乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
「いろいろあったけど久しぶりにみんなと過ごせて楽しかったわ。」
カタリナ様がそうおっしゃるように学園時代は毎日のように会えていたが、カタリナ様は魔法省、わたしたちはそれぞれの家の仕事で会う機会がぐっと減ってしまった。
「でしたら今度王家の別荘へ泊りに来ませんか。自然豊かで素晴らしい場所ですよ。」
「本当?じゃあぜひ行ってみたいです。」
「そうですね。義姉さん、ぜひここにいるみんなで別荘にお邪魔させてもらいましょう。」
「ええ、そうですわね。アラン様、ぜひみんなで行きましょ」
「あ、ああ、そうだな。」
「楽しみですね。」
「そうだな。」
「王家の別荘ですか。楽しみです。」
ふとみると提案したはずのジオルド様の目はわらっていないように思えた。
さて近隣会合の際に、魔法省で捜査を進めている田舎の男爵家の令嬢がさらわれた事件にからみ、マリアさんまでさらわれかけていたが、そのことでカタリナ様がエテェネルの王子セザール様とご一緒したためにソルシェでは禁じられている人身売買が行われていることが明らかになった。そのため魔法省の任務としてさらなる情報収集と組織摘発のためオセアンという港町に潜入捜査する必要が出てきたという。これまでの捜査の過程で闇の魔力がからんでいるということで、闇の魔力の捜査に適しているカタリナ様、マリアさん、ソラさんがオセアンへ行って町民にまぎれて潜入捜査をするとのことだ。要するに町民に身をやつしての情報収集で危険なことはないとのことだった。
みおくりにはジオルド様、キース様、アラン様、メアリ様、わたしくたち兄妹が参加した。
ジオルド様が余計なことに首を突っ込むなと言えば、キース様は。お菓子をくれるからとついていくなといい、メアリ様が護身用の薬瓶をすすめている。目つぶしと麻痺薬だという。
アラン様がかえって危険だからととりあげる。
わたしは、最近のお気に入りのロマンス小説を何冊か持ってきた。
「あの、カタリナ様、道中おひまだったらこれを....。」
するとお兄様が
「ソフィア、カタリナは遊びに行くんじゃないんだ、仕事に行くんだぞ。そんなものを読んでいる暇はない。それは家に持って帰りなさい。」
とおっしゃりとりあげる。カタリナ様は少々残念そうなお顔だったが仕方なくわたしはあきらめた。
ソラさんが
「そろそろ馬車を出しますよ」と言って顔を出す。
「くれぐれもカタリナを頼みますよ。どうかおかしなことにならないようお願いします。」
ジオルド様の笑みが何となく黒く感じる。ソラさんは少し引き気味にうなづいて馬車を出した。
カタリナ様がオセアンへの出張の間、ジオルド様がいっしょではないこと、魔法学園時代のように毎日お会いできないことにも慣れてきたので読書が手につかないことはなかったが、それでもお会いしたい気持ちは心のどこかしらにある。不安な気持ちと楽しみな気持ちとが交錯する。風の魔法道具で遠くの声が聞こえたり、遠くと通話できたりする道具があるらしい。早く誰もが便利に使えるようになってほしいものだ。
わたし佐々木敦子は、転生した内野さんであるカタリナと話せないことが少々寂しく感じた。前の世界にはスマホがあり、LINEで気軽に話せたのに...魔法道具研究室ではやく風の魔力によるケータイなりスマホを開発してもらいたいものだ。
さて一週間後、首を長くして待っていた。ようやくカタリナ様たちが帰ってくるという。
カタリナ様たちの馬車が着くとさっそく魔法省の客間に来ていただく。
「オセアンの港町では、レジーナさんのところの『港のレストラン』でウェイトレスをやったのよ。
例の誘拐犯のアジトがわかったけど、ちょっとつかまちゃって。でもポチやソラ、マリアの魔法で無事に誘拐犯のアジトから脱出して、誘拐犯たちはつかまって事件は解決したからみんな安心して。」
わたしは、一瞬言葉がでなかった。皆さんも多かれ少なかれそんな感じで複雑な顔をしている。
「ちょっと待って義姉さん、情報収集するだけだから危険のない任務のはずじゃなかったの?なぜ敵につかまるようなことになったの?」
キース様が眉を寄せて表情を険しくする。どうやらソラさんを追いかけていたら敵のアジトの前にい合わせることになってしまったらしい。ジオルド様は目をいからせている。キース様はなぜそんな危険なことをするのかと眉をあげる。
カタリナ様はメアリ様と私のほうへ顔をむける。その表情は、眉をさげ、たすけてくれと顔に書いてある。
「まさか。何かされたのですか?」
メアリ様は顔を青くする。
「なにもされてないわ。閉じ込められはしたけど。」
わたしはたまらず
「閉じ込められたって...大変なことじゃないですか。暗くて汚い牢屋にでも入れられたのですか?」
と申し上げると、
「広い部屋じゃなかったけど牢屋じゃなかったし、無事に何事もなく脱出できたんだから。」
カタリナ様は必死に弁明する。
「それで、どうやって脱出したんだ?」
アラン様が不思議そうにたずねている。ポチちゃんやソラさんの活躍で脱出できたらしいが、それは結果的に無事に脱出できたといっても何事もなく脱出できたとは言わないだろう、とたしなめられていた。
「そんなに強引に逃げてきて、危険なことはけがはなかったのですか?」
ジオルド様の表情は険しいままだ。カタリナ様はけが一つもなかったと腕を見せて弁解する。
「しかし、その言い方だと危険なことがあったんじゃないか?」
いままで黙っていたお兄様が口を開いた。お兄様に見つめられたカタリナ様は降参ですという感じで、逃げる途中に子どもたちをかばってつかまってしまった、とおっしゃる。
するとメアリ様がさらに蒼くなり、
「あの、捕まったって....それで大丈夫だったのですか?」
「うん、大丈夫。少し首を絞められたくらいで...。」
「つかまって首を絞められたって...すごく危なかったんじゃないか、義姉さん」
「首は、けがは大丈夫だったんですか?」
「ほんの一瞬のことだったから大丈夫よ。ほんとうにたいしたことなかったんだから。ほら」
カタリナ様は首筋をおみせになって、皆さんはほっと息をついて安堵したようだった。
「カタリナ(様)、それで危険はなかったとは言えないのでは?」
「ものすごく危険だったんじゃないか、義姉さん。」
皆さんはため息交じりな感じだった。