2037年、東京エリアの某アパートを舞台に繰り広げられた史上最低の戦いの記録である。

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前回のあらすじ

こっそりネットで黒の下着を買った聖天子様はさっそく着用するも、それを見抜いた天童菊之丞補佐官から「聖天子様。いけませぬ。聖居典範で下着は白だと決められております」と注意される。
ブチギレた聖天子様は「うん♪たん♪うん♪たん♪」とカスタネットのリズムに合わせて、原作1巻の黒幕をギブソンレスポールスタンダードで殴打し、場外ホームラン。

「聖天子様がご乱心なされた! ! 」

「殿中でござる! ! 殿中でござる! ! 」

――と迫りくる護衛官たちをちぎっては投げちぎっては投げ、
まさに東京エリア無双といった有様で、
近づく護衛隊員たちは片っ端から殴り倒し、
最終的には全身に爆弾を括りつけて、「近づいたら自爆します」と脅し、
正面から堂々と家出したのであった。


里見くんは隠したい ~機械化兵士の密室煩悩戦~

 東京エリア某所、ゴキブリとお友達になれるボロアパートで里見蓮太郎は頬杖をつき、呆れた顔を天童木更に向けていた。

 

「ん~♪ 美味しい~」

 

 食卓には一皿のチャーハンがあった。湯気が立つ出来立て熱々の一品を木更はレンゲで口にかき込む。餓えた浮浪児のように慌てて食べたせいで喉を詰まらせ、蓮太郎が水を差し出す一幕も見られたが、無事に完食する。

 レンゲが皿の上に置かれ、静かな部屋にカランと音が鳴った。

 

「はぁ~。ご馳走様。やっぱり里見くんに作って貰って正解だったわ」

 

「いや、木更さん。袋開けて皿に盛ってレンジでチンするだけの冷凍チャーハンのどこに美味しくならない要素があるんだよ」

 

「だって、私がやったら爆発するし」

 

「それ、袋のままレンジに突っ込んだからだろ」

 

「それに今、電気止められているのよ。もう2ヶ月も滞納してるから……」

 

「マジか……」

 

 蓮太郎は泣き出しそうになり顔を覆った。自分の幼馴染兼社長がこんなにも情けない人間に育ってしまったことを天国の木更の両親に心の中で詫びた。

 

「ちなみに先週からガスも止められたわ。ここ最近はずっと水風呂よ。風呂と一緒にティナちゃんの視線も冷たくなったわ」

 

 蓮太郎は泣いた。同居するティナがあまりにも不憫過ぎて泣いた。『貴方達を殺してランド博士のところに戻ります』とミニガンを向けるティナの姿が目に浮かんだ。

 

 ――すまない。ティナ。ウチの社長が情弱なばかりに。

 

「ということで、今日は里見くん家でくつろがせて貰うわ。里見くん。お菓子とジュース持って来てー」

 

 天童家ご令嬢の過去はどこ吹く風か、木更は手足を放り出し、畳の上に寝転がった。

 

「菓子もジュースもねえけど、好きにしてくれ」

 

 蓮太郎は頭を掻いた。その態度は「やれやれ仕方ないな」と昔のライトノベル主人公のようだったが、その心中は穏やかではなかった。

 意中の女性が自室にいる。その上、2人きりという状況に蓮太郎の思春期ハートは鼓動が早くなった。発汗が促される。視線は寝転がる木更の肢体に向けられ、彼女の一挙手一投足に意識を集中させる。

 普段なら、この時間がずっと続けばいいと考えていただろう。

 

 しかし、今の蓮太郎の想いは真逆だった。

 

 

 

 ――帰ってくれ……。いや、本当にマジで今日は帰ってくれ……。頼む……! !

 

 

 

 

 

「里見くん。テレビのリモコンどこ? ワイドショーとか見たいんだけど」

 

「あれ? おっかしいな~。そこにあった筈なんだけどな~」

 

 

嘘である。

 

 

 蓮太郎はテレビのリモコンがどこにあるか知っている。それはテレビの裏側だ。配線でゴチャゴチャした空間の中にリモコンが埋もれている。更に言えば、リモコンから乾電池も抜かれている。蓮太郎のテレビは格安で購入した中古品。本体の電源ボタンも付属のリモコンも故障しているため、裏に隠したDVDプレイヤー用のリモコンでないと電源が点けられない。

 

 ――すまない。木更さん。今、テレビを点ける訳にはいかないんだ。

 

 

 

 

 頼む。今日は帰ってくれ。

 

 

 

 

そこのプレイヤーにアダルトDVDが入ったままなんだよおおおおおおおおお! ! 今も再生中なんだよおおおおおおおおおおお! !

 

 

 

 

 里見蓮太郎は思春期真っ只中ボーイである。

 

 

 

 

 アルファベットのSやM、オマーン国際空港やエッチングといった言葉に心が躍ってしまう時期はもう過ぎたものの、天童木更という美女、藍原延珠やティナ・スプラウトといった美少女に囲まれ、内心ドキドキする日々を過ごしていた。

 だが、彼の中では理性が勝っていた。延珠と同居している手前、発散できるチャンスなどそうそうない。欲望に負けそうな時は天童流の修行で誤魔化し、座禅を組んで心を落ち着かせていた。

 

 

 

 

 ――が、そんな理性の牙城を崩す事件が勃発した。

 

 

 

 

 水原鬼八殺害の冤罪から始まった一連の騒動が終わってしばらくした後、蓮太郎宛に段ボールが送られて来た。蓮太郎本人しか受け取れない書留郵便、送り主は水原鬼八の代理人と書いてあった。

 同封されていた手紙を要約すると、業者が鬼八の遺品を整理していた際、「里見に渡す用」という段ボールが出て来たため、友人であった蓮太郎に渡す物品だろうということで送ったらしい。「故人のプライバシーを尊重し、中身の確認はしておりません」とも書かれていた。

 蓮太郎は慎重に封を切った。

 

 

 

 こ、これは――! !

 

 

そこに入っていたのは、アダルトDVDの数々!!

 

「お前、巨乳大好きだったよな」という鬼八直筆のメモも同封!!

 

 

「何てもん遺して逝きやがったあああああああ! ! 鬼八いいいいい! ! 」

 

 

 

 一人で開けて良かった。延珠や木更に見つかったら全て終わっていた。

 蓮太郎は棚から黒いゴミ袋を出すとアダルトDVDを入れ始めた。送ってくれた鬼八には申し訳ないが、彼の名誉のため、己の今の生活の為、人知れず処分することにした。

 黒いゴミ袋に次々とアダルトDVDを入れる蓮太郎、その中の一本が蓮太郎の目に留まった。

 

 

 

 

セーラー服ものである! !

 

巨乳である! !

 

女優が、なんとなく木更さんに似ている! !

(※蓮太郎個人の感想です)

 

 

 

 それだけは捨てられなかった。「聖天子コスプレもの」も「京都弁和服お嬢様もの」もの躊躇いなくゴミ袋に入れた彼でもそれだけは捨てられなかった。

 

 

「おい! ! それは鬼八の遺品だろ! ! 本当に捨てちまうのかよ! ? 」と天使が叫ぶ。

 

「こんなクソ溜めで良い子ちゃんぶる必要なんて無え! ! 正直になろうぜ! ! 」と悪魔が叫ぶ。

 

 

 

 天使と悪魔の意見に賛同し、蓮太郎はそれを床下に隠した。

 いつか見よう。大人の階段を登ろうと、何食わぬ顔で日々を過ごし、チャンスを窺った。

 延珠が座る座布団の真下にアダルトDVDが隠れていることに背徳感を覚え、変な趣味に目覚めそうにもなった。

 そしてチャンスが訪れた。今日である。延珠がティナと一緒に遊びに出かけた。帰りは夕方ごろになるらしい。無論、蓮太郎も予定はない。絶好のチャンスだった。

 床を捲ってDVDを取り出す。パッケージを目の前にして息を呑んだ。テレビとDVDプレイヤーの電源を点け、ケースを開き、ディスクを入れた。

 

 蓮太郎の緊張を汲み取ったのか、リモコンを握るバラニウム義肢が震える。

 だが、躊躇う理由などもうない。意を決して、再生ボタンを押した。

 

 

 

 

 里見蓮太郎が()()から()になるための儀式が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

「里見くーん。入るわよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第壱話     

   

更、 襲 来

 

 

 

 以前来た時もそうだが、彼女の頭にドアをノックする、インターホンを押すという概念は無いのだろうか。木更は「元ご令嬢の巨乳JK女社長様のお通りだぁ! ! 」と言わんばかりにドアを開けて入ってきたのだ。

 

 

 

 

 義眼、解放――二千分の一秒の向こう側(ターミナル・ホライズン)

 

 

 

 

 

 閉じていた左目が機能して視野が広がる。プロセッサが超演算を開始し、黒目内部の幾何学的な模様が回転する。人の理から外れ、神の領域に到達した者が視るホワイトアウト。またこの景色を見るとは思わなかった。

 蓮太郎はリモコンを取り、咄嗟にテレビの電源を消した。更に乾電池を抜き取り、リモコンはテレビ台の裏側へ、乾電池はポケットの中に隠す。

 

「入る前に『入るわよ』って言ってくれ」

 

 蓮太郎は冷や汗をかきながら木更を迎える。音速越えの槍も捉える木更の動体視力でも今の動きは見えなかっただろう。

 

 ――勝った。危機は回避した。

 

 そう喜んだのも束の間だった。蓮太郎ははっと思い出した。()()()()()()()()()()()()()()のだ。暗くなった画面の向こう側で淫欲に塗れた映像作品が今も再生されている。もしテレビを点けられてしまうと、そこで全てが終わってしまうことに。

 

「はぁ~。お茶も無い。お菓子も無い。テレビも壊れて見られない。里見くんの部屋って何にも無いわね」

 

「電気とガス止められている木更さんに言われたくねえよ。それに、たまにはこうやってボーッとするのも良いんじゃないか? ここ最近、忙しかったし」

 

「……まぁ、それもそうね」

 

 座卓を挟んで蓮太郎と木更は畳の上に寝転がる。静寂が包む時間の中、小鳥の囀りとたまに通り過ぎる車の音だけが聞こえる。エアコンがいらない適度な陽光が部屋の中に射し込み、思わず目を閉じそうになる。

 

「木更さん。昔のことを思い出すよな」

 

「そうね。あの時の里見くん。プリキュアの再放送に夢中だったわね」

 

「何で今、その話になるんだよ……。ってか、あれ最初は木更さんが勧めてきたんだろ」

 

「でも里見くん。私が居ない時もこっそり見てたじゃない。私が部屋に来たら慌ててテレビを消して見てないフリしてたわね」

 

「アーソウデシタネ。ソンナコトモアリマシタネ」

 

 ――あれ? 確か、その時の俺って……

 

「リモコンもテレビの裏側に放り投げて隠してたわね」

 

 ――何も成長ねえ! !

 

「もしかすると、今もテレビの裏側にあったりして」

 

 木更は四つん這いになり、テレビ台へと向かう。蓮太郎は何とか木更を止めようと策を巡らせるが、どうしても答えが出ない。彼女の行動に何の非も過ちも無いのだから。

 電池を抜いているとはいえ、リモコンが見つかればテレビを点けられるリスクが高まる。乾電池だって戸棚を探せばすぐに見つかるし、近くにコンビニで買うことも出来る。

 

 

 ――チクショウ。ここまでか。

 

 

 

諦めるな! ! 里見蓮太郎! !

 

 

「きゃあ! ! 」

 

 突如挙がった木更の悲鳴。その瞬間、蓮太郎の目にはテレビの裏側から飛び出す黒い銃弾(ブラック・ブレット)――もとい、ゴキブリが見えた。

 ゴキブリは木更を挑発するかのように彼女の足元を駆け回る。天童流抜刀術免許皆伝、人間離れした動体視力を持つ彼女でもそれの前には生理的嫌悪が勝る。

 

 ――俺が彼女を引き付ける! ! 今の内に! !

 

 彼がそう言っているように思えた。言葉は無くとも、心が通じた気がした。

 ゴキブリが木更の気を引いている間にテレビの裏側にあるリモコンを回収。別の場所に隠した。

 

「天童流抜刀術一の型一番――『滴水成氷』」

 

 木更が抜いた雪影から斬撃が飛ぶ。それを受けたゴキブリは体液を撒き散らしながら爆散し、破滅的な爆音と共に床が砕ける。

 

 ――ありがとう。ゴキブリ。お前の死は無駄にしない。

 

 蓮太郎は、心の中で窮地を救った英霊に敬礼した。

 その後、木更はテレビの裏側を覗いたが、勿論そこにリモコンは無かった。

 

「ま、さすがに里見くんも成長するわね」

 

「そ、そうだな。そもそも隠した訳でもないけどな」

 

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

 

 

 突如、部屋が揺れ始めた。テーブルの上にある皿がカタカタと震え、窓ガラスは今にも割れん勢いでフレームから飛び出そうとする。薄型テレビも倒れそうになり木更が思わず両手で抑えた。

 

「え? 何? 地震? 」

 

「揺れが段々と大きくなってる。これは……! ! 」

 

ドンドンドンドンドン! !

 

 

「里見蓮太郎殿。里見蓮太郎殿は御在宅でありますか?」

 

 ドアが壊れる勢いでノックされる。その振動で再び壁が揺れ、天井から埃が落ちる。

 蓮太郎がドアを開けると、聖天子付き護衛官が直立し、数人並んで立っていた。ただでさえ狭い蓮太郎のアパートの廊下が彼らによって埋め尽くされていた。

 

「聖天子様が再び家出されました。こちらに来られてはおりませんか? 」

 

 ――は?

 

「聖天子様が――」

 

「いや、分かった。分かったけど、こっちには来てねえよ。中も確認するか? 」

 

 また面倒なことになったと蓮太郎はため息を吐き、頭を掻いた。ここは早々に疑惑を晴らして護衛官達にはお帰り願おう。そう思ってドアを大きく開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ~ん♡ そこっ♡ そこっ♡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奥の居間から嬌声と淫欲に満ちたサウンドが響いた。それは玄関を通り抜け、廊下に到達、聖天子付き護衛官にも聞こえていた。

 

 

 ――馬鹿な! ! リモコンは回収した筈! !

 

 

 蓮太郎は確かにリモコンを回収した。電池も抜いたままだ。現状、テレビの電源が点くことなど無い筈だ。だが、頭の中で何かが引っ掛かる。何かを見落としている。自分の作戦から何かが抜けている。

 

 そして、蓮太郎は思い出した。

 

 

 

 

 ――そういえば、修理に出して本体のスイッチ直したんだった。

 

 

 

 

 あまりにも迂闊な失態だった。大方、木更が「本体のスイッチ直っていたりして」と思って押したのだろう。

 聖天子付き護衛官たちが姿勢を正し、一斉に敬礼する。

 

「お楽しみ中のところ申し訳ありませんでした」

 

「この件、聖天子様には一切報告いたしません」

 

「我々は何も聞いておりません」

 

 気まずそうな顔をしながら、護衛官たちは右に90度回転し、アパートから去った。

 去り際、彼らの口から、英雄(HERO)エッチ()エロ(ERO)で出来ているって本当だったのか」とジョークが聞こえた。

 蓮太郎は玄関扉を閉めると、自分の情けなさにその場で屈み、顔を隠した。

 

 

 

 ――終わった。俺の人生終わった。もうやだ死にたい。父さん、母さん、夏世、翠、彰磨兄ぃ、鬼八、火垂、今からそっちに行くよ。

 

 

 背後から真っ黒な殺気が蓮太郎を被う。圧倒的な恐怖が「死にたい」という意志を飲み込む。静かな足音、唸る女の声、カチカチと鍔と鞘が打ち合う音が近づく。

 

 

 

 振り向くと、そこに修羅が居た。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

「里見くん、正座」

 

「……はい」

 

 居間の座卓を挟み、蓮太郎と木更は正座して向かい合う。木更は蓮太郎に鋭い視線を向け、蓮太郎は俯いて木更を直視できていない。座卓の中央にはDVDプレイヤーから取り出され、パッケージに収められたアダルトDVDが置かれていた。

 

 構図は、隠し持っていたエロ本をお母さんに見つかった男子中学生である。

 

 かれこれ30分、木更に「変態! ! 」「お馬鹿! ! 」と罵られ、蓮太郎はすっかり意気消沈していた。今の彼を見て高位序列プロモーターだと分かる人はいないだろう。

 

「まぁ、里見くんも男の子だし、そういうのに興味を持つのも仕方ないとは思うけど、よりにもよって何で黒髪ロングセーラー服ものなのよ! ! 私、これからどんな顔して里見くんと会話すればいいのよ! ! そもそも、こんなのどこで手に入れたの! ? 」

 

 鬼八の遺品です。業者から送られてきました。――と正直に言えば、蓮太郎に弁解の余地が生まれる。しかし、亡き親友の名誉を想うと口に出すことが出来なかった。一度しか面識が無いとはいえ、木更のような美女に隠し持っていたエロDVDを見られたと知れば、鬼八は恥ずかしさのあまり転生してもう一回死ぬかもしれない。

 

 

 

 

 

「その……片桐兄に無理やり」

 

 ――すまん。片桐兄。

 

 

 

 

 蓮太郎は、過去を生きた者の名誉の為、今を生きる者の名誉を穢すことを選んだ。

 

 成人している玉樹ならアダルトDVDの一つや二つ持っていてもおかしくない。開放的で奔放な彼ならテキサスアメリカンなノリでそういうのを貸したりするだろう。それで木更も納得してくれる筈だ。あとは冤罪の件を盾にして、玉樹に口裏を合わせてもらおう。

 蓮太郎の思惑通り、木更は納得してため息を吐く。

 

「分かったわ。これは私が預かって、玉樹くんに返すから」

 

 蓮太郎の完璧なプランが一瞬で崩れ去る。

 

「え! ? あ、いや、ちょっと待って。待ってくれよ。木更さんに見られたってバレたら、あいつも凹むしさ。俺がちゃんと返すよ。ほら、こういうのは男同士の約束っていうか、なんというか……ははは」

 

 笑って誤魔化す蓮太郎に木更は訝る視線を向けた。彼のしどろもどろな話し方は誰が見ても怪しいと思うだろう。

 

「里見くん。……嘘ね」

 

嘘である。

 

 蓮太郎の額から滝のように汗が流れ、木更から視線を逸らす。彼の態度から木更は確信した。

 

「家宅捜索よ! ! 延珠ちゃんも住んでいるんだから、徹底的に見つけて処分するわ! ! 」

 

 木更はテーブルをひっくり返し、蓮太郎の制止を振り切ってキッチンの戸棚の中、押し入れの中、延珠の机回りを徹底的に捜索する。彼女は他にもアダルトDVDがあると確信しているのだろう。諦める気配がない。

 

 

 

「この袋、何かしら?」

 

 

 木更が床下の隠し収納から黒いゴミ袋を取り出す。さすがにゴミをここに入れたりしないだろうと思いつつも匂いを確認する。無臭だと分かると縛ってある口を解きにかかる。

 

 蓮太郎は目を見開いた。緊張が更に高まり心臓がバクバクと拍動する。

 

 木更を止めなければならない。例え、三千世界の鴉を殺すことになろうとも――。

 

 黒いゴミ袋の中身――それは、捨てようと思ったけど結局捨てられなかった「聖天子コスプレもの」「京都弁和服お嬢様もの」その他諸々のアダルトDVDである。ゴミ袋に入れたまではいいものの蓮太郎は捨てる決断が出来なかったのだ。

 

 

 ――駄目だ! ! 木更さん! ! それだけは! !

 

 

 蓮太郎は手を伸ばす。無意識の内に義肢が起動し、熱で袖と人工皮膚が焼け散る。義眼も発動し、見えていなかった視界の左半分に光が入り込む。

 

 

 

 

 

 

 

『失いたくなければ、抗え。蓮太郎』

 

 

 

 

 脳内で改竄された菊之丞の言葉が木霊した。

 

 蓮太郎は歯を喰いしばり、立ち上がる。敵は天童流抜刀術免許皆伝。機械化兵士の能力をフル稼働させても勝てるかどうか分からない最強の絶対悪。足が震える。恐怖で声も出ない。義肢の指も蓮太郎の感情を読み取ったのか動きがぎこちない。

 蓮太郎は義肢で握る拳を作り、自分の顔を殴って鼓舞する。

 

 ――戦え。里見蓮太郎。お前は強い。お前は勝てる。

 

 お前は、蛭子影胤を倒した。

 

 お前は、ティナ・スプラウトを倒した。

 

 お前は、第三次関東会戦に勝利した。

 

 お前は、巳継悠河を倒した。

 

 お前は、アンドレイ・リドヴィンツェフとユーリャ・コチェンコヴァもなんやかんや倒した。

 

 

 

 蓮太郎は天童流戦闘術の構えに入る。

 

 

 

「天童流戦闘術二の型十一番 『隠禅・哭汀・全弾撃発(アンリミテッドバースト)! ! 」

 

 

 

 

 里見蓮太郎の()()()()を守る為の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日の勝敗

 

 蓮太郎の敗北

 

(木更にボコボコにされた後、一週間、会話してもらえなかった)

 

 

 

 




次回予告

家出した聖天子はクレジットカードの利用を停止され、自販機のお釣りを探ってゲットした80円が全財産になっていた。
仕方なく徒歩で蓮太郎のアパートに向かっていたところ、活動資金が尽きて行き倒れていたユーリャ・コチェンコヴァと出会う。

腹の虫が鳴り、食事の確保で2人は意気投合。

『ベン・ハー』みたいなタイトルのライトノベルのように、半額弁当を巡って民警たちが激戦を繰り広げるスーパーマーケットに向かうのだった。



“輪ゴムと爪楊枝を全て持っていく総菜コーナー泣かせ”

『ギガ・ヘッジホッグ』 アシュリー・スプリングスティーン


“商品棚の上を飛び越える最速の常識知らず”

『メテオフォール』 アイリーン・スペンサー


“エコバッグの魔術師・レジ袋の奇術師”

『フェルドランス』 フェイ・クロンミラー


“買い物カートを戦車に変える怪物”

魔王(ブラッドクリーク) ルイーズ・ゼラズニー


“こいつが来たら半額弁当は諦めろ”

冥王(プルートー) リタ・ソールズベリー




数々の強敵を前に、総資産80円の聖天子と財布に50円しか入っていないユーリャの戦いが始まる。







次回「激旨ニンニクたっぷり豚キムチ弁当 160円(税込)」※値引き済み

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