ガールズ&パンツァー 彗星の狼王   作:兵頭アキラ

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プロの一人称小説と比べると、プロはセリフの量が多いと感じる。
当然、地の文も多いけど、そのあたりが特に。


砲手は弓取

 私を除いてあと4人必要なコメットの搭乗員のうち、装填手が決まった。

 一年生の坂田暁は高身長で力があるため、重い砲弾を素早く装填しなくてはならない装填手にはぴったりだ。見たところ手も大きかったため、彼女のパワーにもよるが、片手で砲弾を掴み、もう片方の手で次弾を用意する……といった動きも可能だろう。

 何よりある程度無茶な動きをしても問題なく仕事が出来る。というのが凄まじいアドバンテージとなる。

 相手の行動を読んで先に一手を打ち指揮系統を分断、乱戦に持ち込んで相手の動きを利用して撃破していく戦い方をメインにしている私とはとても噛み合っていると確信できた。

 そんなあまりにも幸先のいいスタートに頬を緩ませていると、

 

「りっくんなんか面白い顔になってるよ」

「う、うるさいな!」

「1日目の前半に1人仲間に出来たんですから、黒畑殿の反応も仕方ないですよ」

 

 優花里がお茶碗を片手に私をフォローしてくれた。

 彼女はこの学校に戦車道が復活したおかげでみほ達と仲良くなれた経緯があるため、私の喜びをよく理解してくれていた。

 私は感謝を込めて優花里のパーマのかかった髪をもじゃもじゃと弄る。

 

「分かってくれるか~優花里ぃ~」

「わ?!黒畑殿!やめてくださいよ~!」

 

 私に弄られてる優花里は口では嫌そうだが、表情からはそんな感情は一切感じられなかった。むしろ、喜んですらいる。

 

「もう少し静かに食べれないのか……」

 

 向かい側に座っているあんこうチームの操縦手、この間の聖グロ戦で天才的なテクニックを見せた麻子が嫌そうな顔と沈んだ声で言った。

 正直なところ私のチームにも彼女レベルの操縦手が欲しいのだが、それは高望みというものだろう。もともと戦車道の無かった学校で、戦車を手足のように操れる操縦手がいるというのが奇跡のようなものなのだ。

 理想的な装填手を引き入れることは出来た。

 だからといって全員が全員、理想的でなければならないというのはあまりにも現実的ではない。

 そう思いながら、私は目の前にある辛さレベル最大の激辛カレーをスプーンで混ぜる。

 

「あと3人……間に合うといいね」

「一応途中からでも参加できるけど、経験的にも1回戦から出場したいからね」

「気持ちだけになってしまいますが、頑張ってください」

「ありがと、華」

 

 みほと華の応援を受け、気を引き締めるとカレーを一気に掻き込んだ。

 

「よくそんなものを食べられるな……」

「意外といけるよ?」

 

 誰も注文しないほどの辛さのカレーを一気食いした私を見て、麻子がうへぇと表情を歪ませ、距離を取る。

 そんな彼女を沙織が揶揄った。

 

「麻子、食べさせてもらえば?眠気が吹き飛ぶかもよ」

「いい、眠気より意識が吹き飛ぶ」

 

 そんなこんなで昼食を済ませ、授業も終えた放課後、私はメンバー集めを再開した。

 本来ならみほ達と共に戦車に乗らないといけないのだが、私はそれなりの経験者であることと搭乗員の勧誘のために免除となっている。

 しかし今日から履修する暁は別で、今頃はどこかのチームに混ざって装填の練習をしている事だろう。彼女のことはみほに任せてあるし、問題はないだろう。

 

「ま、そんな事よりも、メンバー集めなんだけど」

 

 私は廊下を歩きながらきょろきょろと周囲を見渡す。

 すでに放課後のため、探すとなればどこかの部活に行くしかないだろう。

 

「こういう時は、大体勘に任せるといい」

 

 そう思って目を瞑り、精神を落ち着かせると、何かが風を切る音がかすかに聞こえてきた。

 何か糸のようなものだろうか?少なくとも、棒状の物を振って鳴る音ではない。

 恐らくは弓道部だろうと目星をつけ、

 

「そうと決まれば弓道場だ!」

 

 と、リュックを背負って階段を降り、一気に弓道場まで走り抜けた。

 そんなに離れてないためすぐに到着した。

 流石にいきなり入るわけにはいかないので外から様子をうかがっていると、髪で左目が隠れた、抜け殻のような雰囲気の生徒を見つけた。彼女は弓道着こそ着ているが、弓も矢も持とうとはしない。ずっと正座のままぼんやりとしている。

 彼女のことが気になっていると、休憩帰りと思われる弓道部の子がいたので聞くことにした。

 

「すみません。あのぼんやりとした子、どうかしたんですか?」

「ん?ああ、百合若のこと?メカクレの」

「百合若というんですか。はい、そうです」

「百合若林檎。二年生。一年生の時は私達のエースだったんだけど、事故に遭っちゃってさ。私も詳しくは聞いてないんだけど、手首の筋肉を怪我しちゃったんだって」

 

 私の質問に答えてくれた弓道部の子は憐れむような目で林檎という少女の方を向いた。

 

「怪我はもう治ったんだけど、もう弓を引けないくらい筋力が落ちちゃったみたいなんだ」

「それって、日常生活には?」

「ああ、その辺は大丈夫。元々人付き合いが悪かったのが悪化したぐらいで、普通に授業受けてるし、ご飯も食べてるから。ただ、もう弓道は出来ないかな……」

 

 なるほど。大体わかった。

 怪我をしてもう弓道は出来ないけど、それしかしたことが無いからやめられないのか。そのうえ、自分は出来ないのに、周りの子が出来ている……つまり、私と同じような状態に陥っているということだろう。

 そうと決まれば話は早い。

 

「ちょっと、どこ行くの?!」

「その林檎っていう子に用がある」

 

 弓道場の玄関に回って靴を脱ぎ、他の弓道部員の視線をすべて無視して林檎のところに速足で向かう。

 目の前まで止まると、ようやく彼女はぼんやりとした表情のまま、私に目を向けた。

 

「なっ何……?」

「戦車道!やろう!」

「せっ戦車道……?」

 

 人付き合いが悪いというのは、ダウナー系のコミュ障的なところが要因のようだ。声のトーンが低く、ぼそぼそと、少しどもりながら返事をしている。

 とは言えその辺さえ気にしなければ、コミュニケーションに問題はない。

 

「そう、戦車道。この間体育館で資料映像見たよね?」

「みっ見たけど……なんで私?」

「私、今チーム集めに奔走しててね。それで君を見つけた。……端的に言えば、君が欲しい」

「?!」

 

 正座をしているが、彼女の体が思いっきりはねた。

 そこで私は、正座をしている林檎を思いっきり見下ろしていることを思い出し、彼女と相対するように正座する。すると林檎の顔がさらに紅くなり、さらに顔を下に向けた。よく見ると目線がきょろきょろと動いており、膝の上に置いていた手を組み合わせていた。

 弓道部の子達が顧問を含めて全員私達の方を向いている。林檎はその視線に緊張からか気づいていない。

 

「わっ私は弓道しかしたことが無いですし……あっ足を引っ張るだけです……」

「そんなことない。なにせ私ともう一人を除けば全員初心者だし」

「はっ話すのだって苦手だし……」

「私が君にしてもらいたいのは砲手。砲手っていうのは読んで字のごとく、戦車の大砲を撃つ人のこと。黙ったままでも大丈夫……とは言え、メンバー間のやり取りがある方がうれしいけどね」

「えっえっと……」

 

 林檎はまだ何か諦めてもらうための理由を探しているようだ。

 だが何と言うか、彼女からは構って欲しい寂しがり屋のネコのような雰囲気があった。

 さっき林檎のことを教えてくれた子には、彼女をエースとしていたために一目置いているようなところがあった。それが元々の寂しがり屋な性格と相まって『孤高の弓道部エース』という目線でしか見たことが無かったのかもしれない。

 その証拠に、周りにいる全員の目が丸くなっている。

 

「私は弓道は少ししかわからないし、君がどれくらい上手いのかも知らない」

「だっだったら……!」

「だけど君からは、ぼんやりとしていたけど、何かをしたいっていう感情が私には見えた。だから、私は君を誘った」

 

 私の場合は環境の問題だったけど、林檎は彼女の体の問題だ。

 恐らくだけど、無意識ではもう出来ないことに折り合いはついていたのだろう。諦めるあと一押しが欲しかった……というあたりだろうか。

 本当のことは分からない。

 だから私はリュックからメモとペンを取り出して携帯電話の番号を書き、林檎に渡した。

 

「でっ電話番号……?」

「私の携帯番号。1週間以内にあと3人集めないといけないんだ。それまでにどうするかを電話で教えて欲しい」

 

 そう言って私はゆっくりと立ち上がった。

 ポカーンとした表情のままの弓道部員たちを避けて玄関に向かい、靴を履いて弓道場を後にする。

 もうすでに太陽が傾き、空がオレンジ色になっている。

 ポケットに入れている、帽子をかぶった兎をあしらった懐中時計を確認すると、戦車道も終了しようとしている時間だった。

 私もそのまま帰路につこうとして校門に歩いていると、弓道場の木でできた扉が勢いよく開いた。

 勢いが良すぎて大きな音が鳴る。

 そしてその扉を開けたのは、私がさっきまで勧誘していた林檎だった。

 彼女は大声で、

 

「わっ私もっ!戦車道……やらせてくださいっ!」

 

 と叫んだあと、これまた勢いよく頭を下げた。

 林檎の後ろには、弓道部員たちが彼女のいきなりの大声に驚いてはいたが、応援するように見守っていた。

 少しばかり訂正が必要かもしれない。弓道をやっている自分が弓道をやめろだなんて言えるわけがないという考えから、林檎への最後の一押しが出来なかった……ということだろう。

 私はフッと笑い、

 

「もちろん!」

「あっありがとうございます!」

 

 林檎の表情がパッと明るくなる。

 彼女はにへ~っとかわいらしい笑顔で笑った。

 現在、装填手と砲手がそろった。あとは操縦手と機関銃手兼通信手。

 一回戦のサンダース戦まで、あと6日。




 百合若林檎(ゆりわかりんご) 性別 女

・プロフィール
 所属校―県立大洗女子学園
 学年―2年生(普通一科B組)
 所属チーム―Fチーム(オオカミさんチーム)
 担当―砲手
 身長―155cm
 出身―茨城県水戸市
 現住所―大洗女子学園女子寮
 家族―父(百合若哉)・母(百合若香苗)・兄(百合若和希)・祖父(百合若茂)
 誕生日―9月19日(乙女座)
 年齢―16歳
 血液型―A型Rh+
 好きな食べ物―漬物
 嫌いな食べ物―ミョウガ
 好きな教科―古典・物理
 嫌いな教科―英語
 趣味―乗馬
 日課―弓のメンテナンス
 好きな花―梅
 好きな戦車―九七式中戦車

・概要
 1年生の時は弓道部のエースとして有名だったが、手首の筋肉の怪我という弓道生命を奪われる事故に遭ってしまう。在籍してはいるものの抜け殻の様になっていたが、リクが砲手として勧誘したことでオオカミさんチームに加入した。
 流鏑馬の経験もあるため、行進間射撃すら難なく命中させる腕前。弓道部譲りの集中力はすさまじく、リクのハードな注文に結果で応えている。

・性格
 少し暗く、寂しがりやでかまってちゃんな性格。口数は少なく、喋ったとしても軽くどもっているうえにぼそぼそとしゃべる。コミュ障。友人は少ない。が、在籍していた弓道部の面々は彼女の試合に出来る限り毎回駆けつけ、来れなかったとしてもテレビ越しに応援している。

・容姿
 髪も瞳も茶味がかった黒色。天然パーマであり、少しウエーブのかかった髪をポニーテールにしている。前髪は長く、片目メカクレ。
 滅多にないが、笑うときはにへ~っと笑う。可愛い。

・特技
 行進間射撃。曰く、馬よりもゆれないし、的も広いということで驚異の命中率を誇る。
 リクの細かい注文にこたえる腕前を持ち、無駄なものを全て排するように集中する。
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