Fate/Midrash   作:ウーティス/Outis

9 / 10
燃え盛る炎

 石動郁は、身を隠すため走りながらひと頃から一つの石を取り出した。

 透明で、他の宝石同様に掌に収まる程度の大きさの石。

 しかし、その宝石は異様なまでの魔力と術式が込められていた。

(……切り札のつもりだったんですが、早くも使うことになるとは)

 この宝石こそが郁の切り札。

 宝石の種別は金剛石(ダイアモンド)。ただし、魔術を用いて作られた()()のものである。

 宝石魔術とは宝石に宿る例を用いる魔術であり、本来であれば人口の宝石には魔力を通すことすら覚束ない。

 それでも郁がこの人工ダイヤへ莫大な魔力と術式を仕込めたのは、その材料が郁が回収した()()()()()()であるからだ。

 石動家は宝石魔術とともに錬金術を扱う家系である。

 その魔術によって魔術師の死体一つを加工したダイアモンドは、着弾と同時に広範囲に致死級の呪詛をばら撒く。

 この死霊魔術のような芸当は先々代の研究が可能とし、それを受け継いだ郁が最強の魔弾として戦闘に転用したのだ。

 

「────Awake(来たれ)

 

 ランサーの魔力の多大な消費に悲鳴を上げる身体を何とか制し、指先に魔力を集中させる。強化された指が、金剛石の魔弾を最速で撃ちだす準備を固める。

 敵を見る。

 枝乃真宜は眼鏡を外していた。

(…やはり、()()

 本来は外界からの情報を集める感覚器官である眼球を作り替え、外界へと働きかける力を与えた数ある異能の一つ。

 それ自体が一つの魔術刻印のようなものであり、時に魔術師以外でも使い手が現れるとされる異能。

 無論、聖堂教会の中にも、そういった異能を持つものがいることは知っていた。

 魔眼は半ば独立した魔術回路を持つ。魔力の扱いに精通している者であれば、自らの魔術回路に上乗せして扱うことも可能だろう。おそらく彼女が聖杯戦争に参加する権利を手に入れたのも、恐らくその魔眼のためだ。

 彼女の保有する魔術回路が如何ほどのものかは不明だが、魔術師でない人間がセイバーを難なく召喚し、運用できていることから、彼女がその手の人物であることは間違いない。

 

「────Noble one(至上の一) !」

 

 だが、その眼を解放するのはいささか遅かったと言わざるを得ない。

 もうすでに郁は必殺の魔弾を装填し終えている。

 躱そうと撃ち落とそうと最早関係ない。ばら撒かれた呪詛は確実に枝乃真宜の命を奪う。

 初戦から切り札を切り、他のマスターへ手の内を曝すというのは些か不服ではあるが、そこは彼女がそれほどの強敵であったという事で諦めよう。

 

 郁の指が魔弾を弾き飛ばす。

 

 真宜の瞳が一際煌々と輝いて、中空で焔が爆ぜた。

 

 

 そして、その焔の向こうには、()()()()緋色の瞳を輝かす真宜の姿があった。

 

 

「なっ…!」

 石動郁は、眼前の光景に驚く。

 だが、立ち止まる暇はない。真宜の眼光は炎と化し、轟音をまき散らしつつ爆ぜている。

 さながら、眼から熱線を放出し立ちふさがる全てを焼くかのように。

(炎焼の魔眼、いや、そんな通常のノウブルカラー程度のものじゃない!

 黄金、いや、()()()()()()()()()()()!)

「悪いけど、私の眼は特別製なの」

 逃げ惑う郁へ声が響く。枝乃真宜の声。

「魔眼殺しがなきゃなかなか抑えが聞かないくらいでね。神父様はこれを火葬の魔眼、なんて言ってたっけ」

「火葬…!?」

「そう、主の教えに背く全て。その尽くを認めず焼き払う火葬の魔眼!」

 魔術協会では魔眼のような異能が持つ他社への運命への越権行為を指してノウブルカラーと呼ぶ。

 そしてその中でも『黄金』、『宝石』、『虹』と呼ばれる位階のものには失われた大魔術、もしくはそれ以上の神秘が秘められていてもおかしくはない。

 枝乃真宜の持つ魔眼は炎焼の魔眼の一種にして宝石の位階にあるもの。呪詛のような本来燃えざる事象すら燃やし焼き払う、炎の究極のカタチの一つ。

 その炎が、逃げ惑う郁へ向けて放たれていた。

 

 防御用の術式を込めた宝石を地面へと投げつける。魔力で編まれた盾は一瞬で燃え、灰燼と化した。

 指弾で宝石を魔弾として撃ち込む。弾は届くことなく途中で焼かれ、燃え尽きた。

 そうしている間に炎は迫る。足場が溶け落ちる前に郁は転々と体を隠す場所を変えた。

 

「────ッ!まだ、まだ…!」

 枝乃真宜が膝から崩れ落ちる。ここまでの神秘を行使しているのだ。その莫大な魔術消費に体が悲鳴を上げているのだろう。

 だがそれでも郁は近づけない。代行者の強靭な精神はそうなってなお魔眼による攻撃を緩めはしない。

 それでも、悲鳴を上げ続ける身体ではまた十分に郁を追うこともできない。

 このまま郁が追い付かれ、燃え尽きるか、もしくは魔力を切らした真宜が魔眼に生命を吸われ、死に至るか。

 マスター同士の戦いは膠着し、まさに限界すれすれの持久戦の体を成していた。

 

 その時だった。

 先程までセイバーとランサーの戦う轟音が響いていた方向より一際強い音がし、天井と壁を何かがぶち抜いたのは。

「…!」

「そんな…!?」

 膠着状態の空気を早々に打ち毀した突然の異変に驚く二人。

 廃工場の床に隕石でも落ちたかのような窪みを作りつつ着地したそれは、脇腹を貫かれ、大きく損傷を負ったランサーの姿だった。

 

 

 

 

 

 

--------------

 

 

 

 

 

「……チィッ!」

 セイバーの剣戟を躱しながら、ランサーは舌を打つ。

 手に持った道路標識はセイバーによってその先端の丸板を切り取られ、斧のような刃を減らしていた。

 先程セイバーに起こった異常。炎を纏った黄金の剣。

 動作は格段に速くなり、また、それとは別にランサーが武器や自らに纏った風が()()()()()()いた。

(魔力殺しの炎に、その炎の噴射による疑似的な魔力放出か!)

 魔力放出。武器や自らに魔力を帯びさせ、それをジェット噴射のように瞬間的に放出し、動作や攻撃の威力を後押しする技能(スキル)

 ランサー自身も風の魔力によって行う動作であり、生前共闘、会敵した数々の戦士の中にもそれを行う者はいた。それだけであれば脅威ではあれど驚くことではない。

 だが問題は、魔力殺しの炎である。

 魔力で構成された鎧をやすやすと切り裂いた炎は、例え防御能力を持つ鎧の宝具であっても浴びせ続ければ溶かしてしまうだろう。

 そしてそれと同時に、セイバーが身に着けた白銀の兜が輝きを増していた。同調するように黄金の鎧も輝きを纏い、より堅牢なものとなる。

(魔力殺しの炎、黄金の鎧に白銀の兜の騎士、か)

 ランサーは思案する。ここまで全力を出した以上、真名の露呈も厭わない覚悟なのだろう。

 意味をなさなくなった風の鎧を解除し、その分を動作の後押しに転化する。

 距離を取り、一息の踏み込みでより重い一撃を叩き込んでまた距離を取る。

「がっ…!このっ!」

「どうした!お前の本気はそんなものかセイバー!」

 反復動作による連撃を受け止めながらセイバーは剣を振る。

 ランサーの攻撃を何とか見切り、狙いすました一撃。

「…!やってくれる」

 その一撃が、ランサーの手に持った()を真っ二つに切り裂いた。

「どうするランサー!槍を失ったぞ!」

「ハッ、たかが槍一本がなんだというのだ!」

 ここぞとばかりに振りかぶったセイバーの剣を、ランサーの拳がいなす。

 そしてもう片方の拳をセイバーの胴体へ叩き込む。

「あがっ…!やるな、ランサー…!」

(……やはり、堅いな)

 直撃とはいえずとも十分殺せる程度の手応えはあった。

 だが、セイバーは立ち上がる。その兜の白銀の輝きがさらに増す。

「徒手空拳でここまで出来る槍兵がいるとはな。流石神話の英雄といったところか」

「……潰したつもりだったのだがな」

「我が鎧の輝き無くしては即死だったさ」

「兜の、だろう?」

 ランサーの言葉に対し、セイバーは一瞬驚いた後観念したように笑った。

「……やはりわかるか」

「魔力殺しの炎にその黄金の剣。煌々たる白銀の兜。ここまで出そろって気づかないわけがないだろう。

 違うか?セイバー」

「それもそうか」

 不敵に笑うセイバー。

「であれば、我が宝具が何かは言わずとも分かるだろう?

 一つは我が白銀の兜、そしてもう一つ…!」

 そう言ったセイバーの手に持った剣が輝く。

 周囲の魔力(マナ)が刀身へ集まり、その輝きの一部へと変わっていく。

 その剣光の色は黄金にして夜明けのごとく。

 其は、元は魔剣として作られながら、誉れ高き王のもとで振るわれることで聖剣となりし暁の剣。

「────」

 セイバーの口が開く。

 人類史に刻まれし剣の真の名を口ずさむ。

 それによって握られた奇跡のその真なる力は解放されるのだ。

 ランサーの警戒は最高潮に高まる。構えは解かず、ただその奇跡による一撃を待ち受ける。

 

 まさに、その瞬間だった。

 

 遥か彼方より放たれた極光を纏う一矢が、セイバーに気を取られたランサーを貫かんと飛来したのは。

 




やや遅れましたが第9話です。
そろそろセイバーやランサーの真名も分かってきた方もいらっしゃると思います。
戦闘描写は未だに稚拙なままですが、どうか今後ともお付き合いくださいませ。

感想やご指摘お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。