なんやかんやあって俺は死んでしまった。気がついたら赤ん坊で、第二の人生を歩むことになってしまった。
現代日本のごく普通の家庭。俺は普通に普通の高校生になっていた。
高校初日の出来事は今でも忘れられない。
新入生代表として壇上に上がっていたヤツが前世で嫌でも知っていたやつだったのだ。
「〜新入生一同精一杯頑張りますので、先生方、先輩方、これから三年間よろしくお願いします。新入生代表、望月冬夜」
ス マ ホ 太 郎!!
俺は驚きすぎて、思わず立ち上がり思いっきり叫んでしまった。周囲のざわめきなど気にせず、壇上でポカンとしているヤツと見つめ合ってしまった。
その後先生になだめられながら保健室に連れて行かれ無駄に心配されてしまったが、俺はそれどころではなかった。
普通の現代日本に転生したと思っていたのに、よりにもよってスマホ太郎の世界に転生してしまっていたらしい。
異世界はスマートフォンとともに。
俺が前世でアンチ活動をしていた作品だ。
全てにおいて都合が良すぎて、登場人物の誰一人として好きになれない作品だった。
まさか、まさかこんなことになるなんて……つまりこれは、バチが当たったということなのだろうか。
保健の先生に促され教室に入ると、ちょうど高校生活始めてのホームルームが始まるところだったらしく、全員の目線が俺に集まった。
「おお、よかった落ち着いたか。そこの開いてる席が君の席だから、早く着席しなさい」
先生が大人の対応をしてくれてよかった。
席に座ってからもしばらく視線を感じ続け、さすがにいたたまれない気持ちになった。
説明などが終わったあと、俺はそそくさと家に帰り、心配する両親を振り切って部屋に戻り、頭まで布団をかぶって速攻寝た。夢なら覚めますように。
もちろん夢ではなかったし、その後は入学式での一連の流れのせいか、クラスメイトから遠巻きにヒソヒソされる日々を送っていた。
話しかけるとものすごい愛想笑いをされて早めに話を切り上げられる。辛い。
そんな日々が変わったのは、とある合同授業の自由時間だった。
「あ、君! 入学式の時の人だよね?」
こともあろうに、スマホ太郎の方から接触してきたのだった。
「あの時僕を見て驚いてたみたいだから、気になっていたんだ。スマホ太郎ってなんのこと?」
俺は驚きすぎて何も反応できなかった。できる限り接触しないでいようとしていたが、向こうから来るとは。
「あ〜えっと、そうだ。知ってるかもしれないけど、僕は望月冬夜。君は?」
「……失陽夏日」
「夏日くんか、よろしく。それで、アレ、何だったの?」
「お、お前には関係ない!」
つい大声を出してしまった。やってしまった、さすがに苦手な相手とはいえ失礼な態度だった。案の定、周りからは「何あいつ、感じ悪〜い」「せっかく望月が話しかけてるのになんかムカつかね?」「あ、あいつ入学式の時のおかしいやつじゃん」などという声が聞こえてくる。
いたたまれない気持ちで何もできずにいると、急に腕を掴まれて引っ張られた。
「な、なにを……!」
「いや、ここじゃ落ち着けなさそうだから。時間あるし向こうで話そうよ」
されるがままにスマホ太郎に校舎裏まで引っ張られた。
「なんかみんながごめんね。あと、僕も急に踏み込みすぎて嫌な気分だったよね、ごめん」
そんなことを言われると思わなかったから、また俺はフリーズしてしまった。
「話したくなければいいよ。ちょっと気持ち悪いと思うかもしれないけど、僕、あのあと君に興味を持ってさ。様子を伺ってたんだけど、なんか過ごし辛そうだったから更に気になっちゃって」
こんなのおかしいかな、と笑うスマホ太郎の笑顔は、俺が生前嫌っていたあの笑顔ではなく、とても自然なものだった。
「……なんで俺なんか気にするんだよ」
「理由はないけど、なんとなく。仲良くなれそうかなって」
俺の胸中は複雑の極みだった。嫌っていたはずの相手が、俺に気を使い、更には仲良くなれそうだなんて。罪悪感がわいて気が狂いそうになる。
それをきっかけに俺の学園生活には、スマホ太郎……いや、望月冬夜が常に入り込むようになった。
よく俺のクラスにやってきては雑談をけしかけてくる。いつしか、休みの日まで一緒に遊ぶような仲になってしまった。
そうして過ごしているうちに、他のクラスメイトとも普通に話すようになった。
生前感じていた嫌悪感は、今はもう無い。
望月冬夜が人に好かれるのは、当たり前の事だと実感できてしまったからだ。いざ相対してしまえば、嫌いになることはとても難しかった。
そんな日々を送っていると、ふと気付いてしまった。
このままの生活をしていると、望月冬夜は、死ぬ。
異世界はスマートフォンとともに。は、望月が現実世界で死ぬことから始まる話しだ。その世界でも幸せそうに暮らしていたから、望月はどこでも強く生きていけるのだと思う。
だが、俺はもう、望月に死んでほしくはないと感じてしまっていた。
あいつのことを好いている人はこの世界にもたくさんいる。そして何より、俺はあいつのことを気に入ってしまった。
神様のミスとやらで死んでしまっていいような人間じゃない。
それから望月冬夜の死を回避できる方法をたくさん考えた。できる限りそばにいるようにした。
あいつは不思議がって「そんなに僕のこと好きなんだ(笑)」なんて軽口を叩いていたので、軽く小突いてやった。
そしてついに、おそらく今日であろうという悪天候が来た。
スマートフォンでアプリを開き、望月にメッセージを送る。
『お前、今日は家を出るなよ!』
すぐに既読になり、返信を見るなり俺は家を飛び出した。
『え? 今駅前のレンタルビデオ屋さんに向かってるよ(笑)』
バカヤロウが! そんなの天気良い日にいけよ! 延滞料金が? 知らんわ!
豪雨の中傘もささずにぐしゃぐしゃになりながら走った。駅前まで徒歩10分ほど。周りの人を伺いながら全力で走った。クソ、傘が邪魔で顔が見辛い!
途中望月に似ている背格好のお兄さんにタックルしてしまって全力で謝った。優しい人でよかった。
らちがあかないのでスマホで通話を試みる。数回のコール音がもどかしくてたまらなかった。
『もしもし? どうしたんだ?』
「今建物の中か!?」
『いや、まだ着いてないよ。夏日から教えてもらったやつ、わりと面白かったけど都合良すぎてちょっと微妙だったかも(笑)」
「そんなことはいい……ってお前!」
すぐそばで通話と同じ声が聞こえて振り返ると、傘をさしながらのんきな顔をしてスマホを耳にかざしている望月の姿があった。
「うわ! 夏日どうしたのそれ、びしょ濡れじゃないか」
心配そうな顔でこちらに近付いてくる望月の頭上が、一瞬で眩い光に包まれた。
その瞬間何も考えずに望月へ全力でタックルをかました。
最後に見たのは、驚きと痛みで顔を歪めたあいつの顔だった。
もう少し、あいつと遊びたかったかもな。
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「というわけで、お前さんは死んでしまった。本当に申し訳ない」
俺は反射的に、その神様をグーで殴った。