優花里の紹介で通信手に瑠香を加え、無事に1回戦までにメンバーをそろえ切った私は、サンダースのデータを受け取ったみほと共に私の寮室で戦術研究にいそしんでいた。
その日の夕食は手軽にサンドウィッチを二人で作り、それを片手に映像を見返しながら私はパソコンに、みほはノートに気づいた情報を書き込んでいく。
「ん……こんなものかな?」
「そうだね。これ以上書いても蛇足にしかならないだろうし」
みほが背伸びしながら言った。
2、3周ほどしたが、これ以上何か気づいたことがあっても大したものではないだろう。
「しかしこうやってみるとさ」
「何?」
「どれだけ実力差があっても、やることは相手より先にフラッグ車を見つけて撃破する。だけなんだなぁって」
「確かに。殲滅戦だったらどうしようもなかったよ」
殲滅戦は相手の戦車を全て撃破するまで終わらない試合形式で、戦車道大会ではフラッグ車を先に撃破した方が勝ちになるフラッグ戦という形式が用いられている。
確かに殲滅戦なら、質のいい戦車を数多く持っている――当然搭乗員の実力も含まれる――方が強いので、両方が現状低い私達は圧倒的に不利だ。しかし、フラッグ戦なら理論上は相手戦車を撃破できる戦車が一台でもあれば勝つことは可能なのだ。
私は動画サイトを開き、サンダースの公式試合映像をみほに見せる。
「あ、ほら、これ見てよ」
「サンダースの試合のハイライト?」
「そ、見てほしいのは、相手戦車とサンダースの戦車の数」
「ほとんどの場面で、戦車の数が同数になってる……」
私が気づいたのはサンダースの隊長、ケイの作戦方針だった。
ケイはスポーツマンシップを持ち、当たり前だが戦車道を『戦車戦』ではなく『競技』として体現している。余談ではあるが、強豪校であればあるほど、ここを勘違いしている。
そのことを鑑みると、彼女は基本的にフェアで戦う事を望んでいる。
その為、流石に全てとは言えないしハイライトを見ても一場面だけだが、相手戦車と同数の戦車で相対していることが多い。
「流石に後続にはまだまだ残ってるけど、これなら勝ち目はあるよ。戦力を削り取っていく……みたいな。当然、フラッグ戦だからフラッグ車が最優先だけど」
「うん……これならなんとかなるかも。あ、1回戦、オオカミさんチームはどうする?」
「どうするとは?」
「思ったよりいい出来だし、私達と同じように動かしてもいいかなって」
「うーん……」
確かに元々のポテンシャルの高さからか他と遜色ないように私も思う。
だが、それでも圧倒的に実戦経験が欠けている。
練習でできるのと、試合本番でできるのは別なのだ。
実戦では、練習では感じ取れない独特の空気感がある。私もブランクがあるから不安が残るし、他のメンバーは素人だ。一応実戦を知っている私はともかく、メンバーがその空気感に呑まれてしまえば完全に足手まといとなるだろう。
故に私は、
「とは言え実戦経験がなさすぎるからね、1回戦は空気感に慣れてもらうよ」
「うん、わかった」
「あ、もちろん動く時は動くよ。出来れば前半のうちにみんなには慣れてもらいたいね」
私はフッと笑った。
できるだけ早く空気感に慣れてもらえれば、先にフラッグ車を撃破されない限り試合に貢献することが出来る。
それに激励してもらった手前、ダージリンやアッサム、オレンジペコの前で無様を晒したくはない。母様や妹には特にだ。
撃破なんてされた日には何て言われるかたまったものじゃない。
みほが可笑しそうに言う。
「ふふっ、その時はリクさん……狼王の判断に任せるね」
「ちょ、そこで狼王を出すのはずるいぞ!」
「えぇ~」
みほの気の抜けた反応に可笑しくなり、私は吹き出して笑った。
彼女も私につられて笑い始めた。
笑い声が2つ、私の寮室にこだまする。
○○○
「それでは本日の練習を終了する!解散!」
「「「お疲れさまでした!」」」
広報のモノクル……桃が練習終わりに解散の指示を出し、私達は頭を下げる。
通信手に瑠香が加入したことで連携の練習もできるようになり、オオカミさんチームも形になって来たと実感する。
後は試合感覚さえ整えば私も十全の力を振るうことが出来るだろう。少なからず勝利に貢献できるはずだ。
「お疲れさま。どう?初めて連携……というより隊列を組んだ感想は」
「そうだなぁ、ちょっとばかり窮屈さを感じるな」
「でもそんなの感じさせなかったね」
「まあな。そこはアタシの腕がいいって事よ」
操縦を担当する颯が頭の後ろで腕を組み、笑ってみせる。
確かに、速さを重要視する彼女からすれば窮屈だろう。しかし、乱れなく隊列を組めるあたりその自制心と操縦技術の高さがうかがえる。
言動は少し荒いところがあるが、割り切りはしっかりできているようだ。
「瑠香は?初の戦車道だけど」
「なかなかいいね。特に私の通信が戦術の要になっているところがいい」
「ああ、君の通信の正確さが明暗を分けることもあるだろう。これからも頼んだよ」
「頼まれよう」
「何だそれ。さて、練習も終わったし、何か食べて帰るかい?」
私はぐ~っと背伸びしながら荷物を取りに教室に戻ろうとするが、後ろに気配を感じなかったので振り返る。
すると操縦手の颯を筆頭に瑠香が飄々と、林檎は行くべきか行くまいかと悩み、暁がそんな彼女を抱えて車庫にしまったはずのコメットに再び乗り込もうとしていた。
「ちょいちょいちょい!コメットは私の私物なんだから、使うときは言ってくれないと!」
「じゃあ今から使いまーす!」
「はぁ?!」
暁が砲塔から顔を出し、すぐにひっこめた。
そして入れ替わるように林檎が顔を半分だけ、恥ずかしそうに出す。
「わっ私達……りっリクさんがすごい人だって聞いて、その……あっ足を引っ張りたくなくて……」
「で、居残りで練習しようとしたと」
「はっはい……」
「何時からしてたの」
林檎がびくりと跳ねた。
「しっしようって決めたのは、今日からです……」
「なら言ってくれよ……私達はチームなんだからさ」
私は呆れながら装甲をよじ登り、車長席に座る。
私が勧誘した分、本当のところは戦車道を良く思ってないんじゃないかと思っていたが、杞憂に済んだようだ。全員やる気になっていて、戦車の中にもその気概が満ち満ちている。
そして息を吸ってみんなの意気込みを肺にため込み、操縦手である颯手に指示を出す。
「ドライバー・アドバンス!」
「了解!」
颯がシフトレバーを操作し、アクセルを踏んだ。
コメットがうなりを上げる。
この居残り練習は、1回戦の前日まで続いた。
勿論練習だけでなく、試合に出るためにパンツァージャケットも支給された。
緑色のシャツの上に紺色のジャケットを着て、白のスカートを履く。
颯はジャケットを腰で巻いていた。そしてゴーグルを首にかけ、革のグローブをはめている。
「なかなかいいですね!これ!」
「こういうのを着ると気が引き締まる」
「なっ何だか落ち着きます」
メンバーからの評価はなかなかのようだ。
そして背中にはコメットと同じ赤い頭巾をかぶった、懐中時計を銜えるデフォルメされたオオカミのエンブレムがプリントされている。
同じようにエンブレムがプリントされているのは、私達を除けばみほ達あんこうチームのみだ。
すると生徒会長の杏がやって来て、
「あ、黒畑ちゃんは副隊長やってね~」
「え、いきなり」
「会長?!」
「じゃ、そういう事で」
と、帰っていった。
あまりに突然すぎて対応が追いつかなかったが、どうも私は副隊長になったらしい。
そんなこんなで順調に時は過ぎ、1回戦が始まろうとしていた。
リクと瑠香の口調が分かりにくくないかが不安。