乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
内野さんとわたしは、近隣の高校へ一緒に行こうということになったのだが、体育は5である内野さんは、わたしの影響でボキャブラリーと漢字は覚えて、多少国語の成績は改善したものの、本来あきっぽくて勉強はからっきしと言っていいくらいダメだった。興味がもてないことには打ち込めない性格のようだった。
「あっちゃん~、もうだめだ~あとのことはまかせた~」
私は内野さんのあたまをまるめたプリントのつつでぽこんと軽くたたく。
「何言ってるの...まだはじめてから10分経ってないじゃない。そんなんだと高校浪人になっちゃうよ。」
「だって~この分厚い参考書を見ていると、ヒュプノスがあ...きっとこの参考書には呪いがかけられているのにちがいないわ。」
「そのディスペルはちょっと難しいよ。」
二人にしかわからないゲーム用語で返しながら、わたしは、どうしたら内野さんがやる気を出すのか考え込んだ。
彼女は、こずかいなんか渡そうものなら考えなしにぱっぱと使うだろうと両親からみなされて、お年玉は強制的に貯金、ふだんのこづかいも必死に言い訳を考えてようやく学用品くらいしか買ったことがなくクラスメイトでおこづかい金額最下位をほこるほどで自分の意志で数千円単位の中学生にとっては高価な買い物ができない。ときどきわたしの家でゲームをしているといった感じだ。
「よし!じゃあこの受験を突破したら、わたし秘蔵の乙女ゲームをおもうぞんぶんやらせてあげる。」
「でも、あっちゃん、わたしゲーム機もってないよ。」
「貸すわ!。試験にちゃんと合格出来たらゲーム機ごとレンタルしてあげる!」
「ありがとう!あっちゃん様。あたし、乙女ゲームのために必ず高校に合格するよ。」
それからというもの、内野さんは、乙女ゲーというにんじんにくらいつく馬のようにそれこそ馬車馬のように受験勉強にいそしんだ。
わたしも、受験勉強中、ポイントと思われることを把握したら彼女に教えて彼女の受験勉強がすこしでも効率的に進むよう協力した。
そのかいあって、合格発表の当日、高校の掲示板に張り出された自分たちの番号をみつけると、ふたりでハイタッチをして喜びをわかちあった。
高校合格後、内野さんの部屋に目新しいゲーム機があることに気が付く。
「あれ??ゲーム機あったの?」
「ううん。驚け。高校合格祝いにゲーム機買ってもらったの。」
「あら、佐々木さん、いらっしゃい。ごめんね。この子のためにいろいろと...」
「いいえ。」
わたしは苦笑しながら答える。
彼女のお母さんがいなくなったときに訊いてみる。
「高校に合格したらわたしからゲームソフトをゲーム機ごとレンタルするって約束したって話して、そんなことまで友達にさせてはいけません、買ってあげるから借りるのはやめなさいといわれたんでしょう?」
「あはは....そのとおり。あっちゃんにはバレバレだね。でももともとわたしのお年玉なのに...。」
「じゃあさっそくやろう。」
高校では、友人たちもお小遣いをある程度もらえるようになっており、さらなるオタク友達ができた。漫画、アニメ設定本、DVD、ゲームソフトを買うためにバイトにいそしむようになった。ファミレス、メイド喫茶のウェイトレス、それがない日はゲームをやっていた。
Fortune Loverが発売されたのは高校1年の秋。
発売日の夜はなぜか星がよく見えた。普段見られない雲のようなものがぼんやり見えた。たまたまあった星座早見でみたらアンドロメダ銀河と書いてあった。
「内野さん、新作ゲーム出たよ、Fortune Loverっていうの。」
「あっちゃん、知ってるよ。とある国の魔法学園を舞台にした中世風のゲーム。面白そうだよね。」
「早速買って始めたんだ。」
「ふむふむ、主人公のマリア・キャンベルは、幼いころ光の魔力を発動。平民にもかかわらず魔法学園へ入学。成績優秀でいきなり学年2位になって生徒会へはいる。人柄もすごくいい子みたいだね。あ~こんな美少女に生まれ変わりたい。何でもうまくいきそうなのに....こんな狸顔じゃあ...。」
私は苦笑する。
「ゲームやってる時だけは、内野さんもマリアに変身できるんじゃない。思いっきり楽しみなよ」
「そうだね。まずは悪役令嬢の弟のチャラ男くんからいこうかな。」
その日から内野さんはスマホのアイコンをゲームのキャンペーンのLineスタンプのマリアに変えてきていた。何種類かありマリアのスタンプをその時の気持ちに合わせて送ってきてくれる。
チャラ男ことキース・クラエスは、クラエス家の親戚筋コールマン子爵家の妾の子でいじめられてきたものが、カタリナが第3王子ジオルドの婚約者になったためにクラエス家を継ぐために養子に入ったのだが、義母になったミリディアナとその娘カタリナに妾の子といじめられる。
その結果、ひねくれたイケメンとして多くの女性と浮名をながす。
ある日、キースは魔法学園で出会った主人公である金髪美少女マリアを口説こうとして断られ、偶然彼女のハンカチを拾う。
「これ、君のハンカチじゃない?」
「は、はい...ありがとうございます。」
「かえしてほしかったらぼくと付き合ってよ。」
「はい...。」
金髪の美少女マリアはハンカチを返してほしくてあいまいな返事をする。
マリアはその生来の人のよさでなんとなくキースともつきあうことになり、キースの良い面もみることになる。
キースは気位ばかり高い貴族令嬢と、さりげない心遣いのできるマリアとの差にひかれていく。
一方で、カタリナ・クラエスのいやがらせがはじまる。
「いやしいねずみが!キースに近づいて公爵家の財産をねらってるんでしょう?そんなの許さないわ!」
「この泥棒猫!キースから離れなさい!」
「いやしい身分で、どこの種ともわからないくせに魔法学園にはいったからといって公爵家の跡継ぎをねらうつもり?そんなの許さないわ。」
ある日、中庭のベンチで昼食をとろうとしているマリアをカタリナと手下の令嬢たちがみつける。
「ゴキブリにも金色がいるなんて初めてだわ。あなた、火の魔力でこのゴキブリを焼き払っておしまい。」
「はい、カタリナ様。」
黒いワンピースの令嬢はサディスティックな笑みを浮かべ、手から火を出してマリアを襲おうとする。
(いでよ!アーセン・ゴーレム)
そのときキースが手を伸ばして念じると、土人形が現れる。
令嬢たちはおどろく。土人形はマリアをかばってのしのしと歩いていき安全な場所までつれていく。
「キース様?」
「マリア、無事でよかった...。」
キースは不器用にマリアを抱きしめる。
「君は光の魔力を持っているだけの特別な子じゃなくて、すごく優しい子だってわかったよ。僕は君を守っていきたい。」
「チャラ男って実はピュアだよね。」
「うん、彼は、継母やカタリナにいじめられてきたけど陰で公爵家を継げるよう努力もしてきたこと、本音を話せるマリアに惹かれたんだなあって思うよね。」
そんなふうに感想を言い合ったのだった。