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6時に起床した私は朝食を取った後、自身の最も淹れるのが得意な紅茶であるディンブラをティーカップに注ぎ、実家から送られてきたついこの間の第62回戦車道大会の特集雑誌を開きながら、優雅な食後のティータイムを開始していた。
因みに朝食は和食であり、白米、わかめとお揚げさんの味噌汁、焼き鮭、きゅうりの浅漬けとすごく整ったものだ。私はスープ類を最初ではなく最後に飲んで〆ることにしている。理由は知らないが、なぜかそうしないと気分が悪い。
さて、実家の母さまから送られてきた特集雑誌は、如何やら妹の手を経由してからのようだ。付箋が大量に貼られ、一部の文章がペンで線引きされていて、ひどく読みづらい。
「引きすぎでしょ……」
と、苦笑いを浮かべた私は、ティーカップを傾けながらページをぱらりとめくった。付箋が張られ、『読んで』と書かれた記事を開く。
○○○
第62回戦車道大会は衝撃の連続だった。
一般観衆からすれば黒森峰の十連覇失敗が目に付くだろうが、戦車道関係者からすれば問題は決勝戦よりも準決勝。黒森峰対聖グロリアーナの準決勝の方が衝撃的だろう。
決勝戦が『黒森峰の敗北』とするならば、この試合は『西住流の敗北』と、言っても過言ではない。
いや、この試合があったからこそ、決勝戦での敗北が偶然ではなく、必然だったと感じることが出来る。
準決勝は当初こそ黒森峰の西住流の何たるかを見せつけるような美しい隊列を組んだ圧倒的な火力と装甲を持つドイツ戦車の攻勢が目立っていたものの、一台の戦車による背後からの急襲によって食い破られ、左翼が分断されてしまったのだ。
分断した聖グロリアーナの戦車こそ、今話題の『狼王』の異名を持つ正体不明の戦車乗り、ディンブラ選手のコメットだ。
このディンブラという選手は常に口元をスカーフで隠し、さらにゴーグルをつけてキャスケットをかぶっているという正体不明なミステリアスさ。強力な巡航戦車コメットを駆り、相手の戦術をあざ笑うように崩して踊るように単騎で壊滅させ、その上で集団戦の連携もこなすというその強さ。
上記の二つから最初期より非常に注目されており、そのミステリアスさと強さから『狼王ロボ』から取って『狼王ディンブラ』と称され、戦車道関係者の間で評判の選手だ。
話を戻そう。
黒森峰隊長、西住まほ選手はかねてからこのディンブラ選手を警戒しており、分断された左翼を足止めにして中央と右翼で聖グロリアーナのフラッグ車を撃破すべく進撃の手を止めずに直進する。
しかし、これこそが狼王ディンブラの思うつぼだった。
ディンブラ選手は指揮系統を完全に分断することこそが目的だったのだ。
頭脳であるまほ選手を失った左翼は西住流の教えを完璧に行うものの、それはどこか機械的であり、応用という物が欠けているように見えた。
ここからはディンブラ選手の独壇場だ。
黒森峰の強靭なドイツ戦車の装甲をコメットの砲撃は貫き、撃破するのが難しいと思われればすぐに照準を履帯に向け、それすら装甲で防がれるとみれば榴弾を地雷のようにして撃破していった。
攻撃だけでなく回避も優秀で、『狼王』の異名を持ちながら鷹の目と称さざるを得ない空間把握能力で紙一重で砲撃を回避するのだ。
結局のところ聖グロリアーナは敗北したものの、ディンブラ選手を撃破するには至らず、黒森峰は彼女を食い止めるために全体の七割の戦力を投じてしまったのだ。
○○○
私はペンで線引きされて「読め!」と言わんばかりに真っ赤になった記事を読みながら、ほっと一息をついた。まあ、強調されすぎて読みづらい事この上ないモノであったが。
如何やら『狼王』とはおおかみおう、ではなく、ろうおう、と読むのが正しいらしい。何故かは知らない。
恐らくはディンブラとの組み合わせ的に『ろうおう』の方がしっくりくるからだろう。私には関係のない話だが。
いくつかのページを飛ばして付箋の貼られた記事を開く。
今度は、ディンブラとはどのような人物なのか!?と銘打たれた記事だった。
私は少しだけムスッとして、
「メディアってこういうことするから嫌い」
と呟いた。
確かに正体不明な人の素顔とか、経歴とか知りたくなるのは分かるけどさ?それをメディアで大々的にやるのはダメでしょ。それで顔があまりよろしくなかったり、経歴が興味深いモノじゃなかったら一瞬で覚めるんだから嫌になるよね。
まあ、結局誰かわからずじまいだったらしいし、別にいいんだけどさ。
どうも戦車道大会が終わってすぐに戦車道をやめたらしく、彼女の乗っていたコメットも廃棄されてしまったらしい。
曰く、聖グロOG連の意にそぐわないもので、一年限りの物だったようだ。そしてそんな戦車に乗っていたディンブラさんはOG連には恥ずかしい存在らしく、隠すためにあんな風に顔を覆っていた。……とのことだ。
正直意味が分からないが、プライドが高いのだろう。
その証拠にコメットの車長だったディンブラさんをはじめとして、他の搭乗員の子たちもそのことを隠して他の戦車に乗っているか辞めてしまっている。あまりにも徹底的だ。
隊長であるためよく知っているはずのダージリンもティーカップを片手に首を振り、彼女の右腕であるオレンジペコも知らないと言っている。
「嫌だったろうなぁ……よく知ってたり、尊敬する先輩に対して知らないって首を振るの。いや、私も知らないって振ったけど」
そう、この私も元聖グロリアーナの生徒で、戦車道をしていたのだ。因みに幹部クラスのメンバーが集うクラブハウス、『バラの園』をよく使っていた。特に興味はないのだが、都合がいいのか事あるたびに呼び出されたのだ。だからあまり好きではない。
まあ、嫌と言ってもダージリンやアッサム、後輩のオレンジペコにふん縛られて強引に引っ張られてしまうのだが。あの時は普通に怖かった……特にペコが。
「今何時だっけ?」
そろそろかなと時計を確認すると、時計の針は7時前後を指していた。
私は雑誌を閉じて椅子から立ち上がり、ティーポットとティーカップをスポンジで洗い、脇に置いてある水切り籠に引っ掛けた。
パジャマから緑色のラインが可愛いセーラー服に着替え、黒のストッキングを穿く。そして腰まである色素の抜けた灰色に近い茶髪に櫛とブラシを通して整え、三つ編みにして妹から貰った赤いリボンで結んだ。
聖グロに居たころはこれをシニョンのように巻いていたが、今はそのままだ。
その後に額に残る大きな傷跡を前髪で見えないように上手く隠し、
「良し!」
と姿見で確認した。
大洗女子学園に転校して一か月たつとはいえ、まだ慣れていないところがあるので寮を出るのはいつも少し早めだ。
そこで私はあることを思い出していた。
「転校と言えば、今日、転校生来るんだっけ?確かとなりの部屋に」
どんな子だろうか?
私が言うのもなんだが、この時期に転校してくるのは結構訳アリに思える。まあ、会ってもいないのに変な詮索するのは良くない。しっかりと仲良くなって、それから聞いてみるとしよう。ほら、私も同じ転校生だからさ。
置き勉をしないため、教科書が全部入ったリュックを背負って玄関に向かう。カバンと違って手がふさがらないからリュックサックは便利なのだ。
玄関の篭から鍵をつまみ、
「行ってきます」
と言ってドアを開ける。するとちょうど同じタイミングで出てきたのであろう新しい隣人と目が合った。
私達はそろって鏡写しのように鍵をかけ、それから挨拶をした。
因みに私からだ。
「私は黒畑リク。聖グロからの転校生。君は?」
「私は……西住みほです。黒森峰から来ました」
これが私、黒畑リクと、西住みほの、
劇場版まで行きます!