乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
ジオルド様とメアリ様の周囲には腹黒い空気がただよっている、カタリナ様とキース様、アラン様は所在なさげに歩いている。
わたしは、そんなことにかまっていられないので5人に声をかける。
「おはようございます。皆様そろそろ学舎へ行きましょう。遅刻していまいますわ。」
「ソフィア、ずいぶんゆっくりね。」
「実は、昨日読んでいたロマンス小説がおもしろくて、気が付いたら夜明けになってしまっていて。」
「え~どんな作品なの?」
「長い黒髪が美しいサッフォー・フォン・ミスティと金髪ツインテールが美しいエリカ・フォン・スペンサーという二人の貴族令嬢が同じ平民の男性セイジ・タキを好きになってしまって恋のかけひきをする話ですわ。」
「おもしろそうね。今度貸してもらえたら。」
「はい。喜んで。」
「あ~マリア~おはよう!」
「おはようございます。皆さん。」
授業が終わるとマリアさんがカタリナ様に話しかけている。
「昨日、魔法省に行きましたら、ラーナ様が今度はカタリナ様にもきてもらいたいとおっしゃっていました。」
どうやら進路の話のようだ、わたしとしてもカタリナ様の魔法省入りには賛成だ。なにしろこのまま放っておくと、婚約を断る理由がないので、ジオルド様と結婚してしまう可能性がある。クラエス夫人とキース様は王族は務まらないと反対しているが決定的になりえない。それよりも王に次ぐ権力を握っている魔法省にはいればおいそれと結婚するのは難しくなる。そのためカタリナ様の心は動いてはいるものの、魔法省はエリート集団だ。学力も魔力もこころもとないからコネで入るのは....とだいぶ悩んでいるようだった。
そんなことがあってから数日後、今度はキース様が行方不明になった。置手紙があったというがなんかきな臭い気がした。最初にカタリナ様に同行すると言い始めたのはジオルド様だ。それからなぜか魔法省のラーナ様が「新人教育を兼ねて同行させてくれ」と名乗り出て、魔法省預かりの身分となっている闇の魔力保持者のソラさんとマリアさんも行くことになった。ラーナ様はなにやらかぎつけているようだ。魔力を持った人間を探すことができる魔法道具である「アレクサンダー」とかいうクマのぬいぐるみも持っていくという話だった。
キース様をさがすということで、カタリナ様とジオルド様は公休が許可され、魔法学園の入り口で魔法省からラーナ様とソラさんがやってくるのを待っていた。
わたしとお兄様、アラン様、メアリ様は見送りだ。
「わたしだってカタリナ様と一緒に行きたかったのに...。」
とメアリ様はさびしそうに言う。
「わたしも行きたいです。カタリナ様」
さびしいときやつらいときにほおの筋肉がつっぱり、目頭があつくなる。
「この忙しい時期に生徒会メンバーが一気にぬけるわけにいかないだろう。」
とお兄様がわたしを諭す。
「そうですよ。この卒業式前の忙しい時期に生徒会長が抜けるなんて信じられません。」とメアリ様が眉をつりあげて厳しい視線でジオルド様に言うか、ジオルド様は「もう僕にできることは片付けてありますし、なにかあったらニコルに協力してもらえるよう手配済みです。」と平然と言ってのける。
すると「す、すみません。わたしこそ副会長なのに大変な時に抜けてしまって...。」
とマリアさんが恐縮して謝り始めたので
「マリアさんはいいんですよ。今後のお仕事にかかわることだから。」
とメアリ様は必死にフォローし始める。
「カタリナは、僕がしっかり守りますから」
とジオルド様はカタリナ様にほほえみかけるがカタリナ様は、
「は.....はぁ...。」
と何のことやらという感じだ。
(あーこれはキース様のことで頭がいっぱいなんだな)
ジオルド様ががっかりする一方、メアリ様はご機嫌だ。
不思議そうに聞くカタリナ様にメアリ様は
「たいしたことはないのですわ。カタリナ様はお気になさらないでください。」
「ふ~ん、そうなんだ。」
「カタリナ様、お久しぶりです。」
青みがかった髪の好青年だ。誘拐事件以来である。
「ええ、ソラ、お久しぶりです。」
「待たせてすまない。そろそろ出発するぞ。」
そうしてラーナ様にひきつれられて、旅というかキース様捜索に出発された。
その後、わたしは、カタリナ様が心配でならなかった。大好きなはずの本の世界に入り込めない。気が付くとため息をついている。
カタリナ様とは十歳でお茶会で出会って以来の大のロマンス小説仲間。感想を分かちなえない日々は辛すぎる。わたしはジオルド様やマリアさんのように強く役立つほどの魔力はない。理性ではわかっていても気持ちが納得していない。マリアさんならともかくジオルド様はなにかと「危険」すぎる。ジオルド様は決して悪人ではないが腹黒いところがある。学園を卒業したらすぐに結婚しようとするだろう。そうなったらカタリナ様を独占されてしまう。そんなのは嫌だ、受け入れられない。メアリ様やアラン様と組んでカタリナ様がジオルド様の気持ちに気が付かないように邪魔してきたが、先日の行方不明の際の出来事からついに気が付いてしまった。それゆえジオルド様の猛アプローチが始まったやさきにキース様の行方不明が重なった。もしこの旅がきっかけでカタリナ様とジオルド様が親密になったりして結婚まで進んだらもう今までのように会えなくなってしまう。
そんなの受け入れられない。わたしの望みはカタリナ様がお兄様と結婚し、わたしは、その義妹になることだ。そのためにはお兄様に頑張ってほしいのだが...、お兄様は魔性というべき笑みを持つ方で、ハンサムで成績優秀、しかも気遣いもできる方で魔法の力もトップクラスの方だし、お兄様の魅力であれば落とせない女性はいないはずなのだが、お兄様は常識人すぎていくらカタリナ様と結ばれるように促しても首を縦に振らない。お兄様は「ちゃんとした婚約者がいる。」というが正直カタリナ様はジオルド様の女性除けの婚約と考えていて、しかも裏表のない優しく朗らかな性格から皆に好かれているのに本人には全くその自覚がない。
ロマンス小説は、ほぼ恋物語といってもよいくらいで、カタリナ様は「小説の中の○○王子はすてきだった、△×騎士はすてきだった。」という感想をいいつつ「わたしには縁がない」という。なぜですかと聞けば「だって私はしょせん悪役令嬢だから」と意味不明なことをおっしゃる。捜索中はキース様のことで頭いっぱいであることが考えられるけど、ほんの小さなきっかけでジオルド様の気持ちに気が付いたことを思い出すかもしれない。そうなったらと思うと、私ソフィアは、じっとしていることができず部屋の中をうろうろしてしまう。