「ミオ!?」
清顕は驚いた。
「清顕!私、あんたがうちの養子なんて認めないから。うちの家族があなたを養子にしようとしても、絶対許さない。そんなら私が家を出る!」
「ミオ、どうしたの。養子なんて。知ってたの?」
「ひどいよ。みんな。私が清顕の事大好きだって知っているくせに。私に聞かずに勝手にそんな大事な話進めて…。」
ミオはドアの外で泣き崩れている。
「ボニタ。ドアを開けてあげなさい。」
「え?パパ?いいの?」
そのやりとりを聞くが早いか清顕はかちゃり、とドアの鍵を外した。その瞬間、
「きよあきー!」
泣き濡れたミオが飛び込んできた。
「いやだ、いやだ。私、清顕がセイラ家の養子なんて嫌。そんな酷い事、やめて。」
「ミオ、落ち着きなよ。その話、僕も今日初めて聞いたんだ。」
「いやだー。私、清顕のお姉さんなんて。由美子さんのようになれないし。お嫁さんならどうしてもと清顕が言うなら仕方ないからなってあげてもいいけど、お姉さんにはなりたくなーい!!」
清顕の胸で泣きじゃくるミオを横目に、ボニタは両手を広げて肩をすくめている。
「あなた、ミオもこう言ってますし、この話は一旦取り下げましょう。」
グレタは娘の泣きじゃくる姿を見て、気の毒に思ったのか、助け舟を出した。しかし、イサーンは表情を固くした。
「君は黙っていなさい。清顕くんの回答を聞こうじゃないか。私の目に狂いがなければ、何としてでもここで私の子にしなければならない人材だ。」
その回答にグレタは薄ら寒いものを感じ、一歩下がった。
「して清顕くん、回答を聞こうじゃないか。」
「パパ、ひどいじゃない。そんな話、今日いきなりして、すぐ答えろだなんて。」
「折角だからミオにも話しておこう。清顕くんは不幸にも、今回の空襲で、御家族を亡くされた。もちろんその悲しみもいえていないだろう。そんな中でも、高校受験、大学受験と続く進学の為に、学費を稼ぐために夜も土曜日も働いている。ミオが家でくつろいでいる間にもだよ。私は残念なのだよ。清顕くんのような優秀な少年が、家族を喪って、経済的に困窮して、本来なら勉学に充てるべき時間を、学費稼ぎの為に使う事で、彼の将来の可能性を狭めてしまっている。それはひいては優秀な一人の人物の未来を閉ざす事になる。この世界にとっても大きな損失だという事に気づいたのだよ。」
「…おじさん。お褒めいただいて恐縮ですが、僕はそこまでの優秀な人物ではありません。」
「清顕くんはこうおっしゃるが、どうだね。ミオ。パパの言う事が間違っているかね?」
「…パパの
イサーンは表情を変えた。ボニタは青ざめた。…ミオ、ちょっと、控えてよ。パパが相手なのよ。
しかしミオは臆する事なく続けた。
「清顕だって、亡くなられたお父さんと、お母さんと、お姉さんとの思い出の苗字『坂上』を『セイラ』に変えることになるのよ。そんな事をまだ悲しみのいえていない彼に強いるの?こんないきなり騙し討ちのような形で。それに、私は清顕にとって由美子さんのような素敵なお姉さんになれそうにない。何より、清顕が私の弟になったら、…。」
そこでまたミオは言葉に詰まった。
「ミオ、キヨアキくんのお嫁さんになれないもんねぇ…。」
表情をこわばらせていたボニタが、歌を歌うようにわざと軽い調子で合いの手を入れた。この張り詰めた雰囲気の中、少し空気をほぐすような抜けた発音の仕方であった。とりあえず清顕は脱力したようだった。