坂上清顕、15の春   作:藤沢 南

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第6話

「ミオ、安心しなさい。婿養子という手がある。」

 

イーサンは、雰囲気が煮詰まった状況で、満を侍して婿養子の話を始めた。それはまるで、この瞬間を待っていたかのようだった。

 

「その前に一つだけ。ミオにだけ、この話をしなかったのは、ミオに話すときっと清顕くんに事前に話をしてしまうだろう?そうなってしまうと、まとまる話もまとまらなくなる。」

 

ミオは顔をあげた。話がいい方向に行っているのだろうか。まだ分からないままだった。

 

「パパがミオの幸せを考えないわけがないだろう。ミオがどうしても清顕くんの養子を認めないというのなら、将来、ミオのお婿さんになるという事を前提にして、養子縁組をすると言う事もできるんだよ。」

 

ミオの表情が明るくなった。

 

「ミオが、将来法律を勉強するようになったら、いろんな国の法律を調べてみるといい。秋津の法律では認められない家族の関係も、他の国では、認められるということもあるのだよ。」

 

「でも。パパ。清顕がセイラ家の養子になるという事は、坂上という名前を名乗れなくなるんでしょ。」

 

「それも国による。ミドルネームが認められる国の法律で養子縁組をすれば、坂上・セイラ・清顕と名乗れる。そして将来の結婚の可能性を残す養子縁組をしたければ、ウラノスの役所で手続きをするといい。その辺りは、各国の法律に詳しい外交官であるパパに任せなさい。」

 

『ウラノス』!…坂上清顕の脳裏に稲妻が走った。

 

ミオ・セイラは、途端に態度を翻し、「パパ、ありがとう。清顕の事も私の事も大事に考えてくれて。」と父に甘えた。グレタもほっと息をついた。…しかしボニタは坂上清顕の異変に気付いたようだ。

 

清顕は、呼吸を整え、イサーン・セイラに向き直して答えた。

「おじさん、…僕のことをそこまで考えてくださってありがとうございます。でも、大変申し訳ありませんが、僕はあくまで坂上清顕です。セイラ家への養子の件は、ご辞退申し上げます。」

 

「え?ちょっと。清顕…。」

ミオは一瞬戸惑う。しかし、彼女の脳裏に、あの時の風景がよみがえってきた。

 

『ウラノスをぶっつぶす』

 

二人で破壊され尽くしたオデッサ要塞を見下ろしたあの時。

彼の悲壮な決意。そしてそれを応援する自分。

そうだ、いくら婿養子縁組で清顕のお嫁さんになれる可能性を残したところで、彼も私も、『ウラノスをぶっつぶす』という誓いを立てたのだ。その誓いを立てた以上、どんな理由であれ、ウラノスの社会制度の力を借りるわけにいかない。

 

大丈夫、私が選んだ人だから。学費とか、進学とか、セイラ家の力を借りなくたって、この人…坂上清顕、はしっかりやるよ。パパもママもボニタも清顕がどんなすごい人かなんて、分からないよね。だって、私がずっと清顕のことを思ってきたのだから。清顕の事は、私が一番よく知っている。

 

「…そうか。残念だな。しかし、清顕くん、学費は大丈夫なのか。高校入学までは何とかしのげても、その後は厳しいぞ。空襲で全焼した奨学金の事務所も当分再建は難しいようだ。学費なら、セイラ家が面倒見てもいいが、いかがかな。」

「パパ、清顕のためだから。利息安くしてあげてね。」

「ミオ、何を言っているのだ。清顕くんのためなら無利子に決まっているじゃないか。」

「やった。パパ。大好き。」

 

清顕は、この申し出は絶対に受けてはいけないと感じた。

先ほどイーサンが何気なく口にした「ウラノス」という言葉。イーサンは実はウラノスの出身なのか。それとも何かウラノスに強力なコネでもあるのか。坂上清顕はイーサンの背後にあるものの不気味な大きさを感じ、慎重に言葉を選んだ。

 

「いい機会なので、僕の進路について、ここでお話しします。」

坂上清顕は、改めて、身動ぎを整え、セイラ家の家族に向き合った。ミオは息を整えた。ずっと彼に聞きたかった事だった。そして、その進路を私も、進む。だって。彼と同じ夢を見ると誓ったのだから。

 

清顕は、落ち着いた口調で述べた。

「僕は、河南士官学校を受験します。」

しばらくの沈黙が流れた。

 

イーサンは、ゆっくりと語り出した。

「…そうか。君は軍人になるのか。士官学校なら、学費の心配もないな、いや、恐れ入った。セイラ家の援助も君には必要ないようだ。…ううむ。この私が中学生相手にここまで感服したのは、清顕くん、君が初めてだよ。お父さんのような、立派な軍人になってくれたまえ。」

「ありがとうございます。そして、僕に過分な評価、ありがとうございました。では、これで失礼します。」

坂上清顕はスッと軍人のように立ち上がり、頭を深々と下げて、辞去した。

ボニタとザビーネの憧れに満ちた視線が、彼の背中に突き立っていた。そしてミオの熱い視線。彼女は、心の中で叫んでいた。

『私、ずっとついて行くから!清顕に。』

 

清顕の後を追い、ミオが部屋から出て行った。ボニタと近侍ザビーネもひと呼吸おいてから、部屋を後にした。

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