乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
「ソフィア様、こんな時間に??」
カタリナ様のメイドであるアン・シェリーは驚いて息を切らしているわたしをみる。
「カタリナ様が目を覚ますまで呼びかけます。」
ジオルド様、お兄様、メアリ様、アラン様、キース様がやってくる。
行方不明なマリアさんを除く全員がカタリナ様を呼びかける。
「どうか、助けてください。」
ソフィアをはじめ皆の祈りを私は受け止めて、ソフィアの心に呼びかける。
「任せておいて、必ず連れ戻してくるから。あなたたちは、カタリナをここで呼び続けて...。」
前世で、路傍礫という方が書いたアート・レイピア・オンラインというラノベがあった。世界で1500万部を売り上げ、全25巻が出て第20巻までアニメ化もされ、まだ続いているヒット作。
わたしは、カタリナの意識が内野さんになってそのラノベと酷似した仮想的なVRMMO世界に閉じ込められていることを知っていた。
シリウス・ディーク、本名ラファエル・ウォルトが本気でカタリナを殺す気がないために闇魔法で永遠の眠りにつかせるためには、カタリナの意識をどこかへ閉じ込めないといけない。それは奇しくもアート・レイピア・オンラインのナーブ・ヘッドギアが着脱不能な場合に酷似した状態、すなわち1~2巻のベルクラッド編と同じ状態を生理的に生み出すものだったのだ。闇魔法なので装置のようにオン・オフ、ログイン・ログアウトできないという大きな違いはあったが。わたしは、その仮想VRMMOが作り出した世界でカタリナの意識である内野さんに会うことができる。
夕暮れ時に、内野さんはわたしの教室にやってくる。
「あっちゃん、おまたせ。」
「Fortune Loverはどこまで進んだ?」
わたしは、内野さんに話しかける。
「う~ん、いま腹黒ドS王子を攻略中。」
わたしは少し困った顔を彼女に見せてから
「学校はどう?楽しい?」
内野さんはとまどったように
「あ...え....うん、楽しいよ」
と答える。
その直後だった。内野さんは、驚いたように目をこすりはじめる。
ああ、彼女に今のソフィアの姿が見えたんだなとわたしは悟った。
「私はとっても楽しいよ。あなたにあえて、こうやって過ごすことができて。
だけど、あなたの世界はもうここじゃないでしょう。」
内野さんの表情は驚きと疑問符をないまぜにした表情になる。
「あなたの世界は別にあるでしょう。そこにはあなたを待っている人たちがたくさんいる。」
「あっちゃん?何のこと?」
「ほら、ねえ、聞いて。みんながあなたを呼んでいるから。」
「カタリナ、起きてください!もう君のいない人生は考えられない。」
「起きてよ。義姉さん!ずっと一緒にいてくれるって約束しただろう。」
「カタリナ様、起きてください。あなたがいないと私は頑張れないのです。
「起きろ!いつまでそうやって寝ているつもりだ。このアホ令嬢!」
「カタリナ、目を覚ましてくれ」
「カタリナ様、起きてください。」
そのとき内野さんの姿が細面で長髪、切れ長の目、青と白が組み合わされた幾何学文様のワンピース、ゲームで見慣れた悪役令嬢カタリナの姿に変わった。
そして教室の壁と床が崩れ始めた。
「元の世界へ戻らないと...あっちゃん、実はマリアが行方不明なの。もしかしたらどこにいるか知っている?」
「マリアは無事よ。学園の敷地内にある昔ディーク侯爵家が建てた倉庫があるの。」
私の脳内の記憶が空中に立体画像となり、魔法学園と魔法省の敷地が映し出された。倉庫の平面図と断面図が映し出される。
「この地下一階の隠し部屋にマリアは閉じ込められているわ。そしてここに地下室をあけるボタンがある。」
倉庫の奥の棚のわきにあるボタンが映し出される。
「それから、生徒会長は....凄く悲しそうな眼をしていた。どうして....あああっ...。」
カタリナになった内野さんの立っている床が細かいダイスのようになって崩れ落ちかける。
必死に彼女は手を伸ばす。
「あなたは、わたしたちを救ってくれたように、きっと会長のことも救うことができるわ。シリウスを救うのに光の魔力はいらないの。」
「光の魔力がいらないってどういうこと?」
わたしは、カタリナの意識に語りかける。
カタリナの脳裏にシリウスルートの画面を映し出す。
「あれ?あっちゃん、これは?」
「シリウスルートだよ。」
「シリウスが母親との思い出を語っているでしょ、それがヒントになるんだよ。
母親との思い出、彼の本当の名前を呼ぶことで彼を救うことになる。彼の本当の名は、ラファエル・ウォルト」
「救うって?本当の名がラファエル??」
「そう。ラファエルだよ。覚えておいて。きっと役に立つから。」
わたしの言葉は疑問に思ったことだろう。
カタリナである内野さんは崩れた床の下からまばゆい光の穴にすいこまれていく。
彼女の瞳からは大粒の涙が流れている。
「あっちゃん、久しぶりに会えてうれしかったよ。事故で何も言えなくてごめん。さようなら。本当にありがとう。」
彼女が光の穴に完全に吸い込まれて消えようとしたときに
「わたしもとてもうれしかった。今度はソフィアとしてずっとそばにいるから。さようなら、ありがとう。私の大切な親友。」
とつぶやいた。叫びたかったのに叫び声にならなかった。
彼女はあの世界にもどったのだろう。ソフィアのいる世界に。
ソフィアは、カタリナの枕もとで泣いていた。
カタリナは目を覚まし、
「泣かないでソフィア。おはよう」と笑顔でつぶやき、おきあがった。
「カタリナ様」
ソフィアが抱き着いたのに続き、普段令嬢中の令嬢と評されるほど堂々としているメアリが涙を流して
「カタリナ様、とても心配したのですよ」
だきついていた。
ディーク家の倉庫へ向かう道中でソフィアとしては思わず「お優しい方だと思っていたのに。」とつぶやいてしまうが、ソフィアの脳裏に佐々木敦子としては、闇の魔力も持つ存在だと警鐘を鳴らしていた。
前世のわたしがゲームで知っている記憶の通りディーク家の倉庫地下の隠し部屋にマリアがいた。その先の奥の部屋に会長シリウスがいるのだろう。
マリアの繋がれた鎖を断ち切って、シリウスがどこにいるか尋ねる。
「この部屋のある廊下の突き当りに黒い扉があります。そこに会長はいます。わたしも行きます。」
皆危険だからと止めたが、マリアは、「会長の持っている不思議な力は闇の魔力です。光の魔力をもっているわたしも行ったほうがいいですよね。」
と強い意志の瞳で皆をみつめたので一緒に行こうという空気になった。
皆警戒をしながらその扉を開けた。
そのときだった。わたしソフィアですらもどす黒い雰囲気を感じたがマリアさんはいっそう敏感に感じているようで顔色が悪い。
部屋の壁には呪文のようなまがまがしい文字がぎっしり書かれ、紫色のろうそくが無数ともっていた。