初音ミクになった話   作:みゃはる


原作:VOCALOID
タグ:R-15 残酷な描写 転生 憑依
初音ミクになった話。タイトルのまま。短編

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初音ミクになった話

 近年の新人ボカロPは凄まじい。

 神曲を一つ出したかと思えば、連投して生み出してくる。

 訳がわからない。どうやったらそんなクオリティを量産できるんだ。

 

 

 一昨日アップされた曲を聴きながら、俺は溜息を吐いた。

 

 この曲を作ったボカロPは去年投稿したばかりの新人。にも関わらず、高すぎるクオリティ。そして圧倒的な再生数を誇っていた。この勢いなら明日にでも100万を突破し殿堂入りするだろうと思われた。

 

 凄い、凄すぎる。作った人も大勢に見られて嬉しいだろうな。これが俺の曲だったらーー

 

 はぁぁぁ……と大きく溜息。

 

「なんで俺の曲は伸びないんだろう…」

 

 そんな言葉がつい口から漏れてしまう。

 

 何を隠そう、俺もボカロPとして自作の曲を投稿していた。

 一応音楽関係の専門学校を出ているので、音楽に関しては自信があった。

 自己評価ではあるが、クオリティも劣っていないはず。

 

 にも関わらず再生数は先日アップしたやつで71回。過去21曲を世に送り出しているが、どれも200付近を彷徨っており、歴代最高回数は301回だった。

 この曲とは雲泥の差。まさに月とすっぽんと言っても過言ではない。

 

「才能がないのかなぁ……」

 

 再度溜息。ここ最近は溜息を吐きっぱなしだ。

 

「…といけね、もうこんな時間か……」

 

 時計を見れば午後五時四十五分を指していた。バイトまでさほど時間がない。

 

 俺は慌ててバイトの制服に着替えると、外へ飛び出した。

 

 バイト暮らしで安定した収入を得られず、ボロアパートでギリギリの生活を送る毎日。

 

 中学生の頃、有名Pに憧れて入った音楽界隈。だが今はこんな惨めな思いをするならば入らなければよかったと後悔している。

 

 

「まぁ今更だけどな……もう引き返せないし……それにまだ伸びる可能性がない訳じゃない。帰ったら伸びてるかもしれないし…」

 

 錆びた階段を一段飛ばしで駆け下りる。

 

「あーーーー」

 

 階段を踏み外した俺は、ガツンという鈍い音が聞こえたと共に意識を手放した。

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 男の作る曲が致命的に下手くそとかそう言ったわけではない。音楽関係の専門学校を出た男の作る曲は、最近ピックアップされている曲と比べても遜色がなかった。伸びる要素はあったのだ。

 

 ただ、彼は運がなかった。それだけ。

 

 良い曲を手掛けても、それを見つけて貰えなければ反響は起きない。評価も貰えない。

 

 知名度がない男にとって、センスと運、どちらが欠けていても駄目だった。

 

 

 故に、彼の手掛けた曲は数年後という時間を置いて爆発的なヒットを起こすことになる。

 

 

 だが、悲しいことに彼の死後の話だった。

 

 

 

 

 

 

 転生。

 それこそ宗教関係者ではない限り、普段の生活の中では滅多に使わないが、フィクションの中ではよく耳にする言葉。

 死後、魂が再び新たな肉体に宿る。そんな意味が込められており。

 

 同時に、俺は「これは違うんじゃないかなぁ」と思わざるを得なかった。

 

 

 俺は初音ミク V4Xになっていた。

 初音ミク、ではなくそのソフトになっていたのだ。

 

 

 階段から落ちたところまでは覚えているので、多分転生したんだと思う。転生と呼べるのかは些か不明だが。

 

 

 ソフトなので口もなければ身体も動かせない。パソコンに入れば初音ミクとして身体を動かせる可能性があるが、自力ではまず不可能。

 誰かに助けを呼ぼうにも口がない。

 

 間違いなく詰んでいた。

 

 

 放置プレイはキツいって…おい。

 誰か助けてくれ! 誰でもいい、聞こえてんだろ! 助けて!

 

 恐らくだが俺がソフトになったのは第三者の仕業。それは神とか超常的存在に違いない。

 きっと助けてくれる。

 そう信じて俺は祈り続けた。

 

 

◇◇

 

 一月が経った。

 

 俺はもう祈ってはいなかった。

 

 

 この一ヶ月間誰もやってこなかった。

 誰一人としてやってこなかった。

 

 部屋に沸いたゴキブリに感激するほど、物静かだった。

 

 神なんていない。存在しない。

 神ならば祈り続ける人を見捨てるなんてことはしないはずだ。

 

 俺はそう結論づけた。

 

 

 

◇◇

 

 一年が経った。

 結論から言うと、俺は今中古ショップにいた。売りに出されたのだ。実母に。

 

 

 

 俺の死が伝わったのだろう。

 数ヶ月してから両親が荷物整理をしに俺の家に来た。

 パソコンからテレビ、ベットなど生活用品が撤去され、トラックで運ばれて行った。

 中でも、ベッドの下のエッチな本とか、押し入れのエロゲとか見られた時は死にたいと思った。マジで。

 そういうのは俺がいないところでやって欲しかった。よりによって目の前でやっちゃうかなぁ……!!!

 

 まさか俺がソフトになってるとは思っていないんだろうから仕方ないことだけど、本気で羞恥で人を殺せるかもしれないと思った。

 

 そんなこんなで押収された物品は、必要最低限なものだけ遺品として残され、後は売りに出された。

 その一つが俺が宿っているソフトだったってわけだ。

 

 まさか親に売られるなんて実際に経験するとは思わなかった。

 棄てられるよりはマシだけどさ……。

 

 深くため息を吐く。まぁ、吐ける口がないから比喩なんだけど。

 

 そうこうしてやってきた中古ショップには俺の他にもVOCALOIDソフトが売られていた。それも結構な量。

 

 もしかしたら俺みたいに宿ってるソフトがいるかもしれない。

 

 ーー誰か、いませんかー!?

 

 同族がいるならばきっと心の念を聞き取ってくれる! …はず……。

 

 その日は一日中、心の中で叫び続けた。

 

 

 

◇◇

 

 

 一週間目。

 不意に身体が浮いた。どうやら手に取られたらしい。手に取ったのは…厳つい顔のオッサン。

 えぇ、この人に買われるの…俺。スッゲー嫌なんだけど。どうせなら美少女に買われたいんですけど……。

 

 不満を垂れ流していると、オッサンは俺を元の場所に戻した。どうやら買うつもりは無いらしい。

 俺はホッと胸を撫で下ろした。まぁ、胸どころか身体すら無いんですけどね。

 

 最近どこぞの海賊団の骨みたいに自虐癖が身に付いてきてる。

 一人でいるの飽きたなぁ……。あぁ、誰かと話したい。

 

 

◇◇

 

 曖昧だが、大体一年が経ったと思う。

 その間に起こった出来事と言えば、中古ショップが三回模様替えを行ったこと。俺の価格が少し安くなったこと。ネットでも販売されそうなこと、くらいだ。それ以外特に変化がない。

 

 

◇◇

 

 奥に仕舞われた。

 何も見えなくなった。

 暗い。

 真っ暗だ。

 

◇◇

 

 何日目だろうか。以前のように店の明かりで日付を数えることができないので分からない。

 けれども長い時間を過ごした気がする。

 人間だったら絶対精神が崩壊していた。

 間違いない。

 

◇◇

 

 何も見え無い空間にいることが流石に苦痛に感じてきた。

 常にイライラするし悲しくなるし、笑えてくる。感情が制御できなくなってきていた。

 

 あぁ…もう美少女じゃなくてもいい。厳つい顔のオッサンでも構わない。

 この暗闇から出してくれ。

 

 

◇◇

 

 俺は考えることを放棄した。

 

◇◇

 

 

 久々の光で俺の意識は覚醒した。

 宙に浮く感覚。誰かに取ってもらえたらしい。

 

 見れば俺を持っているのは高校生くらいの少年で、俺に貼り付けられた値段と睨めっこをしていた。

 

 まぁ、決して安くないからな。

 安い男じゃないんだよ、俺は。

 それはそうとして是非とも買って欲しいものだ。

 

 あの暗闇に戻るのは嫌なんだ。本当頭がおかしくなりそうになる。

 

 買ってくれ……!

 

 意味ないと分かりながらも祈り続けること数分。睨めっこしていた少年は、覚悟を決めた顔をして俺をレジへと運んだ。

 

 や、やった!!

 これでようやく闇とおさらばできる。

 ありがとう……。本当に…ありがとう……!

 

 声が出なくてよかった。

 人間だったら俺はみっともなく大泣きしていただろう。

 

 

 今だけこの身体に感謝した。

 

 


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