A.LastOriginのムチムチドスケベ女体勢
またもやとりなんこつ先生に三次創作を書いて頂けました!
相変わらずの解像度の高い藤兵衛でオススメです!
https://syosetu.org/novel/264273/
天下泰平は己の心にあるを最近掲げて生きている江戸時代。
妙光尼が絵図を描いていた悪事無双の後始末を何とか終えた儂が今どうなっておるかと言うと。
「……つめたっ!? ……なんぞこれ?」
「けっ、やぁっとお目覚めか」
気持ちよく爆睡してたところを、顔面に冷や水をぶっかけられておった。
いや待て何でこうなっとるの、というか簀巻きに何でされとるの? 儂。
色々と町人に拝まれたり何やらする事はあれど、儂自身恨みを買ってないとは言えぬのは事実じゃが。
それはさておいても、ここまでいきなりされるのさすがに想定外じゃ。
そもそも、何で儂こうなってんの? ええっと、昨晩は確か……。
そうじゃ、長女であるおとよと一番の側近である新右衛門が恋仲である事が判明して……。
そんでもって、突然の内容に儂は顎が落ちるほどに驚き、それでも何とかその場は取り繕って凌いだんじゃ。
じゃけども、その後どうなったんじゃったっけ。
「ち、父上……何故こんな事を……?!」
「鷹丸、これも恨みを晴らす為。そして借金を返し店を盛り立てる為じゃ」
簀巻きにされた儂の耳に、二人の言葉が入ってくる。
確か片方は……アレじゃ、正妻であるおさよを醜女とこき下ろした上棟平屋と嫁の実家である椚屋を潰そうとした、黒檀屋の主人の声じゃな?コレ。
「おい、こいつをダシにすれば本当に金は返せるんだろうな?」
「へ、へい!この男の商売のからくりと店の金を奪えればすぐにでも!」
簀巻きにされたまま転がり、声のする方へ顔を向けると……。
顔に傷のあるヤクザ者に対してへいこらしている黒檀屋の主人と、その様子を複雑そうな顔で見ている黒檀屋の倅がおった。
あ、倅がこちらに気付いたけど申し訳なさそうに目を逸らしおった。
そう言えば、昨晩は。ええと……。
『おろろーん!おろろーーーん!!』
『藤の旦那ぁ、そんぐらいにしといた方が……』
『しゃらぁっぷ!店主今日の会計は全部わしがもつ!つまりぜーんぶわしのもんじゃ!飲み食いしきれんもんは全部恵んでやるし他の客の会計ももってやるわ!じゃから好きにさせろぉ!おろろぉーーーん!!』
どう考えても自業自得です、本当にありがとうございました。
そうじゃ、んで最後に意識を失うぐらいの時に黒檀屋の倅と……もう一人の誰かとで、介抱してくれたんじゃ。
……あれ?じゃあなんで儂簀巻きになってんの?
「しかしでかしたぞ鷹丸、お前のおかげでにっくき棟平屋に恨みを晴らすだけではなく黒檀屋も助かるわい」
「わ、私はそんな事の為に棟平屋を助けたわけじゃありません!」
振り返っている儂に対して、嘲笑がこびりついた顔を向けながら倅である鷹丸君をほめそやす黒檀屋。
しかしその言葉に対して、納得いかないと言った調子で鷹丸君は反論している……まさに鳶が鷹を産んだってヤツかの?
いつもこんな状況に陥ったら、すぐに新右衛門が駆けつけてくれるもんじゃが……。
昨晩屋敷を出る前に、ついてくるなとめっちゃ厳しく言ったの儂じゃもんなぁ……さすがに助けて新右衛門ってのは道理が通らぬわ。
「しかし父上!こんな事で店を盛り返しても、すぐにお役人様に見つかります!」
「役人なぞ銭を掴ませればころりと転ぶわ」
その役人に掴ませる銭は何処から調達するつもりなんじゃろ?ああうちの店潰して確保する気か……なんじゃその自転車操業。
しかしこう、どうも話を聞くにあのヤクザ者は黒檀屋に金貸しをしている一味で、黒檀屋の倅は善意で儂を介抱したが……。
儂に恨みがある上、商売的にのっぴきならない状況の黒檀屋にしてみたら、鴨がネギしょってやってきた状態であったというワケじゃな。
何じゃこの地獄、どないしょ。
しかしこう、仮に黒檀屋の要求に乗ったとして、儂が生きたまま解放される可能性は……低いじゃろうなぁ。
いやじゃいやじゃ!儂はまだ死にとうないし……。
何よりも!
『へぇ旦那の娘さんに良い男が出来た、と。めでてぇ話じゃねぇか!』
『おろろーんおろろーん!そうは言うても男親としてのあれやそれがじゃなぁぁぁ!』
『娘ってのはいつかは巣立つもんだろ?それとも娘さんが好いてる男に何か問題でもあるんでぃ?』
『……いや、ない。新右衛門は血の繋がってない、儂の長男のようなもんだしイイ男じゃ。娘を託すにこれ以上相応しいのはおらん』
『なんでぇ、旦那の腹積もりはもう決まってんじゃねぇか!』
昨晩、何軒目かもわからない酒場で愚痴に付き合ってくれた遊び人の金さんと名乗ってた男の言う通りじゃったんじゃ。
儂の初子であり、目に入れても痛くない愛娘を託せるのは新右衛門しかおらん。その二人を祝福もせずに死ぬわけにはいかんのじゃぁぁぁ!!
あ、そうじゃ思い出した。
儂を介抱してくれてたの、黒檀屋の倅と金さんじゃった。
「ぬおおぉぉぉぉぉ!!」
「げ、なんだコイツ!急に暴れやがって!」
簀巻きの状態で壁まで転がり、必死に壁によりかかりながら立ち上がるとぴょんぴょこぴょいと跳ねて儂は脱走を試みる。
ここがどこかもわからんし、騒動を起こしても誰にも気づかれないかもしれん。
しかし、諦めるわけにはいかんのじゃ!そう、これは自由と未来へ向けた儂の大脱出!
「おとなしくしてやがれ!」
「あふん!?」
そして後ろからヤクザ者に思い切り蹴りを入れられて顔面から地面にビタァンと倒れ込む儂、大脱出終了のお知らせであった。
「良い恰好ですなぁ棟平の大旦那。助かりたければ最近の景気の良さを私共にも分けて頂けませんかねぇ?」
「……いやそうは言うても、家内への暴言も水に流してやるから傘下に降れ言ったのに突っぱねたのお主じゃろ」
顔面から転んだ儂の襟首をつかんで起こした黒檀屋が、ニヤニヤとした笑みを顔に張り付けながら儂を見下して言葉を吐きおる。
あの時は儂も若かったし、不毛な商売合戦繰り広げるのも嫌じゃったから降伏勧告したんじゃが……。
突っぱねた上客をコケにした商売続けた結果、困窮しておるんじゃもん。自業自得じゃろ最早。
「大店である黒檀屋が棟平屋なんぞの下につけるか! ええい、貴様が大事にしとる家族とやらも店も全て儂のモノにしてやる。尤も貴様が大事にしとる女共はいらんがなぁ!」
「……性根が腐っておるのう、第一お前なんぞに儂の商売は真似できんわい」
「抜かせぇ!」
調子こいたこと抜かしてきた黒檀屋の言葉を、鼻で笑い飛ばしながら挑発した儂。その言葉に顔を真っ赤にした黒檀屋、儂を全力で蹴り飛ばす。
ぎゃふん!?と叫びくるくると回転しながら転がり、監禁されていた部屋の障子を突き破って屋敷の中庭に転がり落ちる儂。地味にいてぇ!
太陽の高さ的に、どうやら今は昼前ごろらしいのう。
……ここはあれか、黒檀屋の屋敷かの? なんか荒くれ共があちこちに屯しとるが、コレ全部借金取りかの?
視界の隅には父親を止めようとするも、しかし動けず申し訳なさそうにしとる倅も見えるわ……。
「鷹丸、水車責めの準備をしろ!こいつは徹底的に痛めつけてやらんと気が済まん!!」
「ち、父上!そこまでするのは人の道理に外れ過ぎております!」
「ええい!父親の言う事を聞かぬ息子がどこにおる!とっとと準備せい!!」
気炎を吐く黒檀屋、変わっておらんのうコヤツ。普段は知的ぶってるくせにちょっと突くとすぐぼろを出すわい。
必死に父親を止めようとする倅君だが、容赦なく顔を殴打されて床を転がっておるわ。
けどもさすがに水車責めは勘弁じゃ…………どないしょ。
「誰か助けてくれんかのう……」
「おう、呼んだかい。旦那」
簀巻きになったまま屋敷の中庭に転がった儂の、切実な呟きに応じる男の声。
騒然とする屋敷の連中を尻目に、ごろりと転がって声のした方へ向けばそこに居たのは遊び人な風体をした偉丈夫。
確か……そうじゃ、昨晩豪快に奢り倒して意気投合した遊び人の金さんじゃ!
「おう旦那、昨日はありがとな。久しぶりに良い酒たらふく呑めたぜ」
「いえいえ、こちらこそ愚痴に乗って頂き感謝いたす。ついでにこの縄解いてくれんかのう?」
ごろごろごろと転がり、金さんの近くまで目を回しながら転がっていく儂こと簀巻き藤兵衛。
そんな儂の様子に大笑いしながら、手際よく縄を解いてくれる金さん。うぅむ久方ぶりの自由じゃわい。
じゃあ金さん、このままうまい事撤退を……。
「えぇい二人程度、始末してしまえば誰も後の事など知りやせん! まとめて始末しろ!」
「しょうがねえなぁ、銭の為だ。覚悟しろよお二人さん」
そして黒檀屋の言葉と共に逃げ道を塞がれる儂と金さん、ガッデム。
やべぇよ、やべぇよ……え? 安全な隅っこに隠れてろ? すんません頼んます金さん、今度うちの傘下の店でたらふく御馳走します故。
そんな事やってる間に、瞬く間に悪党どもをしばき倒していく金さん。
アレ?もしかしてこの人も上様とかの同類?
「あ、金さん!黒檀屋の倅は儂を介抱してくれた恩人です、そっちは手出し無用で!」
「おうよ!」
そんなやりとりしてる間に、数人しばき倒した金さんが佇まいを糺すや否や。
黒檀屋と悪党親分を見据えて口を開き……。
「慌てるんじゃねぇやこのすっとこどっこい! 手前らのような悪党がのさばったんじゃこの世は地獄だ、花も桜もあったもんじゃねぇや!」
思わず男である儂ですら惚れそうな口上と共に、片袖を捲ると……右半身に刻まれた桜吹雪の刺青を白日の下に晒した。
桜吹雪の刺青、遊び人の金さん…………。
なんか思い出しそうなんじゃがなぁ……。
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その後色々すったもんだがあり、参考人として北町奉行所のお白州に呼び出される事となった藤兵衛であるが。
呼び出される前に藤兵衛は必死になって、当日自分を救い出した後いつの間にか姿を消していた遊び人の金さんを探していた。
その理由はただ一つ、酔いつぶれた自身を介抱してくれただけではなく、力及ばなかったが暴走する父親を止めようと努力していた黒檀屋の倅の為である。
極端な事を言えば、藤兵衛自身が持つ人脈を駆使すればやりようはあったのかもしれないが、今回に限っては事件が事件だけにその手を借りるわけにもいかなかったのだ。
しかし、その努力も空しく遊び人の金さんは見つからず……。
お白州の場において、黒檀屋の主人とヤクザ者を庇うつもりは毛頭ないが、しかし倅に罪が及んでは気の毒だと思い口を噤む藤兵衛。
その様子に勝利を確信し、調子に乗って言い逃れを続ける黒檀屋とヤクザ者、思わず藤兵衛の額にも怒りの血管が浮かび。
「そうじゃ、金さん……遊び人の金さんを呼んでくだされお奉行様!あの方なら全てを見ておられます!」
「ほう?」
口を噤んでいた中、突如叫び出した藤兵衛の言葉に怪訝そうな表情を見せる北町奉行。
そんな輩など知らないと口々に述べ、藤兵衛を罵る二人にとうとう我慢の限界が来た藤兵衛は、二人を睨みつけて叫ぶ。
「黙れ!出来たお主の倅にまで罪が及んだらどうする!? お前も父親ならせめて子の罪はなくなるようにすべきじゃろ!?」
「はっ、何を言うか棟平屋。子供など親の為にいるものだろう」
根本的な価値観の違いから、火花が散る勢いでにらみ合う藤兵衛と黒檀屋。
だが、その二人の睨み合いを遮るかのように北町奉行は口を開く。
「金さんか……その者を白州に出せば、白黒がつくと申すのだな?」
奉行の言葉に、頷き口を開いて肯定を示そうとする藤兵衛。
しかしその言葉を遮るかのように、黒檀屋が口角に泡をつける勢いで叫ぶ。
「お奉行! 性根までスケベ根性に染まった色ボケの言葉に耳を貸してはなりませぬ! 金さんなんてヤツ、いるはずもない!」
「棟平屋の申す通り、居たらどう致す?」
「見てみたいもの、とお答え致しましょう」
黒檀屋の言葉に、厳しく詰問する口調で言葉を紡ぐ北町奉行。
その迫力にも臆さず、黒檀屋はとぼけるような口調でいるはずもないと言った様子で話す。
一瞬、緊迫するお白州。
だが次の瞬間、北町奉行遠山左衛門尉は破顔すると口調をがらりと変えた。
「左様か……催促されたんじゃしょうがねぇ! この桜吹雪に向かってだんびら振りかざしたの、よもや忘れたとは言わせねえぞ!」
厳格な北町奉行から、江戸の町を歩く遊び人になったかのような言葉遣いの変化にたじろぐ黒檀屋とヤクザ者、ついでに藤兵衛。
そして、北町奉行は袖をはだけ……桜吹雪の刺青を黒檀屋とヤクザ者へ見せつけた。
絶句する黒檀屋とヤクザ者、ついでに藤兵衛……そして、遠山左衛門尉は厳しく二人の行状と罪状を述べ、裁きを言い渡すと二人を引っ立てるよう白州に詰めていた役人に命じた。
そんな中藤兵衛はぽかんとした表情の中、真っ白になった頭の中で驚愕の叫びをあげていた。
遠山の金さんじゃねぇか! と。
その後、魂が抜けたかのように呆けた顔をしている藤兵衛を、遠山左衛門尉はちょいちょいと手招きする。
「棟平屋、この度は災難であったな」
「いえ、むしろお奉行のお手を煩わせてしまい……黒檀屋の倅は、どうなるのでしょうか?」
「そう固くなるな……倅についても悪いようにはせぬ。それよりも……家族は心配させるものではないぞ、旦那」
遊び人だと思って接していたのが北町奉行と知り、心の底からビビり倒している藤兵衛に対して遠山左衛門尉は朗らかな笑みを浮かべると。
あの夜偶然出会った酒場で、意気投合した飲み仲間の家族の幸せを祝う言葉を告げるのであった。
なお余談と言う名の蛇足であるが。
その後、遊び人の金さんと名乗る北町奉行に酷似した偉丈夫が……頻繁に棟平屋傘下の茶店や酒屋に顔を出すようになったとかならなかったとか。
ちなみに余談ですが。
藤兵衛は年齢が33ぐらい、おさよは31ぐらい。
新右衛門は25~27ぐらいで考えております。
(追伸)
第一話では藤兵衛を40歳と書いてましたが、これはひとえに作者のガバです。
2話以降と執筆に間隔があいた事で、年齢設定が頭からすっぽ抜けていました。