乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
カタリナ様のクラスメートたちや裏方をする令嬢は「カタリナ様がいいと思います。」「カタリナ様がするのあれば皆納得すると思います。」と口々にカタリナ様の名を挙げる。しかも善意でカタリナ様の演技が見たいと推薦しているのだ。ジオルド様は笑みを浮かべ、カタリナ様に台本をわたしている。
「せりふはそんなに多くないですし....たとえば最初の出番のせりふをカンペに書いておけばどうですか?テストじゃないんだからだいじょうぶですよ。」
(そんな...優秀なあなたといっしょにしないでよ。)
そんなふうに言いたげなカタリナ様は少々蒼くなっている。
学園祭には、小さい子もいっぱいくるので誰でも知っているお話にした。
大昔同じような話を読んだことがある気がする。時々見る悲しい夢とワンセットだ。
わたし佐々木敦子は、知っている。継母と義姉にいじめられる女の子の話。シンデレラと酷似した話だ。魔法使いとガラスの靴は出てこないが。ピンチヒッターはカタリナだが破滅フラグを回避したのに、ここへきてマリアをいじめる役。なんとも皮肉だが中身は内野さんだ。せりふとか覚えられるのだろうか....
王子様役はもちろんジオルド様、主人公役はマリアさんだ。この二人は本当に絵になる。カタリナ様も時々マリアはすてきだ、ジオルド様とくっつけばいいのにとつぶやいていたのを聞いたことがある。メアリ様も同意見だ。魔法学園でメアリ様をはじめ貴族で比較的好意を持っている人がいろいろ教えているおかげでマリアさんは普通に貴族令嬢といっていいほど振る舞いが板につくようになった。それに美人で優秀で光の魔力保持者である上に人柄も申し分ない。ジオルド様はさほど身分差を気になさる方ではないから王子のお相手にふさわしいと思うのだが。
それはさておき配役はいじわるな義母がメアリ様、そして義姉役が代役でカタリナ様
だ。義母であるメアリ様が、いじわるな義姉を呼ぶ場面になった。カタリナ様がいそいそと現れるが、一瞬様子がおかしい。何かを忘れてしまった~という顔をして手をドレスの腰ポケットにつっこんでいて、きょろきょろしはじめた。
メアリ様とマリアさんもなにやら異変があったことに気付いたようだ。
その瞬間カタリナ様の態度が変わった。何か決意したような顔だ。
それからの演技は凄かった。
「本当に身の程知らずですこと。あなたなんかがこの家にいさせてもらえるだけありがたくおもいなさい。」
「そこで床にはいつくばっていなさい。」
メアリ様とマリアさんは、せりふが違うことに気が付いてほんの一瞬顔を見合わせる。
しかしわたしたち4人は親友同士。二人は、何が起こったか瞬時に悟ったのだろう。
言葉にするなら
(カタリナ様....これは全部せりふがぬけちゃったってやつですわね。)
(メアリ様、私もそう思います)
といったところだろうか。
二人のフォローもみごとだった。
「ほ~んとそのとおりね。虫のくせに金色してるとか。その髪をそってしまったほうがいいのでは?」
「そのとおりですわ。お母様」
「な、なんてひどい。」
カタリナ様は舞台そでにもどりほっとしているようだが見事な演技に拍手がパラパラ起こっていた。
その後の演技はせりふも完璧だった。後で聞くとどうやら手にせりふを書いてのりきったらしい。
「カタリナ様お疲れ様です。」
「見事な演技でしたわ。」
「メアリ様もそう思いますか?わたしもです。」
マリアさんが同意を示す。
「??え~そうなの?」
「わたしもそう思います。見事な演技でした。」
「主人公をいじめる演技に鬼気迫るものがありました。」
「まるで別人でしたわ。」
「カタリナ様には演技の才能もおありなのですね。」
しばらくしてカタリナ様は楽屋にこもっていた。
舞踏会がはじまるとマリアさんが呼びにいったようだ。
「まだ片づけをしている子がいるのであとでいっしょにいらしてください。」
と伝えたが、わたしはその時近くで待たなかったことを後悔する。
これを最後にカタリナ様は誘拐されて行方不明になってしまうのだ。
しかし、そんなことを思いもよらないわたしたちは舞踏会会場でカタリナ様の演技がすばらしかったので感想を言い合っていた。
キース様が
「義姉さんの演技にはおどろかされたよ。」
「本当ですわ。いつものお優しくて朗らかな雰囲気とは別人のようで。」
「あいつにあんな演技の才能があったとはな...」
「カタリナ様は、多才な方ですわ。」
「それにしても....すこし遅すぎる気もするのですが....。」
ジオルド様が異常を感づいたようだ。
「そういえば、遅すぎますね。義姉さんどうしたんだろう...。」
「後片付けをしている方もいますから一緒に行きますと言っていたのですけれど...。」
カタリナ様は行方不明のままみつからない。
数日後、ジオルド様のところに脅迫状が届いた。
「カタリナ・クラエスの身柄は預かった。無事に返してほしくば王位継承権を放棄せよ。」と書かれていた。
翌日の生徒会室は重苦しい雰囲気でのカタリナ様救出作戦会議が行われることになった。
「カタリナが無事に戻ってくるなら王位継承権などいくらでも放棄するのですが...。」
「ただ、ジオルドが王位継承権を放棄したからと言って人質になったカタリナが無事に戻って来るとは限らない。顔を見られたからと口封じに殺されてもおかしくない。」
「そ、そんな...勝手にさらっておいて顔を見られたから殺すなんて....。」
わたしは思わず叫んでしまう。
「しかし脅迫状でかなり首謀者が絞られましたわね。」
メアリ様がつぶやく。
「王族若しくはその支持者ってことだろう。」
「そういうことだとアラン様も候補になりかねませんが...。」
「冗談いうな。俺はそんな方法で王位を狙おうなんて考えないぞ。そもそも俺自身がが王を継ぐにふさわしいのかどうか考えないといけないのに....」
「あ、あの...」
マリアさんがいささか遠慮がちながらやむにやまれぬという感じで議論にはいってくる。
あからさまに(カタリナ様がとても心配です)と顔に書いてある。
「事件には闇の魔力がかかわっているのですよね?もし、闇の魔力がつかわれているならわたしが怪しげな人を探っていったらわかるかもしれません。」
「大変残念で悔しい話なのですが、事が起こってから半日経っています。数時間以内ならともかく、さすがにこれだけ時間が経っていたらわからなくなってしまっているのでは?」
「そうですね.....。」
マリアさんは顔を曇らせた。