Fate/Midrash   作:ウーティス/Outis

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prologue/聖堂教会

 1週間後、灯雁市、灯雁教会。

 

 荘厳とした雰囲気のステンドグラスと教壇の前に整列した長椅子に一人の修道女が座っている。歳はまだ若く、赤い眼鏡をかけた修道女だった。

 ため息を一つ浮くと、修道女は自らの手の甲に目を落とす。

 そこには、炎を象った様な赤い痣が刻まれていた。

 一見すれば虐待にでもあったかのようにも見えるだろう。

しかし少しでも魔力を感じ取れるものがいればわかるはずだ。この痣こそが聖杯戦争の兆しであることに。

 

「……まさか、お前に令呪の兆しが宿るとは」

 後ろからかけられた声に修道女───枝乃(えの)真宜(ますみ)が振り返ると、そこにはキャソックを身に纏った神父の青年が立っていた。

 そして、その神父が告げた言葉は、もしも魔術師が聞けば耳を疑う言葉だっただろう。

 

 令呪。

 聖杯戦争において招かれる英霊たちが、サーヴァントとして現界するにあたって背負う三回限りの強制命令権。

 これこそが聖杯によってマスター候補として認められた証であり、サーヴァントを律する資格の証明である。

 真宜の手にあらわれた痣は、サーヴァントを召喚するとともに一つ一つが膨大な魔力を持つ三画の聖痕へと変わり、さながら赤いタトゥーのような形へ変わる。

 

「もっとも、お前の出自を考えればあり得ないことではないのだがな」

 青年は真宜の前に立ち、真宜の手に宿った痣をのぞき込む。

 真宜の手に令呪の兆しが宿ったのは数日前の事。

 真宜が現在所属している灯雁教会はただの教会ではなく、聖堂教会という組織に属する教会の一つである。

 聖堂教会はかの一大宗教の裏側に属する組織であり、教義に反した異端を狩る部門である。冬木の聖杯戦争においては聖杯を見定める公平な審判役として招聘され、戦闘によって発生した被害の隠蔽、サーヴァントを失ったマスターの保護を行っている。

 神父と真宜はこの監督役という役割を全うするためにこの地へとやってきた。

 しかし、現地入りした夜、痛みとともに気付けば手に令呪の兆しとなる痣が刻まれていたのだ。

 令呪は、聖杯が相応しいと見込んだ人間に対し与えるものだ。

 冬木の聖杯戦争のような特定の人物に対する優先的な分配がないとはいえ、魔術師ですらない人間、しかも教会の人間へ令呪が与えられることなど、ほぼないといっても過言ではない。

 彼らにとって魔術師は敵であり、魔術は異端だ。表向きは魔術の使用は認めていないし、そういったことのできる人間など教会内部にはほとんどいないのだ。

「枝乃真宜。事ここまで至れば是非もない。

 お前には、聖杯戦争の参加者として聖杯を奪い合ってもらう」

 張り詰めた神父の言葉に、真宜は顔をしかめる。

「……いいの?教会は中立を保つんじゃ」

「無論、我々監督役とは別に動いてもらうとも。

 なに、魔術協会がマスターと監督役を両方派遣するのと同じことだ。

 既に本部からそのような指示がおりている。必要なものがあれば今のうちに私に言うといい。できるだけ早く手配する」

 

 真宜は痣を眺めながらはぁ、とため息をついた。

 

 聖杯戦争とは魔術師同士の戦いだ。魔術を異端として嫌うべき立場の教会がここまで聖杯戦争に首を突っ込むこと自体が不満ではある。

 無論、真宜が魔術師との戦いに躊躇しているわけではない。

 彼女は若くしてその才を評価され、第八秘蹟会にまで名を連ねた優秀な代行者である。魔術師同士の戦いに割って入ることも、襲われることもとうの昔に経験済みだ。

 そして何より、彼女は教会の意向にだけは人一倍忠実なのだ。そういった指示が出ている以上、断る理由など存在していない。

「気は乗らないけど…仕方ないか」

 やれやれ、と真宜が立ち上がる。動きに合わせて頭巾がはためく。

「それでこそお前だ。師としても鼻が高い」

「……それは、どっちの意味?」

「どっち、とはなんだね?」

 神父が肩をすくめる。

「決まってるじゃない。魔術使いとしての師なのか、はたまた聖堂教会の一員としての師なのか、って意味」

「決まっている。魔術使いの師として、私はお前を高く評価している。だがそれと同じくらいに聖堂教会の一員、そして代行者の師としてもお前を評価しているのだ」

「それはどうも」

 その直後、はいこれ、と言って真宜が一枚の羊皮紙を神父につきつける。神父が流し見ると、走り書きで目録のような文章が記されている。

「これは?」

 神父が首を傾げた。

「決まってるでしょう?上の連中に用意してほしい資料と物資。あと欲しい英霊を呼び出すための触媒。

 第八秘蹟会ならこれくらいは用意できるでしょう?」

 真宜の顔に笑みが浮かぶ。

 それは年頃の少女が普段浮かべるような穏やかな笑みではなく、肉食獣のような獰猛な笑み。

「……やれやれ、これはまた手の早いことだ」

「好きに言ってちょうだい。あ、聖杯戦争についての書籍読み込むから、奥の資料庫借りていいわよね?」

「好きにしたまえ」

 神父がそう言うと、真宜はじゃあ好きにさせてもらうわ、と言うが早いか立ち上がり、教会の奥へと去っていく。

 その背中を見送りつつ、神父は独り言ちる。

「ああ、好きにするといい。

 お前のその()は、それだけで他のマスターに引けを取らない特別製なのだから」

 令呪の兆しは聖杯がマスター候補として認められた証であり、そのためには少なくとも魔術師としての才能があることが求められる。

 ではなぜ、魔術を異端と排除するべき立場にあるものが何故聖杯に魔術師として認められたのか?

 

 その答えは、彼女の眼に確かに宿っている。

 




第2話です。
時計塔だけでなく、聖堂教会も動き出します。

書きだめしている分はそれなりのペースで投稿していきたいと思います。

感想頂けたら嬉しいです。今後の糧として
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