北郷一刀の子供達   作:surugana

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お久しぶりです、ネタが形になるまでかなり時間を要しました…
今回は蜀の子供のお話です、宜しければどうぞ

そしていつも感想や評価を皆様ありがとうございます!本当に励みになります


無限の荒野に豪砲は鳴り響く

東京都青梅市、御嶽山

古くから山岳信仰の対象として崇められていた奥多摩地方でも有数の霊山の頂上近く、登山道からもケーブルカーの線路からも離れた森の中に、三人の男女の姿があった

 

屈強な体躯の青年と、小柄、大胆なチャイナドレス姿の女性、そして最後に着流しを思わせる改造和装姿の青年

共通しているのは黒いインナーと赤いジャケットだ

 

彼等は日本国の特務退魔機関『森羅』の実働エージェントだ。奥多摩のこの地での妖魔の目撃情報から、現地調査のために派遣されたのである

 

地面にしゃがみ込んでいる女性、小牟(シャオムゥ)は手を地面に翳している

薄らと掌は燐光を帯びており、周囲の雑草や特徴的な、尾の様に束ねられた房の金髪が風もないのに揺れていた

 

「矢張り結界か?小牟」

 

一見すれば10代後半の少女にしか見えないこの小牟と言う女性は、実は齢765歳にもなる狐の化生、仙狐なのだ

仙術道術の知識は三人の中でも群を抜いており、自身の妖力を応用すれば術そのものに介入し、構築を変化させたり、施した相手を逆探知することだって可能だ

今行っているのも山全体を包む結界から情報を引き出すためのいわばハッキングである

 

「うむ。しかもなかなかに巧妙じゃぞ零児(れいじ)、見てみぃ。炭の中に灰を混ぜた塗料で文言を地面に書いておる。しかも文言の周囲にあるのは……」

 

「ふむ…粘土と砂の化合物で炭の周りを縁取りしとるんやね。灰之即ち火、理想的な火生土の関係じゃし、火で強化された土でしっかりと水に克っとっとね」

 

それに続いたのは白いメッシュ状の前髪を持つ偉丈夫、有栖零児(ありす れいじ)

同じく、淡藤色の髪に金色の瞳、挑発的な微笑で結界を見つめる九州弁で喋る男、北郷紫雲(ほんごう しうん)

彼等も森羅の実働エージェントだ。インナーの上に羽織っている赤いジャケットはそれの証明であり、対刃、対弾、対魔力処理が施された戦闘衣装となっている

 

「うむ。しかも、その吸収した水気を用いて周囲の木々や雑草を活性化させ、結界が見つかりにくいように隠し、同時に木侮金の相侮でセンサー類の機能に干渉しておるでな。上手に五行を活用する、厄介な相手じゃ」

 

「山に入った瞬間に電子機器の殆どが使えなくなったのは、そういう絡繰りか」

 

五行思想とは、木、金、火、水、土の5つの元素でこの世は構築され、夫々の属性の生滅盛衰によって様々な事象が発生する。と言う概念の事だ

 

ファンタジーの題材として有名な概念ではあるが、知名度が高いのは、順送りによって属性が循環し増幅する相性と、苦手とする属性が打ち滅ぼしていく相克の二種類だ

だが、五行が作用する関係はそれだけではない

同じ属性が重なり合うことで共鳴し、増幅される比和

相克するべき関係性が、力の差から逆転した逆相克とも言える相侮

相性が克ちすぎ、過剰相克関係が起こってしまっている相乗

五行を使う人間はそう言った様々な関わり合いを計算しながら森羅万象を制御し様々な不可思議を具現化する。それでも、相侮関係や相乗関係すら計算に入れられる者は非常に稀で、豊富な知識と実力を持った相手だと言う事が、それだけで三人には理解できた

実際これまでの数時間、彼らは山の中腹付近で立ち往生していたのである

霊的な事件に慣れた森羅のエージェントすら容易に突破できない結界を使いこなす人物、油断できる相手ではない

 

「ま、種と仕掛けを見抜かれたマジックなんじゃ、どうとでもなろうとね」

 

「うむ。この結界を維持するための力、どうやら山頂にある神社の霊脈よりラインを引いて確保しているようじゃ、流れはまっすぐ山頂に伸びておる。ここを辿れば一気に天守閣じゃな!」

 

「それは重畳。油断せず、速やかに仕事果たすぞ」

 

「あいあい。定時で帰れるように頑張るとしようかね」

 

「なんじゃ紫雲。若いくせに随分と覇気のない事を言うのぉ。もっとガッツいてこそじゃぞ?」

 

「はっはっは。時代はライフワークバランスじゃぞ婆様(ばばさま)。無理して金を稼いでも、使う時間が無きゃ意味なんてなかったい」

 

「婆様言うな言うておろうが貴様は!零児!仮にも妻がひどい物言いをされておると言うのに何故ノータッチなのじゃ!?」

 

「年齢が年齢なのは事実だろう」

 

藪を切り開きながら、緊張感がない会話が続く。とても命のやり取りを前にした戦士たちのそれとは思えないが、これが彼らにとっての日常である

あくまで自然体、常にベストを尽くす。それをずっと続けているに過ぎない

 

「面倒がないのが一番じゃしな」

 

「しかしお前も珍しい人間だな、鍛錬では積極的に相手を誘う割に、実戦では鍛錬の時ほど楽しそうに見えん」

 

「そりゃそうじゃろうて零児。俺が好きなんはあと腐れの無い勝負であって戦争じゃなか。命の奪い合いに楽しさなんざ見出したことは一回もありゃせんよ」

 

「バトルマニアだと言う所は否定せんのだな」

 

「お袋さんの遺伝じゃてな?」

 

 

 

 

頂上の神社の境内に到着するまで、彼らの健脚では十分もかからなかった

広い境内はひっそりと静まり返っており、人の気配は感じられない

それどころか生物の気配自体が感じられなかった。初夏の山中ともなれば鳥の声があちこちに響き渡っており、地面に目を向ければ蟻を始めとした昆虫たちもせわしなく動き回っているはずである

 

「……誰もおらんのぅ」

 

「ああ。ここは神主や職員が常駐している神社だ。それに関東の山岳信仰の要所。平日だとしても誰頭参拝客が居なければおかしい」

 

「それがいない、ちう言う事は……」

 

其達はその時現れた。音もなく地面から沸き出し、空中から染み出す様に

両腕が鎌になり、足がなく空中に浮く其れの名は鎌鼬(かまいたち)

地を走り回り幾つもの腕を伸ばし威嚇する其の名は絡新婦(じょろうぐも)

 

何れも零児達が幾度も祓い滅した低級妖怪たちである

 

「出おった出おったぞう」

 

「これだけの霊山の境内に妖魔が出るとは…結界で神力が抑え込まれている様だな」

 

「罰当たりもんもいたもんじゃなあ。しゃあない、ここは神さんに変わって天罰覿面と行こうかね?」

 

殺気を高める怪物たちに、紫雲達も各々の得物を構える

 

3戦士共に得物はそれぞれ特徴的だ

 

「神社は厳かにするものじゃ!お姉さんとの約束じゃぞぅ!」

 

小牟が普段携えている錫杖は、水行の力を内包する仕込み刀水蓮(すいれん)

上下2連の銃身を持ち、小牟自身の魔力を弾丸に変換する小型散弾銃(シルバー)

マガジン下部に発電ブレードを持つ電磁弾丸を発射するロングバレルリボルバーけん銃白銀(プラチナ)

この三種類に会得している様々な妖術、そして愛してやまないプロレスから再現した格闘術を組み合わせ、零児と互いの隙を補い合うのが彼女の戦法

 

「雑魚に構っている暇はない!引かないなら刀の錆にするまでだ!」

 

零児の武器は一際に独特だ。護業(ごぎょう)と呼ばれるマウント式の刀掛けに火行を宿す日本刀火燐(かりん)、地行を宿す小太刀地禮(ちらい)、水行を宿す脇差霜鱗(そうりん)の3振りの刀を、そこにさらにガンホルダーが連結され、木行を宿す大型オートマチックショットガン柊樹(はりうっど)が差し込まれている

それと金行を宿す大口径マグナムリボルバー(ごーるど)を装備

有栖流の陰陽術と組み合わせ、陰陽五行を制御する護業抜刀法が彼の戦法だ。連続抜刀から、銃撃と体術を組み合わせ、複数の敵を相手取っても臆することなく戦い抜く。代々伝わった技術を自身の手で昇華する。型の上護業を地に置かなければいかない時もあるが

それで彼が臆することもない、死角は常に愛する女性が守ってくれているのだから

 

「なあんか嫌な予感がするのお……手早く終わらせったいね!」

 

零児に輪をかけて奇抜な得物を持つのが紫雲である。両腕で抱える武器は身の丈ほどの大きさがあり、前方に向かって伸びる長方形、薄紫色の刀身を持つ大剣の中央が分割され、そこに機関砲の銃身が。機関部を挟んで反対側には気を弾丸として発射する二連装霊子リニアキャノンを線対称に白銀の刃を持つ大型の槍となっている

名を多用途決戦重斬銃『アンビデクスト』、両手効き転じてあらゆる状況に対応できる器用者と言う意味合いで彼の母、北郷桔梗が持つ大口径砲『豪天砲』を設計母体にもっと攻撃力と多用途性を、と言う紫雲のオーダーに従い、北郷家の発明大魔王北郷真桜が制作した多機能複合兵装である

自在に稼働するグリップを起点に大剣と大槍を回転させて武装形態を切り替え、ありとあらゆる敵を倒すための重装備だ

剣で薙ぎ、槍で突き、遠距離の敵を砲撃し、周囲を囲まれれば機関砲で蹴散らす

周囲に風が起きる勢いでアンビデクストを振り回し、器用に敵を滅していく姿には小牟も呆れ半分な目を向けている

 

「しっかし、何故森羅のエージェントは大道芸人ばっかりなのかのう。呆れるほど派手な面子しかおらんぞ」

 

「俺達も大概だという自覚はないのか、お前は」

 

 

 

本能でうごくしかない下級妖魔など、幾多の戦いを潜り抜けた三人のエージェントの前では物の数ではない

境内にある建築物に傷を付けないように加減をしながらでも全滅させるまで時間は掛からなかった

 

「うむ、ちゃちゃちゃちゃ~ちゃ~ちゃ~ちゃ~、ちゃっちゃちゃ~ん♪と言うやつじゃな」

 

「敵影無し、一先ずは凌いだか」

 

「じゃのう。つ、う、わ、け、でっ!」

 

振りむいた紫雲達は手に持った銃器の照準を同じ場所にむける。社殿の角、いやその後ろ側にいるだろう『誰か』に向けてだ

 

「そこにおるのはわかっとるんじゃ。てげてげ出て来んね、がんたれが!」

 

紫雲の声に応えたか、乾いた拍手の音が照準の先から聞こえてくる

音は大きくなり、社の影から一人の影が現れた

 

「見事な手前、御見それしもうしたぞ?森羅が誇る精鋭、有栖夫妻。そして……北郷一刀が子息、北郷紫雲殿」

 

透き通るような白いゆったりとしたワンピースの上に緑色の羽織を重ねた、奇妙な色気を放つ人物が手をたたきながら現れる

ゆったりと花魁のように科を作り、円を描くような歩き方には優雅さと言うよりも不快感を感じさせ、何より放つ声が男の声にも女の声にも、そして頭の中に響くように聞こえてくる

明らかにこの世の存在ではない。三人は大きく長い呼吸で丹田に力を入れ、飲まれないように気を強く練り上げていく

 

「俺たちの事を知っているのか?」

 

「それはもう。幾度もの戦いを経て現世を救った有名人でございますからなあ」

 

慇懃だが尊敬とは程遠い声色、敵意を隠す努力すらしない相手に小牟は眉を吊り上げる

 

「持って回ったような言い方をしおって白々しい。簡潔に話さんかい、ぬしは何者でここで何を…紫雲?」

 

小牟と零児の一歩前に、リニアキャノンを構えたままの紫雲が歩き出る

表情に浮かぶのは緊張、と言うよりも脅えに近いほどの警戒。汗が一筋流れているのが分かる

 

「どうした紫雲?こいつを知っているのか?」

 

「知ってると言うかなんというか…ためらいなくぶっ放しても良か思っとったけど、一応聞く。おまはん、否定するんと肯定するん、どっちね?」

 

外史に幸あれとするもの、肯定者

外史に消滅あれとするもの、否定者

かつて自分の父と母達の前に立ちふさがった強大な敵が後者の否定者であり、様々な策略で大陸に暗雲をもたらし、多くの命を奪った宿敵である

 

「ご安心なされませ。わたくしめは外史の破壊剪定には否定的な立場を取っております故。もっとも……」

 

顔を伏せ、怯えた花魁のような演技をする管理者。だが、流し見られた瞳に宿る邪悪な気配に紫雲の肌が総毛立ち、リニアキャノンの銃口を向けトリガーを握る

矢張り攻撃をためらったのは間違いだった!

だが

 

 

 

 

 

「貴方がたの敵である事は、否定いたしませぬぞ?」

 

 

 

一手遅かった

管理者は後ろ手に隠していたモノを胸の前に掲げる。それは鏡だ、円形の青銅製、古代中国などでよく作られていた銅の鏡

かつて一刀や剣丞が外史に飛ばされた時と同じ、世界の壁を切り開く力を持った神器だった

 

「くっ!?」

 

「な、なんじゃ!あの鏡から、凄まじい波動が…っ!?」

 

「しもたっ!新しか、外史が……!?」

 

「いんや。この鏡に映るは主らも知っておろう世界よ。見覚えもあろう?有栖のよ」

 

天にそびえる青い巨艦

砂漠を貫く塔

島か山と見まごう程の桜の大木

天空に浮かぶ迷路のような黒い通路

次々に移り変わる不可思議な光景に、零児と小牟の顔が驚愕に染まる

かつて訪れた果てしなく遠く限りなく近い地、そこの風景に間違いなかった

 

「れ、零児!あそこに映っておるのは…!」

 

「エンドレス・フロンティア……!」

 

「おんし!何が目的じゃ!?」

 

「我もまた数多の外史を望んでおる。その為にこの地と其方等の存在が必要だというだけの事。申し遅れましたな。我の名は李意期。見知り置きくだされ」

 

意識が光に飲み込まれていく。もっと的確な対応ができたはずなのに、何もできないまま策に飲まれた無念さも、光に溶けて紫雲は何も感じられなくなっていた

 

「こん借りは…必、ず……っ!」

 

「ええ。世界を創り、世界を動かす存在となる者……またお会いいたそうぞ、時の彼方の勇者たちよ。ふ、ふふふっ」

 

策の成就を知り、李意期は溢れ来る愉悦を堪えきれず、くつくつと笑いを零し、現れた時と同じようなゆったりとした歩みのまま、社の影に音もなく消えていくのだった

 

 

 

 

 

森羅の精鋭も、管理者も、誰もいなくなった後の神社に、ふもとの階段から飛び上がった影が着地する

その影は周囲を見回し、微かに残っていた戦闘の痕跡を見やると中央にまで移動し、地面に手をかざして瞑目した

 

「……ちっ、遅かったか。だがつながりの残滓はまだ辿れる。記録するには十分だ。だが、急がねばならないな」

 

影は舌打ちすると立ち上がり、踵を返して駆けだして、またその身体を宙に躍らせる

 

「まったく、手間を掛けさせてくれる。貴様の子供はどいつもこいつも呆れるほどにトラブルメーカーだな、北郷」

 

山を飛ぶように駆け降りる影。その男が何を思い、どんな役割を果たすのか、今はだれにもわからない

 

 

 

 

 

エンドレス・フロンティア 渾然大地

 

オルケストル・アーミーの一員であるヘンネ・ヴァルキュリアとキュオン・フーリオンは、時空の乱れを感知し、フォルミッドヘイムの王、エイゼル・グラナーダよりエンドレス・フロンティアに新たに起こりうるであろう異変の調査を命じられていた

 

砂漠地帯の中央付近を訪れた二人は、そこでその砂漠を根城にする盗賊団の襲撃を受ける

 

特殊部隊員の二人からすれば一人一人は物の数ではないが、いかんせんかなりの数である

流石に面倒だと舌打ちしていた彼女達の周囲が、不意に大爆発を起こし、二人を囲んでいた盗賊団の面々が天高く吹き飛ばされる

上空から叩き落されてうめき声を上げる男たちに唖然としていると、砂嵐の向こう側から歩いてくる影があった

 

 

「女の子二人相手にこんだけの男が揃いも揃って情けなかねえ……ちょいとすまんがお嬢さん等、ここがどこか教えてくれんね?」

 

巨大な何かを担いだ優男。キュオン達が北郷紫雲に抱いた第一印象はそれであった

 




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