私は今日から大洗女子学園に通う転校生、西住みほと共に通学路を歩いていた。
私も戦車道を嗜んでいただけあって西住みほのことを知っており、準決勝で対戦したこともよく覚えている。ただ一つ意外だったのは、思ったよりも引っ込み思案そうだったことだ。
決勝での出来事から心優しい子だとは思っていたが、どこかぽわぽわしている。普通の子だ。
彼女はニコニコしながら言った。
「黒畑さんはいつからここに通ってるんですか?」
「リクでいいよ。んーと、一か月くらい前かな。まだ慣れないことも多いけどね。聖グロとは違うことが多いし」
私は顎に手を添えて答えた。
話しながら、私はみほが何故この時期にやって来たのかを考える。まあ、十中八九決勝戦での失態の責任取りだろう。私も似たようなものだけどね。
「一番助かってるのは、バラの園みたいな集会がないってことだね。お茶するのは好きだけど、ああいうお堅いのはちょっとね?」
「リクさん、バラの園に入れたんですか?!」
「うん、そうだよ。私は行きたくなかったんだけど、先輩や後輩に強引に連れ込まれてた」
「はえ~……てことは、リクさんも戦車道してたんですか」
「してた。あそこはいるのは大体戦車道の選手だからね」
「じゃあ、聞いてもいいですか?」
みほが真剣な表情で聞いてきた。
恐らくだけど、あの質問だろう。みほも戦車道をやっていたのだから、聖グロからやって来た私に聞きたいことは一つだ。
「ディンブラさんって、知ってますか」
「……」
ほら来た。
大会特集号でも書いてあったけど、コメットを駆っていたディンブラのチームは解散し、他のチームと混ざったか転校している。そしてそのチームに所属していたメンバーの素性は隠され、誰が誰なのかわからない状態なのだ。
転校する際にも、メンバーのことを口外しないことを条件に転校を許された。
このあたり、私は腹芸の得意なイギリスの特色を感じる。
という理由があって、私はみほの質問には答えない。
「知らない。知ってたとしても、言わないことを条件に転校してるんだ」
「そう……ですか」
みほが目に見えて落胆している。
言いふらすような子じゃないとは思っているが、それでもいう訳にはいかない。ただ、少しかわいそうになったんでヒントだけ与えることにした。
「そう落ち込まないでよ。誰がどうとは言えないけど、私が彼女に近いところに居たのは事実だから」
「そうなんですか?!」
「うん。でもこれ以上は言えない」
手をひらひらと振って話を終わらせた。
丁度いいことに、もうそろそろで到着だ。いい感じに桜も満開で、割とカラフルな校舎をさらに彩っている。
そう言えば聞いてないことがあった。
「ねえ、みほのクラスってどこ?」
「えーっと……」
みほがバッグの中から紙を一枚取り出した。そこに寮の部屋番号やクラスが書かれているのだろう。
「普通一科A組……だね」
「へえ、私と同じクラスか。別クラスだったら会いに行こうと思ってたんだよ。ほら、みほって引っ込み思案ぽいし……ああでも、アイツがいるから大丈夫か」
「アイツ……?」
「まあ、そこはお楽しみって事で。昼休みにでも期待してるといいよ」
「ふーん」
みほを連れて、私は自分のクラスに向かって歩いて行く。
すれ違うここの生徒に声をかけられ、適当に返事を返す。どうも私は自分のことをあまり語らないせいで学園一ミステリアスな生徒という評価を受けることになってしまった。
聞かれないから言わないだけなんだけどな。
「リクさんって人気なんですね」
「転校生だからね。珍しいだけだよ。……と、着いた着いた。ここが私達の教室だから、覚えといてね」
取り合えず私達の教室の前に到着した。
そこでチャイムが鳴り、みほの紹介もそこそこにいつも通りの授業が始まった。そして昼休みとなり、クラスメイトが自分のグループで各々の昼休みを開始する。
やっぱりみほは引っ込み思案だったようだ。
結局彼女は誰にも声をかけられぬまま、昼休みを迎えてしまっている。
私は机に頬杖をつきながらみほを見守っていたが、少しばかりどんくさいところもあるようだ。最初はペン一本を机から落としていたが、次に定規や消しゴム。最終的には筆入れそのものを落としていた。
じれったく感じた私は、席を立ってばら撒かられたシャーペン等を拾うのを手伝うことにした。
「手伝うよ」
「ありがとう、リクさん……」
「意外とどんくさいんだね」
「あう……」
揶揄うとみほの顔が少し赤くなった。
散らばったすべてを拾い終え、机の上に並べた。
みほの表情は少し沈んでいる。まあ、転校生仲間である私以外と話していないのだから無理もない。
私はみほの前の席の背もたれにお尻を乗せて俯く彼女を見下ろした。
「安心しなよ、昼休みだ」
「え……」
「ヘイ彼女たち!一緒にお昼どう?」
「ほら来た」
みほの後ろから武部沙織がみほに声をかけた。
みほが私の視線に気づき、背後に振り向いた。沙織の隣に華もいる。何時もの組み合わせだ。みほはあわわと慌てて立ち上がり、背筋を伸ばして向かい合った。私もゆっくりと背もたれからお尻を持ち上げる。
華が沙織をたしなめた。
「ほら沙織さん。西住さん、驚いていらっしゃるじゃないですか」
「ああ、いきなりごめんね?」
「あの改めまして、よろしかったらお昼、一緒にどうですか?」
「もちろん、りっくんも一緒にね」
「この流れで一緒じゃなかったらどうしてやろうかと思ったよ」
「きゃあ怖い!」
沙織が大袈裟に振舞う。
みほはまだポカンとしていたが、ようやく状況を飲み込んだのか驚き、
「私とですか?!」
沙織と華が頷いている。つまりそういう事だ。
私達は長蛇の列を作っている食堂に並び、トレーをもって順番を待つ。
「えへへ、ナンパしちゃった。でも、りっくんに先を越されているとはね」
「となり部屋だから自然とね」
「でも私達、一度西住さんとお話してみたかったんです」
「えぇ?!そうなんですか?!」
私と沙織が話している間に、華がみほに昼休みを誘った理由を口にした。
割と単純な理由なのだが、彼女にはそんな単純な理由も自分には該当しないと思っていたようだ。言ってはあれだが、少し挙動不審だ。
「何かずっとあわあわしてて面白いんだもん」
「それは分かる」
「リクさん?!」
私は沙織に指をさし、真剣な表情で答えた。
みほがこっちを向いたが、私はあえて目を合わせない。ただまあ、「面白い」と言われたことが軽くショックではあったようだ。
私も少し面白いと感じていたことは内緒だ。
そんなところで沙織と華は自己紹介を済ませていなかったことを思い出したようだ。
「あ、私はね!」
「武部沙織さん。6月22日生まれ」
「へ?」
みほは沙織の名前から誕生日まで答え、今度は華の方を向き、
「五十鈴華さん。12月16日生まれ」
「はい」
「へえ、誕生日まで覚えてるんだ」
「どこかの誰かとは大違いだね。名前を覚えるのすら一週間かかってたし」
沙織が私の方を向いてニヤニヤとしてくる。
「うるさいな。……でもすごいね」
「クラスの名簿見て、クラスの全員、何時友達になっても大丈夫なように」
「やっぱ西住さんて面白いね。ああそうだ!名前で呼んでいい?」
「黒畑さんみたいに『みほ』って」
「すごい!友達みたい!」
「はいよ、鯖煮定食」
みほは嬉しそうに体をくねらせ、食堂のおばちゃんからメインの鯖煮を受け取った後、お盆を持ったままくるくると回った。
「わぁ!危ない!」
私の声は少し間に合わず、案の定みほはバランスを崩した。お盆を先に受け取り終えていた華が支え、私と沙織で彼女の腰を掴んで倒れないようにする。
私は鳥の酸っぱ煮定食を受け取り、空いていたテーブルについた。