北郷一刀の子供達   作:surugana

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お待たせしました。新しく一話投稿させていただきますー

もうすぐ今年もおしまいですね。次回今年中に投稿できるかわかりませんので、年末の挨拶とさせていただきます
一年お世話になりました。皆様の感想と評価が原動力となっております!


鈴鳴らす護り手

「いやぁ楽しい時が経つのは早い、一週間前に来日したと思ったらもう最終日だ。つきっきりでアレコレコーディネイトしてもらって悪かったね、北郷君」

「俺も楽しい一週間を過ごせましたよ。工藤先生」

 

成田空港の中央ビル。国外線出発口のすぐ近くで会話する二人の男性

片方は我らが北郷一刀であり、相手は世界的な推理小説家の工藤優作だ。今回彼の新作の発表と一刀の新作の発表が重なり

予てから二人に親交がある事を知っていた出版社役員の提案で、合同で都内の書店で行われることとなったのだ

優作の日本での出版社が一刀と同じで、作家デビューも近かったこともあり二人の友人としての付き合いはかなり長い

こうして優作が来日する時には暇を見て交流を深めるのは恒例行事となっている

 

「君にも苦労を掛けたね。アメリカじゃあるまいし、SPなんて雇うこともなかったんだが…僕のマネージャーは心配性でね」

「いえ、これも仕事ですから。お気になさらないで下さい、工藤先生」

「……おいおいおいおいおいおいおい。最終日なんだからさあ。そんな他人行儀な接し方はやめてくれないかい?春希(はるき)君」

 

優作が大げさな仕草で、一刀の隣に控えていた少年の肩に腕を回す

二藍色の短い髪、スーツに身を包んだ鷹を思わせる鋭い目つきの少年は、ぎょっとした顔で優作を見つめ慌てる

 

「え、しかしまだ勤務中ですし…」

「春希。今工藤先生は優作おじさんとして春希に接してるんだから。お前も高校生の春希君として返してあげないと」

「父さん、そうは言っても……はぁ、わかったよ。俺も久しぶりにおじさんに会えて楽しかった。これでいいでしょ?二人とも」

 

ため息をついて春希の雰囲気が柔らかくなり、剣呑さを含んでいた瞳も年相応の穏やかな丸みを取り戻す

優作と一刀もそれに満足し、優作はお腹を拳でぐりぐりと、一刀は少し乱暴に頭を撫でる

 

「そうそう。君のその職務に対して真摯な所は思春さんに似て素晴らしい美徳だとは思うが、往々にして真面目な人間と言うのは人生の時間を損してしまいがちだ。もう少し肩の力を抜くと言い、君はまだまだ我儘が許される世代なのだからね。まったく、君の真面目さの2割でいいから新一の奴に別けて欲しいくらいだ」

「まだ復学していないんですか?新一君」

「ん?んー……まあアイツも忙しい様だからね。何せ高校生名探偵だ」

 

新一とは、優作の息子工藤新一の事である。春希の友人でもある彼は、父譲りの推理力を活かして高校生でありながら、警察に捜査協力を求められ現場に臨場する探偵としての一面も持っている

ここ最近関わっている事件が厄介だと言う事で連絡が取れなくなっていた

そう簡単に最悪な事態になる軟な男ではないと春希も信じているが、それはそれとしてやはり心配である

最悪自分たちの様に別の世界に飛ばされている可能性だって否定できない

 

「時々オレの所には連絡が来るし、そこまで心配はしてはいないけれどね。っと、そろそろ時間だ。マネージャーもあの顔だし、行かせてもらうよ。改めてありがとう、北郷君。春希君も、本当に楽しかった」

「アイツに伝えておいてください。次のPK勝負は俺が勝つって」

「また来ることがあったら連絡ください。色々準備しておきますから」

 

固く握手を交わす一刀と優作

そして笑顔のまま優作は搭乗口に消えていった

 

 

 

 

 

「行っちゃったなあ。帰ったらすぐ次の作品に取り掛かるって言ってたし、大変だよなあ。国際派執筆家はさ」

「父さんだって定期的に中国行ってるじゃん。大変なんでしょ?山の中の古戦場とか取材するの」

「まあ俺の場合お義父さん方のコネでだいぶ楽させてもらってっからねえ…」

 

優作を送り、ターミナル内のカフェに移動した一刀親子。あまり来た事のない場所で普段通りの会話を交わすのは中々新鮮で、二人とも口数は普段以上に多かった

春希ももう16歳。思春期に差し掛かり、極端な反抗期こそないもののこうして面と向かって話し合う時間は少なくなっていたため、一刀にとっては非常にありがたかった

どんどん成長していく息子娘達、何れあの家から皆巣立つのか…などとも一抹頭によぎる

 

「さて。あんまここに缶詰もよくないし、どうだ?偶にはどっかで美味いもんでも食べて帰らないか?」

「お誘いありがとう。でも会社から呼び出し受けててさ。そっち寄ってから八王子帰るから」

「おいおい今終わったばっかだろ?炎蓮の奴コキ使いすぎじゃないのか?」

「ま、しょうがないでしょ。俺が呼ばれるってことはそれなりに大変な事態だってことだし。それより、父さんが誘うべき相手はあっち」

「あっち?あ…」

 

春希の指さす先、そこには春希の母思春の姿。それも彼女は普段のラフなコーディネイトから一転、柔らかくも鮮やかな美しさを感じさせるワンピースにショール。耳には一刀がかつて送ったフェイクピアスが揺れていて

不安そうに瞳が揺れている

 

「思春……」

「俺等との会話は家でも出来るんだから。まずはお相手さん大事にしなよ?色男」

 

ニヤリと不敵に息子が笑う。すべて彼のお膳立ての結果だ。何となく母親が寂しそうな雰囲気を纏っていて、どうせ父親はそれにすぐに気づくだろうが、敢えてこちらから仕掛けさせて驚かせるという親思いのサプライズは大成功に終わる

 

「こっ、の…マセガキっ!」

「っと!じゃあ俺は一足お先っ!こんな時くらい楽しんできてよお二人さん。あ、でも燃え上がり過ぎて、火傷しないようにね?」

 

「「は、春希っ!!」

 

シンクロする両親を尻目に、次の瞬間に少年は人混みの中に消えていた

 

 

 

 

バイオレット・アークス・エージェンシー(VAA)社は、一刀の妻の一人、華琳が学生時代にもともと持っていた洛陽市の知識人、上流階級ネットワークを基盤に設立した国際人材派遣企業である

人材派遣と言っても、日本で主流な非正規雇用契約の一つではない

専門的に深い知識を持つプロフェッショナルを現場に派遣することを絶対としている『知る人ぞ知る』会社だ

華琳自身が直接見極め価値を見出した一流の企業や大学と業務提携を結んでおり、学問の各分野における専門家から育児やハウスキーパー、メンタルカウンセラー、音楽アーティスト、役者、はたまた漫画執筆のアシスタントまで幅広い人材が集結しており、依頼額の高さに比例した迅速かつ正確な依頼の達成、人材の派遣で各企業からの評価も高い

 

そして提携先の企業には、炎蓮と雪蓮が立ち上げた国際警備・要人警護企業ホワイトタイガーセキュリティも属しており、自社が直接受けた案件の他、VAAを経由して依頼を受けることもある

 

 

西新宿の一等地にあるVAAの本社ビル。地上20階建て、高さ80mの高層ビルのエレベーターに、春希の姿があった

エレベーターが停止し、到着したのは18階の会議室エリア。エレベーターの操作盤の下にあるパネルに手を合わせると、光が春希の掌を走査し指紋を読み取る

企業秘密にかかわる会議やミーティングが行われるこのフロアのセキュリティは特に厳重だ

春希はWTS社ではバイトと言う扱いであるが、メンバーとしての重要性は大きくこう言った場所にも赴ける権限を持たされている

セキュリティが認証され、ドアが開きフロアに出る。歩き心地のいい絨毯の上を静かに進み、WTSのミーティングルームとして振り分けられている部屋をノックする

 

「失礼します。北郷春希です」

「どうぞー?」

 

室内からの声に応えて入室する。30人は集まれるだろう広々とした会議室の奥、ノートPCを前に何人かが集まっていた

 

「や。お疲れ様、春希君」

白夜(びゃくや)兄さん」

 

サマージャケット姿のスリムな体型。紅掛空色のややウェーブがかかった髪をリボンで一本結びにし、胸の前に流している青年は北郷白夜、北郷月の息子の大学生だ

 

「白夜兄さんも仕事で呼ばれて?」

「うん。バイトの帰りにね」

 

彼は将来自分の喫茶店を持つことを夢としており、大学で経営を学びつつ八王子駅近くにあるカフェでバリスタとして修業している

休日と言う事もあり、午前だけ出ていたバイトの終わりに御呼びが掛かってここに来たと言うわけだ

 

「悪いわね二人とも。仕事終わった直後に呼び出しちゃって」

「いえ。俺…自分達が呼ばれると言う事は、それなりに厄介な事態と言う事でしょうからね。社長?」

 

エキゾチックさを感じさせる色黒の肌、折り目ないスーツ姿、全身に色気と覇気を纏う女性

中国の江南地方に多大な影響力を持つ名家、孫家四姉妹の次女にしてWTS社の二代目社長、そして春希の母の一人にして一刀の妻が一人、北郷雪蓮だ

 

「そのとーり。めーんどくさい依頼が舞い込んできちゃたのよ」

「雪蓮、そう言わないの。星那(せな)達が私達紹介してくれたんだから。ありがたい事じゃん」

「星那姉が…じゃあ、芸能周りのボディーガード?」

 

呆れ顔でひらひらと手を振る雪蓮に苦笑しながらツッコミを入れる傍らの女性。雪蓮の右腕として辣腕を振るう敏腕秘書であり、雪蓮と同じく春希の母の一人にして一刀の妻が一人北郷梨晏

マイペースなムードメーカーに見えて一度怒れば雪蓮でも口では勝てない怒られてはいけない人物である

 

そして、今ここにいないが、雪蓮と梨晏の口から出た星那とは、かつて中国と日本で一世風靡した三姉妹アイドルユニット数え役萬☆姉妹のリーダーにしてこれまた春希の母、一刀の妻である北郷天和の娘であり、ガールズバンドグループ『プライマルワールズ』の一員北郷星那の事だ

 

「そそ。じゃあ面子は揃った事だし、お仕事のお話を始めましょうか?」

 

雪蓮の纏う覇気が強まり、緩けていた顔が引き締まる。今この瞬間から彼女たちは猛獣となるのだ

悪なる者から弱者を護る、牙を持った猛獣に

 

 

 

 

 

平和を憎む者(ピースヘイターズ)?聞いたことが無いな…」

「最近になって活動を開始した国際的なテログループよ。欧州や中東を中心に、かつて戦争関係にあった国同士の平和交流や終戦記念イベントなんかを専門に爆破したり、要人を殺害したりしてる下衆共」

「…資料を読む限りだと、どうにも活動目的が読めませんね」

「そりゃそうだよ。そいつ等、別にイデオロギーや利益目的で動いてるわけじゃないもん」

「……は?」

「世界各国に潜伏してる色々なテロ組織、その中でも極端すぎて組織内でも扱いきれずに追い出されたイカモノ同士が手を組んだのよ。自分たちがこんな目にあっているのはこの世界そのものが悪いんだーって、全世界相手に逆恨みして、国同士の憎悪を煽って滅茶苦茶にしたいんだって。だから平和を憎む者(ピースヘイターズ)って名乗ってるわけ」

「……ふざけてんな」

 

 

 

 

 

「そんな連中がアイドルグループの合同ライブなんて狙うんですか?」

「去年、東欧にあった二国の終戦記念式典が日本で行われて、そこに招待されて親善大使を務めたのよ、その765プロと346プロって二つのプロダクションのアイドルが、その縁で今年もオファーを受けたところに犯行予告が送られてきたってワケ」

「……バラバラにされたハトの死骸で出来たオブジェ、か……恋母さんや明命母さんが見たらこの世の地獄が生まれているところだ」

「で、キミ達二人には、それぞれの事務所のアイドルのボディーガードをやってほしいわけなのね?頼まれてくれる?」

「はい。これを見て聞いた以上、放っておけませんから」

「……胸糞悪い下衆はブチのめす。WTS(ウチ)はずっとそうやってきましたからね。これからだってその通りにするだけですよ」

「そう。じゃあ頑張って頂戴ね二人とも。ライブに参加するアイドルは2つのプロダクションから15人ずつ30人。一人だって柔肌に傷を付けちゃ駄目。責任もって守ってあげなさい。あと迂闊にオイタはしないようにね」

「いや父さんじゃないんだから…」

「ははは……流石にそれは…」

「ふーん…へぇー…私の勘が数十年ぶりに外れるかもしれないんだー?それはそれで面白いわねー」

「二人が一刀の子じゃなかったら、もうちょっとは信じられるんだけどなー?」

 

ニヤニヤ+ジト目でこちらを見つめる母二人、流石に曹操、じゃない早々父ほどの大騒動を起こして溜まるかと少し憮然としながら春希と白夜は手渡された資料を頭に叩き込むべく目を通し始めるのだった

 

 

 

雪蓮の勘が当たったことが分かるのは事件が終わった後の事である




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