相変わらずのフリーダムOH!EDO時空な話です。
天下泰平だといいなぁと常々思う今日この頃な江戸時代、儂こと棟平藤兵衛は今……。
「大旦那様、終わりましたよ」
「おおそうか! して、あの子供……太一の容体についてお主の見立てはどうじゃ?」
「危うい所はありましたが峠を越しました、今は眠っておりますよ」
「そうかぁ……いやぁ、良かった良かった!」
八丁堀の旦那こと中村主水と共に、港町にある棟平屋の支店へ怪我した孤児……太一という名前の坊を連れて立ち寄り、医者からの診断について話を聞いておった。
詳しく聞いたところ刃物で切られた痕が化膿しており危険な状態だったそうじゃが、何とか処置が間に合ったらしい。
中村様に強気に意見をした甲斐があったというものじゃて……あ、やべ。今更膝が震えてきおったわ。
「で、では中村様。この子達は我が棟平屋で面倒を見させていただきますぞ」
「おう、すまねぇな旦那……」
「いえいえ、ただ困窮してる子を見捨てられぬだけですよ」
若干ビビりながら中村様に声をかけ、後ろ頭を掻きながらすまなそうな様子の中村様に言葉を返しながら立ち上がる。
チラチラと子供達と儂の間を往復するように目配せしておったから、何かしら内密の話があるようじゃのう……正直イヤな予感しかせんのだが。
ともあれ支店の女中を呼びつけて奥間を借りる事にし、そこにて中村様から話を聞く事にした。
そして十数秒後には儂は思い切り後悔する羽目となった。
「……阿片、でございますか?」
「ああ、この港町の近郊にかなり出回ってるらしい。何か知ってるか?」
「生憎心当たりはありませぬ、ですがこの店を任せている店主なら何か知っておるかもしれません。しばしお待ちを」
再度女中を呼びつけ、怪我をした子供をとにかく早く医者へ見せる為にまともに話をする事が出来なかった支店の店主の久兵衛を呼び出す。
呼び出された久兵衛は何やらくたびれた様子であったが、事情を話すとキリっとした顔つきになり口を開き始めた。
「大旦那様、鳴海屋という店はご存知でしょうか?」
「うむ、この港町を縄張りとしておる店じゃな。外国船とも色々取引をしており羽振りが良いとは耳にしたぞ」
久兵衛の言葉に顎に手をやりながら思い出す、そういえば鳴海屋と付き合いのあるヤクザ者が女を買わないかなどと……結構前に話を持ち掛けてきた事あったのう。
儂の性癖に刺さる娘は居らなんだが、不憫極まりなかったから身柄を買い取って傘下の店で働いてもらっておるが。
そんな事考えていたら、久兵衛が逡巡した様子を見せた後に言いにくそうにその口を開いた。
「……その店の店主が、阿片を裏で取り扱っております」
「うっそだろお前」
「……その話は本当かい?」
店主の言葉に空気が凍る奥間、思わず呟く儂に纏う空気を刃のように研ぎ澄ませて問いかける中村様。
しかし、何故店主はこんなにも言い辛そうにしておるんじゃ?
もしや……。
「申し訳ない中村様、少しばかり席を外して頂いても……」
「いいえ大旦那様、それには及びませぬ。大旦那様のお考えの通り……鳴海屋から阿片の取引について誘いを受けました」
「……請けて、しまったのか?」
「いえ、『禁制の薬ダメ絶対』という大旦那様の言いつけ、
「お、おう?」
言い辛そうにしておるので中村様に退席をお願いしようとする前に久兵衛が儂の言葉を遮り、鳴海屋から誘いがあった事を報告してきた。
信じ重用しておった久兵衛が、よもや……と声を震わせて問いかけてみれば、それはあり得ないという様子で返事が来る。儂別の意味で震えてきたんじゃが。
「……家内と倅をヤクザ者に人質にされました、二人の命が惜しければ大旦那様を……」
「……その先は言わんでいいぞ久兵衛、苦労をかけてしまったなぁ」
声を押し殺し、目から涙を零す久兵衛の肩を抱いて背中を優しく叩いてやる。
鳴海屋、それにヤクザ者…………随分とコケにしてくれたもんじゃのう。
後は儂に任せ、ゆっくり休むといいと久兵衛に伝えると儂は支店の中庭に中村様と共に立つ。
ちなみに新右衛門は結構今からグレーゾーンな話するから、渋るのを説き伏せて少し離れた所にスタンバイさせておる。
「中村様、鳴海屋は恐らくですが……外国船から阿片を仕入れているモノと思われます、ここら近辺は少し前に越前後屋が取り潰されたどさくさで儂ら棟平屋がほぼ牛耳っておりますから」
「確かに、禁制品である品物を入手するならそこしかねえだろうな。阿片自体入手経路が限られてる」
「ええ、少量の阿片はお上の許可をもらい出島から儂らも仕入れておりますが……それらは全て医療用です。広く蔓延させるような仕入れ方は常道では不可能と言えましょう」
ちなみにこの阿片の医療用についての合法化については、そりゃもう若いころ四苦八苦したものじゃ。
最終的にうちが抱えている名医が、とある大名の大怪我を阿片を麻酔に流用した手術をして成功させる事で認めさせたもんじゃからな……アレ失敗したら儂今頃ここに居らんわ。
「件のヤクザ者とやらは、恐らくこの近辺を取り仕切ってる権蔵という輩でしょう。随分前に儂に買い付けてきた娘を売りつけようとしてきましたからな」
「……ちなみに旦那は、その娘達は買ったのか?」
「ええ、ですが無体な事はせず傘下の店で働いてもらっております」
乳が揺れない娘さんは、ちょっと……。
かといって追い返して娘さん方が無体を強いられては不憫じゃし、寝覚めが悪くなるのも嫌だったので買ったという酷い話じゃな!
「そのヤクザ者がここ数年、娘を売りつけにきておりませぬ。余り繋げて考えるのも危険ではございますが……」
「……阿片の代金として、娘達を外国へ売り飛ばしている?」
「無い話とは、言えぬか……っ!?」
話に夢中だったせいか、この時儂は周囲への警戒が疎かになっておった。
更に棟平屋支店の中庭であり遠くとはいえ新右衛門を控えさせ、傍にはあの中村主水もおる……それが大きな隙となったんじゃろう。
「がっ……!!」
「棟平の旦那!?」
視界の隅に一瞬見えたニンジャ装束、まさかと思って視線を向けた時には既に遅く。
ニンジャが口から放った含み針は、僅かに身をよじることしか出来なかった儂の首筋に深く穿たれた。
急速に詰まる息、噴き出る汗とついでとばかりに首から走る激痛。
儂にできた事は、地面に倒れ伏す時にせめて針がこれ以上深く刺さらないようにすること。そして。
「なか、むらさま……ぜには、よういします……ですから、どうか」
「無理に喋るな旦那!」
「この、いちれんのながれを、どうかあかし……そして、しかるべき、ばつを……」
最も頼りになる『仕事人』である、中村様に依頼をする事だけじゃった。
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場所は変わり、江戸南の郊外にあるボロ小屋。
そこに人目を避けながらやってきた女性が、慌ただしく扉を開けて中へ入り。
ボロ小屋の中で座布団に座っていた男、中村主水に息せききって言葉をまくしたてる。
「八丁堀!江戸中で噂になってるけど棟平屋の大旦那が襲われたって本当かい?!」
「ああ、本当だ……くそっ、俺の目の前で旦那が狙われちまった」
女性からの問いかけに中村は、やるせなさそうに吐き捨てる。
「だがな加代。旦那は無事だぜ、毒で昏倒させられたがお抱えの医者のおかげで命は無事らしい」
「そりゃよかった……あの人が居なくなっちゃ、表の仕事が商売あがったりだからね」
ホッとした様子で溜息を漏らす加代、そうしているとボロ小屋の扉が開き次々と人が入ってくる。
その職業は三味線屋、按摩もやっている坊主、鍛冶屋、組紐屋、医者見習いと千差万別であるも……。
全員には、ある一つの共通した特徴があった。
「全員揃ったようだね、仕事の話だよ」
入って来た全員の顔を見回すと、奥に陣取っていた壮年の女性が口を開く。
彼女の名はおりく、表向きは腕の立つ三味線の師匠として名を馳せており。
その正体は……。
闇に潜み、表で裁けぬ悪を地獄の閻魔に代わって仕置きする仕事人の元締めであった。
「元締、でかい仕事だって聞いたがどんなヤマだ?」
「急かすんじゃないよ鉄、依頼人は今江戸中で話題になっている棟平屋の大旦那だ」
依頼人の名前に小屋の中が俄かにざわつき、おりくが軽く手を叩けば即座に静まる。
「阿片を不当に世に広めている鳴海屋、その協力者であるヤクザの権蔵、そしてそいつらを裏で操っている何かの始末が仕事だよ」
「随分と不明瞭な仕事じゃあねえか、そんな仕事まともに請けてられねえな」
あまりにも不明瞭すぎる仕事の依頼に、組紐屋の竜は肩をすくめて呟く。
それも致し方ないだろう、晴らせぬ恨みを晴らす裏稼業という業界にそれなりに長くいるが、総じて恨みを晴らす対象が明確な仕置きが主だったのだ。
竜の言葉に思わずうなずく同業者が多いのも、致し方無いと言えよう。
「それについちゃ心配無用だよ、件の大旦那の使いが仕置きの対象や裏を取るのにかかった銭は全て持つって言ってくれたからね」
「棟平の大旦那もその使いも、俺達を何か別のものと勘違いしちゃいねぇか?」
おりくの言葉に三味線屋の勇次が口を挟み、隣に立つ鍛冶屋の政に同意を求める。
求められた政は俺に話を振るなと言いたそうな顔をするが、概ね同意の姿勢を見せた。
そんな同業者たちの様子を見ながら、主水は口を開く。
「そう言えば、今回の事件なんだがな……どうもとある大名家のお家騒動が絡んでいるみてぇだ」
「どういう事ですか? 中村さん」
全体が逡巡し黙り込む中、医者見習いの西順之助が主水へと問いかけ……。
「棟平の旦那が襲われた後俺は、お菊ちゃんの弟だって話の太一に話を聞いてな……」
主水は己の足で搔き集めてきた情報を、仲間達へ開示し始める。
秀が保護したお菊と言う娘は、とある大名が愛した女性との間に産まれた娘である事から始まり。
だが家の事情で女性と娘を迎え入れる事が叶わず、その大名は泣く泣く領地の村で娘達が不自由なく過ごせるよう家老へと頼み。
その娘は村にて別の男性と所帯を持ち、そして太一が産まれて一家四人で幸せに過ごしていたのだが……。
「そこを山賊に襲われちまったらしい、下手人である山賊から話を聞きだそうとしたが既に筆頭同心の間村に始末されちまっててな」
何とか生き残っていた山賊から聞けた事は、阿片欲しさに家族を襲った事ぐらいで黒幕の名前は聞きだせなかったと悔しそうに主水は言葉を締めくくった。
「っていうと何だい? おきくちゃんはお姫様だってことかい!?」
衝撃の事実に思わず叫ぶ加代、そして一つの恐ろしい可能性に思い至る。
「ちょ、ちょっとソレじゃあ秀と一緒にいるお菊ちゃんが危ないじゃないか!」
「大丈夫だ加代、すでに手は打ってある。秀とお菊ちゃんは頼りになる人物のところにいるぜ」
慌てて駆けだそうとする加代を主水は呼び止め、心配するなと声をかけ……。
太一が無事だった事、そして胸騒ぎからお菊の様子を見に行った時のことを思い出す。
主水が秀とお菊の下へ駆けつけた時、秀もまた不意打ちに倒れ動けなくなっていたところに……お菊もニンジャの手によって命を落とそうとしていた。
しかし、その時一人の男……本人曰く貧乏旗本の三男坊が瞬く間にニンジャを打ち倒し、お菊の命を救ったのである。
「偶然ではあったが、手助けしてくれた旗本の三男坊にお菊ちゃんを預けてある。念の為秀も一緒だから心配いらねえぜ」
「なんだいそれならいいんだよ、と言うか八丁堀そう言う大事な事は最初に言いな!!」
「言う前に飛び出そうとしたんだろが……」
分り易く怒りを示す加代、そしてげんなりとした様子を見せる主水の様子にボロ小屋に集まった仲間達は声を上げて笑い。
空気を引き締めるように、おりくは改めて小屋に集まった仕事人たちを見回しながら口を開いた。
「で、今回の仕事……あんた達は請けるかい?」
不明瞭な仕事であれども、理不尽に命を奪われ今もまた泣く人がいる。
それならば、仕事人達に仕事を受けない理由もまた、ないのであった。
ちなみに原作のファミコン版仕事人だと。
今回の話で助かってる、太一(怪我してた少年)とお菊(秀が保護した少女)は無惨にも殺されます。
そして、本作の二次創作(三次創作?)を書いて頂きました。
『華の大江戸騒動記』として、ボーイミーツガール杯にノミネートされております。
藤兵衛と恋女房の出会いの話が書かれております!
https://syosetu.org/novel/261949/