幸いポイントはたんまりあるけどさ。
試合開始と共に大洗の戦車たちが前進を開始する。
私達のコメットが生み出すエンジン音と振動が体を震わせる。その感覚は練習の時とは全く別物で、適度な緊張感が私の意識にハリを持たせてくれる。
質、量ともに劣る大洗の戦車ではサンダースの戦車の撃破は難しいため、やはりというかゲリラ戦が中心になってくる。故に私達は身を隠すことのできる森の中に入り込み、肉食獣のように待ち伏せする。
視界が狭いために同士討ちの確率も高まってしまうが、通信による連絡と位置把握さえしっかりしていれば問題にはならないだろう。
私は操縦手である颯に声をかける。
「森の中だけど、問題なく走れる?」
「走り自体は問題ないが、視界が狭いのがネックだねぇっ!」
「木にぶつかれば場所がばれるから、気を付けて」
「まっかせな!」
彼女の自信と腕前の良さを証明するようにエンジンが更にうなりを上げ、加速する。
そうなれば操縦が少しは荒くなるものだが、さっきまで走っていた平地と変わらず安定している。練習の時に感じた腕前は試合でも遺憾なく発揮されているようだ。
するとゲリラ戦での要、通信手の瑠香が私に、
「全車、問題なく配置につきました。戦況に変化があり次第即座に報告しますよ」
「瑠香も問題ないみたいだね」
「スパイはいつだって冷静に。ですから」
「頼りになる」
彼女はノートパソコン、しかも軍用のそれを持ち込んでいる。
画面には試合会場の地図が映っている。如何やらさっき散策している間に打ち込んでいたようだ。他のチームから通信を受け取るたびに座標を打ち込み、地図上の青いマークが場所を移していく。
この状況を見るに、少なくとも足回りは問題ないようだ。それだけで負ける確率は十分に下がる。
重要なのは撃破することではなく、生き残ること。私達がフラッグ車なら勝敗に関わるし、そうでなくても逆転の一手につながる可能性がある。
『うさぎさんチームは右方向の偵察をお願いします。あひるさんチームは左方向を』
『了解しました』
『こちらも了解!』
『かばさんと我々アンコウはカメさんを守りつつ前進します。オオカミさんは後方で遊撃を担当してください』
「いいよ」
私達は遊撃担当。要は自由に動いて片っ端から撃破していけという事だ。
少々雑かもしれないが、自由に動けるから私のスタイルと合っている。というか昔から私は基本的に自由にやらせてもらっていたから、この方がありがたい。
私は搭乗員全員に指示を出す。
「聞いた通り、私達は遊撃部隊。見つけ次第全部狩りつくすよ」
「頑張ります!」
「私はただ当てるだけ」
暁が勇んで力こぶを作り、林檎は一度深く深呼吸して閉じていた目を開いた。既にスイッチが入っている。
全員、メンタル面での問題はないようだ。この調子なら、想像よりも早く本調子で動くことが出来るだろう。
にんまりと口角が上がっているのが自分でもわかる。
丁度そのタイミングでみほから通信が入ってきた。
『リクさん、オオカミさんの様子はどうですか?』
「順調みたいだ。少なくともメンタル面では問題ないよ」
『ならよかったです。お互い、頑張りましょう』
通信を終了する。
今度は入れ替わるようにうさぎさんチームの車長、澤から通信が来た。彼女たちは右方向の偵察だから、恐らく敵発見の報告だろう。
報告でしか知らないが、聖グロ戦で戦車から逃げ出してしまった彼女たちはもういないようだ。今では立派に勇敢な戦車乗りになっている。
「瑠香」
「準備できています」
『こちら、B-08-5S地点。シャーマン3両発見これから誘き出します』
瑠香が素早く情報を打ち込み、地図が変化する。
通信越しにエンジン音が聞こえ始めると同時に、砲弾の着弾音が聞こえてきた。それも闇雲な砲撃ではなく、狙いすましたもの。スピ-カー越しだから不確定だが、偶然にしてはあり得ないぐらい複数発、うさぎさんの周囲に飛んできていた。
「着弾……それも複数発?!」
『シャーマン6両に包囲されちゃいました!』
『うさぎさんチーム、南西から援軍を送ります!オオカミさん!』
「了解した!行くよみんな!」
みほの中ではあんこうとほかの戦車で南西から、私達が南東からの援護だろう。少し大回りになるが、遊撃とは相手の裏をかいてこそ。
到着は遅れるかもしれないが、そうであっても救出の援護くらいは出来るだろう。
「颯!私達は南東から攻め込むよ!」
「南西じゃないのか?!」
「敵が引きつけられている内に逆側から埒を明ける!」
「なるほどなぁっ!」
アクセルを踏み、コメットが加速した。位置情報は瑠香の持つ記録から正確に入ってきている。
これでうさぎさんの救出は問題はないだろう。
だが、一番の問題はサンダースがこちらの戦車を見つけるのが異常に早かったことだ。相手は森の中にいて、全く見えていない状態で包囲するなんてさすがの私でも不可能だ。
ぞわりと裸を視姦されるような寒気が走る。……一応言っておくがそんな経験私にはない。あくまでもイメージだ。
……後なんでかわからないけどダージリンの格言を言う姿が目に浮かんだ。
今度はアンコウから包囲されたとの通信。
「あまりにも正確に行動を読みすぎている……」
「え、リクさんしょっちゅうやってません?」
「あれは味方相手で手の内が大体分かってるから。でも、流石に初見の相手にこれは異常すぎる……」
「その割にはこっちには1両もいないな」
「1両を除いて全車投入してる」
「……もしかするかな、これは」
同じように救援に来ているあんこうには3両いて、こちらには1両もいない。それどころか包囲の手もこちら側は少しゆるい。何か裏を感じる。
「よし、私達は変わらずうさぎさんの救援!速度上げて!」
「あいよっと」
「林檎。行進間射撃、頼むよ」
「いつでも」
反対側では包囲されながらもあんこうが合流している。
みほ達は南南西に逃げるようだ。丁度その方角はこちらの射線が通っている。何かあるとすれば、これで証明できるはずだ。
その報告を聞いて私は、
「林檎、南南西に照準合わせ!」
「何もありませんが」
「合わせるだけ合わせて!」
すると予想通り、2両が逃げ道をふさぐように立ちはだかる。
なるほど、そういう手品か。
敵戦車が照準に入ったのだから、やることは一つだ。林檎が私が指示するよりも早くトリガーを引き、砲弾が発射された。その砲撃は正確にこちらから見て奥の方の車両の履帯を貫き、かしゅっと撃破を示す旗が上がった。
直撃の衝撃で間が広がり、そこをみほ達が通り抜ける。
全員脱出には成功したようだ。
そしてすぐに、
「瑠香、暗号で優花里に通信送って。で、通信機を一旦切って」
「了解。で、何と?」
「通信が傍受されてる」
「なるほどな、奴さんなかなかやるね」
「反則じゃないんですか?」
「グレーゾーンかな」
暗号通信の返答はみほもほとんど同じタイミングで通信傍受を受けていることに気づいたようだ。
ならばやることを一つ。策士を策におぼれさせるまで。
連絡は出来る限り正確に、だ。
『全車、0985の道路を南進。ジャンクションまで移動して!敵はジャンクションを北上してくるはずなので、通り過ぎたところを左右から狙って!』
これで囮役はキルゾーンに誘い込める。私達は混乱しているところを叩く役割だ。
複数の砲撃音が同時に聞こえ、わざと開けておいた脱出経路から逃げた囮役を撃破する。それなりの長距離射撃だったが、林檎はまたも正確無比に撃ち込んでくれた。
すんごく気が早いけどなんか面白そうな作品ありません?ラノベでも可。