乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
「いえ、それは気が付きませんでした。」
「うむ。カタリナ嬢、君の姿も消えてしまったのだ。おそらくその黒い石に触れてしまったからだろう。その消えた後に闇の魔法を得たのではないか考えたのだが...。カタリナ嬢、その推測は正しいと思うか?」
ラーナ様が小首をかしげて回答をうながした。カタリナ様は腑に落ちないが何にやら納得したようなあきらめたような表情でお答えになる。
「黒い石には気が付きませんでしたが、おそらくその通りだと思います...。昨日あの岩の裏側に耳をあててみたらポチが出てきたんです。そしていつの間にかわたしは真っ黒な空間にいました。そこにはマリアと一緒の空間のように空中に球があったのですが、光り輝く球ではなくどす黒い球が浮かんでいて一方的に話しかけられました。その黒い球はわたしが契約の書を持っているというんです。それが偶然倉庫から持ってきた本だったのです。本は鞄からふわふわ浮きあがって、本をめがけて黒い矢のように文字が降り注ぎました。わたしは、まがまがしい文字が容赦なく降り注ぐので頭がくらくらし吐き気をもよおし意識をうしなったのです。....でも、あまりにも現実味がないので夢だったのではないかと思っていたところです。」
カタリナ様はそうお答えになり、
「やっぱりそう考えていたのか。だからこの本を倉庫に戻しておしまいにしようと考えているんじゃないのか?」
と改めてラーナ様がおたずねになると、カタリナ様は、いかにも図星ですと驚いている様子だった。
「カタリナ、君は顔に出ているからわかりやすい。だが、ただの夢ならともかく、そうでないなら今後の魔法省のためにその本を役立てたい。試してくれないか?」
「はい、わかりました。ポチ、出てきて」
ポチちゃんが現れ、「ワン」と吠えると、本に黒い霞がかかった。カタリナ様は、驚きと恐怖の入り混じったような表情になる。
「その顔は文字が見えたようだな。」
「はい...。」
「よし、それが分かったのなら今日はここまでだ。」ラーナ様は、カタリナ様の本を閉じた。
「マリア嬢とカタリナ嬢は、失われた魔法を直接受け取った立場にあるからか身体に負担がかかっているようだな。カタリナの顔色もよくないが、マリア、君の顔色もいいとはいえないな。」
「契約の書が逃げることはないだろうから、その解析は休み明けからでいいだろう。二人とも今日は帰ったらしっかり休むように。」
カタリナ様はキース様とソラさんにつきそわれ、自宅へ戻る帰り支度をはじめる。魔法省の寮に戻るマリアさんは、デユーイくんとサイラス様に付き添われていった。
ソラとキースに小言をいわれつつ、「失われた魔法が見つかったんだからいいじゃない。」と言っているカタリナを背後から刺すような冷たい視線があるのをわたし佐々木敦子は感じた。カタリナも腕に鳥肌がたっているようすがうかがわれ、おそらくその不気味な視線を感じていると思われた。
わたしはキース様にカタリナ様が倒れたことを伝え、お見舞をもってくるならお屋敷で確認するから待っていてくれと言われていたのをお兄様に伝えていた。
クラエス邸の茂みに隠れて様子をみているとカタリナ様とキース様はいい雰囲気になっている。
「キース様、義弟という特権を利用しすぎです。」とぼそりとつぶやくとお兄様が
「カタリナがどんな様子か確認してくるから待っていてくれていいと言ったキースに敬意を表して、もうすこし待つべきだ。」
「うっ、少し悔しいですがここはお兄様の言うとおりにいたします。」
「もう十分待ったでしょう。このままにしておくつもりはありません。僕は行きますよ。」
「ジオルド様、お一人で団体行動を乱さないでください。それにここについたのはわたしが最初ですからわたしが一番に行きます。」
「到着に大した差はなかったじゃないですか。それに僕はカタリナの婚約者ですので。」
「婚約者といっても形だけですわよね。わたしは、親友ですよ。この間はお城で一緒の部屋で眠った仲ですわ。」
「そんなことはありません。僕はカタリナを愛していますから。それに、あのときは、せっかくの僕たちの時間を全力で邪魔していただいて。」
「あら。あの程度のことをお気になさるとは。度量の狭い男はきらわれますわ。」
「ちょっとジオルドもメアリも落ち着け。こんなとこでもめるなよ。うわ....。」
アラン様がバランスをくずして茂みからでてきてしまう。
「アラン様?」
カタリナ様にみとがめられる。
「....あ~、よう、カタリナ」
気まずそうにあたまをかきながら返事をされていた。
「アラン様、先にずるいです。」
「アラン、兄をさしおいて何先に行ってるんですか」
「いや、どう考えてもお前らがあんなせまいところで身を乗り出してもめていたせいだろ。なんで俺が怒られるんだ。」
隠れていても仕方ないので私も姿を現し、お兄様もそれに続く。
「カタリナ様、こんにちわ。ごきげんいかがですか?」
「カタリナ、大丈夫か?」
キース様がぼそりとつぶやく。「もう少しまっていてくれればいいのに」とおっしゃってるように思えた。
「あの、なんで皆がここに?」
とカタリナ様がたずねるとキース様が皆がお見舞を持ってきてくれたんだと伝えている。
まずジオルド様がカタリナ様の手を取って
「カタリナ、君は僕の婚約者ですからどんなことがあろうと僕は命尽きるまで君のそばにいますから」と笑顔で話しかけてくる。それをメアリ様が押しのけて
「私もです。カタリナ様。絶対に離れてなんか行きませんわ。もしカタリナ様が悪事に手をそめるようになったら叱って差し上げますわ。」
「叱るだけじゃなくて菓子をおあづけにすればさらに効果があるとおもうぞ。」
アラン様がいたずら小僧の様な笑みをうかべる。
わたしにとってもつらい決断だがカタリナ様がもしそういうことになったら更生してほしい。
だから
「わ、わたしも心を鬼にして小説をお貸ししないことにします。」
と吐き出すように宣言する。
「そういうことだ。ここにいる者は皆君がどんな風になろうと見捨てて離れて行ったりしない。そばで支え続ける。」
お兄様が魔性の伯爵ともいうべきとても優しい魅力的な笑みをうかべた。
カタリナ様は
「みんな、ありがとう。」
とお礼を言ってきた。その表情からは安心した様子がうかがえた。わたしたちは、カタリナ様としばらくおしゃべりした後夕方になったのでそれぞれ帰っていった。