Fate/Midrash   作:ウーティス/Outis

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魔弾

 剣と槍のぶつかり合いに、廃工場は揺れていた。

 ランサーの()がセイバーを襲う。一撃一撃が暴風を纏い、掠っただけでも吹き飛ばされるような槍の暴風。対するセイバーはそれを躱し、いなし、掻い潜り、黄金の剣を差し込むように突き刺す。

 いつの間にやら身につけた白銀の兜と黄金の鎧、そしてランサーへと突き付けられる黄金の剣は、まるで嵐を裂く黄金の星のように見える。

 戦いの余波は壁を歪ませ、柱にヒビを入れ、床に亀裂を入れる。

 これが英霊同士の戦い。天災と見紛うほどの衝撃の前に、誰も割って入ることはできない。

 セイバーとは剣の英霊。基本7クラスの中でも優れた能力を持つ英霊のみが該当するとされ、冬木の聖杯戦争では必ず終盤まで戦い抜いたとされ最優とも呼ばれる最上級の兵器。此度のセイバーも例外ではない。

 対するランサーは槍の英霊。特に優れた白兵戦能力を誇り、戦場の中で磨き抜かれた堅実さを持つ。冬木の聖杯戦争においては特徴とされる最速の敏捷性は持たぬものの、それでも風の噴射による速さと重さは格別のもの。

 聖杯戦争の初戦を飾る二騎の英霊の対決は、三大騎士クラスと呼ばれるものの内の二角に相応しい、まさに苛烈を極めたものとなっていた。

 

(……堅いな)

 ランサーは思案する。

 セイバーの身に纏う黄金の鎧は恐らくなんらかの宝具なのだろう。これまで両手で足りる程ではあるが掠る程度の攻撃は与えられた。それでも通常の武装であれば壊れてもおかしくない程のダメージにはなるはずである。

 しかし、その鎧は未だに輝きを放ち健在のまま。

 自分もまた魔力放出によって身に纏う風の鎧に守られ、セイバーの苛烈な剣閃に対しても薄皮一枚を切る程度の損傷しか受けていない。

 互いに決め手に欠ける。

 そうなれば不利なのは自分だろう、とランサーは考える。

 保有魔力が上とはいえ、戦闘によるマスターへの魔力の負担は恐らくセイバーよりもランサーの方が大きい。

 セイバーもそれを分かっているのか、ランサーが遠のいて逃げることも、反対に近づいて押し切ることもできない距離を保ち続けている。

 巧い戦いをするものだ、と内心で感心するランサー。

 その時だった。

『こちらからも仕掛けます。ランサー』

 マスターからの念話とともに遠くで爆発するような音が響く。

 彼のマスターがセイバーのマスターへ攻撃を仕掛けたのだろう。

(手っ取り早く決めに行ったか。いい判断だ。

 であればこちらも、戦士(クシャトリア)として役割を果たすとしよう)

「────ッ!マスミ!」

「どこを見ている」

「ランサー……!」

 一瞬気を逸らしたセイバーの眼前へと道路標識を突きつける。

 この瞬間から、セイバーを倒すことよりも魔力の浪費を抑えつつ、ここから動かさないことを考える。

 セイバーとの戦闘は泥沼だが、マスター同士の戦闘であれば話は別だ。彼のマスターはこと魔術戦においては他の魔術師を凌駕する。

 代行者相手にどこまで通じるかは分からないが、少なくともここでサーヴァント同士磨り潰しあうよりかは有意義だ。

 後はマスターを信じる。故にサーヴァントとしてここは恐るべき剣の英霊(セイバー)をこの場へ留めよう。

 それがランサーの判断であった。

 

 

 

 

 空気が揺れる。

 その振動と、伝播する殺気を肌で感じながら真宜は周囲を警戒する。

 手には十字架を模した投擲剣────黒鍵。

 先程まで柄だけで懐へしまわれていたそれは、真宜の魔力によって刀身が編み上げられ、剣としての姿へと変わっていた。

 サーヴァントがいるという事はそのマスターが直接仕掛けてくる可能性は低くない。そう考えて警戒は怠らず続けていた。

 そしてその考えは現実のものとなる。

 

 揺れる空気の中。真宜の優れた聴覚は、何かが飛来する微かな音を聞きつけた。

「来た来た!」

 すかさず黒鍵を投げつけ、撃ち落とす。

 瞬間、着弾地点が大きく爆ぜる。赤い煌めく欠片が飛び散るのが見える。

 どうやら、敵は宝石を魔弾として撃ちだす魔術師であるらしい。

 魔弾の飛ばされた地点へ黒鍵を1つ、2つと投げ飛ばす。

 ザッ、と音がした。手応えはない。躱されたのだろう。

 だが、この攻撃はあくまで布石に過ぎない。

 真宜の口が言葉を紡ぐ。

「────Burn(燃えろ)!」

 その時、黒鍵へ刻まれた簡単な魔術式が起動して爆ぜた。

 煙の中から爆発を避けた影が飛び出す。

「そこっ!」

 新たに取り出した黒鍵を投げつけつつ、強化して常人離れした脚力で迫る。

「ッ!」

 腰を落とし、切っ先を影へ向けて押し付ける。

 影はたまらず煙の外へ、開けた方へと身を捩らせて逃げる。

 真宜の手により煙を突きぬいた黒鍵を躱した魔術師が、ようやくその目の前に姿を現した。

 黒い短髪に動きやすいスーツ姿。見たことのある顔だ。確かに教会から渡された資料に記されていた。

「……流石代行者。やるものですね」

「そっちこそ。()()()は伊達じゃないって事ね」

 腰を上げた真宜は、姿を現した魔弾の射手へと黒鍵を突きつける。

 時計塔でも指折りの封印指定執行者にしてランサーのマスター、石動郁へ向けて。

 

「しかし驚きました。まさか教会の代行者がセイバーのマスターだとは」

「そう。自分でもビックリよ」

「聖堂教会は魔術を禁じているはずでは?」

「表向きはね」

 会話しつつ隙を探る真宜。手には何も持ってるようには見えない。

 石動郁は宝石魔術師だ。事実、先ほどの魔弾は宝石であった。

 宝石を投射するというのなら動作は分かりやすいはず。その隙に間合いを詰め、黒鍵で刺し貫く。

 そう真宜が思案していると、不意に郁の右手が動く。

 手の中には影。一瞬だけ光が反射して輝く。体の後方へ動くその動作は、手に隠し持った宝石を投擲する動作。

 すかさず地面を蹴る。

 黒鍵を握りしめ、その動作よりも先に懐に入り込む!

(獲った!)

 真宜は確信する。このまま返り討ちにして倒しきれる。

 その時だった。

 

「────Awake, bright flame (来たれ、煌々たる紅)

 

 動いていなかった()()から、不意に赤い宝石が撃ち出された。

 

「っ!?」

 咄嗟に身を捩る。

 地面を転がりながら黒鍵で宝石を撃ち落とす。

 途端に業火が爆ぜる。

(……指弾!?)

 確か、片手に持った礫やコイン等を弾き飛ばす技だったか。単純故に動きは最低限で読まれにくく、先ほどのような想定外の攻撃にもなる。

(右手の動作は囮。本命はそっちだったってわけ!)

 体勢を立て直しつつ、眼で逃げるように駆けだした郁を追う。

「逃がさないっての!」

 目で追いながら、右手を顔へ動かす。

 そして、指が赤い眼鏡の縁を掴んだ。

 頭巾が揺れる。

 包まれた栗色の髪が溢れる。

『……マスミ、焔を使う。いいか?』

 その時、セイバーの声が頭に響いた。

「いいわよ、こっちも全力。だから存分にやっちゃって、セイバー!」

 獰猛な笑みを浮かべ、眼鏡を外す。

 両の眼が、燃えるような緋色に輝いた。

 

 

 

「……退け、ランサー」

 ランサーの一撃を防ぎつつ、距離を取ってセイバーは目前の敵へ告げる。

「これ以上、そちらの思い通りに戦うわけにはいかない」

「何を言うかセイバー。サーヴァント同士が無為に争うことはない。

 我等にとって最も損のない戦い方を選んだだけの事」

 ランサーの言葉に対し、セイバーは答えず剣を再度構えた。

 彼方に風の鎧と獲物がある限り、この英霊の突破は叶わない。

 そしてこの英霊の狙いはマスター同士の戦いだ。

 封印指定執行者。マスターの話を聞くに対魔術師のプロフェッショナル。となれば彼ほどの英霊が選ぶにふさわしい戦術だと言えるだろう。

 故に、ここは相手の魔力切れなど待たず押し通る。

『いいわよ、こっちも全力。だから存分にやっちゃって、セイバー!』

 既に(マスター)の許可は得た。

 騎士として、王として、全力を以て守る。

 そのために、真の力を発揮するとしよう。

 

 

 

 

 

 あえて持ち込んだ膠着状態の中、ランサーは目前で剣を構えるセイバーの様子が急に変わるのを目撃した。

 銀の兜の隙間から、黄金の鎧の隙間から、暑い煙が噴き出す。

 陽炎に空気が歪む。

 黄金の刀身が炎を纏う。

「……ほう?」

 感嘆の声が漏れる。

 こけおどしではない。これがセイバーの真の力。

 一気に押し通るつもりだろう。

「悪いが、押し通る」

「させると思うか」

 互いの足が床を蹴る。それぞれ炎と風に後押しされたその動作は、爆発するかのような衝撃を生む。

 

 業火を吹き消さんばかりの暴風と、暴風を切り裂かんばかりの業火がぶつかり合った。

 




8話です。
戦闘の描写って難しいですよね。
小説自体が戦闘にあまり向いていないというのもあるのですが、今後とも研鑽を積んでいきたいです。

感想、批評、ご指摘お待ちしております。
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