彼女、あんまり話さないからモノローグ多いし、一人称が分からん。
後方から支援砲撃をしていると、砲撃の成果もあって段々と距離が詰まってきた。
そして必然的にこちらへの砲撃も多くなってきているが、こちらに照準を向けている戦車は敵本隊の半分もいないだろう。
ファイアフライの砲手、ナオミの集中力もそいでいるのが一番大きい。間に合わなかった所為でアヒルさんは撃破されてしまったが、それ以降の撃破されたという報告はない。
初心者にしてこれだけの成果を叩きだした砲手の林檎と、彼女に正確な情報を届ける瑠香には賞賛しかない。この試合が終わったら、紅茶と何か特製お茶菓子でも振舞ってあげよう。
「っ!」
すると突然、ぞわりと背筋に悪寒が走った。
見えないけれど、砲口をこちらに向けられている。それも、今まで飛んできていたような闇雲なものじゃない。真正面から、私を狙っている!正確に、冷徹に。
だから頭を引っ込めて、
「颯!右に舵切って!早くっ!」
「右だなっ?!」
「私達を先に撃破する気だな!」
加減速の揺さぶりという、颯のアドリブを含めた素早いレバー操作でコメットが右に右前方に頭を向ける。すると、真っ直ぐに、同じ速度で進んでいたらそこにいたであろう位置にファイアフライの砲弾が着弾した。
「暁!榴弾から徹甲弾に弾種変更!」
「入れる前に言ってもらえて助かりました!」
暁が榴弾を小脇に抱え、右手で徹甲弾を鷲掴みにして装填する。火事場の興奮があるとはいえ、相変わらずすさまじいパワーだ。今度筋トレ教えてもらおうかな……いや、妹がキレる気がする。止めておこう。
装填完了と同時に林檎が弾道からファイアフライの位置を割り出して撃ち返す。
が、向こうも読んでいたのか当たる直前で左に舵を切り、その少し前に着弾した。
「チッ……外した」
「こっちの砲手が有能だって事はこれまでの戦闘で分かっているだろうからね。向こうも撃ったら直撃コースに撃たれるってことは分かってたんだと思う」
「まあ、こっちがそれより先に撃破されてちゃあ意味ないんだけどな」
「リクさん良く分かりましたね。私なんて言われるまで同じように装填してましたよ」
「そこは勘だからねぇ。長く乗ってると分かるようになる。……と、瑠香。敵フラッグは何処まで進んだ?」
「予定地点の入り口付近に到着しました。みほさんからも、丘を上がると通信が入っています」
こっちがファイアフライの砲撃を受けるというアクシデントはあったものの、あの精度の砲撃がこちらに向いて敵攻撃能力が落ちたことを考えるとイーブンってところだろう。
その間に撃破できればよかったが、そこはまあ仕方がない。
「予定通りに事が進んでいてよかったよ。じゃ、颯。瑠香の出したショートカットコースを最大速度で突っ走って。ここからは時間とタイミングの勝負だからね」
「任せなよ。あたしの腕の見せ所だ!」
そう言って右に大きく舵を切り、森の中に突入する。
○○○
耐えがたい屈辱だ。
アタシ、ナオミはサンダースのエースを自負しているが、流石に人間だ。黒森峰やプラウダの連中のように、相手が上手だったりすれば普通に弾も外れる。だが、それは相手が避けるのが上手いからで、私が外しているわけではない。
だからこそ、アタシが砲撃を外させられている。というのは耐えがたい屈辱だ。
一射ごとに味方戦車が沈められているわけじゃない。そのはずなのに、背後から飛んでくるプレッシャーの塊がアタシのトリガーを引く指を鈍らせる。
今度の砲撃はアタシ達の真横に着弾した。
「っ!」
「つ、次は当たるかも……」
アタシの乗るファイアフライの車長の震えた声が後ろから聞こえてくる。
ただ闇雲に撃ってくるだけなら怖くない。当たる確率よりも当たらない確率の方が多いからだ。だけど、この弾は違う。
時々命中して撃破したり、超至近弾だったり、装甲をかすめたり……何も見えない金属の箱に入れられて、外側から叩かれている。そんな精神状態に私達は晒されている。
だからこそ、この状況を一刻も早く打破しなければならない。
そうしなければ、相手のフラッグ車を撃破するよりも先にこちらのメンタルがやられる。
「……先に後ろの奴を叩く」
「わ、分かりました……!」
砲塔を回転させ、後ろから撃ってくる戦車を照準に捕らえる。相手の戦車はコメットだった。コメット……一瞬嫌な奴を思い出してしまうが、頭を振って集中する。
「車長、アタシが撃ったらすぐに左にずらせ」
「え?」
「向こうの砲手の腕がいい。アタシと同程度あると考えろ」
「はい!」
もっとも、これはあくまで保険だ。アタシがこの一撃で仕留めてやる。
ガムの味がしなくなり、トリガーを引いた。
砲弾は真っ直ぐにコメットに飛んでいく。完全に直撃コースだ。撃破は出来なくても、一時的に足を止められる。そうなればアタシが相手のフラッグ車を撃ってフィニッシュだ。
「なっ?!」
が、そうはならなかった。
撃った瞬間にコメットが右に進路を変更し、アタシの撃った弾が真っ直ぐ進んでいればいた場所であろう地面に虚しく大きな穴を掘る。
……こんなことが出来るのは、黒森峰の西住まほ。プラウダにいるライバルのノンナ。そして聖グロリアーナに居た、覆面のコメット乗り、ディンブラだけだ。
予想通り、アタシの砲撃から位置を逆探知したコメットの砲撃がファイアフライの真横に着弾する。
もう一射。撃とうとしたところで、コメットが森の中に消えていった。
これでは狙うことが出来ない。だが、それは向こうも同じはず。こっちは本来の役割に戻るとしよう。
砲塔を元に戻すと、大洗女子の四号が丘を登っていた。崖の上からこっちのフラッグ車を撃つ気だろう。
『上からくるわよ!アリサ!ナオミ!頼んだわよ!』
「イエス、マム」
隊長であるケイからの命令を受け、フラッグ車を撃たせまいと私達は四号の後を追う。さっきのコメットとは違い、こちらは勝敗を大きく左右する一射だ。
だからファイアフライの足を止めさせ、確実に狙う。
○○○
四号を狙うファイアフライ。
その履帯を、砲弾が撃ち抜いた。
「なっ?!」
ナオミには心当たりがあった。森の中に入っていったコメットだ。
その予感が当たり、茂みから飛び出したコメットがファイアフライの目の前に割って入った。
「ホールドアップ!」
「チッ!」
まだ撃つチャンスは一度だけだがある。ナオミは目の前のコメットを撃破し、距離は伸びるが、この位置から砲撃することを視野に入れた。
すでに目の前にいるコメットは正面に車体を向けている。だが、ファイアフライはすでに撃てる状態だったのだ。つまりこちらの方が攻撃速度は早い。
正面からとはいえ、この状態だ。確実に撃破できる。
ナオミはトリガーを引いた。
その直前だった。
「颯!後退しながら左旋回!」
ここは丘だ。当然、少し下がれば高くなる。
そして、信じられないことが起きた。
「嘘……でしょ……」
「っ」
みほの試合を観戦していた黒森峰のエリカが愕然とし、まほは目を見開く。
「やりすぎですよ……ディンブラ様……」
「あらあら」
ディンブラことリクの試合の観戦をしていた、彼女のことを尊敬しているオレンジペコは苦笑いを浮かべ、彼女のことをよく知るダージリンは楽し気にティーカップを傾けた。
「……」
そして日本のどこか。大きなテレビでこの試合を観戦しているボコを抱えた小さな少女は、羨望。敬愛。思慕。そして憎悪の念を、リクに向けていた。
「林檎!撃て!」
それはまさしく、神業ともいえるものだった。
車体と砲塔の接合部を狙った砲弾。それは後退したことで傾斜装甲になった車体上部の装甲に受け止められ、同時に左旋回によってライフリングを利用し、砲弾を受け流した。
つまり、至近距離の砲弾が、性能差ではなく技量によって弾かれたのだ。
そして素早く放たれた、コメットからの砲撃でファイアフライは撃破された。
「なるほど。あのエンブレムならしょうがない」
撃破されたナオミは、後ろにいる車長に背を預けた。そしてニヤリと笑う。彼女は見たのだ。赤ずきんをかぶった狼が、懐中時計を銜えたエンブレムを。
それは、高校戦車道最強と称される狼王のエンブレムだった。
アナウンスが告げる。
『大洗女子学園の……勝利!』
○○○
私達の勝利を告げるアナウンスが聞こえてくる。
戦車から降りた私は、座りっぱなしだった体を伸ばし、深く息を吐いた。
「ふう……」
「勝ちましたよ!私達!」暁が両手を上げて喜んでいる。
「やったな!」颯が瑠香の背中を叩いた。
「いたた、そんな勢いよく叩かないでください!」そのことに彼女は怒り、
「わ、私達……か、勝てたんだ……」何時もの弱気になった林檎が自分の両手を見つめていた。
「みんな、みほのところに行くよ!」
大洗のみんながみほのところに集まっていく。私達は距離が近いので、歩いて行くことにした。
「みほ!」
「リクさん!」
私が走り出すと、それに気付いたみほもこっちに走ってきた。私達はハイタッチを交わす。パァン!と、といい音が鳴った。するとみんなも駆け寄ってきて、全員とハイタッチを交わした。
「一同!礼!」
「「ありがとうございました!」」
両校の隊長、副隊長、車長が集まって礼をする。この試合を見ていたすべての人が、私達、試合をした全員に拍手を送ってくれた。
「やっぱりいいね、この雰囲気!」
「まさか狼王がこんなとこにいたとはな」
「えっ?!あんたが狼王なの?!」
「ナオミにアリサじゃん。いい試合だったね」
ナオミの握手に応じて問いに答えると、横からアリサが突っかかってきた。まあ、あんなことをしてたら普通バレるか。
「ちょっと!私達は先輩よ!」
「でも戦車に乗ってりゃ対等だ」
「~~!」
「アンタの新しい砲手、いい腕してるよ。アタシと同じくらい」
「伝えておくよ。高校戦車道トップクラスの砲手が褒めてたって」
「ああ、頼む……まさかあんな方法で防がれるとは思わなかった」
「え?どんな方法よ!」
「それは反省室でな~」
彼女は背中越しに手を振りながら帰っていった。その後をアリサが何やら叫びながらついて行っている。
「やっほー狼王!」
「今度はおケイさんか。……良く分かったね。私のエンブレム、見てないでしょ。顔も見たことないはずだし」
「いやーあの戦い方は間違いなく狼王しかしないでしょ!長距離支援砲撃とか大変だったんだから!」
「あはは……」
ケイがわたしを抱きしめる。
「でも、よかったよ。前の大会から見なかったからさ、それなりに心配してたんだ」
「ダージリンにも心配かけたみたい。黙って出て行ったこと。……でも、もう大丈夫」
「ならよし!またやろうね!」
彼女は私を開放し、チームに戻っていった。
私、割とたくさんの人に迷惑かけちゃってたみたいだな。
「リクさーん!帰りますよー!」
私のオオカミさんチームの装填手、暁が大きく手を振っている。頭二つ分以上抜けていた。アイツ本当にデカいな。
「帰ったら私の部屋に集合だぞー!……ん?メールか」
携帯を取り出し、メールを確認する。
妹からのメールが届いていた。