ。なんだよ、全く助けてくれないのに。
「なんかすみません。」
「まぁいい。これからどうするかだ。コツコツ毎日話しかけていけ。積み重ねこそ力だ。」
最もらしいことを言ってるけど、この人達は一歩目すら出てないだろ。
「分かりました……。」
文句をグッと抑えて、しぶしぶ返事を返した。
それから毎日訓練をして、ロウリーちゃんに流されて、また訓練しての繰り返しだった。
通えば通うほどロウリーちゃんが可愛く見える。最近はあの冷たい態度もまた魅力だと気づけた。あれがロウリーちゃん推しの精神か。どんどん惹かれていくのを感じる。
あんな会ができるのも納得だ。今ではロウリーちゃんの可愛さについて語り合う程になった。すっかり会に馴染んでいる。
しかしながら、いい事だけではない。今まで1度も笑ってくれてないのだ。今じゃ俺も笑顔にさせようと必死だ。顔は覚えもらえたが、鬱陶しがられてるのは、変化なしだ。
そんなある日。
「これは、どういうことだ?」
俺は紳士の会ではない上司に呼び出されていた。
「えっと……。分からないです。」
原因は兵舎の窓が割れてたことだ。朝起きて、仲のいいやつと朝御飯を食べてたら、唐突に呼び出しを喰らったと思ったら犯人扱いだった。
「嘘をつくな!貴様が夜な夜なここで遊んでいたという報告が入ってるぞ!」
そんなわけない。カジノから帰ったらすぐに寝てるからな。
「いやいや、いつも9時頃には寝てますよ!昨日もそうです!」
「証拠は?」
そんなこと言われたって、同室のやつも寝てるんだからあるわけないだろ。まさか俺の部屋を覗いてるやつなんているわけないし。
「黙ってるということはそう言うことだな。」
「違いますよ!」
「違わん!貴様は反省しておらんのか!言い訳ばかりしよって。」
ダメだ。こいつ。話を聞いちゃいない。老害もいいとこだ。誰が擦り付けてきたのか知らんけど、見つけたらぶん殴ってやる。
「本当に違うんですよ……。」
「もういい!訓練に参加せんでもよい!部屋で反省しておれ!処分は後程決定する!」
とぼとぼ帰った俺は、ベッドで体育座りでいじけていた。正直紳士の会の上司達が助けてくれないかと思ったが、ダメだった。
しばらくした後、日頃の態度と初犯ということもあり、反省文と少しの減給、そして朝の掃除の手伝いですんだ。いや、何もしてないのに罰を受けてる時点で済んではないけどな……。
犯人は分からずじまいで、やってもないことを反省してたら1日が終わっていた。反省文を提出し、やっと解放された俺はダッシュでシェルムテイルへ向かう。そして、ハイペースでお酒を飲みまくる。
「そんなに飲んで大丈夫か?ロウリーちゃんと話せるか?」
会の人達が心配してくれる。だが、
「もういんですよ。あんなの理不尽すぎですよ……。」
飲み続ける。こんなの飲まなきゃやってられない。親父の言ってることが少し分かった気がした。
「ふぅむ。本当にやってないのか?」
「もちろんですよ。」
やるメリットもないし。
「まぁ、それについては掛け合ってみるとしよう。だから元気をだせ。」
そうはいってももう過ぎたことだ。簡単には立ち直れない。アルコールがまわってるせいか、改めて話してたら涙出てきた。
それを見て触れない方がいいと思ったのか紳士の会は定位置へと戻っていく。
一人になったのをいい事にボロボロなき続ける。今日一日不毛すぎた。
上司にキレられ嘘の反省文を書き、更には減給、ボランティア。踏んだり蹴ったりだな。おまけにこんなんじゃロウリーちゃんとは到底話せなそうだ。
もう辞めてやろうかな。あんなとこ。いや、でも紳士の会には居たいしなぁ。そんなことを考えてると、
「おい。」
後ろから誰かに呼ばれる。誰だよ、と思いながら振り向くと、
「やけに元気がないな。何かあったのか?」
ロウリーちゃんだ!少し心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。耳もこちらを気遣うようにひょこひょこしてる。
「……どうして?」
「どうしてもなにも、いつもならここを通るとき、鬱陶しいくらいに話しかけてくるのに、今日は隅っこでボロボロ泣いてるからだ。」
やっぱり鬱陶しかったか。しかし、心配してくれてるのか……!
「もう今日は朝から冤罪で怒られたり、そのまま色々処罰喰らって、散々だよ……。」
「そうか……。災難だったな。…………その、上手くは言えないが、元気を出せ。」
ロウリーちゃんがポンと肩に手を置く。そして、
「また明日もここに来い。…………少しなら愚痴も聞いてやる。そして、売上に貢献しろ。」
そんなことを言ってくれる。ロウリーちゃんは照れてプイッとそっぽを向いてる。最後のは照れ隠しだな。
「もちろんだ!明日も明後日も来年も毎日会いに来るよ!」
「……!やっぱり来るな!そして死ね!」
そう言ってスタスタと早足で立ち去ってしまう。あぁ、癒された……。明日から頑張る気力が湧いてくる……。
「今のは一線を越えてないか?」
後ろから教官が睨んでくる。
「いいじゃないですか。少しくらい。そんなに羨ましいなら教官も話しかけたらどうですか?」
「……。私は眺めてるだけでも幸せなのだ。だからいいかな……。」
そんなにシャイなのか。まぁ、いいか。また明日から頑張れそうだ。
それからというもの……。
「ロウリーちゃん!聞いてくれ!」
「死ねっ!……何の用だ。」
「ついに減給から解き放たれた!」
「そうか。それだけか?」
「うん!」
「……一応仕事中だ。そんなことは友達に報告しろ。そして死ね。」
優しかったのはあの時だけで、また元に戻っていた。まぁ、たまにしか出ないからこそ貴重なデレだ。これでこそロウリーちゃんって感じだ。
というか、ツンとしてるのが、また可愛いからな。あれから紳士の会の上司達とより深く語らうようになった。
最初は変人集団だと思ってたけど、今じゃ、むしろロウリーちゃんの魅力に気付かないヤツがいることのが不思議だ。
そう思った矢先。ロウリーちゃんにカクテルを頼んでる奴がいる。
当然の如くロウリーちゃんの「死ね!」をくらっている。だが、少し不思議そうな顔をしている。あれは……。
「君!今ときめいてるね?」
「え……?まぁ、はい?」
「なら話は早い!ようこそ!ロウリーちゃん推しの世界へ!“ロウリーちゃんを見守る紳士の会”へ君も入ろう!」
今日もまたロウリーちゃん推しが増えていく……。
ロウリー可愛いよね!誰か分かりません?
調べれば分かる、あの可愛さ!同胞集まらないかな……。