乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
それからわたし、佐々木敦子の一人ぼっちの学校生活は翌日から一変した。
「これからもよろしく」
という言葉通りになにくれとこのモンキー、内野さんはわたしにかまってくるようになった。
一カ月後、わたしは、彼女にいつのまにか「あっちゃん」と呼ばれるようになっていた。
「あっちゃん~」
「なあに」
「数学の宿題、わたしのあたるところが分からなくて...この問題教えて!」
「ん~本当にやってきたの?」
「実は半分やったら挫折して....。」
「しょうがないわねえ。見せて。」
「うんw」
たしかに半分までやって挫折したノートだった。しかし彼女にしてはまだいいほうだ。
一週間前なんてもっとたいへんだった。
「あっちゃん~助けて~」
と言って背後からだいきついてくるから
「なあに?どうしたの?」
って聞いたら
「英語の訳があたるんだけどすっかり忘れてて...」
すっかり忘れて全然やってこなかったのだという。そういえば罰掃除をさせるといわれてることだけ思い出して泣き出しそうな顔だ。
「しょうがないなあ。これノート。英語の授業の前には返してね。」
「ありがとう。あっちゃん様」
彼女は猛ダッシュで自席にもどると、カリカリと必死にノートを写し始める。
「佐々木さんはすっかり野猿のお世話係になってるね。」
彼女、内野さんとのやりとりを見ていたクラスメイトの女子が苦笑しながら話しかけてくる。
「野猿?」
「そ、内野さんのこと。真樹子は最初マッキーだったのが木登りするからモンキーになって苗字の野をつけて野猿。さすがに本人の前では言わないけど...わたし小学校のころいっしょだったの。」
わたしの疑問に彼女はそう答えて再び苦笑する。
「休み時間に校庭の木に登っては飛び移って、近くの野山でも同じように飛び移って遊んでいたものだから、マッキーがモンキーになって、あの山には巨大な猿がいるなんてうわさが流れたくらいなの。それでうちわでついたあだ名が野猿。」
「それはすごいね。」
「しかもあの通り課題、宿題はことごとく忘れてくるし。先生に叱られてその場はしょんぼりしてるんだけど、翌日にはけろっとして忘れてくるの。」
「それは周りはたいへんだったね。」
「うん。でも悪意とかまったくなくて素直だからだまされて痛い目にあってもけろっとしているの。いじわるで間違いだらけの課題を丸写しさせた人がいて彼女先生に叱られて、丸写しさせた人がさすがに悪いと思ってたら彼女、私が宿題忘れたからいけない、ありがとうとお礼を言ったことがあるの。それにほかの人が気が付かないようなアイディアを出して難題が解決したり。木に登って子供の風船をとったり、電柱にひっかかったたこをとったりとか。だからあれはあれで一緒にいるとなんか楽しいんだよね。」
にやりと微笑む彼女につられてわたしもわらってしまった。
そのほか彼女に遠足の途中で衝動的に花やキノコをみつけて走り出してたいへんなことになったとか川でおぼれそうになったり、川でおぼれかかった友人を助けたりとかそのたもろもろ内野さんの小学生時代の武勇伝を聞かされて盛り上がり、3か月後にはたくさんの友人ができていた。その後長い人生の中で野猿こと内野さんのそれが発達障害の一種だということを知ることになるのはかなり後である。
「あっちゃん。それなあに?」
表紙は紫髪のツインテールの女の子がコントローラーを持っているラノベだった。
「あ、『ビバ!ゲーム』の小説版。子どものころやったゲームが面白くて、ゲーム会社にはいるために努力する女の子の話。読んでみる?」
「うん、貸して。」
「あっちゃん、それは?」
「『デザリアム』っていって、SFなんだけど未来の地球が敵国デザリアムに侵略されて、そののイケメン少佐に地球の少女が惹かれるんだけど、地球の元恋人のことが忘れられなくてなやむの。」
「面白そうだね。」
「来月、映画封切でイベントあるんだ~行く?」
「うん、いくいく」
「あっちゃん、そのラノベは?表紙の黒いコートの男の子と白地に赤ラインのコートにミニスカの女の子かっこいいね。」
「これは、『アート・レイピア・オンライン』。主人公の女の子がゲーム世界に閉じ込められてしまうの。そこで黒い剣士の彼に出会って....」
「あっちゃん、それ面白そう」
「『リトル・ラブ・ラプソデイ』って言って...」
その後、「めぐりめぐる物語」「恋する振り子時計(オシスラトリ)」「純真ミリバール」など同じラノベとコラボゲームにはまっていき二人してすっかりオタクとして出来上がっていった。
内野さんのご両親ともすっかり仲良くなり、野山を飛び回って何をするか分からないと不安になっていたご両親からは、
「佐々木さん、猿みたいに飛び回っていた娘を人間にしてくれてありがとう、もうあの子も野猿なんて呼ばれないですむようになった。」
と意味不明なお礼を言われ
「はい...いえ、そんなことは...明るい真樹子さんのおかげでたくさん友人ができましたので。こちらのほうが感謝したいくらいで...。」
とお礼を返したこともあった。
そしていよいよ中3になり、高校受験をひかえることとなった。