SLAYER'S CREED 追憶   作:EGO

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遅くなって申し訳ありません。
ようやく始まりました、アンケート企画第二段。

とりあえずはプロローグ的な感じです。

本編よろしく一話目は一人称。誰の目線かは読んでくださればわかると思います。



Episode1 冒険の始まり
Memory01 運命が始まった日


 私にとって、その日はとてもおめでたい一日だった。

 一旗あげてくると勝手に意気込んで、声を荒げる親の反対を押しきる形で村を飛び出して、やっとの思いで街にたどり着いた。

 そのまま私と同じような年齢の人たちの流れに任せて、街に入ってすぐの建物、文字こそ読めなかったけど、きっと『冒険者ギルド』と書かれた看板を掲げた建物に入った。

 建物の中には昼間から楽しそうにお酒を飲んでいる人、真剣な面持ちで何やら話し合っている人、後は意気消沈してボケッとしている人。

 私と同じ只人(ヒューム)、長い耳と整った顔立ちが特徴の森人(エルフ)、寸銅な身体が特徴の鉱人(ドワーフ)、あとは一見子供にしか見えない圃人(レーア)と、村にいた頃にも見たことがある──今思えば、彼らも冒険者だったのだろう──人たちや、二足歩行の犬のような人たち──後で知ることだが獣人(パットフット)と呼ばれる種族だそうだ──と、そこにいる種族も、彼らが持っている装備にも統一性がなかった。

 ここは冒険者ギルド。一攫千金を求めてか、あるいは何か野望があるのか、自分の命を懸けて危険に挑む人たちが、様々な場から集まってくる場所だ。

 初めて来た街の、初めて来た場所ということで、私はキョロキョロと辺りを見渡して、ふと目があった森人の男性が微笑みを返してくれた。

 こちらは思わず硬い笑みで返してみれば、前を見ろと言わんばかりに手で示してくれる。

 慌てて前に目を向ければ、前に並んでいた人たちがほとんど捌けていて、何人かはそのままギルド端の掲示板の方に、何人かはギルド脇の建物を目指して歩き出していた。

 私は先程の森人さんに頭を下げると、「次の方、どうぞ」と凛とした女性の声で呼ばれた。

「はいっ!」と反射的に背筋を直して足早に受付に行けば、そこにはきっちりとした制服を着た女性がおり、三つ編みに結ばれた髪は手入れが行き届いているのか、艶々と輝いて見える。

 内心で「綺麗だなぁ」と気の抜けた事を思いながら、「よ、よろしくお願いしますっ!」と緊張で上擦った声が喉からこぼれた。

 受付さんは優しく微笑みながら「緊張しなくて大丈夫ですよ」と言ってくれて、こっちは思わずあははと乾いた笑みが漏れてしまう。

 こう、大人の女性というのはこういう人の事を言うんだろなと、わからないなりに思ったのだ。

 

「えっと、冒険者になりたくて来たんですけど……」

 

「わかりました。では、文字の読み書きはできますか?」

 

「できないです……」

 

 村から出てきたはいいものの、私は文字が書けないし、読めない。むしろ村でも読める人数の方が少ないくらいだ。

 心の中ではそう開き直るものの、目の前の受付さんは「かしこまりました」と頷いて、何やら書類を取り出した。

 

「では代筆いたしますので、口頭で構いませんから質問に答えてください」

 

「わ、わかりました!」

 

 そう、開き直った所でそれは受付さんの仕事を増やしただけだ。現に隣の人はつらつらと書類に筆を走らせて、次々と項目を終わらせていた。

 それを横目に申し訳なく思いつつ、私は受付さんの質問に答えていき、それを聞いた受付さんは流れるように文字を書いていく。

 そして一通りの項目が終わり、いよいよ冒険者にと思った瞬間──。

 

 バン!

 

 と、聞いたこともない音がギルドに木霊した。

 受付さんはビクンと肩を跳ねさせて驚きを露にするものの、とりあえず次の説明に行こうとするけど、

 

 バン!!

 

 先程と同じ音が響くと、不意打ちを受けた受付さんは「ひっ!」と小さく悲鳴をあげて身体を跳ねさせた。

 すぐさま平静を装うけれど、額には汗が浮かんでいて、口の端ッこがひきつっている。

 かなり無理して笑っているなぁなんて事を思っていると、受付さんの隣の人が彼女に耳打ちで何言か囁くと、「し、失礼しますね!」と言って足早にどこかへと行ってしまった。

 

「あ、あの……?」

 

「はい、後は私が引き継ぎます。えっと、書類の記入は終わっているから、認識票ですね!」

 

 突然の放置という事態に目を丸くしていると、すぐさま代わりのスタッフさんが受付に座り、書類をざっと確認してにこりと微笑んだ。

 ま、まあ、冒険者になれればそれで良かったから、話が進む分には構わない。

 

「ではこれを。絶対になくさないで下さいね」

 

 いくつかの注意事項を聞き終えて、頭から煙を噴いていた私を他所に、代わりのスタッフさんは白磁の認識票を取り出して、それを差し出してきた。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 長い長い説明を聞き終えて、だいぶ気力を削がれながらもそれを受け取った私は、ふらふらと受付を後にした。

 そのまま併設された待合室──というより酒場?──の手頃な座席に腰を降ろして、目を回しながら机に突っ伏した。

 念願の冒険者になれた、けれど問題はここからだ。

 誰かに声をかけて一党に加えてもらうか、自分から話しかけて一党を組んでもらうかしないとならない。

 初めての冒険をたった一人でなんて、それこそ自殺するようなものと、先程のスタッフさんに釘を刺されてしまった。

 初めて来た街に知り合いなんて居るわけもなく、同じ村から飛び出してきた人なんて誰もいない。誰がどう見ても一人っきりだ。

 

「あ~、どうしようかなぁ……」

 

「もし、一ついいだろうか」

 

 突っ伏して気の抜けた声を漏らす私に、声をかけてくる人がいた。

 喜びのあまりがばっ!と勢いよく顔をあげると、そこには先程目があった森人の男性がいた。

 彼は私の手のひらに納まっていた白磁の認識票を見ると、「ふむふむ、なるほど」と何やら納得したように頷いて、

 

「よければ、一党を組んではくれないだろうか。見たところ、武闘家か、あるいは剣を買う前の剣士と見えるのだが」

 

 と、興奮したように早口になって告げてきた。

 本来なら警戒したり、話を詳しく聞くべきなのだろうけど、この時の私は文字通り疲れていたから、

 

「あ、はい!えっと、父に武術を教えてもらっています!よ、よろしくお願いします!」

 

 そうやって即答して、頭を下げたのだ。

 今思えば、この森人さんが優しい人で良かったと思う。

 玄人(ベテラン)が新人から金目のものを奪い取る事があるなんて話、この時は欠片も知らなかったから……。

 なんて言い訳にもならないけど、結果的にはこれが私に起きた一つ目の良いことだった。

 

「よし!まずは一人目、いや、私たち(・・)を含めれば三人目か」

 

「私、たち……?」

 

 森人の男性の言葉に首を傾げると、彼は「ああ、そうだったな、申し訳ない」と呟いて、誰かに向けて手を振った。

 その合図を待っていたのか、その誰かはゆっくりと席を立つと、二本の杖を片手で担いでこちらに歩いてくる。

 身長は二メートル近く、ローブで見えにくいけどがたいがいいのがわかる。

 頭巾のお陰で顔はわからないけれど、杖を握る手は毛で覆われていた。

 

「……えっと?」

 

 そして私の目の前で足を止めたその人は、ゆっくりと頭巾を脱いで顔を見せてくれた。

 只人のそれとは違う、毛に覆われた顔から伸びる長い鼻とピンと立った耳、そして優しげな光がこもった瞳と、それとは対照的に鋭い犬歯。

 

「はじめまして、獣人とお会いするのは初めてですかな?」

 

「あ、はい。ごめんなさい……」

 

 優しく笑いながら頭を下げてきた獣人さんに合わせて私も頭を下げると、獣人さんは「どうぞ」と告げて杖を森人さんに渡した。

 

「ん……?」

 

 親しげにしている様子から昨日今日の関係には見えないけれど、私は遠慮なしに質問を投げ掛けた。

 

「あのお二人だけ、なんですか……?」

 

「ええ。一党に必須な前衛がかけておりまして、あと一人か二人ほど身繕いたいところですが……」

 

 私の質問に獣人さんが頷くと、困ったように頬を掻きながらギルド内を見渡した。

 

「私も、彼も、先日冒険者になったばかりでして。固定の一党と呼べるものがないのです」

 

「手頃な依頼は確保したのはいいが、いつもつるんでいた者たちが他の依頼に出てしまってな。まあ、声をかけておかなかったこちらに非があるのだが……」

 

 森人さんはそう言いながら一枚の紙を取り出して、「洞窟を探索して欲しいそうだ」と一言付け加えてくれた。

 文字が読めない私にとってはありがたい。

 

「ともかく、最低でもあと一人。できるなら斥候(スカウト)技能を持った方が必要ですな」

 

「……スカウト?」

 

 森人さんと獣人さんの会話についていけず、思わず首を傾げてしまった私に、獣人さんが解説してくれた。

 

「斥候。わかりやすく言えば、誰よりも速く敵を見つめ、罠を見つめ、不必要な危険から仲間を遠ざけつつ、仲間を導く役目を持つ人のことです」

 

「そんな人、いるんですか?」

 

「むぅ。それがわかれば苦労しないのだが……」

 

 獣人さんの説明をある程度理解した私が問うと、森人さんが苦虫を噛み潰したような表情になり、辺りを見渡した。

 この場にいる大半が冒険者であることはわかるけれど、誰がその斥候というものなのかがわからない。

 

「こうなれば、最終手段を使おう」

 

 森人さんが真剣な面持ちでそう言うと、ちらりと受付の方へと目を向けた。

 

「時間は有限だ。手っ取り早く聞きに行くとしよう」

 

「森人が時間は有限とは、面白い事を言いますね」

 

「……?」

 

 二人の息のあった言葉の掛け合いについていけず、私はまたも首を傾げた。

 ただまあ、せっかく声をかけてくれたんだからとりあえず──。

 

「私が行きます!」

 

 今度は私の番だと気合いを入れて、受付の方へと歩き始める。

 私の接近に気付いた受付さんは、申し訳なさそうな表情になると、小さく頭を下げてきた。

 

「え!?あ、あの!?」

 

「先程はいきなり席を外してしまい、申し訳ありません」

 

「あ、いえ。気にしてませんよ?」

 

「……ありがとうございます」

 

 突然の謝罪に多少狼狽えながら、私は顔の前で手を振りながら言うと、受付さんは再び頭を下げた。

 そしてすぐに顔をあげると凛とした表情に変わり、「では、ご用件を」と早速本題に。

 

「あの、冒険者の方で斥候をこなせる人を探していまして……」

 

「斥候技能のある冒険者の方、ですか……?」

 

 私の要望に困り顔になった受付さんは、身体を乗り出してギルドを見渡すと、「あ、彼なら」ととある人を示した。

 掲示板を前に仁王立つ一人の男性──の背中。着ている服は遠目でも高そうな印象があるのだが、黒い髪を適当にうなじの辺りで一纏めにして、どこかがさつな印象も受ける、何だか不思議な人。

 

「あの人、です……?」

 

「はい。最近冒険者になった、あなたと同じ白磁等級の方です。斥候兼戦士、と言った感じですかね」

 

 私が首を傾げると、受付さんは背中を押すように言葉を続けて、「どうでしょうか?」と確認してきた。

 ちらりと森人さんと獣人さんの方に目を向ければ、任せると言わんばかりに頷いてくる。

 いきなり会った私をここまで信頼してくれるのは嬉しいけど、何だか緊張してきちゃうよ……。

 私は一度深呼吸をすると、件の人物に向けて歩み寄っていく。

 

「あ、あの~?」

 

「なんだ」

 

 突然声をかけられたのが嫌だったのか、酷く機嫌が悪そうな声で帰した彼は、ゆっくりとこちらに振り向いた。

 夜空みたいに蒼い瞳と、口許にある大きな傷痕が特徴とも言える、それ以前にものすごく整った顔立ちをした只人の男性。

 年は私よりも少し上かななんて思いながら、ふと彼の視線が向いている方に気付いてしまった。

 顔を見ていたのは一瞬の事、彼の視線はすぐに私の身体に向いて、まるで値踏みするようにじっと見つめてきているのだ。

 村の男の人みたいに変な感じはしないけど、何だか心地が悪くて思わず足を半歩下げてしまう。

 そんな私の様子に気付いてか、男性は素早く言葉を放った。

 

「よく鍛えられているな。それに、俺の故郷では余り見ない髪の色だ」

 

 そう、突然褒めてきたのである。

 ただ村の人たちみたいに鼻の下は伸びていないし、何よりお父さんみたいに真剣な目をしてる。嘘ではない、と思う。

 

「え?えと、ありがとうございます……?」

 

 思わず照れて笑いながらお礼を言って、改めて彼の顔を観察した。

 蒼い瞳と口許の傷痕はともかく、よく見れば小さな傷痕も残されていて、それなりの場数を踏んでいる事がわかる。

 そうやってじっと見ていると、不意に彼と目があってしまい、思わず目を逸らしてしまう。

 考えてみて欲しい。こちらから声をかけたとはいえ村にいた人たちとは比較にならないほど顔の整った人と対面しているんだよ、そりゃ照れる。

 そうやって私が黙っていたからか、男性の方から声をかけてくれた。

 

「━━で、俺に声をかけた理由は」

 

「その、実は、私たち、これから『洞窟探検』に行くんです」

 

「そうか、頑張れよ」

 

 変に緊張してしまい、歯切れ悪く言うと、男性はたったの一言でそれを断じて視線を掲示板の方に戻してしまう。

 負けじと尻尾のように揺れる髪を引っ張って意識を戻してもらうと、再び言葉を投げ掛ける。

 

「なんだ。俺の髪はドアノブではないんだが……」

 

「実は、組んだ一党パーティーの中に『斥候』と『前衛』が欠けていまして……」

 

 彼の反応に多少申し訳なく思いながら話を進めると、彼は森人さんと獣人さんの方に目を向けて、目を細めた。

 

「そこで俺に声をかけた、と」

 

 彼は確認するように問いかけると、ちらりと受付の方にも目を向けて、仕方がないと言わんばかりに苦笑を漏らし、「わかった。付き合おう」と返してくれた。

 

「本当ですか!?」

 

 私が思わず問い返すと、男性はさも当然のように頷いた。

 

「何を驚く必要がある。頼まれたなら、手伝うさ」

 

「ありがとうございます!二人とも、大丈夫だって!」

 

 私は勢いよく頭を下げて、待合室にいた二人に向けて声をかけると、二人は嬉しそうに笑っていた。

 そのあと、今度は見ず知らずの男性の戦士さんが声をかけてきて、その人を交えた一党で依頼に向かうことになったのだ。

 

 

 

 

 

 双子の月に照らされた草原。

 本来なら洞窟に潜って、すぐに帰れる筈だったのに、私は、私たちはそこにいた。

 突然盗賊に襲われて、そのまま拐われてしまったのだ。

 そして、私たちを拐った盗賊団は今、

 

 ──全員が血の海になった草原に倒れ、誰一人として生きてはいなかった。

 

 その光景を作り出した斥候さんは、酷く疲れた様子で捕まった私たちを解放して回り、最後に私を助けてくれた。

 洞窟で勝手な行動した挙げ句、私ではなく彼が死にかけた。

 結果的に彼は拐われずに済んだんだけど、私たちの誰よりも疲れ、傷付いている筈だ。

 

「斥候さん……」

 

「……」

 

 私が声をかけても返事はなく、私を縛る鎖を黙々と外していく。

 突然解放されて倒れそうになった私を支えてくれて、どこからか持ってきた毛布を被せてくれた。

 真っ直ぐと見つめてくる蒼い瞳から逃れるように顔を俯かせると、不意に声をかけられた。

 

「少しいいか……」

 

「……はい」

 

 彼に呼ばれて顔をあげてみると、そこには無表情で左手首から短剣を生やした彼がいた。

 私は見たこともない武器に一瞬驚きはしたものの、すぐに察して身体から力を抜いた。

 殺されたって仕方がないことをしたのだ、彼が何をしようと受け入れるつもり。

 あまり知識はないけれど、盗賊団を壊滅させた腕があるのなら、きっと苦しませずに終わらせてくれる筈。

 そう、終わらせてくれる筈だったのに──。

 彼が左手を閃かせると反射的に目を閉じてしまい、彼が何をしたのかを見られなかった。

 だが、聞こえてきたのは首を貫く音でも、身体を貫かれた痛みでもなく、「ブチッ!」という糸か何かを斬った音だった。

 その次に感じたのは、私の髪が後ろで纏められ、何かで結ばれたことだ。

 

「……?」

 

 恐る恐る目を開けると、そこには微笑する斥候さんがいた。

 後ろで纏められていた髪が、だいぶ短くなっていることを除けば、先程と同じだ。

 

「この髪型のほうが似合っている」

 

「え……」

 

 髪紐が千切れて以降そのままとなっていた髪が、誰かの髪紐で止められている。

 目の前には髪紐が必要ないほど短髪になった彼がいて、私の髪は後ろで纏められいる。

 つまり、彼は自分の髪を切り、使っていた髪紐を渡してくれた?

 彼の笑みとその声音に、思わず涙が溢れそうになった私は、必死にそれを堪えながら声を出す。

 

「…あ、あの、斥候さん……?」

 

「どうかしたか?」

 

「私のせいで、あなたは━━」

 

「死にかけたが、こうして生きてる。問題あるか」

 

 大したことのないように言う彼に、ついに私は涙を溢れさせた。

 怒ってもいいのに、それが普通なのに、彼は何も気にせず、許してくれたのだ。

 彼の優しさに当てられてか、あるいはそんな彼に甘えてしまう自分が悔しくて、目から溢れる涙が毛布を濡らして、点々と跡を残していく。

 

「でも、私……」

 

 私はどうにか食い下がろうとするが、彼は困ったように肩を竦めて、何だか凄い迫力を放ちながら更に逃げ道を塞いできた。

 

「気にするなと言ったんだがな。俺としては、必死になって這い出たのに、肝心のおまえらがいなくて驚いたぞ」

 

「……うん」

 

 彼の言葉に素直に頷いて、とりあえず涙を止めようとするけど、こういう時に限って止まってくれない。

 ぐすぐすと嗚咽混じりに泣いていると、不意に彼の手が伸ばされ、優しく涙を拭ってくれた。

 そして困ったように笑うと、絶えず流れる涙を拭ってくれる。

 何だか子供扱いされているようで複雑だけど、抵抗もせずに甘えてしまう私は、まだまだ子供なのだろう。

 

「あー、お二人さん?」

 

 彼と私のやり取りは、戦士さんが声をかけてくるまで続いた。

 私は恥ずかしくなってすぐに俯いてしまったけど、斥候さんは気にもせずに戦士さんと話し始めてしまう。

 ただ話している斥候さんの表情には強烈なまでの疲労が残っていて、返す言葉もどこか気が抜けている。

 生き埋めになった挙げ句に私たちを追いかけて走り続けて、そのまま戦ったのだから当然だ。私なら途中で倒れているに違いない。

 そんな事を思っている内に彼の身体が揺れ始めて、そのまま倒れてしまう。

 

「斥候さん!?」

 

 私は慌てて彼の身体を抱き止めて、ゆっくりと地面に寝かせた。

 眠った、というよりは気絶したっていう方が正しいのかな。凄い硬い顔のまま寝てる。

 私はホッと息を吐いて、そっと彼の頬に手を触れた。

 

「ありがとうございました……」

 

 眠ってしまった彼にお礼を言って、私たちは装備を整えるべく盗賊団の野営地を走り回った。

 その間も、結局彼は目を覚まさなかった──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうやって思い出してみると、私たちって初仕事から盗賊に絡まれてるんだよね」

 

「いくつか俺も知らない情報があったんだが、まあ、確かにそうだな」

 

 陽が照りつける街道を進みながら、銀髪武闘家は可笑しそうに笑いながら告げて、隣を歩く斥候──ローグハンターと呼ばれるようになった彼もまた苦笑を漏らした。

 二人にとって出会いの話をするとなると、やはりこの戦いは外すことは出来ない。

 全くもって遺憾ではあるがあれが出会いなわけだし、何より二人での初仕事の話だ。

 

「それで、お前の村まではあとどれくらいかかるんだ?」

 

「うん。2,3日も歩けばすぐだよ」

 

「そうか……」

 

 銀髪武闘家の言葉にローグハンターは真剣な面持ちで頷き、青空を見上げた。

 雲一つないことはいいことだが、照りつける陽の光は確実に体力を奪っていく。

 

「まあ、のんびり行こう」

 

「せっかくのお休みだからね」

 

 ローグハンターは額の汗を拭いながらそう言うと、銀髪武闘家は嬉しそうに笑いながら頷いた。

 仕事抜きで彼と二人きりで出かけるなど、偉く久しぶりに思えて仕方がなく、余計に気分が上がってしまう。

 

「でも、大丈夫かな?私、喧嘩して出てきたようなもんだよ?」

 

「まあ、大丈夫じゃあないか?」

 

 銀髪武闘家の質問に、ローグハンターはどこか適当に返すと、天高く舞う鷲に目を向けた。

 

「人生、わからないものだな……」

 

「そうだね~」

 

 あの時出会った二人は、今や仲間を通り越して男女の仲で、今から彼女の両親に会いに行くのだ。

 

 

 

 

 

 これは、二人がここに至るまでの物語。

 

 盤の外から転がり込んだ一人のテンプル騎士と、彼と添い遂げると誓った一人の女性が、結ばれるまでの物語。

 

 ──後に世界を救う、二人の英雄の始まりの物語だ。

 

 

 

 

 

 SLAYER'S CREED 追憶

 

 Episode1 冒険の始まり

 

 




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