Fate/Midrash   作:ウーティス/Outis

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初投稿です。
出来る限り型月の設定を厳守してますが、設定の甘さとかいろいろお許しください!アンリマユが何でもしますから!


prologue
prologue/時計塔


 秋の訪れを感じさせるうすら寒い風が吹く日だった。

 ロンドンの冬は厳しく、秋もまた気温は低い。

 特にこの日はいつにもまして風が強く、道行く人々は体感気温の変化に、マフラーや手袋のような脱着のしやすい防寒具を身に纏い、体温を調整することで対抗している。

 

 そんな冷え込んだ街の郊外に、一つの街がある。

 その街は、人のあまり寄り付かない街だった。

 国道には検問が常に敷かれており、地図に載ってない建物も多い。そのほかにも人除けの結界、視覚の妨害といった、人の考えつく限りのあらゆる普通の人間がたどり着けないための仕掛けがなされていた。

 

 それもそのはず。

 この街こそが現代における魔術師たちの総本山、すなわち「時計塔」と呼ばれる魔術協会のひざ元であり、その街の中心、ゴシック建築の粋を集めて築かれた宮殿のような大建造物こそ、学術塔としての時計塔であり、一流の魔術師たちとありとあらゆる権謀術策が集まる、現代最高峰の魔境である。

 そしてその建物の内部には、時計塔という組織を支配する十二の君主(ロード)のための設備が用意されている。彼らの本拠地と呼べる場所は時計塔の衛星都市として築かれた衛星都市なのだが、時計塔の為政者や講師としての職務の関係上、この本部にも彼らのために必要なものがそろえられているのだ。

 

 その日は、そうした設備のうちの一つ、現代魔術科のために用意された応接室が使われていた。

 どこを探しても塵一つ落ちていないほど奇麗に掃除された一室には、現代魔術科の君主(ロード)であるロード・エルメロイⅡ世のほかにもう一人、スーツを身に纏った短い黒髪の女性が上質なソファーに腰掛けていた。

 

「お久しぶりです。ロード・エルメロイ」

 黒髪の女性───石動(いするぎ)(いく)が口を開く。

「Ⅱ世だ。その名前は私にはいささか重荷が過ぎるのでね。できればⅡ世をつけて呼んでほしい」

「ご謙遜を」

 やれやれ、といった顔でⅡ世が切り出す。

「さて、君にここへ足を運んでもらった理由だが……灯雁の聖杯戦争についてだ」

 聖杯戦争。

 その一言で、郁の表情に緊張が走った。

「聖杯戦争の概要については説明するまでもないだろう」

「……万能の願望器である聖杯を巡って争い、勝者にはあらゆる願いの成就が約束される、魔術師同士の殺し合い、ですね。」

「そうだ。だが近年、その言葉は『冬木式の』聖杯戦争のみを指して使われることが多くなった。それほど、冬木という極東の一都市で行われた聖杯戦争が特異かつ魔術界に大きな衝撃を与えたものだったということだ」

「冬木の……聖杯戦争」

 かつてアインツベルン、間桐、遠坂の三家が行っていた聖杯戦争。

 それは、他の聖杯戦争を凌駕するほどに過酷なものであったという話は郁も聞いていた。

「そうだ。英霊を『剣士(セイバー)』、『弓兵(アーチャー)』、『槍兵(ランサー)』、『騎兵(ライダー)』、『魔術師(キャスター)』、『暗殺者(アサシン)』、『狂戦士(バーサーカー)』の七つのクラスの何れかの器に収めた使い魔(サーヴァント)として召喚し、使役する戦い。それが冬木式の聖杯戦争の大きな特徴だ。近年ではその源流が七つの人類悪に対抗するために世界が行使する最終決着術式に由来するというレポートが提出され、話題を呼んだのだが……」

「英霊……」

 

 歴史や伝説にその名を刻んだ英雄たち。彼らは人々の間で不朽の記憶となって昇華され、英霊と呼ばれる神にも等しき霊格を手に入れた存在として世界に刻まれる。

 そのような存在をサーヴァント───使い魔として使役することがどれほどの奇跡かというのは、真っ当な魔術師であれば誰もが理解できる話だろう。

 

「あらゆる時代、場所から一騎当千の英雄たちが集い、最後の一人になるまで戦う殺し合い。それが、冬木の聖杯戦争……」

 考えただけで郁の背筋に寒気が走る。そんなことはがあり得るのかとさえ思える。

 だが、それが事実だということも郁には分かってしまう。

 何故ならば、彼女の目の前にいる男、ロード・エルメロイⅡ世こそ、その生き証人。時計塔の君主すら戦死することとなった冬木の第四次聖杯戦争を生き抜いた、数少ない魔術師なのだから。

「その通りだ、ミス石動。そして君も知っての通り、その聖杯戦争が近く、同じ極東の灯雁の地で勃発する」

 一年前、冬木の聖杯戦争と酷似した兆候が遠い極東の一都市で観測されたという事件は時計塔を大きく震撼させた。

 その結果、時計塔の君主であるアニムスフィア家が直々に動き、観測を行うという事態にまで発展したのだ。

 そしてその観測の結果の報告を聞いた時計塔の重鎮たちは、ある結論を導き出した。

「……今回の聖杯戦争については、時計塔は静観を決め込むと聞いていましたが」

 そう郁は聞いている。それに対しⅡ世は呆れ果てたとばかりにかぶりを振る。

「最初はそのつもりだったさ。灯雁の街は良い霊脈を備えた要地だが冬木には及ばない。

 観測を行ったアニムスフィアの、そのような土地で冬木の聖杯戦争の再現を行う、という与太話にわざわざ目を向ける必要はない、という提案に時計塔全体が賛同していた、が…」

 Ⅱ世の眉間のしわに深みが増す。

「今朝、アニムスフィア本家から各君主(ロード)に報告があった」

 Ⅱ世が一つ大きく息を吸い、吐き捨てるように告げた。

「3日前、アニムスフィアが派遣していた聖杯戦争参加者が英霊の召喚に成功した」

「……は?」

 郁の声から素っ頓狂な声が漏れた。

 これがもしも郁でなかったとしても同じようなリアクションを取るだろう。何しろこのことを郁に語るエルメロイⅡ世ですら、今回の顛末には驚愕を隠せなかったのだ。

「そして、その英霊との共同調査により、灯雁の聖杯に七騎のサーヴァントを召喚するだけの霊格が備わっていることが判明した、とのことだ」

「いや、えっと、ちょっと……待ってください君主(ロード)

 呆れ果てた顔で淡々と語るⅡ世に対し、郁の表情に動揺の色が浮かぶ。

「つまり、最初に静観を提案したはずのアニムスフィアが独自に動いていた……?時計塔の意向を無視し、他の十一家を欺いて?

 いえ、それだけならいいんです。何故それをこのタイミングで他の君主(ロード)に…」

「それは私にもわからん。アニムスフィアの動きは極めて静かだった。協会を出し抜き、聖杯を手にするために動いていたと考えたならば最高の初動だったといえるだろう。

 他の君主(ロード)に通達するのならばもっと後、準備のしようのないギリギリまで引っ張るか戦後にでも行うのが普通だ」

「ですが、聖杯戦争が行われるのは3か月後です」

「ああ、ここまで慎重に事を進めてきた割には異様に雑だと言っていいだろう」

「まるで、()()()()()()()()()()()()()()ような……」

 そこまで口を開いた郁が、急いで口を閉じる。

 ここから先は君主(ロード)同士の駆け引きと陰謀、政治が関わる領分である。そこに迂闊に踏み入れることが何を意味するか、例え魔術師でなくても誰もがわかることだ。

「……いえ、私が考えていいのはここまでですね。

 これ以上は協会の便利屋が踏み込んでいい領分ではない」

 そのため、郁はここで思考を止める。

 汗が額から流れ落ちる。

 アニムスフィア家の隠された意図。それがこの聖杯戦争にかかわることなのか、あるいはもっと大きな、例えばこの世界の存続にすら関わる、冠位指定(グランドオーダー)に匹敵する何かなのかはわからない。

ただ、そのことにだけは深くかかわってはいけないという事は、郁の直感が告げていた。

「賢明な判断だな」

「それはどうも。

では、今回の私の仕事というのは……」

 

「ああ、灯雁の聖杯戦争に参加し、聖杯を時計塔へ回収すること。

それが封印指定執行者である君の今回の任務だ」

 

 

 

 

「姉さん」

 ロンドンの街中。

 レンガと石造りの道を歩き、一度本家へ戻るために宿を引き払おうと急ぐ中、急に後ろから可憐な声に呼び止められた。

 郁が振り向くと、そこにはよく見知った妹の顔があった。

 蒼いマフラーの上に郁に似た整った顔立ちに黒い背中まで伸びた髪。動きやすさを重視した服装に身を纏っている。

「久しぶりですね。(りつ)

「そちらこそ、無事でよかったです」

 郁の妹、石動律の顔が嬉しそうに緩む。

 その顔を見ると、つい郁の頬も緩んでしまう。

「ロンドンまで来ていたのなら顔を出せばいいのに」

「そうはいかないのです律。これでも仕事ですので。

 今も仕事の準備に日本へ帰るところなのです」

「仕事……ですか」

「……律」

 表情を暗くした妹に対し、たしなめるように声を低くする。

「分かっています。

 我々は魔術師。命の危険は常に覚悟しています。ましてや協会の厄介ごとを引き受ける封印指定の執行者の姉さんはいつ死んでもおかしくはないし、そこにいちいち感傷もしていられない」

「ええ、それでいいのです」

「……ですが姉さん」

 安堵したような表情を浮かべる郁に、釘を刺すように律が口をとがらせる。

「あなたこそ忘れないでください。あなたこそが石動の当主なのですよ」

 その言葉に郁は肩をすくめて、

「……あなたから預かっているだけですよ」

と、自嘲するように笑った。

 

 石動律。

 石動家4代目当主である石動理久の二人目の娘。

 三重属性を持ち、石動家始まって以来の魔術回路の保有数を誇る掛け値なしの天才。

 今はまだ幼く当主として立つには時期が早いが、いずれこの家を背負って立つべきなのが彼女だということを、郁は疑ったことがなかった。

「……まあいいでしょう。それよりいったん本家へ戻るということは、それだけ大きな仕事なのですね?」

「ええ、いろいろと準備が必要ですので。宝石以外に準備するべきものもありますし」

「成程……すいません姉さん。私はあまりに姉さんに背負わせすぎています」

律が後ろめたそうに目を逸らす。

「気にすることはありませんよ、律。私が自分で選んだことなのですから」

 そういって、挨拶もそこそこに郁は宿へ向けて歩き出す。

 

 石動郁には聖杯へ託すような望みは何もない。

 ただ、自らが誰よりも信頼し愛している妹、その将来の安寧と幸福の為ならば、いくらでも、どこまでもその身を投げ出せるだろう。

 封印指定執行者という協会の厄介者として使われることすら、そのためならばいくらでも耐えられるのだ。

 

 

 

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