時は大江戸天下泰平の時代。
吹けば消し飛ぶ没落商家に生まれた転生者は、世の無情を儚んでいた。

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ランキング上位にいらっしゃる、『大江戸騒動記~棟平屋の軌跡~』の作者様に許可を頂き。
この度ボーイミーツガール杯作品として、ドスケベ大旦那棟平藤兵衛の恋女房との出会いの話を書かせて頂きました。

時代考証とかが不十分かもしれませぬが、楽しんで頂けますと幸いです。


と、云うのは嘘です。
折角のボーイミーツガール杯、自作品で三次創作やらかしたらネタバラシの時楽しそうという。
愉快犯的発想でやらかしました! 今は反省しております。


華の大江戸騒動記

 時は大江戸天下泰平の時代。

 今年で数えで7つになる俺こと、棟平藤兵衛は一人で縁側に腰掛け黄昏れていた。

 

 

「販路どころか商売道具すら差し押さえられてるって、どないせっちゅうねん」

 

 

 気が付けば江戸時代に転生していた俺だが、農民じゃないからラッキー!なんて思っていたがところがぎっちょん。

 我が棟平屋の看板は物理的にも経済的にも傾いており、もはや風前の灯火であった。

 いやもうほんとどないせっちゅうねん……現代知識チートでヒャッハーとか言うてる場合じゃない、親父とお袋はずっと暗い顔しておりいつ首を括るか子供心に心配でしょうがない有様である。

 

 

「何をやろうとしても、親父殿は『お前に苦労をかけるわけにはいかん』の一点張りだしなぁ……」

 

 

 考えれば考えるほど気が滅入る状況でしか無くて、最早乾いた笑いすら出ない。

 このままどこぞの店に丁稚奉公にでも出され、前世で微かに耳にしたブラックを通り越したダークネス業務に駆り出されるのかと思うともうやってらんない。

 いっそ、親父殿とお袋殿を説き伏せて博徒にでもなってやろうか、いやさすがに後ろ盾ない餓鬼がそんな事やっても、路地裏で死体となって転がるだけか。

 

 

「おうい藤兵衛や、こっちにきなさい」

 

「わかりました親父殿」

 

 

 ぼんやりとしてたところに、奥座敷から俺を呼ぶ親父殿の声がする為立ち上がり歩を進める。

 ちなみに我が屋敷には女中なんていない、正確には俺が産まれた後ぐらいに暇を出されたとか何とか……。

 

 

「藤兵衛や、今日は大切な話がある。座りなさい」

 

「はい」

 

 

 目の下に深い隈が刻まれた親父殿に促され、親父殿の正面に正座する。

 

 

「昔から付き合いのある呉服屋へ、お前を婿入りさせる事となった」

 

「はぁ、そうでありますか」

 

 

 神妙な顔をして、どこか申し訳なさそうに告げる親父殿。ついていけない俺こと藤兵衛(7歳)。

 

 

「その見返りとしてうちの店に援助を貰える事となった……本当にすまんのう藤兵衛、お前を犬猫の子のように差し出す事となる」

 

「いやぁ、それしか道がないなら道理ではないですかね。親父殿」

 

「はっはっは、昔からお前はまるで仙人か天狗のように達観した物言いをするなぁ」

 

 

 しかし俺が色々やろうとしても止めたり、苦労をかけるわけにはいかないの一点張りだった親父殿が。随分と思い切った選択をしたもんだ。

 控え目に言っても割と貧乏な我が家だが、親父殿は不器用なりに俺を大事にしてたし愛していたからなぁ……。

 

 だが一つ気にかかるところがある。

 

 

「一つよろしいでしょうか、親父殿」

 

「うむ」

 

「こう言っては何ですが、風前の灯である棟平屋に援助をした上その店の一人息子を婿として取るなど……その呉服屋にメリットはあるのでしょうか?」

 

 

 そう、その呉服屋のメリットがどうしても薄く感じるのだ。

 傾いたうちの店を延命できる程度に援助すると言う事はけして安い銭ではない、その上そんな店の一人息子を婿に取る理由がどこにある?

 そこまで裕福な呉服屋なら、いくらでも有力な店と婚姻を結んで伝手を拡げる方が有意義な筈だ。

 

 

「めりっと? 藤兵衛はたまに変な言葉をつかうのう……その呉服屋、椚屋には一人娘しかおらんくてなぁ」

 

「なら猶更、いくらでも有力な店から婿を取れるでしょうに。 親父殿、何か隠しておりません?」

 

「…………とても気立ての良い娘じゃよ、お前が心配する事は何もありゃせん」

 

 

 家長である親父殿への問いかけとしては、不作法すぎる物言いだが敢えて無視して俺は踏み込んだ質問をする。

 しかし親父殿は、気まずそうに眼を逸らすのみだ。

 

 こりゃぁ、結構な行き遅れの娘さんか……はたまた四谷怪談に出てくるお岩さんのような娘さんか、かなぁ。

 神妙な顔を何とか維持している俺であるが、内心勘弁してくれよと言う気持ちでいっぱいだ……が、親父殿が話を持ってきたと言う事は決定事項でもあるのだろう。

 七つの鼻たれ小僧でしかない俺には、異を唱える資格などないのだ。

 

 

「後日相手さんと顔合わせをする、心の準備をしておくように」

 

「わかりました、親父殿」

 

 

 そう言うと親父殿は俺にもう行っていいと述べたので、一礼して立ち上がると奥座敷から退出する。

 ふと何となく、外を見ると空を鶫が飛んでいた。 俺も空を自由に飛びたいなぁ……助けてくれ22世紀の青狸。

 

 

 

 だがしかし、世は無情なもので月日は流れ。

 あれよあれよという間に、件の呉服屋の娘さんとの顔合わせの日がやってきた。

 限られた時間の中、可能な限り構築した孤児のネットワークで集めた情報によると……どうやら呉服屋の娘さんは、中々なレベルの醜女さんらしい。

 

 齢は俺の一つか二つ下らしいが……憂鬱な話である。

 俺の嫁さんが醜女だと言う事はもういい、だけども俺より幼いのに孤児ですら醜女だと知ってるほどに情報が出回っているというのは最早。

 娘さんにはこの江戸の町に、彼女を受け入れるような度量の男はいないという証明になってしまっているように感じる。酷い話だ。

 

 

「藤兵衛、頼むからおとなしくしてくれよ」

 

「親父殿、俺を何だと思っておるんですか」

 

 

 俺と親父殿、親子そろって虎の子の晴れ着に身を包みやってきた椚屋の奥間。

 小声で俺に親父殿が囁いてくるが、俺の心はもはや波風一つ立たない大海原のような気持ちだ……まぁ平たく言うとあきらめの境地なのだが。

 

 そうしてる内に襖を椚屋の女中さんが開き、親父殿と同い年くらいの男性と少女が姿を現し。

 俺の目は、その少女の可憐な姿に釘付けになった。

 

 

 顔に施された化粧のせいで判りにくくなっているが、パッチリとした愛らしい眼。

 艶やかでありながら自己主張が激しすぎない唇。

 着物で窮屈そうにしておりチラリと見えた、一瞬だけ見えたサラシからするに将来性抜群な胸部。

 

 

 

 どう見ても将来性抜群な美少女です、本当にありがとうございました。

 

 

 

「おい、藤兵衛、藤兵衛……なに惚けている」

 

「はっ!」

 

 

 俺が少女に見とれている間に父親と思しき男性と少女は正面に座っており、軽くトリップしていた俺は隣に座ってた親父殿に脇腹を小突かれた事で正気に戻る。

 いやでもこの美少女を醜女? どう見てもおかしいだろオイ、前世ですらこんな美少女お目にかかったことないわ。

 

 

「この度は麒麟児と名高い、棟平屋さんの倅を婿として迎え入れたく思います」

 

「たまに今みたいにぼんやりする倅ですが……本当によろしいので?」

 

「その年で大人顔負けの算術を収めているのみならず、弁舌にも長けており幾つもの書物を諳んじていると言うではないですか」

 

 

 そして何か嫁(予定)の親父さんが俺をベタ褒めしている。

 まぁ平たく言うと前世から持ってきたチート知識でしかないから、10年も経てば只の人になる気がするがわざわざそれを言う必要もないわな。

 しかし……あの子の顔がずっと暗く俯いてるのが、なんか引っ掛かる。

 

 

「こんな顔、そしてだらしない体に産まれてしまって嫁にも出せないと嘆くばかりでしたが……」

 

 

 父親の言葉に、一瞬涙をこらえるかのように口を真一文字につぐみ少女が俯いた。

 その顔を見たその時から、俺の心と腹は決まった。

 

 だから。

 

 

「親父殿、ごめん」

 

「……藤兵衛?」

 

 

 ここまで俺を育ててくれた親父殿の顔を潰しかねない、だが男にはこうと決めたら引き下がるわけにはいかない瞬間がある。

 それが俺にとって、今この時だと言う事が理屈じゃない心で理解できるんだ。 

 

 

「椚屋の大旦那様、一つお願いがございます」

 

「何かね?」

 

 

 両手を畳につけ、深く頭を擦りつけるように平伏して許可を願い。

 突然の俺の行動に不思議そうな声を出しながら、言外にその先を促される。

 

 

「椚屋よりも遥かに棟平屋を繁盛させて見せます」

 

「……ほう? 続けよ」

 

「はい、故に……婿入りではなく。 御息女を嫁に迎え入れさせて頂きたい」

 

 

 平伏していた顔を上げ、真正面から椚屋の主人をにらみつけるように見つめる。

 その顔には小僧が生意気な事を言い放ったことへの憤り、嘲り、そして僅かな希望が見えていた。

 

 

「と、とととと、藤兵衛?!」

 

「面白い、それが成らなければどうすると言うのだ?」

 

「その時はこの身を煮るなり焼くなり、お好きになさってください」

 

 

 期限もまともに切っていない、感情だけが先走った愚か極まりない行動だ。俺の中の冷静な部分が今からでも取り消せと喚いてるのがわかるくらいだからな。

 だけど、それでもだ。

 

 人生で初めて、一目で心から惚れ抜いた女を真っ向から娶りにいけなくて何が男か!!

 

 

「くくく、はーーっはっはっは!! 良くぞ吼えた小僧! 十年だ!十年時間をくれてやる!!」

 

「ああ、すまぬ、すまぬ家内よ……わしはもっと藤兵衛をよくみておくべきじゃった……」

 

 

 愉快そうに、そして獰猛な哄笑を上げながら椚屋の主人は立ち上がると女中へ酒を出せぃ!などと言いながら大股で奥間を出ていき。

 親父殿は俺の隣で真っ白な灰と化していた、ごめん親父殿。ほんとごめん。

 

 

「あ、あの……」

 

「……ごめん、君の気持も考えずに突っ走った。改めてだけど……俺は藤兵衛、君の名前は?」

 

「わ、わたしは……おさよ、と申します」

 

 

 可愛らしい声でおろおろとしている少女に、俺は大きく深呼吸をした後極めて平静を装って声をかける。ちなみに心臓の高鳴りは最高潮だ。

 

 

「おさよ……いい名前だね、そんなわけでさ。君に一目惚れしてしまったわけだけども、迷惑だったら言ってくれ」

 

 

 今の俺、自分だけが盛り上がって突っ走ったアホそのものでしか、ないから……。

 あ、やばい。冷静になると死にたくなってきた、これで気持ち悪いとか言われたら俺は全裸になって大江戸を駆け抜けた後野生に還る自信ある。

 

 しかし、俺の問いかけにおさよは首を小さく横に振ると。

 顔を赤らめて俯きながら、消え入りそうな声で嬉しかったです。と言ってくれた。

 

 

「……親父殿、今の俺なら天魔外道すらも薙ぎ倒す自信があるぞ」

 

「それを言われて儂はなんて返せばいいの、藤兵衛」

 

 

 口から魂が出るという言葉が適格と言える親父殿の様子に、心の中で合掌するが俺は最早後悔はしていない。

 今までおとなしくしていた自重分も何もかも解き放ってでも、成し遂げたい事が出来たのだから。

 

 

 




あのドスケベ大旦那が地の文で恋女房と言うくらいだから、ドラマチックな出会いだったんだろうなぁという想いから書きました。
ある意味コレもボーイミーツガールだと、主張できると……いいなぁ。

三次創作に見せかけた、本編の番外編を投稿する暴挙。

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