こいしちゃんがフランちゃん可愛いって言ってるだけのおはなしです。

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フランちゃん専用湯たんぽこいしちゃん

 フランちゃんは変温動物です。

 

 うん、これだけだとなんのことやら分からないですよね。順を追って話しましょう。

 

 フランちゃんは吸血鬼です。これは皆さん知っての通りですね。七色の恐ろしい吸血鬼、それがフランちゃんです。

 では吸血鬼がリビングデッド、生ける死体の一系譜というのはご存じですか? これはちょっと知らないひともいるかもしれません。ゾンビ、グール、スケルトン。それら動く屍たちのハイエンドこそが吸血鬼なんですね。といってもこれはフランちゃんから聞いた話そのままなんですけど。

 それで、リビングデッドって普通は体温がないですよね? いや皆さん実際には知らないと思うんですけど、そうなんです。何てったって屍ですから、体温があるわけがないんですよね。じゃあ吸血鬼は?

 はい、そういうわけなので、フランちゃんたち吸血鬼も基本的に体温がないんです。つまりフランちゃんは変温動物。抱き着くとひんやりしてて気持ちいいんですよ? 特に夏場とか。フランちゃん自身は結構嫌な顔するんですけど。それはまあ、ご愛敬ってことで。

 

 さて。

 フランちゃんは変温動物と言ったんですけど、そういえばトカゲとかの変温動物って、寒いと動きが鈍りますよね。トカゲ分かります? ああよかった。可愛いですよねトカゲ。はいうちのペットにもいるんですよトカゲ。つるんとした肌が最高です。ってそうじゃなくって。

 じゃあフランちゃんはどうかというと、これまた寒いとすっごく鈍くなるんですよね。はい、あんまり知られてないんですけど、そうなんです。どのくらいかっていうと、いつもなら私がどれだけ隠れて入っていっても一瞬で目を合わせてくるのに、寒い日は全く隠れずに堂々と入っても気付かれないぐらい。ほんとですよ?

 いや、ほんとに可愛いんです。あの理性と知性に満ちた瞳がぼんやりと焦点合わせずにうろうろしてるんですよ。ぴんと張り詰めたフランちゃんの周りの空気もすっごくゆるゆるで弛み切ってるんです。一度見てほしいぐらいです。ほんとに。あんなの見たら誰でも髪わしゃわしゃしたくなりますって。というか三回ぐらいしたんですけど。その度に私の頭が爆散して大変だったんですけど。それはまあまたの機会にでも。

 

 ああ、レミリアさん?

 そうですよね、あのひとも吸血鬼ですから本来ぽわぽわになるはずなんですよ。でもほら、レミリアさんは計画性の塊なので。

 フランちゃんと違ってレミリアさんは生活習慣がすっごく規則的なんですよ。夜寝る時間も朝起きる時間も普段からしっかり決まってて。どうでもいいですけど吸血鬼が夜寝て朝起きるのってどうなんでしょうね。まあいいんですけど。だからレミリアさんの部屋って、起きる一時間ぐらい前になると自動で魔術暖房がつくらしいんですよ。そしたらレミリアさんが起きたときにはもう、部屋はほかほかレミリアさんもほかほか。外に出るときもそうで、何重にも保温や暖房の魔術をかけてもらってるみたいですよ。嘘だと思うならこんど、冬の頃にレミリアさんの服を触ってみるといいです。ほっかほかですからね。いや、比喩とかなしにすっごいほっかほかですからね。まほうのちからってすげー。

 

 さておいて。

 その点フランちゃんは生活習慣すっごく不規則ですからね。寝たいときに寝て満足したら起きる、みたいな。おかげでいつ行ったら起きてるか全く分からないんですよ。困っちゃいます。いやほんとは困ってないですけどね。フランちゃんの無防備な寝顔とか眺めてるだけで数時間は潰せますし。とにかくそういう調子ですから、フランちゃんの場合は起きてから暖房入れなくちゃいけないんですよ。そうなると当然部屋が温まるまでいくらか時間がかかっちゃう。それまでの時間がつまり、ぽわぽわフランちゃんタイムというわけです。

 

 ときに、これは自慢なんですが、私って結構、子供体温なんですよ。

 えへへ、実はこれ、家ではあんまり自慢になったりしないんですけど。だってうちの家族とか年中インドア暖房つけっぱお姉ちゃんと、それに加えて炎使いの猫と鴉ですからね。私にわざわざあっためてーなんて言ってくるひとがいないんです。それはともかく。

 

 そういうわけで、あれはいつだったかなあ。私がフランちゃんと出会ってから、最初ぐらいの冬頃のことだったんじゃないかと思うんですけど。

 フランちゃんのところに遊びに行くと、丁度フランちゃんが起き抜けで、暖房付けたところだったんですよ。はい、丁度ホラーコメディみたいな感じで、ベッドの上の棺桶の中から腕だけ出して、マジックアイテムらしき木の杖を一振りしてたんです。それだけでもまあこれは見に来た甲斐があったなって気分だったんですけど。だってあのフランちゃんがそんなだらけたことしてるんですもん。ギャップがすごくて。

 ともかく、そのままフランちゃんたらもうひと眠りというか、しばらく棺桶の中に籠ったまんまだったんですね。まあまだ全然空気もあったまってなかったですからね。寒かったんだと思います。

 だから私はそっとその棺桶のふたを開けて、こう、フランちゃんのぼんやりした顔をのんびり鑑賞してたわけです。あー可愛いなーって。時折フランちゃんのほっぺをぷにぷにつついて、わーひんやりしてるー気持ちいいーとか思いながら。

 そしたらね、唐突にフランちゃんの腕がするりと私の方に伸びてきたんです。もうびっくりですよ。まさか既に意識がはっきりしてるなんてーって思いながら捕まえられて。これはフランちゃんおこおこかなーってちょっと身構えてたんですけど。でもそうじゃなかったんですよ。

 

 それで、ぎゅっとそのまま抱き寄せられたんです、私。

 そう、抱き枕です。

 

 フランちゃんと私は大体背丈もおんなじぐらいですから、もうほんとにすっごく顔が近くって。しかも耳元で普段のフランちゃんからは想像できないようなふにゃふにゃ声で「あったかい……」って囁かれて。もう「可愛い~~~~~!!!!!」って叫ぶのをこらえるのに必死でしたね。あのとき録音機器を持って行かなかったのは失態でした。いやほんとに。それからは冬場になると必ず録音機器を携帯するようにしてるんです。にとり印のやつ。見ます? あ、いい?

 でね、当然ですけどそのフランちゃんのとろとろにふにゃふにゃな顔を間近で観察できる機会なんてそうそうないわけですから、しばらくじーっとフランちゃんの顔を見つめてたわけです。そうすると不思議なことにだんだんフランちゃんの顔の血色がよくなってくる。目の焦点があってきて、それでどんどん大きく見開かれてくる。フランちゃんの吃驚した顔なんて初めて見たな―なんて暢気にそのまま眺めてたら、震えた声でフランちゃんが訊いてくるわけです。

 

「……こ、こいし?」

「おはよーフランちゃん、こいしだよー」

「え、うそ、なんで?」

「もーフランちゃんたら変なこと訊くのね。フランちゃんが私を抱き寄せて抱き枕にしてきたんでしょ?」

「……」

「ふにゃふにゃの顔で「あったかい……」って言ってきたフランちゃん、可愛かったわー」

「ーーーっ!?!?」

 

 とまあここまで言った辺りで、声にならない声を上げながらフランちゃんが吸血鬼の力全開で私を突き飛ばしたところ、あえなく私は一回休みとなったわけでした。

 ですから今回のお話はここまで。

 どっぴんぱらりの、ぷう。

 

 

 

 

 



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