食堂に入って来たのは人の並びからして中盤頃だったが、私たち四人は問題なくテーブルに座ることが出来た。因みに沙織のメニューは和食な健康志向。華は中華で少しばかり量が多い。
みほが席に着きながら内心の心配を吐露した。
「良かったぁ~友達が出来て。私、一人で大洗に引っ越してきたから」
「そっかあ……ま、人生いろいろあるよね。泥沼の三角関係とか、告白する前に振られるとか、五股かけられるとか」
沙織が納豆を端で混ぜながら言う。
私もよく煮込まれて柔らかい、それなりに強い酸味のある鶏肉にかぶりついた。そしてよく噛んでから、
「流石にそんな人生は歩みたくないなあ……。五股とかどんなギャルゲヒロインだよ」
箸で沙織を指す。
そんな彼女はあははと軽く笑った。が、その笑みにはどこか影があり、何とも言えぬプレッシャーが漏れ出ていた。
そんな変な空気をかき消すべくかべからずか、華が話を進めた。
「じゃあ、ご家族に不幸が?骨肉の争いですとか、遺産相続とか」
「ええと、そういう訳でも……」
「何で二人とも出す話題が重いんだよ!」
「なんだ、じゃあ親の転勤とか?」
沙織、流石に話を聴いてなさすぎだぞ。と、私は内心で思った。
最初、みほが「一人で引っ越してきた」って言ってたでしょうが。
彼女は眉を八の字に曲げ、軽く俯いた。
空気がさらに重くなるのを感じた私は、今まで少しばかり考えてきたプランを提案する。
「ねえ、みほ」
「なに?リクさん」
「こっちでの暮らしが落ち着いたらさ、転校族でパーティしない?」
「パーティ?」
みほが可愛らしく小首をかしげた。
「そう。一週間後あたりにさ、集まって前の学校と比べて変わってるなぁって思ったこととかを話題にするの。料理は私が出すよ。ホストなんだし」
「いいの?!」
「うん」
みほが嬉しそうに目を輝かせ、頷く。
すると、沙織が手を大きく、華は小さく上げていた。
「私達も!」
「参加していいでしょうか?」
「もちろん。いいに決まってる」
転校族とはいったものの、別に沙織や華が参加しちゃいけないわけじゃない。メインがそうであるだけで、こういうホームパーティが二人だけでいいわけがないからね。
という訳で一週間後の放課後、私の家でホームパーティが開かれることとなった。
聖グロ時代にそれなりの役職についていた私は、ダージリンたちと一緒にいろんなところを回ったから勝手は知っている。
……ヤバい、当時のことを思い出したらムカついてきた。次は負けんぞアッサムぅ!
次なんてないんだけど。まあ、後任が何とかしてくれるでしょ。
昼食を終えた私達は、教室に戻りながらたわいもない話をしていた。
「今日帰りお茶していかない?」
「え?お茶!女子高生みたい!」
「女子高生ですって」
「いいとこ知ってるの?」
「うん。案内したげる」
家で飲むことはあっても、外で飲むことはあんまりないからこれは助かる。
茶葉が切れた時(ほとんどないけど)に役立つからね。
教室戻ってきた私達は、みほの席の周りに集まっていた。私はみほの前の席の背もたれに腰掛ける。如何やら沙織には悩み事があるようだ。
「実は相談があってさぁ……」
「?」
「何か聞いたことあるぞ、その出だし」
つい一週間ほど前にも言っていたことを思い出す。
「私、罪な女でさぁ……」
「またその話ですか?」
「最近、いろんな男の人から声かけられまくりで……どうしたらいいかなぁ?」
「いろんな?」
「いや、近所の人達なんだけどね?」
「……」
そらきた。
そう言う浮かれた話は学園艦の外に出てからしてくださらないか。
沙織の恋愛脳はエンジンがかかりまくっている。
「毎朝『おはよう!』とか、『今日も元気だね!』って」
「ですから、それはただの挨拶ですから……」
「ラブレターの一通でも貰ってからにしてよ」
「そう言うりっくんはもらったことあるの?」
「あるよ」
「うそぉ!」
そう言うと沙織がイスから転げ落ち、落ち着いている華や引っ込み思案そうなみほも食いついてきた。
おおう、急に迫られるとびっくりする。
「聖グロ時代にね。全員女の子だったけど」
「なぁんだ」
沙織が目に見えて落ち込んだ。
簡単に済ますけど結構大変だったんだぞ?!相手を傷つけずに断るのは良心が痛むんだから。役職の都合上、そういうのに現を抜かすわけにもいかず、その上私はノーマルなのに。
そんなこんなで何故か人柄の褒め合いになっていると、教室に見知らぬ生徒が三人、入ってきた。
モノクルと色々おっきいの、そして干しイモ食べてるちっちゃいのだ。
クラスメイトのざわめきから、生徒会長とその連れと理解できた。立ち位置からして、真ん中にいる干しイモがそうだろう。
私の予想は的中し、二度三度教室を見渡した一団の中でモノクルが干しイモに耳打ちしている。
干しイモは手を置きく上げ、
「やあ!西住ちゃん!」
と言った。
みほが驚いて肩を跳ねる。
「はい?!」
「生徒会長。それに副会長と広報の人」
「ふぅん」
何か良くない雰囲気を纏っていると私は目を細めて生徒会長たちを見る。前の役職の都合上、そういうのには敏感だった。
みほを見下ろすように集まってくる。
「少々話がある」
そう言ってみほを廊下に誘導した。
私達も、見える位置に移動する。
生徒会長はみほの肩に手を伸ばし、
「必修選択科目なんだけどさぁ?戦車道取ってね、よろしく」
言葉尻には圧を感じる。
「え?!ええと、この学校は戦車道の授業はなかったはずじゃ……」
「今年から復活することになった」広報の人が言う。
「私!この学校は戦車道がないと思って……わざわざ転校してきたんですけど……」
「いやぁ運命だねぇ!」
「必修選択科目って自由に選べるんじゃ……」
「とにかくよろしく」
と生徒会長は背中を叩き、部下を引き連れて去っていった。
肩を落としたみほだけが取り残されている。
私は彼女のそばに行き、ポンと肩を叩いた。
「言いなりになる必要ないよ。自由にいこう」
「……」
励ましては見たものの、反応は全く帰ってこない。
私は彼女の転校してきた理由を――なんとなくではあるが――知っている。それを知ってて戦車道に誘ったのであれば、いくら何でも外道であると私は思った。
ぼんやりと席に着き、授業を受けてはいたが全く話を聴いていない。結局、みほは保健室に行くことになった。
フラフラと死んだ目で立ち上がり、後ろの扉から教室を後にする。
「先生!私もお腹が!」
「私も持病の癪が」
「私もあの日です」
と、三者三様のでっち上げでみほの後をついて行った。
保健室のベッドにみほを中心にして寝転がる。私は湯たんぽをお腹に当てているため、なかなかに居心地がいい。
養護教諭が出て行くのを確認し、私はみほのベッドの足元に座った。
「みほ!……いいよ寝てれば!」
「早退されるんでしたら、カバン、持ってまいります」
「辛いことがあるなら言ってみてよ。聞くから」
起き上がろうとした彼女を沙織が制止する。
現状、本当につらいのはみほだけなので当然だ。
うっすらとは聞いていたが、実際はどうなのかはわからない。
私の言葉にうなずき、彼女は弱々しく言った。
「今年度から、戦車道が復活するって……」
間違っていなかった。みほを狙ってこのことを言ったあの生徒会長は、正真正銘の外道ということになる。
私は気づかれないように舌打ちを打つが、沙織と華は知らないため純粋に疑問を持っている。
「戦車道と言えば、伝統的な武芸の?」
「それとみほに何の関係があるの?」
「私に、戦車道を選択するようにって……」
「ええなんで?!」
「えっと……」
「なにかのいやがらせ?あ、分かった!」
「沙織」
「ぅ……」
何時もならいいが、この状況での恋愛脳はアウトだ。
華も何か言いたそうだったが、たぶんそれ、ちがうから。
この感情は、今この場では私にしか理解できないだろう。そしておそらく、世界中を探しても。
「実は……私の家は代々、戦車乗りの家系で……」
「まあ!」
「へ~」
「でも、あまりいい思い出は無くて……」
「で、戦車を避けてこの学校に来た……と。じゃ、その通りでいいでしょ」
「え?」
布団に潜り込んでいたみほがひょっこりと顔を出した。
顔に、その発想はなかったと書いてある。
私の意見に沙織が同調した。
「そうだよね!第一、今時戦車道なんてさぁ、女子高生がやることじゃないよう」
「生徒会にお断りになるなら、私たちも付き添いますから」
「ありがとう……」
みほの表情が少し明るくなり、丁度授業終了のチャイムもなった。
「授業、終わってしまいました。せっかくくつろいでいましたのに……」
「あとはホームルームだけだね」
「でもさ、今年から戦車道が復活するって事は……」
話を蒸し返すようで悪いとは思っていながらも、言わざるを得なかった。
今年から始まるということは、説明があるということ。そしてそれがあるとすれば……。
私の考えはあっていた。放送のベルが鳴る。
「え?」
『全校生徒に告ぐ。体育館に集合せよ。体育館に集合せよ』
そして私達は、放送の通り体育館に集まることになった。
別に仮病で欠席してもいいと思うのだが、それが出来ないあたり彼女たちの本質はいい子らしい。
始まるのは選択科目のオリエンテーションのようだ。……の、皮をかぶった戦車道のコマーシャル。どこかの宣伝相もかくやと言うべき理想的な広報ビデオ。
そして震えるみほ。
「大丈夫……大丈夫だから……」
「リクさん……」
私は隣のみほの頭をポンポンとなでる。
初対面の一日目でなれなれしいとは思ったが、流石に仕方がないと感じる。額にある、隠していた大きな傷にそっと触れた。
その後に映る、選択を書き込む用紙にも、一番上で一番大きく『戦車道』の枠が取られている。
あまりにも露骨な誘導だった。
その露骨な誘導に、さっきまで味方だった沙織と華が引っかかっている。
選択者に与えられる特典というものも、普通ならあり得ないもので何かしらの裏を感じる。聖グロ時代なら知ることが出来たのだが、今は大洗の一般生徒故致し方なし。
「私、やる!」
「え……」
みほの反応もよそに、沙織が話を進めていく。
「最近の男子は、強くて頼れる男子が好きなんだって!それに、戦車道やればモテモテなんでしょ?みほもやろうよ!家元でしょ?」
「沙織!保健室の話忘れたの?!」
「……」
「そうですよね、私、西住さんの気持ち、良く分かります」
ここで意外な共感を見せたのは華だった。
「うちも、華道の家元なので」
「そうだったんだ……」
意外だった。
まさか家元の家系の子がもう一人いるとは思いもしなかった。
感心していると、
「でも、戦車道って素晴らしいじゃありませんか」
「ええ?」
「実はずっと、華道よりアクティブなことがやりたかったんです」
「何か嫌な予感がするぞ」
予感の通り、華は足を止めてみほの方を向いた。
「わたくしも戦車道、やります!」
「えぇぇっ?!」
「西住さんもやりましょうよ!いろいろとご指導ください」
そう言って華はみほに深々と頭を下げる。
まさしく四面楚歌。……いや、少し違うか。とは言え、味方が少なくなったことに変わりはない。
沙織が背中からみほに跳びついた。
「みほがいれば、ぶっちぎりでトップの成績が取れるよ!」
ああ、今から頭が痛い。
一人称って意外と楽しいな。