SLAYER'S CREED 追憶   作:EGO

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Memory03 妖術師(ワーロック)を探せ

 翌日、ギルドの待合所。

 いくつかある卓の一つを占拠する形で、斥候、男戦士、獣人魔術師、森人司祭、銀髪の武闘家が集っていた。

 彼ら全員に見えるように置かれているのは、一枚の依頼書だ。

 曰く、家畜の動物たちが臓物だけを抜かれて殺された。

 曰く、そこには獣ではなく、人のそれに近い何かの足跡があった。

 曰く、直視も絶えない姿をした謎の人物が、家畜の臓物を盗んでいった。

 曰く、それからというもの作物の育ちが悪い。

 曰く、村近くの木々が腐り、獣や家畜たちも病にかかってしまった。

 などなど、件の妖術師(ワーロック)の仕業と思しき被害が書きつられており、最後に今回の依頼の概要が書かれていた。

 

 ──このままでは村の者にまで手を出されると、皆が不安があっている。どうかその犯人を討伐して欲しい。

 

 ギルド職員が書き直したものではあるが、そこに込められた想いは確かに受け取った斥候が、他の四人に問う。

 

支部長(うえ)からの推薦だが、どうする。嫌なら俺一人でも行くが」

 

「勿論受けますよ。相手は妖術師、術には術で対抗するのが常。──とまでは言いませんが、確実です」

 

 彼の言葉にいの一番に応じたのは獣人魔術師だ。

 顎に手を当てながら、「個人的に気になる事もありますし」と少々強めの好奇心を覗かせながら言うと、隣の森人司祭も「私も行こう」と続いた。

 

「慈悲深き地母神の信徒として、見過ごせん」

 

 目に確かな意志を込め、いつもの気軽さはどこに行ったのか、真剣な面持ちで告げた。

 男戦士が脇を小突きつつ「で、本音は」と問うと、森人司祭は赤面しながら咳払いをした。

 

「ある人に贈り物をしたくてな、金が入り用なのだ」

 

「もしかして、あの店の女給か……?」

 

「ち、違う!世話になった同僚の誕生日なのだ!」

 

 男戦士の問いかけに顔を真っ赤にして否定すると、言われた彼は頬を掻いた。

 

「まあ、そういうことにしとくとして。──俺も行くさ」

 

 森人司祭を一通りからかい終えたからか、今度は男戦士が真剣な面持ちとなりながら告げて、斥候の肩を叩いた。

 

「お前一人じゃあ、なにをしでかすのか不安だからな」

 

 また倒れられたら事だと付け加え、再び依頼書に目を落とした。

 もっとも文字は読めないのだ。何を書いてあるかは、文字が読める斥候と獣人魔術師、森人司祭の三人の言葉を信じる他ない。

 と、そこまで考えて、なんとも静かな銀髪の武闘家に目を向けた。

 彼女も依頼書に目を落としてはいるが、頭から煙を噴いている。

 

「あー、行くかどうかだけ聞かせてくれ」

 

「行きますっ!」

 

 気を利かせた男戦士の問いかけに、銀髪の武闘家は思考停止していた事を誤魔化すように勢いよく言うと、「全会一致ですね」と獣人魔術師は満足そうに頷いた。

 四人の意見を確認した斥候も頷くと、「なら、受領してくる」と告げて席を立つ。

 今は受けるかを保留にしていたのだ、正式に受ける旨を受付で言わなければならない。

 ざっと見て空いていた受付へと足を進めて、姿勢を正したまま待ち構えていた受付嬢の前に立つ。

 

「おはようございます」

 

 それに合わせて受付嬢がにこりと微笑んで頭を下げると、三つ編みに結われた髪がゆらりと揺れた。

 その笑みはあくまで仕事ととして浮かべているものではあるが、新人だからかどこかぎこちない。

 

「ああ、おはよう。依頼を受けたい。手続きを頼む」

 

 もっともそれは、長年人と対峙してきた斥候だからこそ気付けるもので、他の者が見ても違和感を感じることはないだろう。

 だがそんなものを気にするほど、この男は繊細ではない。彼女と自分とでは為すべき事が違うとわかっているのだ。

 

「かしこまりました」

 

 受付嬢は依頼書を受け取り、必要箇所にペンを走らせると確かにと頷いた。

 

「では、お気をつけて」

 

「わかっているとも」

 

 受付嬢の気遣いに素早く切り返すと、「また来る」と続けて背を向けた。

 彼の背を見送った受付嬢は僅かばかり心配そうな面持ちとなるが、斥候に気付いた様子はない。

 むしろ彼はなぜか睨み付けてくる槍を担いだ同業者に一瞬目を向けて、すぐに視線を外した。

 道が交わるかもわからない相手を気にしていては、いちいち仕事をやってはいられない。

 足早に待合所に戻った斥候は仲間たちに「行けるぞ」と一言告げて、彼らは各々の声で彼に応じた。

 

「だが色々と買い物は必要だろう。とりあえずは準備だな」

 

 続けてされた指示にもそれぞれ応じ、何が必要かと話し合いを始めた。

 水薬(ポーション)はあるか、食料は、その他物資は足りているか。

 冒険者は命懸けではあるが、上手くやれば一攫千金を得られると、世間的には思われている。

 だが事実は違う。受け取った報酬の大半は次の仕事の準備に消えて、手元に残るのはほんの僅かだ。

 贅沢がしたいと予算をけちって準備を怠れば、そのつけを自分の命で払うことになり、結果金は無駄になる。

 

 ──ままならんな……。

 

 斥候は顎に手をやりながら目を細め、ため息を漏らした。

 どうにかして故郷に戻りたいが、どうすれば帰れるかわからない以上、最低限の衣食住を確保しなければならない。

 それが出来なければ、そこらの道端で無様にもの垂れ死ぬことだろう。

 そうなる訳にはいかないが、果たして依頼の先から無事に帰れるかと問われれば首を傾げる他にない。

 この世界はあまりにも未知だ。故郷での技がどこまで通じるかなぞ、わかるものか。

 そういう意味でも、今回の依頼は渡りに船というもの。

 術師相手にどこまでやれるかを知るという意味でも、何かあれば対応できる術師が後ろにいるという意味でも、仲間たちがいて頭数が多いという意味でも、これ以上の場はあるまい。

 

「準備が終わり次第出発するぞ。各々、不足がないように」

 

 斥候はその言葉をもって会話を終了とし、一党の面々は蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの準備に取りかかる。

 天上で神々が見ているのだ。下手な姿は見せられまい。

 それに、と斥候は目を伏した。

 

 ──こんな場所で、死にたくはないからな。

 

 死ぬのなら戦場で。仇敵(アサシン)を一人でも多く道連れにして、だ。

 その為ならば、どんな障害であろうと越えてやろう。

 

「運は自分で掴むもの。だよな、先生」

 

 ほんの僅かに頬を緩めながら、誰に言うわけでもなく呟く。

 世界を越えようと、敵が訳もわからない異形になろうと、その言葉の重さは変わらない。

 彼はそれを噛み締めながら、準備に取りかかる。

 準備も不十分なのに運を掴めることなど、ありはしないのだから──。

 

 

 

 

 

 辺境の街を出てはや三日。

 途中で夜営を挟みながら移動し、どうにか依頼を出した村にたどり着いた一行は、目の前に広がる村を見つめながら唖然としていた。

 

「……想像していた以上に、逼迫(ひっぱく)していないか」

 

 男戦士が頬に汗を流しながら言うと、街を出てから四六時中目深くフードを被っている斥候が頷いた。

 まだ入り口なのだが、村の空気が淀んでいるのを肌で感じるし、何かを焼いているのかあちこちから煙が立っている。

 

「長居しない方が良さそうです。手早く行きましょう」

 

 獣人魔術師が口許を布で覆いながら言うと、一党全員が同意を示した。

 同時に斥候が歩き出して門を潜ると、それに続いて冒険者たちも門を潜って村に入る。

 辺境の街の周囲にもある開拓村の一つ。建物はどれも木造だし、村を囲う塀も素人が苦戦しながらも作ったというのが目に見えてわかる。

 村を行き交う人たちに覇気はなく、不安と恐怖に蝕まれている。

 

「……なんだか、嫌な雰囲気ですね」

 

 村を進みながら辺りを見渡していた銀髪の武闘家が言うと、森人司祭が悲痛な面持ちになりながら返す。

 

「何年か前、旅の途中で見かけた村を思い出す。流行り病に呑まれ、いつか来る終わりを信じ、ただ堪え忍ぶしかなかった村に。あの頃は地母神の教えを受けていなかったから癒す術もなく、何もできなかった」

 

「そんな、ことが……」

 

 触れてはいえない場所に触れてしまったと、申し訳なさそうにする彼女に、森人司祭は「いや、気にしないでくれ」と苦笑を漏らす。

 

「森人にとっての何年か前だ。只人で言えば何十、何百年も前のこと」

 

「だが、覚えてはいるんだな」

 

 話を聞いていたのか、不意に振り向いた斥候がそう問うと、森人司祭は優雅に肩を竦めた。

 

「何年経とうとも、忘れられないことはあるさ。お前とて、そうだろう?」

 

「……そう、だな」

 

 彼の言葉に何かを思慮してから頷いた斥候は正面に向き直ると、村でも一際大きな家に目を向けた。

 村長の家というのは他の家に比べて一回りは大きい。初見でも見つけるのは楽だ。

 その家の玄関前に立ち止まり、手入れはされているもののそれなりの年期を感じるノッカーを手に取り、数度叩く。

 

「依頼を受けてきた。村長はいるか」

 

「はい、おりますとも。お待ちくだされ」

 

 斥候の呼び掛けに応じたのは、酷く疲弊してやつれた声だった。

 がちゃりと音をたてて玄関が開き、顔を出したのは杖をついた初老の男性。

 所々ほつれた服を着てはいるが肉付きが悪く、僅かに骨ばっているようにさえ見える。

 

「冒険者の方々、ですかな……?」

 

「ああ。問題解決を依頼された」

 

 ぜえぜえと喘ぎながら放たれた村長の問いに斥候は即答し、「俺を含めて五人だ」と付け加える。

 言われた村長がちらりと冒険者らに視線を送り、「ありがとうございます……」と頭を下げた。

 それに各々が小さく礼を返すなか、斥候が単刀直入に問いかけた。

 

「さっそくだが、件の妖術師の居場所はわかるか」

 

「いいえ。申し訳、ございませんが……」

 

 村長はゆらゆらと首を振りながら返すと、「どこか、村の近くに、いることは確かなのです」と切羽詰まった声音で返す。

 そんな彼の心情を察してか、斥候は村長に「落ち着け」と一言告げてから言葉を続けた。

 

「別に途中で投げ出すつもりはない。だが、探す分時間はかかるぞ」

 

「かしこまり、ました。どこか、宿を身繕いますが……」

 

「それはありがたいが、詳しくは後だ。上手くやればすぐに終わるかもしれん」

 

 斥候は村長の厚意を受け取りながらも、やんわりと断りを入れて、一党の方に目を向けた。

 

「村を回って妖術師の情報を集めてくれるか。俺も調べてはみるが、限界はある」

 

「では、私は森を見に行こう。枯れた木々が気になる」

 

「ならば、私は殺された家畜の検死を。なにかわかるかもしれません」

 

「なら俺は──」

 

 森人司祭が森に、獣人魔術師が家畜を調べると宣言すると、勢いのままに口を開いた男戦士は何をするかと悩み、同じく悩み顔の銀髪の武闘家に目を向けた。

 

「こいつと一緒に、妖術師を見たって人に聞き込みでもしてみる。見知らぬ男一人よりはいいだろ」

 

「わ、わかりました!」

 

 銀髪の武闘家が彼からの提案に驚き半分で応じると、斥候は四人を見渡しながら「頼んだ」と告げ、村長の方に視線を戻した。

 

「俺は足跡を調べよう。場所はどこだ」

 

「では、順を追って、案内いたします」

 

 彼らの方針を認めたのか、村長は杖をつきながら歩き出す。

 農作業で意図せず鍛えられてはいたのだろう。杖こそついているが足取りは確かなもので、冒険者たちは目配りの後にその後ろに続く。

 ともかく目標(ターゲット)の発見が急務だ。一刻もはやく村を救わねば、犠牲者が出てしまう。

 

 

 

 

 

「さて、ここか……」

 

 家畜を育てる為に確保されたであろう広場に立ちながら、斥候は目を細めた。

 依頼が出されてから、自分たちがここに来るまではどの程度なのかはわからないが、おそらく一週間前後。

 

 ──視えるだろうか……。

 

 斥候は僅かな懸念を脳裏に持ちながら、目を閉じると共に一度深呼吸。

 そうして意識を研ぎ澄ませながらゆっくりと目を開き、タカの眼を発動した。

 父親譲りの、あるいは先祖譲りの、誰かが残した痕跡や、敵意、殺意の関知を可能とする謎の力。

 幼い頃から使えるのが当たり前で、自然に鍛えられたその力は、まだまだ伝説(アルタイル)最強(エツィオ)のそれには遠く及ばないが、四方世界においては破格の力だ。

 奇跡ではないため使用回数に限界がなく、魔術でもないため疲れることもない。

 まあ便利な反面、使用中は視界が暗くなることや、音が聞きづらくなるなど、デメリットもあるのだが、ここでは問題にはならない。

 暗くなった視界に浮かび上がるのは、金色に輝くいくつかの足跡と、柵の一角だ。

 斥候は足跡に近寄ると側で片膝をついて座り、消えかけの足跡を撫でた。

 

 ──古い足跡だ。ここに何かきたのはやはり一週間は前だろう。それに、なんだこの形は。人のそれに近いが、まるで骨が歩いたようだ。

 

 そこまで思慮した斥候は立ち上がり、次は柵に手を置いた。

 

 ──この柵だけ妙に新しい。妖術師が壊したものを直したのか。なら、奴の拠点はこの方角か。

 

 斥候は柵の外に広がる枯れた森に目を向けて、低く唸った。

 森には森人司祭がいた筈。彼の意見を仰いだ方が良いだろう。

 そう思うが早く、斥候は柵を乗り越えると森へと歩き出した。

 周囲の森に比べて木々が枯れ果てており、足元には枝や葉が大量に落ちている。

 一歩を踏み出す度に枝を踏んでしまい、パキパキと乾いた音が漏れてしまう。

 こればかりはどうしようもないと斥候はため息を漏らし、一際大きな木の前に立つ森人司祭に声をかけた。

 枯れた森の中に立つ彼の背中には哀愁が漂い、天を仰いでいるのは祈りを捧げているようだ。

 森人の森に生き、森で死ぬのが常であり、森とは家族のようなもの。

 それが寿命や落雷などの自然災害以外で枯らされるのは、いたく気に入らないのだろう。

 

「──どうだ」

 

 そんな彼に少々遠慮しながらも問いかけると、森人司祭は振り向き様に言う。

 

「可哀想に。あと何百、何千年もあった寿命を吸いとられたのだろう。根も腐っている。これでは強風が吹くだけでも倒れてしまう」

 

「自然に枯れた、可能性はないか」

 

「ああ、これは誰かが作為的に枯らせたものだ。森人の末端に籍を置くものとして、それだけは断言できる」

 

 斥候の問いかけに少々の怒気を込めて返すと、「度しがたい悪党めが……っ!」と整端な顔立ちを怒りで歪ませる。

 

「どこが拠点かはわかるか」

 

「どうだろうな。拠点から帯のように伸びているのならまだしも、枯れているのはこの一帯だけだ。絞りこむのは難しい」

 

 強烈な怒りを覚えながらも、それでも冷静さを失わない森人司祭だが、それでも苛立ちを隠せずに腕を組ながら言うと、斥候は「そうか」と返した。

 

「俺は一度村に戻る。何かあればすぐに連絡してくれ」

 

「ああ。一人で挑む愚は犯さん」

 

 斥候の言葉に森人司祭は真剣な面持ちで頷くと、斥候は彼に背を向けて村へと足を向けた。

 パキパキと音をたてて枝や枯れ葉を踏み抜きながら、斥候は顎に手を当てて思慮を深めていた。

 

 ──森を枯らす理由はなんだ。あいつは吸いとられたと言っていたが、何のために……。

 

 物事には必ず理由があり、それは人の行いにも当てはまる。つまりは動機があるわけだ。

 

「……わからんな」

 

 だが、相手は未知の妖術師。自分にとっての常識では測れない。考えようにも全くわからないのだ。

 むぅと低く唸った斥候は、先程乗り越えた柵を通って村に戻り、その足で獣人魔術師の下を目指した。

 彼は殺された家畜の検死をしている筈だと、広場からいくらか行った場所にある建物に入った。

 牛か、馬でも入れていたのか、仕切りで分かれた部屋がいくつも並んでおり、街外れの牧場ほどではないが中々の大きさだ。

 きっと村の発展に貢献していたであろうその場所も、今では死体の腐った臭いと家畜たちの糞尿の臭いが混ざりあい、嗅覚を破壊しつくし、目にも染みてくる悪臭にみちみちていた。

 

 ──なんて臭いだ!あまり長居はしたくない……。

 

 流石の斥候も表情を歪め、目を潤ませながら慌てて口許を布で覆った。

 

「おい、いるか!」

 

「ええ、こちらに」

 

 臭いにやられて探すのも億劫になった斥候が声を出すと、部屋のひとつから毛に覆われた腕が伸び、ぶんぶんと振られた。

 斥候は小走りでそちらに駆け寄ると、その部屋を覗きこみ、「どうだ」と問いかけた。

 獣人魔術師は放置された牛の死骸──腹を裂かれた上に、目玉をくりぬかれている──を前に、メモを取りながら情報を纏めている。

 

「ええ。多少ならわかりましたよ」

 

 彼はそう言いながら振り返り、口許を布で覆い、目元も何やら手製のゴーグルで覆っている顔を斥候に向けた。

 

「臓物を抜いてそれ以外を捨て置いたのは、何かの術に必要なのは臓器だけだからでしょう。悪魔の召喚か、自身になにかしらの術をかけたいのか、ともかく何かをしようとしています」

 

「止めるなら、急いだ方が良さそうだな」

 

「ええ、村人の限界もあります。私も多少なら予想していましたが、村の現状はそれ以上に悪いです」

 

「ああ。見ればわかる」

 

 獣人魔術師の言葉に村の現状を思い出すと蒼い双眸を細め、重々しく頷いた。

 やはり今回の依頼はスピード勝負だ。一刻もはやい解決──妖術師の討伐が必要のようだ。

 

「他に何かわかったか」

 

「いいえ。牛や馬、鶏と、殺された動物の種類はともかくとして、その数に法則が見つかりません。見つけ次第殺している可能性が高いです」

 

「そうか。ありがとう」

 

「お気になさらず。我々は仲間なのですから」

 

 笑みを浮かべながら告げられた言葉に、斥候は小さく頷くと「また後で」と返した。

「ええ、また」と手短に返した獣人魔術師は再び死骸に目を戻し、作業に戻る。

 斥候は邪魔をしないように足音を立てずにその場を離れ、建物から外に出ると、口許の布を退かして深呼吸をした。

 淀んでいる筈の空気でもまだマシに思える辺り、建物内の臭いは相当に厳しいものだ。

 

 ──今度、何か奢ろう……。

 

 彼は心中で獣人魔術師に感謝と共に、それを形にする算段をたてながら、男戦士と銀髪の武闘家が聞き込みをしている家に向けて歩き出した。

 途中ですれ違う村民たちが妙に慌てて離れていくことに気付いた彼は、裾に顔を寄せて臭いを嗅いだ。

 

 ──これは、駄目だな……。行く順番を間違えた。

 

 滞在こそ短時間だったものの、やはり臭いがこびりついてしまったようだ。

 彼は深々とため息を吐くと、霞を払うようにローブの裾を払う。

 まあその程度で臭いが落ちるわけもなく、本当に気分だけなのだが、なにもしないよりは良いだろう。

 そんな事をした彼は再びため息を吐き、件の家が目前に迫った頃、件の家から慌てた様子の男戦士と銀髪の武闘家が飛び出してきた。

 

「……?どうした」

 

「せ、斥候さん!?その、えと、た、大変なんです!」

 

 突然の事態に首を傾げた斥候を他所に、銀髪の武闘家は慌てながら説明をしようとするが、言葉が出ずにただ手を振り回すのみ。

 

「だから、どうしたんだ」

 

 とりあえず話ができそうな男戦士に目を向けて問うと、彼は「息子さんがいないって、騒ぎになっちまったんだよ!」と怒鳴り付けるように声を張り上げた。

 

「息子。容姿はわかるか」

 

「あーと、五歳くらいの男の子。何でも隠れ家に行くって出ていったきり、帰ってこない。止めたらしいんだが──」

 

「それが分かれば十分だ」

 

 斥候は男戦士の言葉を断ち切る形で告げると、瞬き一つでタカの眼を発動し、その少年の痕跡を探し始める。

 子供というからには小さい足跡。加えて、子供が駆けていったのなら歩幅もそれなりだろう。

 ざっくばらんな情報しかないが、それだけあれば本当に十分なのだ。

 彼の眼はすぐさま情報を処理し、件の少年のものと思しき痕跡を浮かび上がらせた。

 村の道を通ったそれは、枯れた森の方へと伸びていっている。

 

「面倒なことになりそうだな。二人は他の二人と合流してくれ」

 

 彼は囁くような声で悪態をつくと、痕跡を追って走り出す。

 突然走り出した彼に、男戦士と銀髪の武闘家は思わず狼狽えるが、その背中を追いかけて走り始める。

 何が見えているのかはわからないが、彼の足取りに迷いはなく、流れるような動作で柵を飛び越えて森へと突ていった。

 

「何やら騒がしいですが、何事です」

 

 村の騒ぎが気になったのか、獣人魔術師が建物から出てくると、男戦士が「問題発生だ!」と告げて目の前を横切っていく。

 

「なるほど、余裕はなさそうです」

 

 同時に重大なことが起きたと判断した獣人魔術師が二人の背中を追いかけ、種族的な差ですぐに追い付き、三人揃って森に突入。

 途中で彼らが駆ける音に誘われた森人司祭も合流し、四人で遠くに見える彼の背を追いかける。

 

「──って、差が埋まらないんですけど!?」

 

「一切の無駄なく走っていますからね。当然かと」

 

「むぅ、同胞の動きに似ている。只人にしては軽やかだ」

 

「誉めてる場合じゃ──って、止まった?」

 

 倒木を一跳びで越えたり、スライディングで潜り抜けたりと、見るからに忙しい彼の動き(フリーラン)に各々が驚いたり、冷静に解析したり、唸っていたりしていると、不意に立ち止まり、後続の自分たちに向けて手を振った。

 顔を合わせて彼の下まで駆け寄ると、当の彼は枯れた木の根本に開いた大穴の前にしゃがみこんでいた。

 ちらりと穴の中に目を向けて見れば、なにかに怯えて震えている男の子がいるのが見える。

 件の息子さんだろうかと思慮する銀髪の武闘家を他所に、斥候は「大丈夫か」と問いかけながら手を伸ばす。

「ひっ」と悲鳴をあげて身体を強張らせる男の子に対して、斥候はフードを脱ぎ去ると優しく微笑み、「もう大丈夫だ」と告げて、改めて手を伸ばした。

 

「帰ろう。お母さんが待ってる」

 

「化け物、怖い化け物がいる!みんな、殺されちゃう!」

 

 そんな彼の手を掴んだ男の子は、切羽詰まったような声音で捲し立てると、斥候は「わかってる」と答えて一度頷いた。

 

「その化け物を殺しにきた。どこにいるかだけ、教えてくれ」

 

「む、向こうの洞窟。お兄さんたち、なんなの……?」

 

 彼の言葉に落ち着いたのか、あるいは彼に敵意がないことを知って安心したのか、男の子は斥候たちを見上げながら問いかけた。

 

「俺たちは冒険者だ。化け物退治なら任せろ」

 

 男の子を助けお越しながら斥候が言うと、獣人魔術師が、森人司祭が、男戦士が、銀髪の武闘家が頷いた。

 彼らは冒険者。祈る者(プレイヤー)を守り、祈らぬ者(ノンプレイヤー)を倒す者だ。

 

 

 

 

 




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