坂上清顕、15の春   作:藤沢 南

4 / 7
第4話

翌日、午後2時。

 

アフタヌーンティーの時間に、イーサンは坂上清顕を招いた。

ティーの準備はイーサンの妻グレタと四女のボニタが行っていた。ミオの姿はない。

「おじさん、今日はお招きに預かり…。」

「いやいや、清顕くん。僕と君の仲ではないか。そう固くならずに。今日は忙しい中ありがとう。」

確かに忙しいのだ。清顕にとって、日曜日は勉強に集中できる唯一の時間だ。でもミオの父親であるイーサンの招きは断れない。

 

「そこで、お話というのは。」

「…単刀直入に言おう。清顕くん、うちに養子に来てくれないか?」

「!?」

「君が驚くのも無理はない。ただ、君は不幸にも今回のメスス島の空襲でご家族を喪われた。…失礼かと思うが、私は君の事を調べさせてもらった。学校での成績、施設での人間関係、学費を稼いでいるアルバイト先での様子、それから我が娘のミオに対する態度とか。それこそありとあらゆる情報を集めた。そこで、君のような優秀な少年が、家族を喪って、経済的に困窮して、進学を断念せざるを得なくなることが、非常にこの世界にとって損失だという事に気づいたのだよ。」

清顕は表情を固くしている。ボニタは彼の表情を心配そうに見つめている。

 

「そこでだ。うちの養子になれば、学費での心配はなくなる。ただ、君にとっては重大な決断になる。坂上という名前を捨てて、セイラ家の名前になるのだから。」

グレタは息を呑んでいる。この優秀な少年を迎え入れる事ができれば、セイラ家の繁栄はますます盤石になる。しかし、この少年に坂上という名前を捨てさせるのも残酷な話だ。何と言ってもまだ空襲があってから1年と経っていない。

 

 

「ミオお嬢様、ダメです。旦那様から、きつく止められているんです!」

「何言っているの!清顕がセイラ家の養子になるなんて話、そんな大事な話をこの私に黙って進めているなんて!」

ミオが怒り心頭だ。彼女はセイラ家の近侍のザビーネを引きずってイーサンと清顕の部屋の入口までやって来た。

 

さっき別の部屋で勉強を教えていたドミニクがふと漏らした一言。

『清顕くんが、僕のお兄ちゃんに。セイラ家の子どもになるとか…。パパが言ってた。』

『何それ?どういう事?』

勉強を中止し、ドミニクをお菓子で釣って、知っている事を全て喋ってもらった。

パパもママもボニタもカズキもドミニクも、この私に黙ってそんな大事な事を勝手に進めていたなんて。

 

『だって、清顕がセイラ家の養子になったら、私、清顕の…お嫁さんになれないじゃない!清顕が弟なんていや。』

 

「お嬢様、ダメです。その部屋にミオお嬢様を入れないように、旦那様から…。」

「ザビーネ、あなた私のいう事聞けないというの?」

「旦那様のご命令は絶対です。たとえミオ様といえど…。」

「ザビーネ!ドアを開けなさい!このミオ・セイラの命令が聞けないのですか!」

 

部屋の外が少々うるさい。イーサンは娘を呼んだ。

「何やらドアの外がうるさいな。ボニタ。静かにするように言いなさい。」

「はい、パパ」

ボニタはドアの方へ歩き、鍵穴から外を伺う。

「あの。ちょっと静かにしてもらえる?そこにいるのザビーネなの?少し静かに、ってパパからも。」ボニタがささやく。

「ボニタ。ミオよ。ドアを開けなさい。」

「ミ、ミオ!」ボニタは鍵穴からのけぞった。

「お姉ちゃんのいう事が聞けないの?ボニタ。開けないと後悔するわよ。そうね。あなたの好きな男の子の事、明日全校放送で流しちゃおうかしらん。」

ボニタは赤くなった。この意志の強い姉は本気でやりかねない。

 

「ボニタ、何をしている?」

イーサンは立ち上がろうとすると、スッと清顕が立ち上がり、ドアに向かった。

「ひっ!清顕くん?」

ボニタはふり返って驚く。

「すみませんが、大事な話の最中なんです。少しお静かにお願いします。」

鍵穴から伝わってくるのは落ち着いた清顕の声だ。

ミオは鍵穴に向かって大声で叫んだ。

「清顕!!いるの?いるのなら返事して!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。