乙女ゲームに登場する文学少女である伯爵令嬢に転生していた..... 作:Brahma
会長は、部屋の真ん中にいらっしゃった。
さてFortune Loverのシリウスルートでは、ハッピーエンドに至るまでいくつかの分岐がある。
生徒会室で、会長の入れた紅茶は優しい味がする、と言っていたのは、Fortune Loverではマリアだった。シリウスの気持ちはそれで揺れ動いて、マリアが倉庫の地下室にとじこめられずにハッピーエンドになる分岐もあったのだが、シリウスルートを初めてクリアしたときには、ディーク家の倉庫地下室に閉じ込められる展開になった。そこで光の魔力を直接使おうとするのは愚策だった。
「この偽善者が...それで他の他の奴らのように僕のことも救ってくれるというのか?聖女カタリナ・クラエス様」
ゲームで、シリウスのこのセリフの末尾は、「光の聖女マリア・キャンベル様」だったのだが、なぜかカタリナになっている。
ちなみに、シリウスルートでのマリアのセリフは、
手を合わせて、「わたしは普通の平民の少女にすぎません。光の魔力も傷をいやすことはできますが、『伝説の光の契約の書』を習得しなければ人を救うことはできない、と聞いています。」
「だから私のできることは、あなたが苦しんでいるときに救ってあげることはできないけどそばにいることはできます。」
「そばにいて、悲しいとき辛いときに話を聞いて、元気が出るまでいっしょにいますから。
だから、泣かないで、ラファエル」
という感じになる。カタリナはそれをうまくやってのけ、闇の魔力は消えていった。
わたしソフィアは、呆然とその場の成り行きの一部始終をみていたが、なぜか不思議ななつかしさを感じた。あたかもその場面に居合わせたかのように。そのときわたしはソフィアではなく、透明な衝立の向こうに私の分身がカタリナ様のように会長によりそい、話しかけていたように感じていた。
この不思議な感覚はなんなのだろう。
ラファエル様については、闇の魔法が使われた事情で魔法省の捜査が入った。魔法省は魔法に関して犯罪が行われた場合は警察権がある。デイーク侯爵家一族に捜査の手が入り、デイーク侯爵夫人をはじめ闇魔法にかた首謀者たちがラファエル様の証言によって逮捕され、ラファエル様は魔法学園を退学になった。しかしラファエル様自身は基本的には親族を殺された被害者である事情から、その身分は魔法省預かりとなった。
二コルの学年の卒業パーティーの日がやってきた。
わたし佐々木敦子の意識はカタリナに向いているが、破滅エンドは回避しているという見立てだ。
しかし、カタリナは何となく落ち着かない様子だ。
二コルに「渾身の野菜束」をわたし、アランが爆笑している。
なにやらマリアのほうに意識が向いている。
たくさんケーキを食べているところもいつもどおりだ。
わたしソフィアは、カタリナ様がたくさんケーキを食べ、キース様に食べすぎを注意されているところをみたが、なにかまだ食べ足りなそうだ。
メアリ様が、「私のケーキも召し上がってください。」
と話しかけられているので、わたしも
「私のケーキも召し上がってください。」
とカタリナ様に話しかけた。
「ありがとう、飲み物をとってくるわね。」
と言ってなぜかマリアさんのほうへ向かっている。
カタリナはしびれをきらしてマリアのところへいったようだ。
「マリア、好きな人はいないの?」
マリアはかすかにほおをあからめて
「わたしは、カタリナ様をお慕いております。」
と答える。
「それはうれしいのだけれど、そうじゃなくて気になる男性はいないの?」
カタリナの問いにマリアは思案顔になって
「気になる男性....。」
とつぶやくものの、結局1分もたたないうちに
「いませんね。」
と言い切り、「私が気になるのも、お慕いしているのもカタリナ様なのです。これからもずっとおそばにいさせてください。」
とほんのりほおをあからめて微笑みながら
カタリナの質問に答えている。
(よかったね、カタリナ、破滅エンドを回避できて)
さて、マリアさんとカタリナ様の会話が聞こえ
メアリ様がふたりに近づいていく。
「マリアさん、ぬけがけはいけませんわ。わたしもカタリナ様とずっとおそばにいさせてください。」
そしてわたしも、
「わたしもですわ。カタリナ様、ずっとずっとおそばにいさせてください。」
そうしたらアラン様、お兄様、ジオルド様、キース様もいらっしゃった。
「大切な義姉をジオルド様だけに独占させるわけにはいきません。義姉に王子様のお妃がつとまるとはおもえませんし、必ず婚約は解消させていただきます。」
「キース様、このメアリ・ハントも協力させていただきますわ。」
わたしもカタリナ様が独占されてしまうのはつらい。ロマンス小説を語り合える大親友。
大昔から友人だったような人をだれかに独占されるのは耐えられない。
「そうですわね。メアリ様わたしにもお手伝いさせてください。お兄様もカタリナ様を独占されたくないですよね。」
お兄様は無言でうなづいた。
アラン様や、マリアさんもわれこそと加わり、いつのまにか生徒会メンバーで雑談の輪ができていた。
卒業パーティが終わって、生徒会室でささやかなお茶会をする。お兄様のお別れ会を兼ねている。
マリアさんの新作お菓子のお目見えだ。お母様と一緒に新しいレシピをつくったのだという。カタリナ様は大喜びで、マリアさんのお母様にもぜひお礼をお伝えして。と話していた。
「カタリナ様、お茶もいかがですか。」
メアリ様が微笑んで紅茶をさしだす。
カタリナ様は、それを口にすると、はっとしたようだ。
そのときドアが開いてラファエル様があらわれる。
カタリナ様は一瞬驚いたようだが、笑顔になる。
メアリ様とアラン様がカタリナ様をサプライズで喜ばせようとだまっていたようだ。これからもいっしょにいさせていただけますか、とおっしゃるラファエル様に
カタリナ様はもちろんですわと言って手をとる。
またライバルが増えましたわ、何人たらしこんだら気が済むんだ、婚約者の前でどうどうと...といった小声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。
わたしは、「カタリナ様、最近新しくおもしろい小説のシリーズを見つけましたの。いかがですか?」
とお見せする。
目次をごらんになって
「おもしろそうね。ソフィア」
「とってもいいお話なので。おすすめです。ぜひまた一緒に読みましょう。1巻をもってきたのでお貸ししますわ。」
「ありがとう、ソフィア」
「しばらく会えなくなるが妹をたのむ。」
「いえいえ、こちらこそよろしく頼みます。」
お兄様が笑みをうかべる。
「お兄様、いつでもたずねてきてください。また1年も蚊帳の外では、ほかの方におくれをとってしまいますから。」
わたしは、お兄様がご自分の気持ちに正直になって、カタリナ様とむすばれ、わたしは義妹になっていつでもいっしょにいたいのだ。
そうわたし佐々木敦子もカタリナである内野さんと同じ時間を過ごしたい。
「さあ、皆さんめしあがりましょう。」
マリアさんの合図で、カタリナ様以外もお茶とお菓子に手を伸ばす。
楽しい時間が過ぎていった。