映画はレンタルします。ながいので。
少し、悪いことをしたなぁと私は暗い部屋で一人、ボコを抱えてうずくまる。
目の前には、新しく買い替えた携帯電話がある。机の上に置いていたそれには、私の事を心配したオオカミさんチームからのメールや電話が来ていたが、私は携帯を手に取る気にはなれなかった。
さっきから頭痛がひどい。頭がガンガンする。
これまでずっと使っていた携帯は今は真っ二つになってゴミ箱の中だ。
「どうして……今更私に……」
自然とため息が漏れてしまう。
この頭の痛みは、妹からのメールを見た時からだ。
○○○
一回戦、サンダースとの試合で勝利を収めた私の携帯に、妹からメールが届いていた時、私は何よりも先に恐怖を覚えた。だって妹には私のメールアドレスも電話番号も教えていないからだ。あり得るとすれば母様が教えてしまった……くらいだろう。
しかし、母様は妹に甘いが私にも甘い。とするならば、彼女が自力で私のアドレスを突き止めたという方が信憑性がある。
喉が渇く。胸が苦しい。呼吸が上手くいかない。心臓の鼓動が自分の耳で聴きとれてしまう。
私は恐る恐る、妹からのメールを開いた。
『何? あの試合。あんなの姉様の戦車じゃない。聖グロリアーナの時はまだましだったけど、今回は見てられない。後から出て来たくせに、姉様の真似事なんてしないで。なんでもう一人の姉様じゃなかったの。人間としてならともかく、姉さまが戦車に乗るのが気に入らない。姉さまは戦車に乗らなくていい。私の傍に姉さまとしていて。……やっぱり姉様は、私と一緒に戦車をするべきだと思う。ううん、そうするべき。そうすれば普段は姉さまとして、戦車に乗るときは姉様として私と一緒にいられるもの』
額の古傷が疼く。掘り返されたくない過去、ずっと思い出せない過去、私の知らない私の過去が私の中で渦巻く。
「リクさーん! どうしたんですかー?」
「っ」
いきなり足を止めた私を心配したのだろう。いつの間にか、オオカミさんチームのみんながそばにやって来ていた。
私は咄嗟に携帯を地面に叩きつけ、それを思いっきり踏んで叩き割った。
そこで私は、自分のしたことに気付いてしまった。
「あ……」
「何やってんだよお前!?」
「い、いきなり携帯を……」
「リクさんのところに行くのはまた今度にして、携帯を買った方がいいですね。丁度近くにデパートがあります。そこで新しいのを買いましょう」
「割れた奴は袋に入れておいたんで、帰ったら捨ててください」
「あ、ありがとう……」
暁から砕けた携帯が入った袋を受け取る。
そして速足でデパートに行き、新しいものに買い替えてみんなのアドレスを追加し、今に至る。という訳だ。
○○○
いい雰囲気だったのに、私はそれを壊してしまった。明日手作りのパウンドケーキか何かでも持って行って謝っておこう。
……あの家を出てもう三年になる。
こんなことを言っておかしいと思うだろうけど、私は妹の名前を知らないし、どんな姿をしているのかも知らない。いや、厳密に言えば、知ることが出来ないというのが正しい。小さかった時に、古傷の原因になった事故の所為で、私は妹の存在を認識することが出来ないのだ。
思い出そうとしても、その時の怪我の影響でそれまでの記憶を失っているから、そもそも思い出すことが出来なかった。
ただその時の影響で、妹との関係が変化してしまったのだとという事は勘で理解できた。
「はぁ……」
要は逃げてきたのだ。私は、彼女から。
いつか、いつかは向かい合わないといけない日が来るのだろう。私と、もう一人の私が一緒にならないといけない日が来るのだろう。
でも、その日が来るまでは、このぬるま湯につかっていたいと思うのだ。
逃げと言われるだろう。だけど構わない。そのいつかが確実に、近いうちに来ることは分かっている。だからその時が来るまで、ただの黒畑リクでいさせてほしかった。
○○○
「昨日はごめん!」
翌日、昼休みにわたしはオオカミさんチームのメンバーを食堂に集めて頭を下げた。
「あ、頭を上げてください……!」
「大丈夫ですよ! 気にしてませんから!」
「もう大丈夫なんですか?」
「なんかあったら抱え込んでないで言えよ? 勿論、言えるようになってからでいい、無理強いはしないから」
気の弱い林檎と後輩の暁は手と首を振って問題ないと言い、何時もと変わらない態度の瑠香が私を気遣い、水を飲んで一息ついた颯は先輩らしくケアをしてくれた。私なんかにはもったいない、本当にいい仲間を持ったと思う。私が無理言って集めたメンバーだけど……駄目だ駄目だ! 昔のことを思い出そうとするとつい卑屈になっちゃう。私の悪い癖だ。
「うん。本当にありがとう。……お詫びと言ったらなんだけど、パウンドケーキ焼いて来たんだ。お昼食べ終わったらデザートに食べよう」
「へえ、リクって菓子作れるんだな」
「まあね、結構得意なんだよ。パイとかタルトも作れる」
「じゃあ今度集まった時に振舞ってもらいましょうか」
「任せてよ」
こう見えて菓子作りには結構の自信がある。
何せ聖グロに居た時のお茶会でずっとクッキーやらビスケットやらケーキやらを出してきたのだ。元々実家で作っていたのもあるが、こういうものを作っている時は悩み事や考え事を忘れることが出来て丁度良かったのだ。
最終的にダージリンの舌を唸らせることが出来たのは数少ない自慢話の一つだ。
そんなこんなで放課後、戦車道の時間になった。
二回戦の相手はアンツィオ学園。
一回戦のサンダースとうって変わってお金がなく、強い戦車はいないが隊長のアンチョビの戦略とノリに乗った時の爆発力が侮れない。油断が特に命取りになるタイプの相手だ。
もっとも、私達は油断できるだけの実力なんてないので全力で練習に励み、全力で向き合うだけだ。
少しだけ触れるりっくんの過去。