乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
今日はメアリ様といっしょに魔法省のお手伝いをする日だ。「貴族令嬢としての見識をひろげ今後に役立てたい」ということで週に2日程度お手伝いに行っている。表向きの目的は、そういうことになっているし、確かにその通りだが、裏の目的としてカタリナ様やマリアさんに会えるという本音もある。メアリ様も口にはしないがおそらく同じことをお考えになっている。
今日は、書類の整理だ。魔法省の事務仕事は膨大で、あの優秀な元生徒会長のラファエル様も魔法道具研究室の副部署長として忙しい日々を送っているくらいだ。半日ほどで仕事を片付けてメアリ様と廊下を歩いていると、マリアさんに会った。
「マリアさん、こんにちは」
「こんにちわ。メアリ様、ソフィア様」
「マリアさん、カタリナ様はお元気にやっていますか?」
「いま古字で書かれた契約の書の解読に奮闘中なのですが、お疲れになって休憩室でお休みになっています。」
「そうですか?おうかがいしても?」
「はい。お二人がお見えになったらお喜びになると思います。ただお目覚めになるまでお待ちになるようですが」
「わかりました。おうかがいします。」
カタリナ様はお休みになっているようでわたしもつられてうとうとしはじめた。
水色のカバーのかかったパイプベッド、黒いテーブル。壁は薄いピンク色。ベッドの上には青いクッション。なぜか一度も行ったことのない場所なのに既視感がある。
長細い黒い箱から小さな引き出しのようなものが出ている。少女が真ん中に1.5cmほどの穴の開いた丸い円盤のようなものを小さな引き出しにいれてしまうと
「まな板」のような板に「Fortune LoverⅡ 」の文字があらわれ、ウィーン、カチャカチャという音とともに聞きなれない楽器を使った音楽が流れる。
まな板に映し出されるのは、ジオルド様、ソラさん、わたし、メアリ様、マリアさん、アラン様、魔法省のサイラス様やデューイ君などが映し差出される。どうやらマリアさんの立場から見た紙芝居のようにすすむ。この画面をみているのはあたかもわたし自身のような不思議な感覚。
『よし、もう少しで隠しキャラも攻略成功だな』
なぜかわたし自身が話しているような不思議な感覚。
『マリア、俺がお前をまもってやるよ』
そのセリフのまえには、「セザール・ダル」という文字が書かれ、その浅黒いイケメンは、あきらかにエテェネルの王子セザール様に間違いなかった。以前カタリナ様から見せられた異国の文字によく似ていた。おそらく「せざーる・だる」と読むのだろう。
まな板に描かれた「画像」がつぎつぎに切り替わりマリアさんが
『セザール様、わたしは守られるだけは嫌です。わたしも大切な人を守りたいです。』
『ああ、おまえはそういうやつだな。わかった。いざとなったら共に戦おう。』
セザール様は、八重歯を見せてにっと笑っている。
やがて画像が薄暗くなって、不穏な音楽が流れる。
『あら、ようやく見つけた。探したのよ』
と高慢そうな女性の口調。つぶやくのは黒いフード付きマントをまとった女で名前は「???」となっている。
『??あなたはいったい....?』
まな板に映し出されたマリアさんとセザール様の顔がいぶかしげに変化する。
『お前は何者だ』
『あら、あなたはともかくそこの卑しい小娘とはなんども話したことがあるのに...卑しい小娘の分際でわたしの名前をお忘れとはいいご身分ですこと。』
何んとなく聞いたことがある。これはカタリナ様の声だ。しかしあざけるような口調だった。「画像」のマリアさんはややたじろいだ様子で問い返す。
『....あなたはどなたですか?』
と問い返す。
『あら、まだとぼける気?ひどいわね。わたしよ、わたし』
あざけるような口調でフードを外したら、細面で吊り上がった眼、「へ」の字を逆にしたような口元をした女の顔が現れる。「まがった口」ということばそのもののようなあざけるような口元。好感がもてない悪役顔だ。
『カ、カタリナ・クラエス様....?』
『お久しぶりね、マリア・キャンベル』
『クラエス様は国外に行かれたとお聞きしていましたが...』
『そう、たしかにあなたのせいで国外追放になった。でも戻ってきたのよ。あなたに復讐するためにね』
目を吊り上げ口元もつりあげてにやりとせせら笑う。
『悪かったな。こいつはおれのだ。傷一つ付けさせんぞ。』
セザール様がマリアさんをかぼうように前へ出る。
『ふん、あなたのようなよそ者が闇の力を持つあたしに勝てるとおもってるの?さあケルベロス!』
カタリナ様のような女のかげからポチちゃんのような子犬が現れるがその表情は邪悪な獣そのもので、みるみる巨大化していく。もとの30倍になっただろうか。ロマンス小説に出てくるドラゴン課と思われるくらいに巨大化し、ウオオオオオオオオオ...と遠吠えする。牙をむき出しにしてマリアさんとセザール様をにらみつける。
この夢はわたし佐々木敦子がカタリナとソフィアに見せた夢だ。ソフィアは起きたら忘れている可能性が大きいが、内野さんにみせるためだからそれでもかまわない。
そのときわたしソフィア・アスカルトはカタリナ様の叫び声でわれに返る。
『....名前、ケルベロスって何~~~~』
カタリナ様はがばっと起き上がる。わたしもなぜかうたたねしていたようだ。
驚きを含んだ心配顔でマリアさんがカタリナ様に話しかける。
「カタリナ様、あの、大丈夫ですか?」
「あ~、うん、大丈夫、大丈夫」
カタリナ様は気恥ずかしそうだ。
わたしはさすがにとまどって
「カタリナ様、今のは一体...悪い夢でも?」
と話しかける。
「ケルベロスって聞こえた気がしたのですが...」
メアリ様が不思議そうな顔をなさる。
「あ~ちょっと変な夢を見てなんかよくわからない寝言を口走ったみたい。あ~そのあまり深い意味はないのよ...あはははは...、」
間をおいて気を取り直したカタリナ様がこんどはお尋ねになる。
「それはそうと、どうして二人はここにいるの?二人に会えるのはうれしいけど..」
「今日はメアリ様と魔法省のお手伝いをする日だったんです。カタリナ様とお会いしたいですねと話していたら、ちょうど運よくマリアさんに会えて、こちらにいらっしゃるとのことでしたので...。」
「それでこちらに来たのですが、カタリナ様がお疲れでお休みになられているということでしたのでお目覚めになるまで待っていたのですわ。」
メアリ様がつけたした。
※まな板=デイスプレイ
※丸い円盤=ゲームソフトのディスク
※引き出しのようなもの=ディスクドライブ